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00-04(旧) 水浴び

16/08/14 誤字修正、加筆修正

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 その後、隣の部屋の吹き飛んだ謎の装置を調べ(装置の方に通す魔力の量間違えたかな、あはははは)、ティアに方向を聞きつつ、同じような作りの部屋を3部屋通り、階段を登って遺跡から外に出た。


 木漏れ日に思わず目を細め、そして雑多に生える木々、草が視界に入る。そして、ティアがここが森の中だと言っていたことを思い出す。気温はだいたい春ぐらいだろうか。ぽかぽか陽気が気持ちいい。


 (えーと、なんとか王国領の森の中、だっけ)


 (エガード王国ね。人族領の中で一番魔族領に近い大国だよ)


 (そういえば地理、苦手だったんだよな。元の世界でも疎かったのに大丈夫かな)


 思わずため息がこぼれた。日本の都道府県ですら怪しかったのに、異世界、全く聞いた事の無い地名。気が重くなるのは仕方ないと思う。


 (大丈夫、リョウが居た世界ほど複雑じゃないし、なんとかなるよー)


 お気楽なガイドの声につられたのか、気が少し楽になる。


 (それにしてもティアって、俺の居た世界の知識結構持ってるよね。俺はこの世界の事、全然わからないのに)


 (それはパス通して魂を修復しつつ、リョウの知識もコピーしてたからだよ)


 (あの状態でさらにいろいろやってたとかどんな図太い神経してるんだよ!?)


 (そりゃあ、数百年も生きてるんだから。図太い神経なんかより、わたしの溢れる才能と努力のおかげだと主張するよ! それと、リョウの知識があると、話しやすくなったり、説明しやすくなるでしょ?)


 たしかに、同じ知識を持ってるってことは会話をスムーズに進められることに他ならない。ティアは一部分残念なだけで、先を見越した行動などができるということは卓越した知識や状況判断能力を持っていのだといえるだろう。

 俺はティアの評価を上方修正しつつ、湧き上がった疑問について聞く。


 (えーと、なら同じような手段で、俺もティアからこの世界の知識を得るのが一番効率いいように思えるんだけど)


 (いやーそれがさ、知識共有はお互い同時にしてたはずなんだけど、何故かリョウの方には全く共有されなかったんだよ。魂が混ざっちゃてるのが何らかの影響を及ぼしてる…ってのが予想だけど、はっきり言うと原因不明。だからリョウは自力で積み上げていくしか方法はないかな。まあ気軽にお姉さんに質問するといいさー)


 ちょっと期待したんだけれど、そう簡単にチートはできないみたいだ。

 そして思い出した。異世界といえばもちろん魅力的なのは魔法!この世界ではそれにあたる魔術とやらが存在するようだし、少しずつティア先生から学んでいこう。


 この先どうなるのか不安だったけれど、これからのことに思わず心を躍らせるリョウだった。


 (うん、わかった。気になることは追々質問するから、よろしくな)


 (何だかんだ言って、わたしもこの状況を楽しんでるから、それくらいおやすい御用さ)



 ―――――



 目的の湖は、遺跡入り口のすぐ近くにあった。周囲は木が生えておらず草原のようになっている。湖面に目を向けると日光を反射し、ゆれる水面がきらきらと輝いて見える。湖は透き通っており、これなら水浴びをするのに全く問題は無いと思う。


 やっとこのべたべたの不快感から解放されると思いながら、うきうきしながらカバンを置き、湖を覗き込んだ。

 湖に反射した少女の顔を目にした時、やっと身体のことが把握できた。すでに把握できていた金色の髪は、太陽に照らされ、透き通るような現実感のない色彩を放っている。

 そして、明らかに日本人とは懸け離れた、目鼻立がくっきりとしている顔のパーツに、まだまだあどけなさが残る顔つき。そして、一番異形を放っていたのは、深い紅色の瞳だった。思わずドールのような自分の顔に見とれてしまう。


 (ティア? 一応聞くけど、この外観ってこの世界では珍しかったりする?)


 (見蕩れてたね、ふふー。…えーと、人族に関して言えば、髪の色は黒色、茶色、金色あたりが大半なので問題なし。虹彩は大半が黒とか茶色とか、地味な色かな。そしてオッドアイの人とか、魔眼持ちの人とかは紅いのとか碧、翠とか何でもアリって色してる。そういう人たちはぼちぼちいるから、この見た目でもごまかせるとは思うよ。

 一方、魔族はほんとバラバラだね。そもそも部族とかごとに外観が全然違うから、魔族領に入るのならそこまで外見に気をつけなくてもいいと思うよ。あ、それで思い出した。ただ一つ、金色の瞳を持った魔族は例外なくヤバいから、それだけは気をつけてね)


 ならこのままの外見で大丈夫そうだ。フードを深く被るとか、眼帯でごまかすとか考えてたけど、何もしないでいいのならそれが一番いい。


 (そうそう、ずっとスルーしてたけど、魔族と人族ってどういう違い? 今まで聞いた雰囲気で、両族とも仲良くできてるようには思えないんだけど)


 (簡単な分類としては、人間と亜人族が人族。それ以外の生物のうち、魔物と動物を除いたのが魔族だよ。それで、人族と魔族はお互いを敵視し、常日頃から争っているのさ)


 整理すると、魔物、動物、人族(人間・亜人族)、魔族(その他)っていう分類かな。


 (…ん?もしかして、吸血鬼って魔族に分類される?)


 (その通りだよ。ただ、紅い目と鋭い歯を持ってるだけで、見た目は人間とほとんど変わらないよ。わたしも、何食わぬ顔で人族の街を闊歩してたくらいだからね)


 (まああんまり気にしなくていいか。それに見た目も性別も変わったっていても、俺は人間だしなあ)


 (……どこをどう判断したら、そんな結論に至るのかな…? とりあえず、また湖を覗き込んでみようね)


 何か怖いものが漏れているティアの声に従うまま、再び俺は湖を覗き込んだ。相変わらずあどけない顔の血塗れ少女がこちらを覗き込んでいる。


 (はーい、ここで口を大きく開いてみてー)


 言われた通りに、できるだけ大きく口を開き――

 歯の上下、4本の犬歯。それが、鋭く尖っていた。


 え? 吸血鬼ナンデ? どういうこと?


 (おー、幼いのに、これは綺麗な形の立派なのを持ってるね。魔力容量もぼちぼちあったし、さすがわたし身体の複製ってところかな。ただ何で金髪なんだろうなー。わたしは銀髪だったし、保養ケースの身体も銀髪だったんだけどな)


 用意されたクローンの身体。そんな身体に、俺の元の体が混ざり、最終的に少女の身体になった。そしてその少女の身体のベース―ティアは、吸血鬼の身体だった。


 (何でこんな簡単に推測できることに気づかなかった俺――!)


 髪をつかんでわしゃわしゃと乱し、雑草が生える中を転げまわり、行き場の無い気持ちを落ち着かせようとする。

 そしてしばらく転げ回った後、ただでさえ汚れてる身に、雑草や土がついてもっと残念になったことに気づいた俺は、当初の目的であった、身体を洗うことを思い出した。



―――――



 身体をじっと見る。明らかに男とは違う、少女の身体。身体を洗うためには当然、今着ているものを脱がなければいけないわけで――


 (ええい、覚悟を決めろ、俺!)


 まず履いてあるスニーカーを脱ぎ捨てる。

 そして胸部を隠しているボロ布の残骸の結び目を解くと、するりと足元に落ち、控えめな胸が露わになった。

 続いて、ジーンズ。カチャカチャとベルトを外し、若干のためらいの後、素早く脱ぎ散らかした。

 裸になった俺は、なるべく身体を見ないようにする方針を決め、まず湖に両足を浸す。いくらぽかぽかした気温だったにしても、水温が水浴びに適しているとは限らない。慎重に行動して損は無いはずだ。

 浸した足から感じる水温は適度な感じで、これならば風邪をひくこともないと思った。


 そして、足に付着した血を落とし、このままだと時間かかるなあ、と思い、いっそのこと湖に飛び込むことにした。心地よい水が全身を包み、長い髪が広がる。続けて、全身の汚れを手で擦って落としていく。


 一番大変だったのは髪だった。髪の毛にこびりついた汚れを落とすにかなり時間がかかってしまった。これはシャンプーをなんとしても手に入れる必要がある。


 ちなみに胸は、想像していたより柔らかくなかった。むしろ成長期なのか、少し力を入れると痛みが走ったのでそっとしておくことにした。


 (女の子の身体に興味がないわけでもないと。でもそこまで強いものでもない。うーん、いっそのことリョウがロリコンだったら簡単に万事解決だったかもなのにねー)


 (せっかく気持ち良く水浴びしてるのに残念発言を挟むな!)



 大体の箇所を洗い終わり、俺は何気なく水面に浮かびながら、ぼんやり気分良く水浴びを楽しんでいた。さっぱりした、というのはもちろん大きいけれど、何より水温がちょうどいい。突拍子もないことが続いていたせいか、のんびりとした何もない時間におもわず頬が緩む。

 手持ち無沙汰に、ぱちゃぱちゃと右手を動かし、水面を波立たせる。ふらりと体が揺れ、久しぶりに水遊びをしている感覚を楽しむ。


 水中に広がった髪を集め、なんとなくもてあそんでいた時、唐突に長閑(のどか)な空気を凍らせる発言が脳内に響く。


 (そういえばリョウ、性器洗い忘れてるよ?)


 髪をもてあそんでいた手が止まる。

 たしかに女の子の身体なんてよく分からないというのがあって、ひとまずそこは放置していたのだ。そして言われた以上は、覚悟を決めなければいけないと思う。


 (……洗い方がわからないので、教えて下さい)


 (そりゃそうか。よし、お姉さんがばっちりレクチャーしちゃおう!第一回、女の子入門講座だね!そこの部分は、さっき汚れを落としていたみたいに乱雑に洗っちゃだめ。デリケートな部分なんだから、指の腹を使って丁寧に……)


 そうして束の間の水浴びと引き換えに、俺は男として大切な何かをひとつ失ったのであった。



 ―――――



 湖から上がった俺は、軽く身体と髪から水気を飛ばしたとき、拭くなりして乾かさなければいけないことに気づいた。これは後先考えず水浴びに走り、何も考えてなかった結果である。

 大人しく日光浴でもしながら乾かそうかと考え始めたとき、ティアから救いの言葉が届いた。


 (身体と髪を乾かすために魔術を使いたいんだけど、魔力共有と身体共有の流路をONにしてもらえないかな?)


 (ちょうど濡れてるのをどうしようかと困ってたところだったんだ。…で、魔力共有が必要なのはなんとなく分かるけど、身体共有は何に必要なの?)


 (魔術を使うには、声を使って呪文を詠唱しないといけないからだよー。というわけで頼めるかな?)


 (了解、すぐに繋ぐ)


 一度自分でやったから、やり方は分かる。身体の奥の方に意識を向け、魂のパスを司るものを探す。そしてそれをつかむようにし、その機能――権限の変更を行使する。


 魔力共有、オン。身体共有、オン。


 思ったよりもスムーズにいった作業に満足すると、意識を現実へと戻す。


 (オーケー、流路オンにしたよ)


 (手こずるかと思ったけど、やけに早かったね。部分的に流れたわたしの知識が関係してるのかなあ…おっと、乾かさないとね)


 「火よ、風よ、土よ、我が望む。理に基づき、その力を示せ」


 魂のパスを通した時の詠唱とは違う、ただ凛とした言葉。あのときは厳かな言葉だったせいもあり、雰囲気に飲み込まれてしまったが、今回の詠唱はシンプルなのもあって軽く感じる。

 そして身体を巡っていた何かが抜けていく感覚の後、身体がごう、と温風に包まれる。魔術の効果であろうその温風は十秒程続き、あっさりとかき消えた。手で身体のあちこちを触れて確かめてみると、身体中についていた水滴どころか、髪の毛に至るまで水気がばっちりと飛んでいた。それどころか、若干髪がつやつやしているようにも感じる。


 (ナイス、ティア! この魔術便利そうだから後々覚えたいな)


 などと言いつつ、早速着替えるために立ち上がると、妙な倦怠感があった。


 (うん、落ち着いたら魔術の練習も、って考えてはいたけど。…あー、この魔術ね、便利なのはいいけど複雑なことしてるから、魔力消費が大きい…ってことを今思い出した。大丈夫?なんともない?)


 (なんか倦怠感がある…うー)


 (意識を失わなかっただけマシかな。魔力が尽きちゃうと、意識を失っちゃうからね。倦怠感があるのは、魔力の大部分を使っちゃったせいだね。魔力が回復すると治るから、しばらくの我慢だ)


 (うう、了解……)


 倦怠感の中でも、全裸はさすがにまずいだろうと思い、カバンを開き、プリーツなどがあしらわれたデザインのドロワーズを取り出す。いわゆる可愛いデザインのものなのだが、リョウはそれを気にすることなく、ズボン状の下着であるそれを穿き、紐で縛り固定する。


 次に、帯状の白布を取り出し、胸に巻く。後でずり落ちたりローブと擦れることを考え、痛みはあるけれど少々強めに巻いた。途中、長い髪がすごく邪魔だったので、さきに髪をまとめておけばと思い至った時には後の祭りだった。


 そして、黒単色のローブと見た目の良いローブを持ち上げ、どちらを着ようかと悩む。そこで、見た目が良い方はティアが着ていたことを思い出し、おもむろに臭いを嗅ぐ。それなりに汗の臭いがしたので、黒単色の方のローブをかぶって着た。サイズはぶかぶかだけれど、問題の無い範囲だ。


 (わたしの汗の臭いをリョウが嗅いで、それをわたしが感じる…んふふ…)


 残念な発言を無視しつつ、髪をローブの内側からかきあげ、そしてブーツを履くのに取り掛かる。編上げ部分にやや苦戦したものの、サイズはちょっと大きいくらいで歩くことに支障はなさそうだった。


 倦怠感に包まれたまま、ここまでを作業のように終わらせると、俺は「やっと終わった…」とつぶやき、そのまま草地にばたんと寝転がった。ローブの裾が風を帯びてすこしだけめくれ、すぐに戻った。


 (おつかれさま。なんだか淡々と着てたね)


 (だるすぎて気にする余裕がなかったんだよ…ああ、このまま一眠りしたい)


 (止めておいたほうがいいと思うよ。森は魔物が住んでるからね。それに…ほら、あそこ)


 ティアが俺の右腕を動かし、ある方向を指差した。

 俺は上半身を起こしその方向を眺めると、赤い毛皮をまとった、凶悪な牙をもつ、イノシシのようなものがいた。

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