乙社磯良
命を運んでくると書いて「運命」
なら、一体誰が命を運んでくるのだろうか。
その答えは「神」である。
この物語は偶然にも「神」に近づき、愛するもののために「神」に反抗した人々の物語である。
第一章「乙社磯良」
A県A市、この市には多くの神社が存在している。
その理由として一番に挙げられるのが、神様に畑の豊作を願ったり、子宝に恵まれるようお祈りしたりする儀式「延喜大社」が行われていたことだ。
その儀式の内容は今の現代人からすると残虐であった。
儀式は村単位で行われ、村から一人若い女性を選び、村長がその女性の腹の中央を一直線に刃物で切り裂き、そこから溢れた血液を杯に注ぎ、神棚に捧げるというものであった。
勿論、選ばれた女性は多量出血で命を落とす。その死体は焼却され、残った骨は海に流されたという。
一見選ばれた女性は不幸に思われるが、当時はそうではなかった。選ばれることは名誉なことであった。
選ばれた女性の一族は繁栄し、村での権力を強めたとも言われている。
しかし、毎年のように行われていた儀式は、気づいた日には行われなくなっており、その理由は未だ明らかになっていない。恐らく、人を殺すことに抵抗を感じはじめたのが一般的な理由となっている。
このような儀式があってからか、このA市のは「社」がついた地名が多い。
A市は碁盤目状になっており9つの町で成り立っている。
中央に位置する町が「大社町」、そしてそれを中心に東西南北にはそれぞれ「東社町」「西社町」「南社町」「北社町」が存在している。
東社町に住む乙社磯良は、東社駅から徒歩15分にある小岩井高校に通う高校二年生だ。
目は二重でキリッとしており骨格もシュッとしており整っていた。
髪色は黒でオールバックが特徴だ。襟足は少し長めで一見不良の様に見える。その髪型が学校指定の学ランとよく似合っているのが伺える。身長は185cmと高く、一際目立つ。
磯良が通う東社町は港があり、その海から吹く風がとても心地よいのが特徴だ。
磯良の通う小岩井高校はこの港の近くにあり、授業中には時々港からの風が教室の中を通り抜ける。
いつものように、朝七時半に家を出て磯良は東社駅に向かった。
東社駅の周りには商店街があり、この時間は朝市があるのもあって人が多い。
いろいろある店の中でもやはり一番多いのは魚屋だ。港で獲れた新鮮な魚介が並んでいる。
特に人気なのは朝のタイムサービスで有名な「魚の佐藤」だ。他の店で売られているものよりも安い品が多く、主婦の方々には人気の店だ。
磯良は「魚の佐藤」の裏口にいた。すると裏口の扉が開き、髪を真ん中分けにした小柄の少年が現れた。
「おはよう磯良!」
少年が元気に言う。
その少年は髪が茶色がかっており、小学生のようにキラキラした目は高校二年生とは思えない。小柄な体型なこともあり、より一層そう見える。
「おめぇもうちょっと準備はやくできねぇの?」
磯良が少し困ったように言うと、少年は
「だってさぁ、親父が人手が足りないっていうからレジ手伝ってたんだよぉ。」
「まぁ、それなら仕方ないんだけどよぉ~」
そんな会話をしながら二人はいつものように学校へゆく道に向かった。
しかし、今日この日が、彼らにとって人生を大きく変える日になるとは思ってもいなかった。