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鬼人モモタロウ  作者: 水無月 蒼次
3/3

後編

モモタロウは次々と襲いくる、人間を金棒で打ち返した。

迫りくる式神を金棒で強引に破り捨てた。


モモタロウは都は中を疾走する。

モモタロウが走る度に地面が抉れて、ひび割れていく。


都はモモタロウが戦うにはあまりにも脆かった。

 

ブンッ

 

棍棒が轟音を立ててふるわれ、その度に暴風で屋根が飛ぶ。

 

数十本もの火矢が迫りくる

 

モモタロウはそれを打ち返す

 

弾かれた火矢はあらぬ方向に飛び、畑を、建物を、人を燃やす。

 

たちまち通りは戦う者、逃げる者、家を失った悲しみに打ち拉がれる者と様々な者で溢れ帰った。

 

モモタロウはそれを目に焼き付けた。

 

燃え上がる家を、立ち尽くす老人を、泣き喚く子供を、一瞬で崩壊した平穏を目に焼き付けた。

 

そして聞いた。

 

人々の悲痛な叫びを、武士達の雄叫びを、都が燃える音を、自分と同じぐらいの年の子の慟哭を。

 

そして気付いた。

 

自分は安倍晴明と同じだと。

 

身勝手な理由で病を振り撒き、多くの同族を死に至らしめた安倍晴明。

その問題を解決するために自分は、都の人々を苦しめ、建物を壊し、命を奪った。

彼らにとっての自分は、自分にとっての安倍晴明と同じだと。

 

だが、怒り、悲しみ、恐怖に支配された場においてはモモタロウが攻撃を止めても止まる者は一人も居なかった。

 

モモタロウに火矢が放たれ、石が投げられ、式神が襲い来る。


モモタロウは必死にそれを無力化した。

 

「死にたまえ!」

 

金色の札が飛ぶ。

 

金色の札はモモタロウの前で立派な金色の鎧を来た武士に変身した。

 

「間に合ったか、ここで貴様を仕留める。帝の元に行かせはせぬ!」

 

安倍晴明が足を引きずってそこには居た。

 

モモタロウは武士に金棒を叩き付けるが、武士は無駄だとでも言いたげな笑みを見せてモモタロウの金棒を手で受け止めた。

 

「無駄ですよ。この金剛に生半可な攻撃は効きませんよ」

 

「じゃあ本気で仕留める」

 

「この金太郎を忘れてもらっちゃ困るぜぇ」

 

キンタロウの鉞が迫る。

 

「なら生半可なじゃない攻撃をするまでですね」

 

モモタロウは金棒を確りと握って、金剛をキンタロウの鉞に叩きつけ、そのまま振り抜く。

 

轟!

 

突風が辺りを吹き荒れ、家屋を薙ぎ倒し、溢れ帰る人を吹き飛ばす。

 

金剛は鉞と金棒でサンドされて千切られた。

 

「俺を利用するたぁ粋な真似するじゃねぇか」

 

「お前も眠れ!」

 

モモタロウは渾身の力で金棒を振り下ろす。

金太郎は刀と鉞をクロスさせて金棒を受け止める。

 

金太郎は鉞と刀を手放して、モモタロウの腕を掴んで投げる。

 

モモタロウは金太郎の腕を咄嗟に掴んで叩きつけられた勢いも利用して、金太郎を武士の集団に投げつけた。

  

回転しながら飛んで行った金太郎は既に満身創痍だ。

 

直後、回転する金棒が投げつけられる。

 

金太郎はそれを避ける。

 

金棒は武士達をその圧倒的な質量で薙ぎ倒す。

 

金太郎は拳を握って、モモタロウに飛び掛かる。

 

金太郎の拳がモモタロウの顔面に刺さる(ただの言葉の綾です)

 

「一発は一発だ」

 

モモタロウの拳が金太郎の腹に沈み込む。

 

「グハッ」

 

パタタタッ

 

モモタロウの顔に血が滴る。

 

モモタロウは気にせずに金太郎を捨てる。

 

いつの間にか辺りは静まり返っていた。

 

雨が降り始めた。

悲しみを洗い流すかのように、いやその場の人々の悲しみを現すかのように、しとしとと雨が降り始めた。

 

雨のお陰で火は消し止められ、その跡を残すばかりとなった。

 

モモタロウは立ち尽くしている。

 

目の前に広がる光景に圧倒されていた。

 

モモタロウは止めなくてはならないと解っていた、だが既に戦いはモモタロウの意思では止められなくなっていた。

 

途中からモモタロウはなるべく被害を出さないようにしていた。

金棒を放り投げたのもその配慮の為だ。

 

だが、町並みは見事なまでに破壊された。

 

そんな悲しみも口惜しさも慟哭も雨に掻き消されて不気味な静けさが辺りを支配していた。

 

雨は夜が明けるまで降り続けた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

そして朝が来て、モモタロウは都の中心にある宮殿に来た。

 

金棒は道端に深々と突き刺してきた。

あの重量の物を根元まで刺してきたからそうそう抜けはしないだろう。

 

そして正門から堂々と入って、暫く宮中をウロウロした。

 

そしてミカドが宮中に居ないことを知った。

 

なんでも懇意の女性との逢瀬に向かったらしい。

 

都がこんなときに逢瀬とは?

 

と少し怒りを覚えたが怒りを沈めてミカドが向かったという女の屋敷へ向かう。

 

それは北東の方にある屋敷らしい、なんでも大層美しい姫が居るんだそうで、ミカドはそれを拐おうとする輩を成敗しに行ったらしい。

 

「むかし~むかし~モモタロは~おふねできた晴明をじんもんし~平安京に行ってみれば~目も当てられぬ大暴れ~」

 

歌いながら大きな水溜りの周りを歩いて北へ向かう。

 

「疲れた…何で僕チマチマ歩いてんだろう…パッと走るか責めて泳げばすぐなんだけどな…」

 

モモタロウは口をこぼしながらも水溜りを迂回して目的の屋敷にやって来た。

 

そこは比較的大きな屋敷で、周りを疎らに兵士が取り囲んでいる。

 

モモタロウは一先ず玄関を守ってる兵士に事情を話すことに 

 

「すいません、ここにミカドがいると聞いて来たのですが入っても?」

 

「ミカドより何人も通すなと仰せつかっている。ここを通すことはできない」

 

「そこをなんとか」

 

「ならぬ、それ以上言うのであれば侵入と見なし手打ちにするぞ」

 

「そうですか…出直します」


モモタロウはそのばを離れてキョロキョロと辺りを見回す

 

「あの竹藪でいいか」

 

モモタロウは少し離れた山の竹藪の中に入っていき、竹をバネの代わりにして跳び上がって、屋敷の庭に降りる。

 

「おっ、地面が確りしてる」

 

降り立つと間もなく兵士がぞろぞろと出てきてモモタロウに各々の得物を向ける。 

 

「客何為者!(貴様、何者だ!)」

 

「Who aer you !」


「貴様一体何者じゃ!」


「自分は訳あってここまで来た鬼、名はモモタロウと申す。ミカドに申し上げます。都で騒ぎを起こしてしまいました。ですが安倍晴明が大人しくしていればあのような事にはならなかった筈です。都も鬼ヶ島も、我々鬼と人は共に歩めないものか!」


「貴様、帝に対して無礼なるぞ!」


侍の剣が槍がモモタロウに向けられる


モモタロウは金棒一振りで侍全員と障子と襖と御簾を吹き飛ばす。


するともてもてと屋敷の中からちょっとふっくらした感じの身なりのいい男が出てくる。


「ふむ、こやつにも参列させろ。姫君を守る為に鬼の力も借りたい。どうだ、そこな鬼よ?」


確かに強くは無さそうだ。

だが無駄に威厳を感じるのも事実だ。


「もし貴様が今夜、姫君を守ることが出来たなら、都の騒ぎとやらは見逃してやろう鬼ヶ島とやらもな、安倍晴明は厳重に処罰してやろう。しかしもし守り切れなかったら貴様を打首にしてくれる」


勿論、大人しく打ち首になるモモタロウでもないが…


「姫君を守り抜いて見せましょう」


モモタロウは金棒を地面に立てて言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして夜が来て、中秋名月が真上に昇る。


護衛対象の姫はずっと前から月を見上げた見上げたままだ。


百人を超える武士達は弓を番えて空を監視している。


今日は月が非常に大きく見えた(スーパームーンです)


今日の深夜辺りで月が真上に昇る、来るならその時だろうとモモタロウは読んでいた。


だが、それはそんなこととはお構い無しにやって来た。


急に月が煌々と輝き、その光で風景を掻き消した。


そして人影のような物がわらわらと牛車のようなものを引いて空から降りてくる。


侍達が弓を放つ音が聞こえる。


ビンッ


矢の一発が牛車に当たったようだ。


モモタロウは便りにならない視界を捨てて、視覚以外の感覚と持ち前の勘を便りに跳び上がって、牛車を金棒で叩き落とす。

 

牛車は轟音と共に地面に叩きつけられた。 

 

「月輪車がっ!」

 

げつりんしゃ?そういう名前の牛車か…

 

牛車が壊れたからか月の光が幾分和らいだ。

 

姫を拐いに来た輩もとい天人は見たこともないような光輝く衣を纏って、黄金色の雲に乗っていた。

 

「貴様、我々の前に立ち塞がることがどう言うことか分かっているのか?我々は神々しきせがっ」

 

天人が話し終える前にモモタロウの金棒が天人を月へ向かって打った。


「母から宗教とキャッチセールスと選挙カーは無視しなさいって言われてるので」

 

モモタロウは天人を足場にして次々と天人を打ち上げる。

 

そしてモモタロウは地面に下りる。

 

天人は何度かリベンジしたが結局モモタロウを突破できなくて、おずおずと月へ帰っていった。

 

「これでめでたしめでたしでしょ、ん?」


地面に落ちている月輪車は全体的に銀色で円盤状で大きく歪んでおり、光を放っていた。

 

「アレはもって帰らなくて良かったのかな?」

 

モモタロウは月輪車を徐に掴んでジャイアントスイングの要領で月へ投げた。

 

月輪車はぐるぐる回り、幾つもの部品を散らしながら月へ飛んでいった。


飛び散った部品の中に桃型の何かがあったのは余談だが。

 

そしてこの年、月の姫は地球に残る事ができた。

 

モモタロウは約束通りに都での騒動を不問にしてもらい、鬼ヶ島への不干渉を帝に約束させた。

 

そしてそのあとわかったことだが、安倍晴明の言った事は殆ど嘘であった。

 

実際に鬼ヶ島に壺を運ばせたのは帝ではなく、安倍晴明の独断であったことが発覚して、晴明は都を下ったがその名声が途切れる事はなかった。

 

キンタロウは都での一件でお叱りを受けたらしい。

 

そしてモモタロウは鹿枝楙と千兵衛の助言を受けながら航路を選んで、確りした筏で鬼ヶ島に帰って行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんは山へ柴刈りに行き、おばあさんは川へ洗濯に行きましたとさ。

この後の展開は皆さん次第です。

おばあさんは果たして桃を拾うのか拾わないのか、はたまたおじいさんが桃を拾うのか…

こういう事を考えるのって楽しいですよね?

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