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西の大地  作者: クロリ
7/25

7

 霧によって隠されていたものが、近づくにつれ、その姿を露わにしてきた。

「こんなものがあったとはのう……」

 とガカロが見上げている。

 テヌフもただ見上げるしかなかった。

 そこには巨大な獅子の石造が二体そびえ立っていたのだ。ただし、片方の獅子は顔半分が欠けており、もう一体は片足が崩れ落ちている。

「だれがこんなものを」

 テヌフが訊くと、

「さあ、わたしも詳しくは知らないが、ずいぶん古いものだとは聞いている」

 とウペルは答えた。

 周囲には岩が積み上げられており、壁が続いている。獅子はその門番といったところであろうか。左右の獅子を過ぎて、正面には奥へと石畳が続いており、その先にはひとつの建物が見えている。

 ウペルが立ち止まった。

「ガカロ殿、お疲れのところでしょうが、奥でわたしの仲間が待っておりますので」

 ガカロはふむ、とだけ答えた。

「ただ、テヌフ、お前のことだが……。もともと、わたしの役目はガカロ殿をここへと連れてくることだった。仲間にはお前のことを説明するから、それが終えるまで黙っていてほしい」

「わかった」

「本当にだな」

「ああ、大丈夫だ」

「そうか、ならいいのだが……。わたしたちの状況はあまり良いものではなくてな。気がたっているものも、なかにはいるから」

 とウペルはいった。

 その言葉にひっかかるものを感じながらも、テヌフは口を閉じ、奥へと進んだ。

 獅子の正面で見た岩の壁はそのまま周りを囲っており、中央に位置する場所にはこれもまた岩で組まれた、寺院らしき建物が存在する。わずかに高くなっており、階段を上ると扉のない、四角い入り口があった。

 なかからは明かりが漏れている。

 ウペルを先頭に足を踏み入れると、腕を組む一人の男が岩壁に背を預け、立っていた。

「いま戻った」

 とウペルがいうと、男は組んだ腕を外し、片手をあげた。

「――おう」

「ご容体は?」

「……変わらず、といったところだ」

「そうか……」

「……で、その人が、例のあれなのか」

「ああ、ガカロ殿だ。失礼のないようにな」

「わかっているよ」

 といい、男は片膝をつき、拳と拳を付けて頭を下げた。

「ガカロ殿、はるばるご足労いただき、感謝しております。ご用がございましたら、このタミルスになんなりと」

「えっえっえ、よろしく頼むのう、タミルス殿」

「どうぞ、タミルスとお申しください」

「ん、わかったえ。じゃがもう、顔をあげてくれぬか、わしはそんなに人から敬われるものでもないからのう」

 とガカロはいった。

 そして、テヌフは顔をあげたタミルスと目をあわせることとなった。

「ん、そいつは?」

 と指をこちらにさし、ウペルに訊いている。

「そいつは道中でガカロ殿が保護されたものだ。賊かなにかに身ぐるみをはがされたらしくてな、そこらに転がっていたということだ」

 タミルスは立ち上がった。

「で、ウペルよ、お前はそのまま連れてきたってことなのか?」

「……ああ」

 頭に手をやり、タミルスはいった。

「しょうがねえなあ、なにかあったら、お前が責任とれよ」

「わかっている」

「なら、いいさ。いけよ」

 ウペルは頷き、ガカロを呼ぶと、壁に掛けられた布をめくった。どうやら、奥へと続いているらしい。テヌフもあとに続こうとすると、タミルスが立ちはだかった。

「お前は駄目だ。この奥へと通すことはできん」

 テヌフが身体をずらし、ウペルを見ると、首を振られた。

「タミルス、すまないが、そいつに衣を与えてやってくれ」

「はあ? なんで、俺がこんなやつの面倒を」

「わたしはガカロ殿を案内せねばならん。だから、テヌフのことは頼んだからな」

 といって、二人は奥へと入っていった。

「って、面倒くせえ」

 タミルスは舌打ちをして、こちらを見下ろした。髪はウペルらと同様、腰辺りまで伸ばしており、テヌフより頭一つ分背が高い。

「ついてきな」

 いったん外に出て、階段を下りた。

 森から鳥が数羽、飛んでいった。

 ――と、急に目の前よりタミルスが消えた。

 いつの間にか冷たいものが喉に当てられている。

「動くなよ」

 タミルスの声が左側より聞こえた。

「両手を上げな」

 テヌフはいわれたとおり、両手を上げた。

「一応これだけは伝えておくが、もしお前がこの後いなくなってもよ、俺ら誰ひとりとして困ることはないわけだ。それは、わかるな」

 テヌフはゆっくりと頷いた。

「ウペルはお前のことをどう思っているのか知らねえが、やっぱり俺としては考えるところがあるわけさ。俺らにも事情があるからよ」

 開かぬ左目の死角でタミルスの姿がない。剣先が右側に見えた。

「もしかしたら、今後面倒なことになるかもしれない。だったら、いま、このときにどうかするべきとは思わないか?」

「……」

 テヌフは何も答えられなかった。いったいなんと答えれば、正解なのか。そもそも正解などあるものか。言葉がみつからない。

 このまま振り切られれば、喉を掻き切られ、最悪は絶命するであろう、と頭によぎるものの、その先にある死に対しては、まるで他人事のように考えている自分もいた。

 タミルスがひとつ大きく息をはいた。

「……冗談だ、悪かったな」

 といって、首筋にあてられたものが外された。

「こっちだ。さっさと、ついてこい」

 タミルスが手招きをする。テヌフは横へと並んだ。

「いっておくが、別に本当に斬ろうなんざ、思ってなかったからな。ただ、お前の態度しだいでは、どうなるかわからないことだけ覚えておいてくれ」

 とタミルスはいった。

 口を閉ざしたまま、テヌフは頷いた。

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