5話
五話
次の朝。
今日も、おねしょしてから目を覚ます晴香。もう、すっかり日常になりつつある。そして、おねしょする行為自体は晴香自身も既に“仕方ないこと”と思いつつある。
それもこれも全て三戸が医者を使ってまで仕組んだ罠だということは晴香は知る術を持たないのだが。
そんな、慣れてしまった光景も今日ばかりは少しだけ違うことがあった。そう、普段のように寝坊はできない。何故なら、晴香は今日から学校に行くことになっていたからである。学校は割とも近いため、早起きをして支度をする必要はない。だが、久々の学校ということもあり、晴香は少しだけ落ち着かなそうにしていた。
『はるかちゃん。おねしょのおむつ外してあげるからこっちに来なさい。』
おねしょが日常化したことが嬉しいというのは、心の奥に留めながら至って事務的に話す水戸。
それに、晴香は抵抗すらせずに従う。
『はるかちゃん。おむつ外したからシャワー浴びて来なさい。着替えの制服はママが用意しておくからね。』
優しい声で、そう言われた晴香は起きたばかりの頭でなんとなく、朝の準備に取り掛かっていた。この後、何が起こるかも知らずに。
『ママ〜。出たよー。着替えどこ?』
高校生の女の子、いや女の子というには少しばかり無理がある年齢なはずだが、晴香にはその常識は当てはまらず、寧ろ女の子というよりも女児の方が似合っているかもしれないほどのセリフである。
『あら、もう出たのね。ダメよちゃんと体を温めなきゃ。女の子なんだから冷やしても何もいいことないのよ。でも、まぁいいわ。こっちに来て頂戴。』
と、リビングの方から声がする。
『はぁーい』
(もう、ママったら。籠の中に着替え入れといてくれれば済む話なのに。)などと、心の中で少しだけムッとするが、言われた通りリビングまでタオルを巻いていくと、そこにはある光景が広がっていた。
そこには、水戸が正座をして座っている前に敷いてある大きなバスタオル。その上には、テープタイプの紙おむつがあった。もちろん、体の小さい晴香は薄いピンクに小さい子が好みそうなアニメのキャラクターがプリントされているおむつであった。
『マ…ママ…?私今日から学校なんだけど…。』
と、困ったように言うはるかに対して
『あら?わかってるわよ。ふふ、何で?って顔してるわね。いいわ時間もないけど手短に説明するわね。はるかちゃんは、昨日お漏らししちゃったわよね。で、学校でもお漏らししたらいけないと思ったのよ。だから、おむつを用意しておいたのよ。このおむつ吸収力もいいし、防臭用だから万が一お漏らししてもばれないし。』
と、本当に簡単に説明する。しかし、年頃の女の子が学校におむつをしていくなんてことを簡単に認めるわけがないということは水戸もわかっていた。
『で、でも…。』
言い返せない晴香。
『わかったわ。じゃ、こうしましょう。はるかちゃんが、3日の間一度も学校でお漏らししなければそれから後はぱんつでもいいわよ。でも、その代わり一回でもお漏らししたら、ママがもうヘーキって思うまでおむつ履いてね?これははるかちゃんのためなのよ。』
と、言い返せないはるかに先手必勝の条件を出す。もちろん、用意周到な水戸のことだ。はるかがお漏らししない可能性なんて1%もないということは、この時点では…いや今後も水戸以外知ることはないかもしれない。
『ぅ…。わ、わかったわよ!』
内心では昨日のお漏らしを不安に思っていた晴香は簡単に折れた。
『はるかちゃんはいい子ねー。じゃ、おむつ履かせてあげるからここにゴロンしてね。』
さりげなく赤ちゃん言葉を混ぜならがら、晴香を寝かすと、手早くおむつをつけて制服を着せると、はるかを学校へ行かせるのだった。
学校へ向かい、電車に揺られる晴香のスカートは同じ女子高生に比べると少しだけ不自然な膨らみを見せているが、気にしなければわからない程度のものである。
そのため会う人にはほぼばれていない。しかし、この時同じクラスの真澄だけは少しだけ周りの目とは違う光を帯びていることにはこの時点では真澄本人さえ知り得ないことである。
今日から、晴香の学校生活がスタートする。そう、甘く、恥ずかしく、しかし、愛のある学校生活が…。やがてもう一つ光を加えて、ゆっくりと、懐かしい記憶の海へと身を沈めてくのである。そう、もう一つの光を伴って。