魔法でトップエースをやり過ごす件
学内四天王の1人村上ゴウを撃墜した事で如月マイの警戒を誘ってしまったが、二人を同時に相手にして長期戦をやる事の分の悪さに比べれば問題は少ない。学内トップクラスの生徒を1人撃墜して、1人を足止め出来れば成績的には十分であろう。後はこの場を離脱して生存ボーナスだけでも手にしたいが、相手が許してくれなさそうだ。
「そこのパイロット、今度は私が相手よ」
彼女らは目の前の戦闘に対して、戦略的意味を見失うタイプかも知れない。若さ故かも知れないが技術的に優れても、その点はまだ子供である。
そもそもこの世界にやってくる前の俺は35歳を超えていた中年とも呼ばれかねない年齢であった。空間に作用する魔法を得意とし、不可能と呼ばれていた瞬間移動魔法のテスト中に時空の歪みに飲み込まれ、この世界に飛ばされた。気がつくと、本来は40歳近かった俺の身体が少年ほどに若返っており、若返った事は良いのだが、魔法力と記憶はそのままに、年齢の為か魔法のコントロールが不十分で、この世界の常識を知らない子供として人生をやり直す事となったのだ。
詰まる所、今の状況は40近いオッサンが女子高生に手を出そうとしているのだ。
否、これは真面目な人型機動兵器アームズによる戦闘である。そして今の見た目は同じ高校生だ。問題は無い。
今の俺の戦闘力を彼女がどう見たかは分からないが、ルール上戦闘不能になる事が敗北条件の隊長機が未知の戦力との戦闘は避けるべきである。前線は押している訳で、奇襲は失敗したのだから正攻法に切り替えれば良いだけの状況と判断するのが大人の対応だ。1つの勝負などは戦略的には意味が無いと判断して欲しい所である。
「出来ればクラスアップがかかっているので、退いて貰えると助かるのだが」
「ゴウくんを倒せたのはまぐれじゃない。あなたは強い。だから今後の為にもあなたの力を知っておきたい」
「今後?」
「喋りすぎちゃった。そんなことを話している場合じゃないね」
「彼を倒せたのは、単純なフェイント戦法と連撃なのだが」
進学してから気づいた事だが、生徒の大半が攻撃を単発で考える傾向にある。一撃入れたら離脱する発想である。恐らくアームズの集団戦闘としては悪くは無いのだが、決闘スタイルでは不向きだ。
如月マイもその基本に忠実で一撃一撃が回避と連動した攻撃のため結果的な攻撃こそ速いが、攻撃、回避、攻撃のリズムが単純に速いだけで【フィールド・トレース】の補助を受ければ対応出来ないこともない。
だがマイは評判通りの反応速度でこちらの反撃も当たる目処が立たない。
これだけの回避能力があれば、隊長機でありながらも後方を取りに来れる訳だ。
だが彼女は残念ながらランダムマッチの演習で隊長機が指揮を執らない事に対する認識が薄い。普段から顔を知ったメンバーであれば自然と次のリーダーが生まれるかも知れない。しかし、ランダムマッチではその可能性が高いとは言えないからだ。
いや、待てよ、俺は奇跡の補充で周りのメンバーを知らないだけで、彼女達は把握しているのかもしれない。現にこちら側に水無月アオイが居る事を把握している。だとすると俺だけが敵の手の内を知らない中で戦っている事になる。落ちこぼれにハンデを背負わせるとは何とも恐ろしい演習だ。
超反応を示すマイに対して、俺はレーザーソードとレーザーライフルを両手にそれぞれ構えて対応する。
「2つの武器を同時に扱ったり、武器の設定を瞬時に変更したり本当に器用なんだね」
「そうでもしないとやり合えないからな」
「そう言えば、喋りながら私と戦闘できる人なんて殆ど居ないよ」
「喋ると言うより喋らされていると言う方が的確な気もするが」
レーザーライフルの収束率を下げて拡散レーザーとして目くらましをするとマイは姿勢を崩し隙が生まれた。だが、追撃のレーザーソードは受け止められる。
「明らかに戦い慣れている、いったい何者なの?」
「あまり型通りに戦えない性分でね」
「成程、見慣れない型は確かに戦いにくい。それ以上に思いっきりの良さがアナタにはある」
流石に感受性の高いセンスティブだ。視点も鋭い。魔術師として対戦を無数にこなした俺は駆け引きの経験数が桁違いであろう。機体操縦もブレインフィードバックシステムのお陰で殆どの動きは脳からダイレクトで反映される為、形は違えど魔術師としての戦闘経験が活きる。今彼女が対峙している動きは、この世界のものでは無い。
それにしても彼女の強さへの渇望はすごいものがある。強くなる事に貪欲と言うより鬼気迫る感覚にも包まれる。
「速いだけじゃなくて正確な反撃、センスティブとしても私と同等かそれ以上」
「センスティブの適正検査では不適合だったけどな」
「適正検査で反応が出ないセンスティブもいるみたいだし、そうでなければアナタは速すぎる」
君達の世界ではそうかも知れないが、魔術師としてはかなり低レベルの反応だ。
魔術師の全盛期は中年からであり、肉体系とは異なる。転移前の俺は全盛期に差し掛かった所であり、もっと動けた筈だが若返った事で魔法による補助が弱くなり、思ったように機体が動かないのは若干煩わしい。
単調だが連続で繰り出されるレーザーソードを受けつつ距離をとる。距離を取っても直ぐに詰めて離脱を許して貰えない。
【フィールド・トレース】で見るに戦局は5分に持ち直している。恐らく隊長である水無月アオイが前線に出て持ち直したのだろう。2人の隊長の実力は周囲と比較すると圧倒的に高く撃墜するには一対多数の形を作る他に難しいと思われる。俺がここで如月マイを抑えていられれば勝機が見えてくる。良かったな早々と散った2番機。
「防御が甘い、貰うよ」
「しまった」
他事を考えているゆとりはなかった。防御が遅れて機体の右手をやられた、一つ間違えば胴体部をやられている所だった。せっかく魔法で強化された知覚も妄想にふけって油断しては意味がない。
幸い俺の利き手は左なのだが、右手と構えたライフルを失った。連携が封じられ、相手に対する数少ないアドバンテージを失ったのはミスで済まされない痛手である。
「完全に取ったと思ったのに」
「もぅ取られた様なものだ。ソードのみでやり合えば俺は君に及ばない」
「油断はしないよ、アナタから全く諦めた感じは伝わって来ないよ」
実は戦闘中に1つの大事な事に気がついた。少しでも時間を稼ぎたい状況だ。
そこで俺はもう1つの魔法を展開する。
「【メンタル・トレース】」
【メンタル・トレース】は指定した相手の思考や心理情報を読み取る魔法である。魔法力の消費が高い為多数の敵に用いる事は難しいが決闘の様に敵が限られている状況では有効である。これを【フィールド・トレース】と併用する事で相手の行動を事前に感知し、正確な予測が可能となる。
実質の所はセンスティブの超反応はあくまで後手の超反応だが、こちらは未来予測に限りなく近い先手の反応になる。
魔法が発動すると消費負荷が大きい為、俺の瞳は発光し続けている。
魔法の効果で脳裏に如月マイの思考が入り込み、よりハッキリと動きが見える様になった。
「機体は損傷したのに動きが速くなった」
「もう少しだけお付き合い願う」
「速い、いや、私が遅いの?」
実際の未来予測だけでも驚異的だが、行動が読まれていると言う心理的不安は決闘時には大いにアドバンテージとなる。こちらの連撃こそ封じられたが、驚異的な反応が売りの彼女からすれば動いた先に尽くレーザーソードを向けられれば接近する事が出来なくなる。
「アナタは未来が見えるの?」
「ちょっとしたトリックだ」
「トリック、心理戦と言うわけね」
さらに言葉で不安を煽り、彼女に迷いを生じさせる。だがこの迷いは彼女に高い技量があるからこそである。子供と思っていたがここは冷静さを感じる。演習でコクピット部が守られる環境とは言え、自分は撃墜されては行けない立場である事を理解している。
これまでの無理は自分が被弾しない自信によるものであったが、今は自分の被弾を予測できたのであろう。
考えて見れば、こちらの隊長を狙う際にも村上ゴウとの連携の必要性を語っていた。相手の力量を見て、的確な判断ができる前線の指揮官向きかも知れない。評価を訂正すべきだ。子どもと言ってごめんっと心の中で謝って済ませる事としよう。
「みんなには悪いけど、無理やり突破する賭けに乗ってもらうね」
「突きの構え、突進攻撃か」
「ファントムレイピア、あなたに受けられるかしら?」
確かにギリギリの場面では半端は良くない、彼女程の技量があれば演習で挑戦する事は良いのかも知れない。
最大速度で突撃し、突き技にて敵機を破壊する技らしい。
突進からの派生のパターンがある様だ。単調な攻撃と違い派生が用意してある事からも、駆け引きの攻撃なのかは理解出来るが……技は不発で終わる。
「だが、勝負はお預けだな」
「逃がさないよ」
モニターにタイムアップと文字が表示され、演習の終了が告げられた。
俺は魔法を解除して武装を解除した。残り時間をみて【マインド・トレース】を用いた時間稼ぎを行ったのだ。2つの魔法を併用したのは久々になるので念の為に温存していたが、実戦で問題なかった。
戦略的にも心理的にも勝ち、非常に得るものが多い演習となったと満足感に包まれいる俺だったが……
「ゴメン、止まらない」
「え?」
マイは渾身の特攻を掛けており、ブレーキが効かないようだ。魔法を解除した俺が反応する事は難しく気がついたら目の前にはレーザーソードが。
「避けてぇぇぇ」
「もう、どうにもならない0.2秒前」
渾身の一撃が俺の機体を直撃し、機体は機能を停止した。かなりの衝撃が走る。防御フィールドで機体へのダメージは無いが衝撃はかなりのものだった。
武装を解除したマイ機が転がっている俺の機体の所まで機体を寄せるとコックピットが開いた。ヘルメットを外してこちらを見ている。
こちらもコックピットを開いてそれに応じた。
「あら、意外とイケメンじゃない」
「タイムアップ後の必殺の一撃とは、想定外だった」
「ゴメン、ゴメン」
照れ隠しで皮肉を言ってしまったが、俺は知らなかった。今の俺の顔はイケメン(カッコイイと言う意味か?)だそうだ。前の世界では全くそんな評価を頂いた事は無い。いや、若しかするとこの世界ではイケメンと言うのは俺の知る所のブサイクと言う意味かもしれん。油断ならん。危うくぬか喜びをする所であった。
対して如月マイはブラウンのショートカットが良く似合う女の子であった。とても先程のような驚異的なパイロットには見えない。学校のアイドルという評判は嘘では無かったようだ。歌が上手いかは知らないがマイクを持たせて歌って踊って貰った方がパイロットをしているよりも社会貢献出来そうだ。
「君の名前は」
「天城ユーゴ。宜しく如月マイさん」
「私の名前を知ってるんだ。有名人になったかな私」
「顔は知らなかったが噂はCクラスにまで届いている」
「そうそう、Cクラスって言うのが納得行かないの。ユーゴくん程のパイロットがCクラスなんて全く意味が分からない」
「実は記憶喪失で歴史を中心とした座学が苦手で、アームズもシミュレーターは苦手なんだ」
異世界からこの世界に飛ばされた俺は、この世界の知識がなく、偶然倒れていた場所が戦災地で、保護された際に戦災孤児として施設収容された。その為、記憶が無いと言った方が何かと都合が付くため、その様に対応している。
戦闘に関しても、魔法を軸にして情報を把握して優位に立っただけなので、シミュレーターが単発攻撃しか出来ないシステムな事もあり、Cクラスでも勝ち抜けない程に成績が良くない。だからこそ、今回のような演習でチャンスをもらったら確実に成績を残す必要があったのだ。
「そうなんだ、せっかくチームに誘おうと思ったのになぁ」
「チーム?」
「そうか、Cクラスだと分からないか、来月からAクラスとBクラスで合同のフィールドワークがあって、5人チームで行う実践形式なんだけど、Aクラスでは良い人が見つからなかったから今回の演習でBクラスの人から目ぼしい人を探してスカウトしようと思ってたの」
「確か小隊は5人制だったか、四天王で組めば後は誰でも問題ないだろ」
「四天王って言い方酷くない。アオイとゴウくんとアサヒくんかな、そのメンバーで固まったらみんな突撃しちゃうからね」
「強いやつばかりでは不満なのか」
「単純な強さもだけど、ユーゴ君の周囲を見る力は何か特別なものを感じる。だから私達には必要だと思ってね」
この様な可愛い子に誘われて断るのは忍びない気持ち
だが、俺は元の世界に戻る方法を模索してこの学校に入学した。軍の最新鋭の機器を用いれば空間転移の技術に近づけるかも知れない。魔法単体では無理かも知れないがテクノロジーと魔法の融合にて何か活路が見いだせないかと考えている。その為、パイロットとして変に強いメンバーと同行してパイロット方面にされるのは不味い。エンジュニアコースに入りシステムを研究したいのだ。
「今回の演習でクラスが上がったら教えてね。私が1番初めに声掛けたんだからチームに絶対引き込むから」
一応うなずいて撃墜者回収車両に乗り込む。ちょっと待て、俺が撃墜されたのは戦闘終了後だよな
「戦闘終了後ですが、終戦後に狙われて機体を損傷させては結果撃墜と変わりませんのでご了承ください」
回収担当の教官に確認したが言っていることはその通りである。またこの手の状況では丁寧な言葉使いの教官は笑顔で減点して行くタイプでこれ以上の話は無駄である。
しかし、如月マイ。可愛い顔して押しが強い。ハッキリ言ってタイプだ
プライベートで遊ぶ約束なら漕ぎ着けても良かったかもしれんが戦場に出る約束と言うのが非常に残念だ。
もとは中年に差し掛かった俺だが身体が若返った事でそう言った感情も芽生えるようになった。
先の見えない魔法開発となる。もうしばらくは15歳という年齢を楽しんでも良いのかも知れないとも思い始めた。
20年ぶりに原形となったサイトを見たらサービスは当然終了していました。有志で続きがあったてユーゴ=アマギ君の結果をみたら
引用:ユーゴ・アマギは(自主規制)攻防戦に特殊工作兵として参加。命令を無視した突撃で、4機を撃墜。戦闘後、無事帰還する。
と最終決戦でまぁまぁの戦果を出して、無事帰還した14歳パイロット(当時本当に筆者が14歳位でしたから)だった様です。しかし命令無視の突撃だったんですね。。。これは作品に少し加えても良いかも知れませんね。