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3.全属性の魔道士

「さあ、入る。」


 少女は俺に促す。頷きながらも俺の足は動かない。身分が合わないのだ。万年サラリーマンが宮殿に入る用事などあるだろうか。


 現代日本で言えば、政治家でもないサラリーマンが国会議事堂で常時国会がある真っ最中に総理大臣と会う事ぐらい無謀だ。例えがおかしいが。


「どうしたの?」


 少女は首を傾げ、俺に問い掛ける。その様子は何とも可愛らしいく、俺に入れと囁いていた。甘い誘惑に……いやいや俺は独身。成人もしていない少女に誘惑されるなどあってはいけない。世間体が無くなるぞ……!!


 必死に頭の中で静止を掛ける俺。少女は首を傾げたままに手を出してきた。


「……行こ?」


 少女は俺の袖を引いていた。当初に比べると些か積極的な気もするが、ここまでされて逃げる訳にはいかない。だって命が危ういし。流石にここで己の命を捨てるような自殺行為はしない。そのまま俺は少女に引かれていくのであった。


 宮殿には兵士が当然いる。だが、少女に引っ張られる俺を訝しげに見るものの、止める者は誰一人としていなかった。この少女は本当に何者なのだろうか。そう思わずにいられない。


 少女の向かう先は明白だった。宮殿に来て、どこに向かうか。そう言われれば王の元。10人に……3人くらいはそう言うんじゃなかろうか。いや、そうであって欲しい。


 だが、宮殿は広い。そこまで着くのにも時間が掛かるのである。幾人もの人とすれ違う。そろそろ沢山の視線に気まずくなってくる俺は景色を見る事にする。


 宮殿と言うだけあって、燦々たる光景が広がっている。地球で見る宮殿と大差ないようだ。例えるならばベルサイユ宮殿だろうか。イメージとしてはあんな感じであった。


 思わず足を止めそうになるが、それをすると俺を引っ張る少女が転ぶ。そこまで配慮無しな訳ではない。過ぎてゆく景色を名残惜しそうに視線で追う俺は、傍から見ればショーウインドウの玩具を買ってもらえない事に残念そうな表情を浮かべる子供のようだっただろう。恥ずかしい。


「着いた。」


 長き奮闘の果てにいよいよ着いたようだ。目に見えるのは大きな扉。この先が謁見の間だろう。ここに来て膝が震えてきた。……と、当然武者震いである。背中に汗をかいているのも暑いせいだ────いや、涼しいけども。


 必死にこの場から立ち去る言い訳を考えていた俺は、すぐに扉を開け放った少女を見て愕然とする。見られた本人は気付いていないが。そして、再び袖を引っ張る。やめてくれー。俺の密かな叫びは誰にも受け止めてもらえなかった。


「……誰だ?」


 ある程度の場所で止まる少女。同じように俺も止まる。一応、少女からは半歩ほど下がっている。少女の身分を知らないが、後で指摘されるのを防ぐ為だ。ついでに膝をついている。ネットの知識でかじったものだ。少女は立っている。すごい。


 王の言葉は威厳に満ちていた。流石は王。その身分に相応しいだけのものを身につけている。一般人である俺が真似をした所で似ることすら無いだろう。月とスッポンという言葉を目にした気分だ。


「この人は……異世界人。」


 王の威厳に挫けた俺と違い、普段と変わらぬ様子で少女は静かに告げた。その一瞬。この場が張り詰めたのを感じた。


「……本当か?」


 先程とは打って変わって王は一文字一文字を確かめるかのように、少女に聞き直す。


「ええ……本当。この服を見たことある?」


「確かに無いが……遠くの国という可能性も。」


「……貴方は王様。当然、その遠国も知っている筈。そして、その服装と違うということも。」


 俺は王が冷や汗をかいているのに気付いた。必死に隠そうとしているが、零れ落ちる汗粒は誤魔化しようがない。そこまでのこの少女が恐ろしいのか。そして、この少女は一体何者なのか。全てが謎だった。


「あ、ああ、そうだな。だがな……。」


 どうにか声を絞り出す王は、尚も認めようとしない。別に俺は異世界人と認められなくても、ここで暮らせれれば良いのだが。


「この後に及んで怖気つくの?もう一度言うけど、貴方は王様。一般人じゃない。その自覚を持って。」


「……そこまで言うのならば認めるしかないのだろう。ああ、その者は異世界人だ。私の【予知】はその者を異世界人と告げている。」


「なっ!?」


 次に驚くのはその臣下達であった。王が言い訳をしているのは分かっていたが、本当に俺が異世界人だとは思っていなかったようだ。王と俺を何度も何度も見比べる。うざい。


「皆の者、静かにしてくれ。私とて認めたくないのだ。異世界人に救われるなどといったことに……。」


「どういう事だ?」


 俺は王の言ったことが理解できなかった為に疑問を呈する。それを聞いた少女は俺を見る。


「王様は【予知】の能力者。その能力によって、未来を映像で知る事が出来る。貴方の存在は数ヶ月前から予知されていた。」


 それが俺をここまで連れてきた理由なのだろう。だが、その予知の内容は、俺がこの国を救う的なものだったのだろう。それが気に食わない王は、俺の事を異世界人だと認めなかったという訳か。


「王様。早く説明して。何も進まない。」


「……分かった。異世界人よ、面を上げよ。」


「ははっ」


 俺はなるべく畏まったように顔を上げる。正直、少女に怖気付いているこの王に敬意を払う筋合いもないが、今は我慢だ。


「其方には私の【予知】によってこの国を救うという未来が決定している。そこまでの筋道は分かっていないが、其方はこの国を救ってくれる事は事実のようだ。そこでまず其方の力を知りたい。……あれを持って来い。」


 王は近くにいた臣下に命じる。臣下はすぐに頷き、謁見の間から去って行った。その人並外れた素早さに俺は呆気に取られた。


「あれは【俊足】の能力者。長年、王様に仕えてる。」


「あ、わざわざありがとう。」


 俺は親切にも教えてくれた少女に小さく礼を返す。その間も俺は、なるべく王は見ないようにしている。王の顔を見るのは、第六感的な何かが駄目だと告げているから。自分でもよく分かっていない。


「これを。」


 しばらくして謁見の間に戻ってきた【俊足】の能力者さんは、俺に二つ指輪を押し付けた。結婚ならお断りだ。それでも取り敢えず受けとるが、使い方も何も分からない俺は、ただ受け取るだけしか出来ない。


「どうすれば?」


 困ったように俺は尋ねるが、【俊足】さんは何も教えてくれない。酷いなぁ……。代わりに少女が教えてくれた。優しいなぁ……。


「それを小指に嵌めてみて。」


「……こんな風にか?」


 俺は言われた通りに、両手の小指に一つずつ指輪を嵌める。すると俺の嵌めた指輪から虹色の光が放たれた。


「に、虹色……!?」


 思わず【俊足】さんがポロリと一言。これで俺は何かの能力に関して天才か、もしくは無能かのどちらかであると分かった。まあ、何も分かっていないのと同じだな。


 王は虹色の光を見て溜息を漏らす。あ、お疲れですね。


「其方は何者なのだ……。それは全属性を使える魔道士のみが放つ虹色の光ではないか……。」


 どうやら俺の予測は良い方で当たったようだった。

不定期投稿です。次回もいつかは分かりません。

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