クズ、それっぽい事言う
「マンダリン様この度はご入学おめでとうございます。つきましては新入生総代として挨拶をしていただきたいのですがよろしいでしょうか。とのことです。」
3日かけて実家へと帰ってきた俺は1日ゆっくり休んで起き上がると同時にダンソンに貴族院から送られてきた手紙の内容を聞かされて、寝ぼけ眼をこすりながら思案する。
俺は前世でも一応優秀だったけどこの手の事は面倒だったから大事な試験ではケアレスミスをしてあえて点数を落としてこの苦行から逃れる離れ業をしていた。しかし今回は少し調子に乗ったこともあってなかなか高得点をとってしまったのだろう、新入生総代なんていう常人からしたら名誉な事も俺にとってはただの罰ゲームだった。
貴族院とはその名の通り貴族だけが通える学校だ。貴族の7歳から15歳までの全ての子供達が通うことになるが例外ももちろんある。
今回の俺みたいに病気で床に臥せってる様な人間が学校に通えるわけもない。
また、王族などの大家族にもなると政争などが多々ある様でそれに備えるためには学校に通うというリスクはなんとか避けないといけないために例外として貴族院への入学の延期・辞退、または休学・退学の判断を打診することができる。俺の場合がそうであった様に嘘っぱちでもなんとかなるためその点はさすが貴族院と言われるだけある。
そして貴族院には様々な貴族が入学することになる。それは騎士爵から王族まで様々な地位の貴族が入学してくることになるのだが、その中から選出される総代と呼ばれる人はとても名誉なことであり、その総代を3年間守り抜くと国王から特別に爵位を与えられる特権がある。これは位の低い貴族からしたら喉から手が出るほどに欲しい学院内での地位であるとともに、位の高い貴族からしたら王族に認められた証となるため、なんとしてでも手に入れたい証でもある。
今回もそれは例外ではなく、位の高い貴族達は勉強はもちろんのこと学院への賄賂など様々な手を使って自分の子供を総代へと押し上げようとしていた。位の低い貴族達は圧倒的に優秀な成績を残させるために自分の子供に対して並々ならぬ努力を強いて総代を取らせようとしていた。それほどに総代という貴族院での地位は大きなものなのだが…
「こんな名誉な事はありませんぞ坊ちゃん!総代といえば我が領始まって以来のことではありませんか!」
「ダンソン、総代の件だけど断っておいてくれるかな」
「……え?」
だってめんどいじゃん。
試験日でさえたくさんの人がいて、俺が何かするたびに一挙手一投足全てを見られていた。それにごにょごにょ噂話で持ちきりだったのに総代なんて話を受けたらそれこそ学院で生活がキツくなるよ。
「後で一応父様とも相談するけどこの件は断りの返事をお願いね。」
「坊ちゃん本当によろしいのですか?貴族にとって総代の地位は国王から与えられる名誉。それを狙って入学してくる子供達もいますのに…」
「うん。いいんだ。僕は一応1年間勉強できる環境にあったし、みんなより1つ年上だからね、それを受け取る事はやっちゃいけないと思うんだ」
俺が総代を断るためのそれっぽい言い訳を話すと、先ほどまで狼狽えていたダンソンが急に大人しくなり瞳から涙を浮かべ始め懐から取り出したハンカチで涙を拭う様になった。
「ちょ、どうしたのさダンソン!」
「ぐっ、私めはマンダリン様の寛大なお心遣いに感激いたしました。わかりました!学院にはその様に伝え辞退しておきます。」
「すまないな。あんだけ喜んでくれたのにね。でもこれでいいと思うんだ。だから泣かないでくれ」
はい、はい。と咽び泣きながらダンソンは手紙を持って部屋を出て行った。
それを見送って俺は二度寝するために再び布団に潜るのだった。