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西の大地  作者: クロリ
6/25

6

 三人はオオカミの後を追い、森のさらに奥へと進んでいた。うっすらと霧がかかってきており、辺りが白くなってきている。

 ウペルがいっていた。これが案内をしてくれる、と。

 確かに目印にするものも無く、どこも同じような風景である森のなかで、しかもこう霧が深くなってきては、迷ってしまう恐れがあるな、とテヌフは納得していた。しかし、オオカミが人を助けるような真似をするなど、思いもしなかったのである。

 テヌフの故郷では家畜を襲う、いわば敵なる存在であった。群れをなし、夜に行動をする。これは人が行動を避けるときに合わせたものであり、あちら側も相反するものとして、人間の存在を見ていたのかもしれない。

 だが、このオオカミは全く別のものである。人間を警戒する様子もなく、いや、むしろ、その必要すら無いのかもしれない。

 大きさは成人女性ほどあるが、艶やかな灰色の毛におおわれた肉体は盛り上がっており、四肢は太く、その爪で撫でられれば人間の皮膚など簡単にめくれてしまい、その鋭い牙に噛まれれば一瞬にして食いちぎられるだろう。

 ゆっくりと人間たちの歩幅に合わせるように、オオカミはときに振り向き、一定の距離を保ちながら前を歩いている。

「昔から、ここらには霧がかかりやすくてのう」

 とガカロはいった。

「ふうん、ガカロは前に来たことがあったのか?」

「もともと、ここの近くに住んでおってな。辺ぴな場所じゃが、ひっそりと暮らすには、もってこいの場所でもあったわけじゃ」

「暮らしにくそうな場所だな」

「いやいや、住んでみれば、それはそれでなかなか楽しかったぞ。えっえっえ。まあ、結局は別の場所へと移ったわけじゃがのう」

 テヌフはふと思った。

「そういえば、ガカロは連れてこられたんだよな」

「そうじゃよ」

「おかしくないか。用があるなら、こんな場所にじゃなくて、もっと別の場所もあっただろうに」

「ちと訳があるようでな。のう、ウペルや」

「……ええ、まあ」

 と曖昧にウペルは答えた。

「それはそうと、どうやら目的地についたようじゃの」

 オオカミが立ち止まり、こちらを振り向いていた。

「案内ご苦労じゃった」

 とガカロはいい、懐から何かを取り出したかと思うと、オオカミに投げた。しかし、興味がない様子で見向きもしない。

「あれは?」

 テヌフは訊いた。

「肉じゃよ」

「……隠していたのかよ」

「ええじゃろ、少しくらい。万が一のためじゃ、なにかあったときの」

「万が一ねえ」

「ほら、遠慮せんでええぞ。わしからの礼じゃ」

「あれは知らぬ人間からの施しを受けませんよ」

 ウペルはいった。

「なんじゃと……」

 とガカロは声をあげ、しぶしぶと肉を拾っている。微笑していたウペルが二人に対し、頼みがある、といった。

「これより先に進むにあたって、一つ約束ごとがあります。念のため、武器などをお持ちでしたら、預からせていただきたい」

 その言葉にガカロの声は急に低くなった。

「……なんじゃ、それは。わしは招かれておったはずじゃがのう」

「間違っておりません。しかし」

「ウペルや、わしは別にここで引き返しても良いのじゃぞ」

「この霧のなかをですか?」

「ああ、なんとかなるじゃろうて」

「……申し訳ありません。悪いようにはしませんので、どうかお願いできないでしょうか」

 いっときの沈黙が流れた。

「よく、わからないが、そうしなくてはいけないなら、しょうがないだろ」

 テヌフはいった。

「そういう問題ではないのじゃ」

「どうゆう問題だよ」

「……お前さんのも渡すこととなるのじゃぞ」

「別にやるわけじゃないだろ、預けるだけだ。その代り、こっちも条件として衣をなんとかしてくれ。まあ、客人でもない俺が要求するのも、おかしな話しだがな」

 テヌフはウペルに斧を預けた。

 黙りこみ、思いにふけているガカロであったが、やがてはため息をついた。

「……やれやれ、仕方がないのう。……わしからも条件じゃ。決して、わしらのものを下手に触ってはならん。よいな」

 とガカロは荷より取り出したものをウペルに渡した。

「……申し訳ない」

「もう、ええわい。それよりも早くいくえ。暗くなってきたからのう」

 ウペルは頷いた。

 いつの間にかオオカミの姿はなく、霧の向こうから遠吠えが聞こえていた。

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