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戦場で魔法を使うとめっちゃ有利な件

「システムオールグリーン、天城ユーゴ、行きます」


 俺の名前は天城ユーゴ。いわゆる人型のロボットで戦争をする世界に誤って転移をしてしまった元魔術師である。今は訳あって機動陸軍大学附属高校に通っている高校生だ。


 機動陸軍とは人型機動兵器アームズを運用することを前提とした軍隊である。機動陸軍附属大学はアームズのパイロット、エンジュニアを養成する大学であり、今通っている附属高校在学時に適性を精査し、大学でより専門分野へと進むシステムとなっている。この世界では、機動陸軍関連の学生は在学中の学費から生活費に至るまですべてが支給される。つまるところ生活に困ることがなく、とっても親孝行な進学先である。


 そして今はアームズを用いた実技演習が始まった所である。訓練用アームズに乗り込み、10機対10機の2部隊に別れて自部隊の隊長機を守る課題に取り組んでいる。


「2番機は3時の方向に展開して下さい」


 指示を出す隊長機から聞こえたのは女の子の声だった。この演習に参加出来時点で、それなりにアームズを扱えるレベルにあるエリート候補である。その中でも隊長を任される彼女は超エリートと呼ばれている人間であろう。


 現在の俺の立ち位置は、エリートとは程遠い落ちこぼれで、AクラスからCクラスまでにクラス分けされた中でも最低のCクラスの生徒である。


 今回は非常に幸運に恵まれ、欠員の穴埋めで演習に参加している。AクラスとBクラスで行われる演習にCクラスの俺が参加する機会を得た。これについては、Aクラスで起きた謎の爆破事件に感謝する他ない。この演習の成績次第でクラス替えが行われるため、何としても一定の成績を残したい。


「10番機、応答は」

「こちら10番機、申し訳ありません。」

「演習に集中して下さい。10番機は9番機と共に隊長機の付近に展開して隊長機の周囲警戒に専念して下さい」

「了解」


 私事を考えていたら、隊長機からの指示を聴き逃してしまった。これは減点対象かも知れないが、不慣れな落ちこぼれが緊張していると捉えて貰えればどうにかなるだろう。敵陣に移動しながら指示された位置に着く。


 移動はアームズに低い姿勢をとらせ、足底部の機動ホイールを用いて走行する形で移動する。多少の段差も関節をコントロールすることで影響なく走行が可能である。火器や人間の体にないパーツの動きはマニュアルで操作する必要があるが、ブレインフィードバックシステムで頭で思い描いた行動が機体の四肢・体幹の動きに反映されるため、今はホイールの出力ペダルを踏み込み、ちゃんと前さえ見ていれば進軍はほぼ自動である。


 フォーメーション走行を続けていると、特に敵影を捉えることなく演習フィールド内の敵陣にまで順調に進んだ。流石に不審に思い始めたその時だった。


「こちらの2番機、敵機確認。数3。そのまま対応する」


 回線で連絡を入れたのは、3時側に展開している2番機の男子生徒だ。腕に自信があるのか成績を焦っているのかは不明だが、隊長機の判断を待たずして迎撃行動にでた。


 基本的には一人に対して複数でかかる形を作って、相手の形を崩していくのがセオリーだが、入学して間もない学生は、手に入れたおもちゃで早く遊びたい感覚で敵に突っ込んで行くのだろうか?


 確信がある。こう言う輩は意外と生き残り周囲に迷惑をかける。


「2番機、前に出過ぎです。全機、陣形を維持しつつ全体に3時の方向にシフト。2番機をフォローして下さい」


 血気盛んな2番機のフォローの為に、自軍の全機が俺から見て右に流れる。


 隊長込みの10機対10機の戦闘において、3機をワンサイドに展開して来るとは非常に攻撃的な相手である。隊長機が腕に自信があり、護衛を必要としていない可能性もある。


「こちら3番機、9時の方向からも敵機確認。数2」


 3時が右なら9時は左である。つまり左右から挟み込まれた形となった。セオリー通り行けば、このまま前進すれば前からも敵と当たる。3方向から攻撃を受けるとなれば対処は困難となり、危険な状況である。これは全体が3時方向にシフトした結果である。2番機め…その罪は重いぞ。


「前進やめ、下がりつつ防衛ラインを作ります」


 隊長機からの命令で自軍は足を止める。俺は後方の隊長機の傍にいる為そんなに動きは無いが前線は大変そうだ。


「こちら2番機、後退難しく応援求む」


 思った通りだ。前に出過ぎた結果、孤立させられ教科書通りの1対多数の形を作られた。陣形を崩す大馬鹿者がいると、作戦やフォーメーションも意味をなさない。彼にはCクラスでやり直す事を推奨しよう。


 不安は的中し、2番機は撃墜された。


 ちょっと操縦スキルがあるからと言って調子に乗ると戦闘では即命取りである。ゾーンを守れなくてはフォーメーションの意味が無い。


「9番機は3時の方向をフォロー、その他はラインを維持して下さい」


 呆れ声にも聞こえる隊長機の指示が入る。


 状況はこのまま悪くなりそうだ。敵陣に入り込み足を止められたこちら側は、もはや格好の的となる。落ちこぼれの俺からすると、この状況はまずい。エリート達に運良く紛れ込んだのに、ここで結果が出なければ、次は補欠候補にすら入れなくなる。クラスアップは夢のままで終わってしまう。戦闘の貢献は少なくとも、せめて勝利組には入りたいものだが、戦況はよろしくない。

 ここは元魔導士の本領を発揮して状況を打開していく他ない。


「フィールド・トレース」


 俺は空間魔法の1つ【フィールド・トレース】を発動した。魔法発動時に俺の瞳が発光し、魔法が展開された。魔法を使う際に瞳が発光してしまうのは仕様である。魔法が習熟するとこの現象は無くなるのだが、今の俺では発動時のみ発光してしまう。


 この魔法は周囲の情報を詳細に取得し、奇襲などに備える魔術師戦では挨拶代わりの魔法だ。この範囲がある種魔術師の力量を見る基本とも言える。そもそもこの世界の人々は魔法を使うことができない為、レーダーの範囲を超えた情報取得は絶対的なアドバンテージとなる。


 初めから魔法を連発して有利な状況や成績を残すことは可能であったが、元の世界に戻る術が見つかるまでは俺は魔法の存在を隠す事とした。余計な混乱に巻き込まれる危険性があるからだ。


【フィールド・トレース】で拡大した知覚範囲から敵の動きが手に取る様に分かる。前面に展開した敵とは別に回り込んでくる敵が二機いる。推定されるのは機体特徴が違うことから敵部隊の隊長機と護衛とみられる。俺はすぐに隊長機へと回線を繋げた。


「10番機より隊長機へ、別働部隊の接近の可能性あり。後方を取られ囲まれる事態が想定されます」

「索敵範囲の広い隊長機でもその様な反応は見られませんが」

「ある種勘に近いものと、報告で確認されている敵機数が前面に5機、後方支援に3機で残り2機が所在不明であることからの推定です」


 我ながらひどい説明だ。魔法で感知したので間違いない事実ではあるが、実戦では敵機の数が正確に分かっているケースなどまず無いので、予定より少ないからなどの意見が通るわけもない。だが、無謀を承知で後方に意識を向けられればと考え発言した。


「貴方はもしかしてセンスティブ?」


 センスティブとは知覚の限界領域を超えた反応速度をもつ体質を指す。俺もこちらの世界に来てから散々その単語を聞いた。


 センスティブはその知覚から未来予知をしているのではないかとも噂される能力であるが、実際は強いストレスに対して適応した結果、脳が変性し異常伝達脳となっているに過ぎない。簡単に言えばすごく過敏なだけだ。どの世界でも凄腕に対して何らかのカテゴライズをしたくなるものだ。しかし、流石に重要視されるだけあって、アームズの操縦においてセンスティブの感覚は非常に優位であるのも事実だ。その為、優秀なセンスティブを保有する事が、国の軍事力の命運を握り、現代の高等教育と大学での軍事教育の根幹となっている程だ。


「センスティブとかはよく分かりませんが判断を」

「勘を信じるのは軽率ですが戦況が思わしくない為、本機が前面を支援に出ますので10番機は本機6時の方向をフォローして下さい」

「了解しました」


 これは後方を任せると言う名目で俺の意見を聞いてくれたとも判断できる。


 チャンスが回ってきたが、焦っては2番機の二の舞である。しかし、これで隊長機が俺の支援で前面の攻撃に集中できた結果でも残れば十分な成績と予測できる。少なくともCクラスは脱出できそうだ。Cクラスに居ては進級出来ない。Bクラスに上がるチャンスを逃しては何時まで経っても大学に進めない為、俺は必死になっている。


 クラスアップへの妄想を広げている間に戦況は悪化していた。こちらが1機撃墜する迄に3機も撃墜されている。フォーメーションは崩壊したと言っても過言では無い。立て直しは隊長の腕前にかかっている。俺が2人を抑えて居れば前線の数的不利は1機となる。ここが勝負のポイントとなりそうだ。そんな前線への心配をよそに後方から予定通りの最悪のお客様がいらっしゃる。


「おっ、この状況で俺達の動きを掴んでる奴がいるな」

「関心してないで、手練れかもよ」


 二機は雑談を交えながら後方に残った俺に対して牽制程度の攻撃を仕掛けくる。移動しながら攻撃を命中させられる距離に入っていないためスピードを維持しつつ敵機の方向に機体を向ける。


「牽制に対して冷静な反応だな」

「ノンビリし過ぎよ、奇襲なんだから」

「まぁ待てよ、面白い奴かもしれないからちょっと声を掛けてみようぜ」


 敵機から通信が入る。敵対しているとは言え、同じ学校の生徒だ。回線を受けても何ら問題はない。あえて問題があるとすればこれらの通信はすべて監督教官に傍受されていると言うくらいだ。


「おっす。俺はAクラスの村上ゴウ。よく俺たちの回り込みに気づいたな」

「こちらはCクラスの天城ユーゴ、気づいたのはまぐれと捉えてもらって差し支えない」

「Cクラスだと、本当か?その割には機体の扱いがうまいな」

「お褒めの言葉はうれしいが、まさか四天王が相手とは運がない」


 最悪のケースかも知れない。村上ゴウ、同じ新入生の中でもエリート四天王と呼ばれる1人である。四天王は全員センスティブでも高い能力を持っていると言われている。村上ゴウは超反応を活かしたゴリゴリの武闘派であり、近接、射撃戦共に得意としている。まともに戦えば今の俺には勝ち目はない。


「面白いな。マイ、コイツは俺がやる。お前は先にアオイを」

「ゴウくん、演習なんだからゲーム感覚で挑んじゃだめよ。アオイは私1人では恐らく五分五分。勝つ為にはゴウくんのアシストが必要になる。まずは二人で彼を叩くよ」

「分かってるけどよ、多分だけどあいつは強い。だから本気で勝負がしたいんだ」

「だからそれがゲーム感覚なの」


 成程、大体の状況は掴んだ。相手の隊長機は如月マイ。こいつもエリート四天王の1人だ。奇跡の超反応保持者と呼ばれ、歴代生徒最高クラスの反応速度を持つ。攻撃を当てることは1対1の状況では不可能と同級生が言っていた。

 そして、こちらの隊長は水無月アオイ。彼女もセンスティブと呼ばれ、長距離狙撃の名手である。学内首席であり実技、座学ともに優れる優等生だ。ついでに二人とも学内アイドルとも呼ばれていた気がするがサウンドオンリーの通信では顔など拝めるはずもない。【フィールド・トレース】で覗けなくはないが、なんだか犯罪行為っぽいからやめておこう。


「さて、2対1ってのは悪ぃけど、やらせてもらうぜ」

「私が前に出るから援護よろしく」


 Cクラスで、本日が初の実機演習の俺と違いAクラスは入学当初から演習をこなしている。実力、経験、数的にも不利な状況で、学年トップのセンスティブ2人を相手にどう戦うか。


 まずもって正攻法では無理だ。


 俺は即座にアームズの主装備であるレーザーライフルのプログラムを書き換えた。本来は光学エネルギーを収束して直線的に打ち出す兵器だが、レーザーの収束率を低下させてあえて拡散するように撃つ。(本来はそんな調整はできないが、エンジュニア志望の俺は独学で身につけた設定書き換えを行った)そのまま、敵機では無く地面に連射すると砂埃が巻き起こり相手の視覚を奪う。

 勿論レーダーを用いる戦闘においてはそこまで影響はないのかも知れないが、知覚の限界領域を扱う連中と戦うのであれば、五感を制限していくのは有効かもしれないと考えた。対してこちらは【フィールド・トレース】によって視覚が制限されても全く影響はない。


 そもそも隊長機が前線に出れる様に後方を支援しているのだから俺が無理に撃墜を狙う必要は無い。寧ろ、時間を稼ぐ事が重要なのだが……


「成程、時間を稼ぐには面白いやり方だな」

「ゴウくん、突っ込んで来るよ」

「なにっ」


 彼らにも格上意識はあるのだろう。無名の俺が自分達と戦闘を行うには時間稼ぎを狙っていると考える所までは想定した。いくら時間稼ぎが正解だとしても、虚をつけるチャンスを逃す訳には行かない。先取速攻で状況を打開したい。


 一気に間合いを詰めて隊長機を狙うが、ゴウ機が庇うように前に出てきた。俺はかわまず、光学兵器の剣バージョンのレーザーソードを展開してゴウ機の膝関節を切り裂いた。


「当然、隊長機を狙うよな」

「流石はAクラス。完全に虚を突いたと思ったのだが」

「いい所を狙うな、だが逃がさないぜ」


 ゴウは機体がバランスを崩した事に対しても動揺せずに超反応を用いて反撃を試みる。ギリギリまでソードの刀身を形成せずに俺の機体の胴体部に当たる直前でレーザーソードを形成する一撃必殺のカウンターだ。


 アームズはコクピットが位置する胴体部には防御フィールドが設置されており、演習用のレーザーソードやレーザーライフルでは胴体部を傷つけることはできないように調整してある。しかし、訓練機では胴体フィールド部に一定量のダメージを与えられると機体は動作を停止し、撃墜とカウントされるのだ。

 通常では一度切りつけた程度では撃墜扱いにはならないが、レーザーソードは刀身を固定する直前の出力が高く、胴体にクリーンヒットすれば一撃で撃墜とされる威力になる。


 ゴウはヒットを確信したが、俺は先読みしてゴウ機のボディに蹴りを入れて機体をバク転させ、レーザーソードの横薙ぎをギリギリで回避した。そのまま姿勢を制御しながら、収束率を戻したレーザーライフルを連射し残った腕と足を破壊して離脱した。


 四肢を失った機体も撃墜扱いとなるため、その場で動作を停止した。


「なんだと」

「最小限の回避から一連の反撃動作まで出来るの?」

「まるでアサヒ見たいな動きをしやがって。あのパイロットやっぱりできるな」

「ゴウくん、私を庇ったせいで、ゴメンね」

「隊長機を守るのが仕事だけどよ、まさかやられるとはな、気をつけろよ」

「ありがとう」


さて、予想を超えて大物を仕留める事が出来たが、大物パイロットを目の前に俺は無事逃げ切る事はできるだろうか。

はじめまして、かんづめXと申します。

本作品は筆者が中学生【執筆時点で20年前】時代にホームページに掲載していたオリジナル小説を現代の流行りに合わせたアレンジ版です。何となく掘り出したワードデータ内で発見して書き直してました。昔、制作に関わってくれた仲間の目にも届いたら嬉しいなと思います。

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