2.地下の巨大都市
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少女の後ろを俺はついていく。相変わらず、俺と目の前の少女の二人以外に人の気配は無い。果たして、この世界に人が住んでいるのだろうか。いや……それだったら少女が生きているのが不思議だ。
「……どこに行くんだ?」
「行けば分かるわ。」
先程から行先を聞いているのだが、答えてくれる気配が無い。わざわざ返事をするのは律儀だとは思うが。だからこそ俺はこの少女を頼ろうと思った。まあ、可愛いというのもあるけどね。
俺は記憶力がそこまで悪い訳ではないが、景色が変わらないこの世界で現在地がどこなのかを知る術は無い。この少女がどのような方法で地理を理解しているのやら。
その後も様々な方法でアプローチしてみるが、結局少女は詳しい事は何も教えてくれなかった。それでも分かったことは幾つかある。
まず、この世界は本当に地球とは異なる『異世界』であるという事。これは単純なようで意外と重要な点なのだ。
次に星が動いているという事だ。要するにこの世界がどのような形をしているかまでは分からないが、回転しているという事だ。この世界の外には星がある。恒星があり、光は存在するのだ。月は無い。新月かとも思ったが、どうやら違うようだ。少女が月という存在を知らなかったのが理由だ。
それでもこの世界が回転しているため、明確かまでは分からずとも昼夜は存在するだろう。そして、この世界に季節は存在しない。一年中、これぐらいの気温のようだ。要するに公転はしていないのだ。つまり惑星では無い。
ほんの少しの間だけだが、多くの事が分かった。方位磁針が作れれば、星が球形かどうかが分かる。地軸がズレているかどうかも知りたい。まだまだ知りたい事は沢山ある。
「着いたわ。」
頭の中で自分の考えをまとめていると、辿り着いたようだ。少女は瓦礫の一部を指さす。だが、そこには何も無い。いや、瓦礫はあるけども。
「これ……?」
率直に疑問を出した。分からないから仕方ない。若干、開き直ったような気もしているが、今はそうする以外に術はないと思っている。
「……別の世界から来たと言っていたわね。じゃあ分からないか。……見てて。」
少女は俺に下がるように手振りをした。何となく意味が分かったので素直に下がっておく。それを確認すると、少女は瓦礫に触れた。瓦礫を触った所で何になるのだ、と思っていた俺は驚く事になる。
「瓦礫にドアノブが隠されていたのか……。」
それは気付けないだろ、と心の中でツッコミを入れながら、これから起こるであろう現象を逃すまいと目を開く。
「これを引っ張れば、開くわ。」
ドアノブは捻るタイプではないようだ。それでもそこそこの技術がある事がここから伺える。もしかしたら地球と大差ない楽な生活が出来るかもしれない、と薄々期待している。
「こう、か?」
言われた通りに俺は引っ張る。意外とドアノブは楽に引けたため、踏ん張ろうと足に力を入れていた俺は尻餅をつくことになる。我ながらみっともないな……。
開けた直後は全く変化が無かったが、少し経つと徐々に変化しているのに気付く。……地面が開いている?動いているのは地面だった。
地面が開くと同時に、その奥から光が漏れてきた。中には何かがあるようだ。光は東京の夜と大差ないような明るさだ。
全て開き切る頃には、中の様子がはっきり見えていた。階段だ。長い階段が続いているのだ。まさか人々は地下に暮らしているのだろうか。そうであれば、地上に誰も住んでいないのが分かる。いや、それも不自然な事ではあるけども。
「行こう。」
俺は少女を急かす。俺の予想が当たっているかもしれないのだ。一刻も早く行ってみたかった。出来るだけ気持ちは抑えていたが、恐らくバレていただろう。それよりも今の俺は衣食住に飢えていたのだった。
「……分かった」
全力で階段を降りる俺の後ろを苦もなく、少女はついてくる。見た目は華奢なのだが、体力はあるようだ。……いや、俺の体力が無いだけか。長らくデスクワークだったからな。
数百段ほど降りた頃だろうか、階段は終わると分岐路が現れた。
「どっちへ行けば良いんだ?」
「この分岐路は左が貴族街、右が平民街。街自体は繋がってるけど、この通路は近道になってる。」
少女が長文を話したのが驚きだった。あまり喋らない性格という訳でもないようだ。律儀に返事する所からも薄々気付いていはいたけどな。それにしてもまだ俺は驚くようだ。もう驚き慣れたかと思ったのだが……。
俺はどちらに行こうかと迷っていたが、少女が俺の後ろから真っ直ぐに左の道に進んだのを見て、ついて行くことにした。行けば何とかなるかもしれないという希望的観測だがな。
分岐路を右に曲がった先は長くなかった。段々と光が強くなり、暗闇に目が慣れていた俺は、思わず目を細める。
「ここが貴族街。取り敢えず私の知り合いの所へ案内する。」
「ああ……ありがとう。」
貴族街に知り合いがいるという事は、この少女は貴族なのかもしれない。というよりまずこの世界には貴族がいるのか。分岐路の時は、あまり頭に入ってこなかったが、今考えると地球とは全く異なることがハッキリと分かる。
単刀直入に言うと貴族街は大きかった。まるで1900年代前半のヨーロッパ諸国のような街並みである。中世とまではいかない。どちらかと言えば現代より。だから近代というのかもしれないな、と俺は一人納得していた。
俺が思い描いていた東京……とまではいかなかったのが残念ではある。だが、衣食住は見込めるのではないか、と思う。
貴族街に入ると、一気に騒音が増える。馬車がよく通るのだ。平民街ではないからか、歩く人はあまり見かけない。貴族は馬車に乗るから歩かないのだろう。よって歩く俺と少女は、馬車からの視線を浴びせ続けられる羽目になった。
「どうやってこんな地下世界を作り出したんだ……?」
「太古の昔に戦争が始まる前に敵に見つからないように、民や貴族をここに匿ったのが始まり、と言われている。」
戦争、というワードが気掛かりだが、その太古の昔の人の技術でこれだけの地下世界を作り出せたのだから、偉大な人なのだろう。それで今の俺は救われているのだから感謝しかない。
「まだ行くのか?」
この少女と話せる事が分かった俺は、少しずつ積極的に話すようになってきた。俺は喋られない性格ではない。どちらかと言えばよく話す。あまり静かな空間は、好みではないのだ。かと言って嫌いでもない。まあまあ……だな。
三十分ほど歩いた俺は、遂に少女の目的地に着いた。辺りの貴族の屋敷と比べても一段と大きい。屋敷というよりは────宮殿だ。まさか……!!
「ここに私の知り合いがいる。地下都市グランデル……その宮殿に。」
少女の目的地は、この地下都市で最も高い地位の者が住まう場所。つまり……宮殿であった。俺は、徐々に警戒心を抱き始めるのであった。