4.選ばれし魔道士、俺。
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虹色の光を放つ俺の嵌めた指輪を、この場にいる者達が驚きの表情を隠そうともせずに見ている。但し、一人の例外を除いて。
少女は全く驚いていないようだ。どこかの時点でその事実に気付いていたのだろう。要するに目の前の少女は、相当の使い手。
それはそうと、この指輪から出る光はこの世界に存在する基本五属性のそれぞれの色を示す。〈火属性〉は赤色。〈水属性〉は青色。〈風属性〉は緑色。〈土属性〉は茶色。〈光属性〉は黄色。こんな風に。更に複数の属性を持つものは色が混ざらず、それぞれの光を放つらしい。
だが、例外が存在する。全属性を持つものだ。全属性の魔道士は数百年に一人と言った確率で現れるが、その魔道士が指輪を嵌めると、虹色の光を放つ。
その理由には諸説あるようだ。最有力説は基本五属性を一度に発動すると互いに融合し合い、異なる次元の属性になるとか、ならないとか。まあ、分からない。
「いつまで呆けているつもり?」
謁見の間を包んでいた静寂を破ったのは、他でもない少女であった。名前はまだ知らない。
「すまないが、私の【予知】でもそこまでの結果は出なかったのだ。」
どうやら予想外らしい。まあ、俺が来る事は分かっていたと認めているのには気付いていないようだ。諦めているだけかもしれないが。
「それは王様の能力不足。」
静かに少女は告げる。流石に言い過ぎだろ、そう思う発言であった。そして、同じ事を思ったのは俺だけではないらしい。辺りから少女に対する罵言を多く聞こえてくる。
「……文句を言うけど、私は【戦姫】の能力者。能力の中でも最上位のXX級指定能力。常にその能力に相応しいように自分を鍛えている。」
いつの間にか少女の手には大剣が握られていた。軽々と持っているが、絶対に重いだろう。それが少女の能力ということなのだろう。戦う事に特化した能力と言ったところか。
「だが、私も上位のX級指定能力だ。そう簡単に能力を外れると思うか?」
「それが下位の能力者か無能力者ならね。」
どうやら王も少女の能力には匹敵しないが、十分に高位の能力のようだ。世界が一気にファンタジーっぽくなってきたな……。
「……そうと言うのであれば、あの者を呼んで確かめよう。それであれば、其方も納得するであろう?」
「ええ。XX級指定能力の【賢者】の彼女ならば大丈夫でしょう。」
また新しい能力者が。XX級という事は、目の前の少女と等位の能力なのか……。どうやら最上位の能力には神の名がつくらしい。今のところ、だが。
「呼んできてくれ。」
話の中心である筈の俺が話に入れない為、考え事をしていると、王は臣下に再び命じて、その【賢者】とやらを呼ばせた。……の筈だったが。
「呼ばれると思ってたよー」
どこか気だるそうな声が聞こえてきた。謁見の間の扉の近くである。どうやら謁見の間の外側にいるようだ。【賢者】という事は、頭脳明晰?だからこの状況が分かっていたのか?後で詳しく話を聞く必要がありそうだ。
王は一つ溜息をつくと臣下に命じた。
「戸を開けよ。」
「はっ。」
すぐに臣下は扉に待機している兵士に命じて扉を開けさせる。ゆっくりと扉が開けられると、その奥から一人の少女────俺の目の前の【戦姫】な少女と同じぐらいの年齢だろう────が歩いてきた。その歩みは違わず、俺の元へ。
「ふぅーん……君がその異世界人だね!」
「あぁ、そうだが……君は?」
俺は一応のために聞き返す。間違えるのは流石に恥ずかしいからな。すると【賢者】は首を傾げた。
「……んー?【賢者】だよ?分かってて聞いてるでしょ?」
どうやらその能力は伊達じゃないらしい。まさか俺の頭の中で考えている事まで推測するとは。恐らく心を読んでいる訳では無い。【賢者】の言葉は確信を持って放ったものでは無かった。自分の推測が本当か確かめたかったのだろう。
「ボクは知識欲の塊だからねー!」
話が噛み合わないような噛み合っているような、そんな言葉を俺に向ける。そこで初めて俺は【賢者】の瞳を見た。……驚いた。まさに欲の塊だった。貪欲さがその瞳から滲み出ていたのだ。
ここまであからさまなものなど見た事の無い俺は、流石に面食らってしまう。見かねた王は話に割り込む。
「すまないな。其方にはこの者の能力を調べて欲しいのだ。出来るか?」
「……ふーん?貴方はボクが出来ないとでも?」
この【賢者】も特殊な威圧感がある。自分の能力に自信のあるタイプだ。嫌いではないが、話を合わせづらい。あまり好ましくない相手だ。
「まあ、いいよ。視てみよう。」
俺に視線を向ける【賢者】。どこか身体の中……心が読まれているようなそんな感じがする。これが能力なのだろうか。名称から簡単に能力について推測は着くが、詳しい事は何も分かっていない。
やり切れないようなもどかしい気持ちを持ったまま俺は待ち続ける。いつの間にか俺の興味は、早く終わって欲しいという願望に変わっていた。ホームシックとまではいかないが、やはり異世界というもの自体に馴染めていないのだった。
「終わったよ。」
俺は誰にも聞こえないように小さく溜息をついた。【賢者】が一瞬こちらを見たような気がしたが、気のせいだろう。いや、そうであってくれ。
「それでどうだった?」
王は【賢者】に尋ねる。ここで、もし俺に能力があるとすれば、待遇がとても良くなる。無くても全属性でそこそこ良い待遇であるだろうが。【賢者】が口を開こうとすると、王は己の唾を飲み込んでいた。そこまで緊張する事だろうか。
「ボクも初めて見たよ……」
勿体ぶる【賢者】に王は若干怒りを顕にしつつ、答えを急がせる。仕方ない、と言わんばかりの表情で【賢者】は言葉を続けた。
「XXX級指定能力。」
大きな声で、そしてはっきりと【賢者】は言った。当然、この場にいる俺を含めた全員が驚く。いや、どうやら少女と【賢者】は驚いていないようだ。まあ、【賢者】は最初に視た時点で驚かなかったから今更だけどね。少女の方は凡そ見当を付けていたんだろう。
「本当に……そう視えたのか?」
疲れを隠そうともしない王。明らかに心身ともに疲弊しているようだ。威厳もカリスマ性もあったものじゃない。この数分で一気に老けたのかのようだ。
「……ボクが間違っている、と?」
疲れが溜まっている王は、言葉を選ぶ余裕も無かったようだ。そのために【賢者】の怒りに触れたのである。
「さっきから聞いていれば、ボクを無能呼ばわりするような事を言っているけど、ボクはこの国の中核を担う一人だ。権力は王様に匹敵するんだ……。よく、覚えておくと良い。」
そう言うと【賢者】は踵を返して、謁見の間から立ち去ろうとする。しばらく呆然と眺めていたが、王は思い出したように言う。
「能力は何だったのだ!」
「……王様もよく知ってる能力だよ。建国の祖にして、初代王。」
「まさか……!!」
「王様が思っている通り。そう……【全知全能】だよ。」
俺が持つ能力はいわく付きであり、よく聞いた事のあるものであった。何故か俺は動乱に巻き込まれそうな気がした。そして、寒気が。この世界は平均気温が低いのであった。いや、関係なかった。