6話
六話
朝、無事に登校できたであろう晴香はひとまず安心していた頃だった。
今は、生徒が次々に学校に登校してきてはクラスに入って、鞄を横にかけたり本を読んだりと、自由に過ごしている。
『はい。みんな席につけ。』
先生のこの一言で"学校"という、極めて行動に制限される時間がやってくる。
もちろん、トイレに行くこともなかなか自由に行けるとは限らず、それゆえに事前に動くことを覚えていく場所だ。
しかし、今の晴香は実は事前に動くことも不可能な状況であることを知ってるのは水戸と読者くらいである。
『ーーーーー。えー、ということで朝のHRを終わります。』
HRの終わった教室では極力動かないように気をつけている晴香が席に座っている。この時、晴香はなるべく今日は歩かないことを心に決めていた。
しかし、今日の日付と晴香の出席番号が同じことは晴香自身気づいていない。
《1限目》
黒板には難しい放物線が書かれていて、またもや難しい数式や文字が並んでいる。クラスの生徒の頭には“?”が浮かんでいることだろう。
そんな中、晴香は早速問題にぶつかっていた。とはいえ、問題といっても数学の難問ではない。もちろん、晴香は真面目な性格と相まってかなり成績は優秀なため問題が解けないわけではない。つまり、今の晴香はトイレに行きたかったのだ。普段なら、手を上げてトイレに行けば済む話だが、そうも言ってられない。今晴香が身につけている下着は、テープタイプの紙おむつである。そう、テープタイプなのである。これは仮に脱げたとしても、一人でまた付け直すというのはなかなかに難しい作業になる。その上、かなりの音が出るので、授業中という静寂に包まれたトイレでは教室まで音が響くことだってありえないわけではない。それ故に、晴香は困っていた。休み時間に行くのでは更に危険が増す。しかし、今行くのでもどちらにしろ問題がある。この、選べない二択を選ばなくてはならなくなっていた。さもなくば、最も選びたくない1択を選択せざるおえなくなってしまうからであった。
その時だった。
『えー。では⑶の問題を…晴香!やってみなさい。君なら解けるはずだぞ』
と先生が晴香を指名して、チョークをはるかに渡そうと向けている。
一瞬、躊躇しながらも立ち上がりチョークを受け取って黒板に数式を書いていく。集中こそしてないが、スラスラと数式を書いていく姿は立派である。が、高い位置の黒板に手を伸ばしていたため、目線がスカート部分にあった真澄だけは一点を眺めていた。さっさと書き終わって席に戻ると晴香はまた、先ほどの答えのない問題に途方もくれていた。幸い、まだ耐えられるほどの時間であった為、まだゆっくりと考えていられるだろう。
しかし、数学の授業はもうすぐ終わり次は化学室での実験であった。そして、目に怪しい光を帯びて晴香を見ていた真澄とは同じ班である。
二限目ではついに晴香は限界を迎えるのだろうか。真澄は何を思っているのか。そのうちわかることだろう。ゆっくりと、交わる二つの影も。