表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
9/48

01-01(旧) 今日から冒険者!(ただし問題有り)

16/08/15 誤字・脱字修正

17/06/02 設定修正(詳細はあとがきに)。人類語→人族語に修正。

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 「おおー! 近くで見ると大きいなー!」


 俺は、アルレヴァに到着すると、正門から離れたところに立ち、石壁を眺め見上げていた。街を囲むようにしてつくられた石壁にただただ圧倒される。壁には見張り塔のような突き出た部分があり、そこからはちらちらと武装した兵士らしき人が見える。


 (ねえ、そろそろ現実逃避やめないかな? やめようよ?)


 正門には冒険者らしいパーティや馬車に乗った商人らしき人々が列をなしていた。そしてこれが、離れたところからのんびりとアルレヴァを眺めていた理由だった。別に列に並ぶのが嫌だからという理由ではない。入り口では入国審査――入街審査とでも呼ぶべきか――らしきものが行われていのだ。

 要するに身分証のチェックなのだが、あいにくと俺はそんなものを持ちあわせていなかった。ちなみにティアはどうしていたかというと、姿を隠す魔術を使って堂々と入っていたようだ。なにそれずるい。


 要は身分証があればいいわけで、それについてティアにいろいろ聞いてみたところ、どうも冒険者組合に登録することで受け取れるカードが身分証代わりになるらしい。ちなみに万が一なくしてもお金はかかるが再発行もできるとのこと。幸い、登録料はカバンに無造作に突っ込まれていたコイン――この地方で使われているお金でなんとかなりそうではある。


 ちなみにエガード王国領での通貨単位はイクス。硬貨の種類は五種類あって、それぞれの価値は以下のようになっている。


 賎貨(=1イクス)

 銅貨(=10イクス)

 魔銅貨(=100イクス)

 銀貨(=1000イクス)

 金貨(=10000イクス)


 一応、大口の取引となると紙幣も使われるようだ。紙幣は100万イクス札みたいな呼ばれ方をするらしいので覚えやすい。

 ティアが用意していたお金は硬貨がそれぞれ7枚ずつ、計77777イクスだった。ティア曰く、そこそこの宿で銀貨1枚(1000イクス)程度なので十分足りるだろうとのこと。


 (なんで7枚ずつなんだろう……そして金銭感覚が全然分からない…)


 ちなみに言語についてなのだけれど、ティアといろいろと試した結果、どうやらティアが知っている言語は全て俺も使えることが分かった。人族共通で使われている人族語と魔族共通の魔族語は読み書きがばっちりであり、その他の何個かの亜人語も会話は可能ということだ。ティアは(これも魂が混ざっちゃった影響なのかなー。にしてもこんなピンポイントな知識とか、狙ってないよね?)とか言っていたが、異世界の言葉に頭を悩ませずに済むというのはありがたかった。

 というかキャロと会話していた時点で気づけ、俺。自然に話すことができていたから今までまったく気づかなかったぞ。

 ちなみにキャロとの会話は人族語でした。



 「こうしていても埒が明かないか。よし、ものは試しだ」


 しばらく考えを巡らせた後、俺はおもむろに立ち上がって、入街待ちの列の最後尾に並んだ。


 (それで、何か案でも浮かんだの?)


 (いろいろと冒険者っぽい荷物持ってるし、それにこの非力そうな外見。おそらく駆け出しの冒険者にみんなの目から見えるんじゃないか? 実際になんだか生暖かい目線を感じるしな。だから、冒険者カードなくしました作戦でいきたいと思う)


 (リョウにしてはなかなか良さそうな作戦を思いついたねー)


 思わず腰に手を当てて得意げな表情を浮かべてしまった。


 ちなみにリョウの感じた生暖かい視線というのは、駆け出し冒険者がんばれ、というようなものでなく、どことなく女を感じる可愛らしい姿に見とれてしまった目線が半分、ぶかぶかのローブを着て少し背伸びした子供を眺める生暖かい視線が半分というだけだった。



 「アルレヴァへようこそ、お嬢ちゃん。身分証をみせてもらってもいいかな?」


 ついに俺の番になり、そこには笑顔とともに迎えてくれた若い門番さんがいた。全身を軽鎧で固め、腰には剣を帯びているというものものしい警備スタイルだったが、人の良さを全開にしたような顔の造りをしていたのは幸いだった。緊張して何も話せないで連行されるなんてごめんだもんね。


 「さっきまでシェイムの森で薬草を集めていたんですが、冒険者カードをどこかに落としてしまったのです」


 (その口調、おしとやかな感じがしていい感じだよ!)


 口調は丁寧に、微妙に真実を混ぜつつ、堂々と嘘をつく。実際、カバンの中にはキャロが教えてくれた薬草類も詰まっているのだ。


 「それは災難だったなあ。よし、仮入街証をつくってあげるからちょっと待ってな。あ、嬢ちゃん、ちなみにお金はあるかい? 冒険者での入街扱いじゃなくなるから、入街料が魔銅貨1枚かかるんだ。それに、カード再発行後にまたここに来てくれれば返金するよ」


 門番さんがいい笑顔を浮かべる。その笑顔からおそらく返金はこの門番さんがこっそりしてくれる好意なのだと思い、少し胸が暖かくなる。


 「お金は手持ちがあるので大丈夫です。むしろ再発行料の方が高いんですよね、はあ……」


 「あー、たしか銀貨取られるんだっけか。お嬢ちゃんも災難だなあ」


 人のいい門番さんが同情するような目線を向けてくれる。このひといい人すぎない?

 硬貨の入った袋を漁ると、魔銅貨を1枚取り出す。


 「はい、通行料の魔銅貨1枚です」


 「あいよ、たしかに受け取ったよ。あとはこっちの紙に書いてほしいことがあるんだが。字、書けるか?」


 どうやらこの世界は識字率はあまり高くないのかもしれない。


 「書けるので大丈夫です。ええと、名前と、性別に、年齢、職業、……出身地」


 名前。アヤ・ヒシタニ

 性別。女性

 年齢。適当に10歳くらい

 職業。冒険者

 そして出身地。


 (ティア、この出身地ってどうすればいいんだろう)


 (んー、適当な別の国の村とか書いておくのがいいかも?)


 (ふーむ)


 少し考えていると、門番さんから救いの声がかかった。


 「もし分からないんなら空白のままで大丈夫だぞ」


 「すみません、私の生まれはどこなのかが分からなくて……」


 「なに、そういう奴なんて珍しくないから大丈夫だ」


 そう門番さんがいうと、いつの間にか手に持っていた小さな紙を見ながら、さらさらと俺が書いた紙に番号を書き足していく。そして書き終わると、彼が手に持っていた紙をこちらに渡してきた。


 「ほら、これが入街証だ。一応滞在期限が七日となってるが、七日以内に俺のところに冒険者カードを持ってきてくれればいい」


 ありがとうございます、と言いつつ入街証を受け取る。


 「それと……そうだな、俺の名前はターラルっていうから、持ってくるときは同僚に聞いてくれ」


 「わかりました。ありがとうございました」


 ぺこりとお辞儀をする。門番さん――ターラルはそれを受けて、やや照れながらもにこやかな顔をする。


 「では、アルレヴァでのよい滞在を!」


 (さっきの門番さん、ロリコンなのかな……照れちゃってたし)


 (どう見てもただの人のいい門番さんだろ!?)


 詰め所を出ると、既に日は傾いていた。



 外壁から想像できたとおり、街には石がふんだんに使われていた。広い道は全て石畳が整備され、人々の往来の激しさを物語っている。家は石、木、もしくは両方と、統一感なく建てられていた。

 少し広けた広場らしき場所に出ると、様々な商品を並べる露店が所狭しと並んでいた。そんな中をたくさんの人が往来するので、人混みが苦手であったリョウは少しげんなりした。

 しかし、行き交う人々は見事にファンタジーだ。剣や槍、杖、弓などいろいろな武器や防具を身に付ける歩く人々。その中には、人間以外にも、耳の尖ったエルフのような中性的な人、猫耳をぴくぴくさせ、尻尾をゆらゆらと動かしながら歩く女性、犬耳を垂らしたのんびりと歩く少年、狐耳にもふもふしっぽの女の子(ついもふもふに目線がいってしまった)、背が低いがガタイのいい毛むくじゃらの男性など、様々な見た目の人達が居た。おそらく彼らが亜人族に分類される人たちなのだろう。


 ひとまず先に冒険者登録をしようと、冒険者組合を探すことにする。

 ちょうど果物を売っているお姉さんがいたので、賎貨2枚でリンゴを買いつつ、それとなく冒険者組合の場所を聞いた。「お嬢ちゃん冒険者になるの? がんばってね!」と暖かいエールを送ってくれたお姉さんを後にし、教えてもらった冒険者組合の建物へと移動する。


 冒険者組合は重厚な石造りの四角い建物だった。けっこうな高さがあり、この街では数の少ない二階建て以上の建物ということがわかる。それだけだとただの豆腐状ハウスなのだが、各所に窓が取り付けられており、正面の扉の左右には垂れ幕のように赤色の飾り布が垂らされている。そして通りからよく見える位置にライオンのような獣と剣の看板がかけられている、おそらくこれが冒険者組合を表すマークなのだろう。


 その入口の観音開きの扉を開け、中に入る。

 冒険者組合の一階は、カウンターとラウンジを兼ねた感じといったところか。カウンターでは受付嬢らしき人たちがカウンター越しに冒険者らしき人となにやら話し、その後ろでは待機列ができている。その列の数は三つ。

 列をなしているカウンターから離れた壁際は壁で仕切られており、そこにも受付嬢らしき人が二人いた。そして、冒険者らしき人が袋からモンスターの部位や素材などいろいろなものを取り出し、何やら話している。あそこが素材等の換金場所なのだろう。

 対してラウンジはそこそこの喧騒があった。テーブルと椅子がばらばらと配置されており、パーティーを組んでいるらしき人達が座って談笑を繰り広げていたり、一人でちびちびと飲み物を飲むローブ姿の女の子や、机の上に剣を置いてじっくりと眺める軽装の筋骨隆々とした男二人組など、いろいろな人が利用しているようだ。そして、奥にはバーのような場所があり、そこで飲み物を買うことができるのだろう。ただしメニューを見てみると、水やお茶、ジュースの類ばかりで、お酒は提供していないようだ。お酒を飲むのなら酒場でやれ、ということなのだろう。


そして、入り口から左側の壁には大きな掲示板があり、雑多に紙が貼られていた。ざっと見回してみる。


 探し猫、求む! 目安危険度7 報酬:100イクス

 シルバーウルフの群れの退治 目安危険度44 報酬:30,000イクス

 [定例]ゴブリン退治 目安危険度9 報酬;出来高(一体20イクス〜)

 ナコル草の採取 目安危険度20 報酬:出来高(一株100イクス〜)


 どうやらこれが冒険者に向けた依頼というやつなのだろう。事前に調査されたのか危険度まで明記されていて、安心して依頼を受けられそうである。


 (ね、ね、ドラゴン退治の依頼があるよ!)

 ティアが指差した依頼紙に視線を向けてみる。


 ウインドドラゴンの討伐 目安危険度110 報酬:5,000,000イクス


 (こんなもん受けるわけないだろ!?即死するのがオチだよ!)



 一通り建物内を見回した後、俺はカウンターの待機列のひとつに並んだ。自然と、冒険者達の目がアヤ(リョウ)へと向かう。大きな武器を背負った屈強な男性や様々な装備に身につけた魔術使いの女性、まさに冒険者らしい冒険者が集う列に、年端もいかない、可憐な少女がカウンターへと並んだのである。


 (冒険者志望の子かな? 杖を持ってるし術師だとは思うけどちょっと細すぎるな)

 (人間じゃなくてホビットなんじゃないか? だとしたら既に冒険者という線もあるぞ)

 (となると依頼達成報告? にしてはパーティーらしき奴も見当たらないな)

 (いやいや、依頼を持ってきたんじゃないか? 流石にあんなお嬢様みたいな子が冒険者なわけないだろ)

 (それにしても綺麗な見た目してるなあ……。成長したらものすごい美人になりそうだ)

 (むしろこのくらいの年齢なのがいいだろ? まさに可憐、天使のようだ)


 冒険者がアヤ(リョウ)を見つめいろいろと考えを巡らせる中、当の本人は集まる視線にただ居心地の悪さを感じていた。そんなに物珍しいのだろうか。


 (みんな歴戦の冒険者って感じだなあ……。うう、あの鋭い眼光のいかついおっさん、ちょっと怖い…)


 「次の方、どうぞー!」


 そして、妙に長く感じた時間の後、ようやっとアヤ(リョウ)の番になった。


 「こんばんは、冒険者組合にどんな用かな?」


 見た目の年齢に合わせてくれたのか、やや柔らかい口調で受付嬢さんが話す。そんな子供に話しかけるような口調を受けて、ややリョウはばつが悪くなった。見た目がこんなだし、今後もこういうのが続くんだろうなあ、と少し遠い目をしてしまう。


 「大丈夫? お嬢ちゃん?」


 少し心配そうにしてくれた受付嬢さんの声で我に返る。そして、受付嬢さんを見上げ、


 「ええと、大丈夫です。それで冒険者になろうと来たんですが」


 「冒険者登録だね。では、手数料の200イクスをお願いします」


 袋から魔銅貨を二枚取り出し、カウンターへ載せる。


 「はい、確かに受け取りました。それではこちらの紙に記入をお願いします。そうだ、字は書ける?」


 「ちゃんと書けます」


 街の入り口でしたのと同じようなやり取りをして、紙とペンを受け取り、紙――申込用紙を埋めていく。


 名前:アヤ・ヒシタニ。

 年齢:10歳。

 性別:女性。

 生誕日:(未記入)。

 出身地:(未記入)。

 所在地:

 特技:


 「所在地? 特技?」


 首を傾げる。住んでいるところとかだろうか。それなら、生誕日と同じく未記入でいいかな。それに特技とは。どう考えてもけん玉とか書く欄ではないだろう。多分、剣術とか魔術とかだと思う。


 「所在地は、住んでる家や、主に拠点にしている宿などを記載するんです。なければ空欄のままで大丈夫だよ。所在地だけは後で申請すれば変更できるからね。

 特技は登録に必要というより、参考のため、みたいなものかな。駆け出しの冒険者のためにいろいろと講座があったりするから、そういうの用だね」


 親切にも受付嬢さんが説明してくれる。今日出会った人みんないい人ばっかりだなあ。

 特技には剣と書き、半分くらい項目を未記入のまま受付嬢さんに提出する。そして受付嬢さんはその用紙を別の女の人に渡し、お願いします、と言付けた。


 「冒険者カードが出来上がるまで少し時間がかかるので、その間に冒険者についての説明をしますね。

 ……初めに、冒険者は冒険者組合に所属する一員で、依頼などを通じて組合に貢献する義務があります」


 おとなしくレクチャーを受けることにするが、早速義務、という言葉が引っかかった。


 「義務……ですか? 例えば、長い間貢献がなかったりした場合、資格を剥奪されたりするとか」


 受付嬢さんはその質問にニヤリと笑みを浮かべる。(若いのに理解力があるわね、この子)なんて考えながら、どこまでレクチャーのレベルを上げるか頭を回転させる。

 実はこの受付嬢さん、相手の頭の良さや理解度に応じて臨機応変にレクチャーを行える逸材だったのである。そしてその行為は、日々のカウンター業務というつまらない仕事の内に見つけたやりがいのある娯楽のようなものになっていた。

 そんな受付嬢の事情を当然知ることのないまま、リョウはおとなしくレクチャーを受ける。


 「察しがいいね。その通り、基本的には一年間なにもしなかったら資格が剥奪されます。ただ、どうしても期限を超えてしまうような依頼だとか、高ランクになったりしたらその辺りは融通してもらえるようになるよ。そういうのはランクが上がった時とかにまた説明してくれるはずだよ」


 興が乗ってきたのか、気がついたら受付嬢さんの口調がくだけた感じのものが混じっている。リョウは固いよりかはいいかあ、とのんびり考えながら話を促す。


 「依頼の話の前に、危険度という指標について説明しますね。危険度とは、その依頼を達成するのにどのくらい危険なのか、どの程度実力が必要なのかという目安になる数値です。危険度が大きくなればなるほど、それだけ実力が必要になるから注意するようにね。ちなみにかの有名な魔物、ドラゴンの危険度は100ぐらいだよ」


 ティアの示したドラゴン討伐依頼が頭によぎる。いらないもの探し出しやがって。

 ちなみにティアはずっと眠そうにしていたが、今は(ドラゴン!ドラゴン!)と騒いでいる。ふと気になってティアに質問する。


 (なあ、なんでそんなドラゴンにテンション上がってるんだ?)


 (ドラゴンはね、全身が使えるんだ。鱗は防具に触媒に、皮は防具に、牙と爪は武器に、目玉は触媒。内蔵は珍味、お肉は美味しいし。そしてなにより血が絶品なんだよ! ああ、また久々にドラゴンの生の血飲みたいなあ……)


 (こいつ、ドラゴンを食材と素材にか考えてねえ!)



 そして質問がこなかったからなのか、受付嬢さんが少し首をかしげると、説明を続けた。危険度の話は前にティアに聞いていたからな。


 「主な依頼の受け方は、入り口の側に貼ってある依頼ボードの依頼紙を剥がしてカウンターまで持ってくること。ちなみにボードに貼ってない依頼もあるから、そういう依頼はカウンターで聞いてね。

 依頼を成功してカウンターに達成報告に来た時点で報酬金はすぐ受け取れます。それから、依頼に失敗した場合。この場合は、罰則金を払うことになっちゃうから、身の丈に合わない依頼は受けないように注意してね。罰則金は大体報酬の2割くらい。組合も依頼紙を貼りだす前に事前調査をするから、その分の費用プラスアルファってところです」


 「……あれ、そういえば組合側の取り分は?」


 ふと話の中に取り分というか手数料が含まれていないのに気づいてしまった。さすがに慈善事業ではないだろう。そして受付嬢さんの目から鋭い眼光を感じる。なんだろう、やばい人なのかな、この人。


 「組合側の取り分は、事前に差し引いてあるんです。貰える額がそのまま貼りだされる方が分かりやすいでしょう?」


 なるほど、と俺は頷く。


 「それから、特殊な依頼について。これは三種類あります。一つ目は指名依頼。これは冒険者として名が売れてきたりしたら、名指しで依頼されることもあるの」


 迷惑な話だあ、と思う。依頼を選べないとかどんな拷問だよ。


 「ちなみに断ることもできるんですよね?」


 「はい、それはもちろん。ただ、指名されるとは大変名誉なことでもあるので、できれば受けたほうがいいです」


 せっかくの指名依頼なのに、いきなりそれを断れるのかと聞いた少女。思わず受付嬢は苦笑してしまう。


 「二つ目は緊急依頼。これは、街とか村が魔物に襲われたり、街道に凶悪な魔物が現れたりした時に発令される、迅速に解決する必要がある場合の依頼です。こちらは十分に調査が行えている保証がないので、危険度があまり当てになりません。報酬は美味しいけど、実力がつくまでは受けないことをおすすめします。

 そして三つ目が、依頼と言うか命令ですね。緊急依頼に出せないくらい凶悪な魔物が出た場合なんかに、組合の方から実力者に討伐命令が出るんです。特殊な依頼についてはしばらく関わることはないと思うけど、覚えておいて損はないと思うよ?」


 なにやら意味ありげな微笑みを向けてくる受付嬢さん。有名になんてなる気はないので、そんな期待されても困ります。

 ここまで話したタイミングで、女の人が戻ってきた。手には金属製のようなカードを持っている。あれが出来上がった冒険者カードなのだろう。受付嬢さんはありがとう、と言ってそれを受け取ると、こちらを向いてそのカードをカウンターの上に置いた。


 「こちらが、出来立てほやほやの冒険者カードになります」


 手のひらサイズのそのカードを見てみると、そこには何やら書かれていた。



|アヤ・ヒシタニ [女性]  []

|ランク:F-9:9

|所在地:なし

|年齢:10歳 出身地:不明

|生誕日:不明

|交付日:ドラク歴36年1月23日

|賞罰:

| なし



 そしてそのカードをみた受付嬢さんが納得したような声を上げる。


 「いきなりFの9ランク……。その様子といい、やっぱりある程度実力はあったんだね」


 コホン、とわざとらしく咳をし、受付嬢さんが話を再開する。


 「こちらが、当組合に所属していることを示すと同時に、身分証にもなる冒険者カードです。再発行には銀貨5枚かかる上に作業がすごい面倒なので、大切に扱ってください」


 ちょっと本音が漏れたぞ今。


 「次に、ランクについて説明します。このカードにも書かれているFをランクと呼び、今の貴女の実力を表しています。ランクは、上からSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fランク。それとF-9って書いてある9をサブランクって呼んで、サブランクが10になるとランクが一つ上がって、サブランクは0に戻るの。

 ランクを上げるためには、実力を磨くことと、依頼をちゃんと受けることの両方が必要です。アヤさんなら、すぐに上がると思いますよ」


 それに、と小声で受付嬢さんは言葉を続ける。


 「今は組合の規則で、最初は必ずFランクで登録されるようになってて、ランクが上がるのにはいろいろと条件がつけられてるんです。なので、作ってから日が浅い冒険者カードはその人の実力を本当に表してるわけじゃないんです」


 口元に指先を立て、内緒ね、というポーズをとる受付嬢さん。その可愛らしい動作にはあざとさが全然なくて、これが天然培養なのか…なんて考えてしまった。


 「F-9の右に書いてある数値があるよね。それが危険度の数値に対応してるから、依頼を選ぶ時の目安にするのが鉄則です。

 ……ええと、あと残ってる作業はこれだね」


 と言って、受付嬢さんは小ぶりなナイフを取り出す。


 「この冒険者カードに血を垂らすことで、所有者を登録するんだけど……大丈夫? できる?」


 過保護気味の受付嬢さんに苦笑しながら、「大丈夫です」と答え、そのままナイフを指先にブスリと刺した。そしてその血を一滴冒険者カードに垂らすと、カードが一瞬淡い光に包まれた。

 なんとも不思議な光景だなあ、と思いながら、ナイフを刺した指を咥える。実はちょっと深く刺しすぎたのだ。血でまわりを汚してしまうのを避けたいがための行動だった。


 あ、なんか癖になりそうな味。


 つい傷口を吸ってしまいそうになったのを我慢する。うーん、吸血鬼かあ。今まで身体能力ばっかりだったからあまり気にならなかったけど、今回のでさすがに気になってしまった。


 そんな複雑な表情で傷口を咥えるアヤ(リョウ)を微笑ましく眺めて和み、そして使命を思い出す受付嬢さん。


 「そのカードにはもう一つ、不思議な機能があります。そのカードと手を『識者の石』というものに乗せると、カードに書かれている内容が更新されて、なんと裏面に持ってる技能一覧が表示されるんです! 古代文明の遺産の力、らしいですけどすごいですよね。ちなみにランクの判断もその遺産の力らしいです。

 あと、技能の表示を隠したいときは、技能一覧に触れながら、隠れよ(スクリーチ)と唱えてください。綺麗さっぱり見えなくなります。持ってる技能は冒険者の生命線ですからね、くれぐれも他人に知られないように気をつけてください」


 そして受付嬢さんがフロアの隅を指さし、「あそこに識者の石があります」と教えてくれた。そこにも行列ができていて、リョウはげんなりした。


 「これで大体の説明はおしまいです。依頼の受注、報告はこちらのカウンターで。そして素材の買い取りはむこうの仕切りの先のカウンター。ラウンジの利用は無料ですが飲み物にはお金がかかります。

 いろいろと注意事項は残ってるのですが、アヤさんなら大丈夫でしょう。人を殺さないこと、とか常識なことばっかりですからね」


 アヤ(リョウ)は冒険者カードを手に取ると、それをいそいそとカバンにしまった。


 「では、また依頼の時に会いましょう! よい冒険者ライフを!」


 「うん、ありがとうございました!」



 先に買取カウンターへ行って戦利品と採取品を売り払い、それなりのお金(9210イクス)とカバンが軽くなったことにホクホクしながら、俺は識者の石の列に並んだ。そして20分経ったあたりで順番が来た。


 (さーて、ドキドキタイムだね。一体どんな技能があるのやら)


 識者の石というのは、見たところ特に変な仕掛けも模様もない、白いつやつやした石だった。変わったところといえば、冒険者カードを置くところが四角く掘られ、手を置くところが楕円状に掘られていただけだった。

 冒険者カードを置き、そして右手を穴に添える。そうすると、血を垂らした時のように一瞬だけ淡く光った。早速冒険者カードを手に取り、書かれてある内容を確かめる。



|アヤ・ヒシタニ [女性]  [吸血鬼族(・・・・)]

|ランク:F-9:9

|所在地:なし

|年齢:10歳 出身地:不明

|生誕日:不明

|交付日:ドラク歴36年1月23日

|賞罰:

| なし

|技能:

| 吸血(吸収) 吸血回復(体力・魔力) 急速回復(体力)

| 自由奔放 身体加速

| 魔術適正(火・水・風・土・闇)

| 魔法適正(空間)



 ……あの、思いっきり種族名が表示されちゃったんですが。


 受付嬢さんに教えてもらった言葉で戻らないか試してみる。


 「……隠れよ(スクリーチ)



|アヤ・ヒシタニ [女性]  [吸血鬼族(・・・・)]

|ランク:F-9:9

|所在地:なし

|年齢:10歳 出身地:不明

|生誕日:不明

|交付日:ドラク歴36年1月23日

|賞罰:

| なし



 (なあ、ティアさんや)


 (なんだね、リョウさん)


 (……種族名出てるけど、どうしよう)


 (どうしようか……)

次話は16/08/16 18:00予定です。


17/06/02 冒険者組合加入料を銀貨一枚(1,000イクス)から魔銅貨二枚(200イクス)に修正。アヤの能力から耐性(苦痛)を削除。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ