12話
十二話
遊園地から帰ってきて、一週間が経ったある休日の朝から今日も羞恥に満ちた、そして愛に満ちた1日が始まる。
『はるかちゃん。今日は…お買い物に行かないかしら?』
と、水戸からの提案があった。
“今日は何もないし、ママとお買い物楽しそうだし行こうかな♪”と、思っていた晴香は勿論答えた。
『行く〜!』
因みに、この時点で晴香は家でおむつを履いていることに、更にいうなら水戸にあてられることでさえも慣れてしまっていた。勿論、それは先週の遊園地の頃からではあったが。
しかし、いかにおむつをあてて幼児のような格好をさせられても高校生である。それは、晴香が、この時点で幼児退行をしていないことを意味している。
朝食を終えて、二人で仲良く着替えて(というより、水戸に着る服を選んでもらい、着せてもらったのだが)今いるのは、電車の中だった。
晴香の格好は、アニメがプリントされたピンクと黄色と水色で描かれた、なんとも小学生低学年が好みそうなシャツを着ていて、スカートはフリフリが沢山ついていて、それでいてミニスカートのように短かった。髪は、ツインテールにして、髪留めには、さくらんぼのアクセサリーが装飾されている。
その姿は、もはや高校生の面影はなく勿論小学生低学年のように見えていた。とは、いえ身長の低い晴香でも、小学生低学年にしては背が大きく見えてしまう。それでいて、よく見ると、スカートからはおむつがチラチラと見えている。その姿は一見、普通の小学生に見えても、しばらくすれば違和感が感じられる。
アブノーマルな雰囲気を醸し出している晴香と水戸がまず向かったのは、アパートであった。それも、何階にも重なっていて最上階には食事もできる。そして、その下には幼児服から、婦人服まで取り揃えられているコーナーがあり、その下にも様々な物が用意されている。いうまでもないが、二人は子供服売り場に向かっていた。
『はるかちゃん、これはどうかしら…?』
そう言って見せたのは、今晴香が着ているのと同じような服であった。
『うーん…。ママ、やっぱり恥ずかしい…。はるか、ほんとはこうこう…。』
最後に行くにつれて段々と声が小さくなり終いには消えてしまった。
『そうよね…。恥ずかしいのはわかるわ。本当はもっと、お洒落なお洋服着たいものね。でも、サイズが合わないんだから仕方ないって、はるかちゃんも言ったわよね?なら、もう我慢して大きくなるまで、サイズにあった服着てちょうだい?いい子のはるかちゃんにはできるよね?』
段々と、子供に話すような言い方に変わってきているのは、無意識であった。しかし、それは意思に反しているかと言われると、否定しなければならないことであるが。
『…。わかったよ…。はるか、がまんする。ママ、困らせてごめんなさい。』
すこし、しょんぼりとしながらそう言う。
『はるかちゃんは偉いわね。聞き分けのいい子だし、ごめんなさいまで言えるなんて。』
『ママっ。晴香がこんな格好だからって、口調までそんな風になることないのに〜。』
と、流石に水戸の口調に文句をつける。
『あら、ごめんね。はるかちゃんがあんまり可愛いからつい…ね?許してちょうだい?この後、美味しいお店連れて行ってあげるから』
『美味しいお店!?やったー♪じゃあ、許す〜♪』と言って、喜んだのもつかの間。
『あ、すみません。これとこれ、試着させてもらってもいいですか?』
と、水戸が店員に聞く。
チラッと、後ろの晴香をみた身長が高く、スタイルも良い女性店員は答えた。
『お子様ですか?こちらへどうぞ。』
と、フィティングルームへ案内する。
『何かあれば気軽にお申し付けください。』
そう言って、去ろうとした時、晴香のスカートの下のおむつを見る。そして、なにやらすこし複雑な表情を一瞬浮かべたと思えば、自分の仕事に戻っていった。
それをたまたま知ってしまった晴香は、赤く顔を染めて、言葉が出なくなっていた。
すこしすると恥ずかしさから、サッとカーテンを閉めて、一人で試着をし始める晴香がいた。
さて、次はお昼ご飯。今、時計の針は13:36を指していた。お腹が空いてる時間でちょうど良かったが、案の定この時間帯は店が混んでいる。
それでも、並んでやっと入った頃には14:08であった。
『ふぅー。ちょっと時間かかっちゃたわね。つかれたでしょう?好きなもの選びなさい。』
と水戸が優しく言う。
『はーい。じゃあ…これ!』
♢♦︎♢
『そろそろ、次のお店まわろっか?』
水戸は晴香が食べ終わって2〜3分後にそう言った。
『う、うん!でも…その…。』
と、ちょっと様子が変な晴香。
『ん?どうしたのはるかちゃん?お腹でも痛い?それとも…おむつが濡れちゃったのね?』
最後の言葉は、晴香にしか聞こえない声で言うあたり、晴香からしても水戸の優しさが伝わる。
『…。(コクンと頷く)』
そして、恥ずかしそうに頬をピンクに染める。相変わらず、おむつが濡れた事を言うのは、まだ慣れない晴香であった。
『じゃあ、おトイレいきましょうね。』
そう言って、二人で女子トイレに入っていき、個室に入る。
『あら…。今日は、一枚しか予備持ってこなかったみたいだわ…。ま、とりあえずこの予備に交換してあげるわね。』
“でも、足りなくなるわよね…どうしようかしら”と思いながら、晴香のおむつを替える。
『そうだわ。いい事思いついたわよ。ママね、この後ちょっとだけ買いたいものがあるから、その間にはるかちゃんは、自分のおむつ買ってきて頂戴。高校生のはるかちゃんにならできるわよね?』
ちょっとだけ、意地悪にそう言うと財布から3000円渡す。
『ちょっと多めに、持って行きなさい。』
と、行くことを水戸が決め付けているが…
『え、ママ、恥ずかしいよぅ…。』
と、悲願するが儚く拒否されてしまう。
『だめよ。ママも買いたいものがあるから、はるかちゃんも自分のもの買ってきなさい?大丈夫よ。店員さんに聞けば、教えてくれるから。ね?』
と、今度は優しく…。
『う…。じゃあ、はるか頑張る…。』
と、答えてしまう。
『さて、そうと決まればじゃあ一旦別行動ね。あのベンチに16:00集合よ?わかった?それじゃ、ママは先に行くわね。はるかちゃんもお金落としたらだめよ。』
水戸はそう言って、その場を後にした。
♢♦︎♢
晴香は今、薬局の中にいた。そして、ウロウロしながら、おむつコーナーを探していた。正確には、おむつコーナーのどこにいつも使っているおむつがあるのかを探していた。
しかし…
『どうしたのかな?ママとはぐれちゃったの?』と、若いアルバイトの店員が晴香に聞いてくる。見ると、アルバイトの白衣の下には、晴香の学校の制服があったが、お互いに面識はないようで助かった晴香。
『うんん。ママに頼まれて…お、お…つ探しに来たの…。』
と、言葉を濁して言うが、ちょっと理解するのに時間を要したが、すぐに返事をする。
『そうなのね。じゃあ、お姉さんについてきて。お姉さんが一緒に探してあげますね。』
と、手を引いておむつコーナーまで連れて行く。
すでに晴香はとても恥ずかしく、手を引いて貰ってやっとそこまで歩けたのであった。
『お嬢ちゃん、おむつを使うのは…お嬢ちゃんかな?』
と、スカートの下からチラチラ見えてるそれをみて、同じ種類のものを手にとってはるかに見えるように腰を低くしてみせる。その仕草で、質問の意図は、“こちらの商品でお間違いありませんか?”という意味を発していた。
『…。(こくんと頷く)』
恥ずかしさで、頬を先ほどとは比にならないほど(というのは、大袈裟だがはるか自身ではそう感じられるた)頬を赤く染め上げていた。
無事に会計を済ますと、晴香はその場から逃げるように約束の場所まで戻ったのであった。
水戸が来るまで、後30分であった。