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自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
序章(改稿後2024~)
41/48

00-01 歪

内容は旧『00-01 歪な関係』と旧『00-02 パズルの代償』を合わせたもの。

一部やり取りを00-02(改)に移しています。

リョウの年齢を二十一から二十三に。


17/12/31 改稿後のお話は色々と設定が違っているのでご注意ください。

18/01/17 サブタイトルの変更(改の削除)。ルビの修正。

24/03/01 文章を書くリハビリに改稿。

24/04/30 誤字修正。

 最初に感じたのは寒さ。例えばそう、床で寝てしまった時のような。

 冷え切ってしまった身体を震わせながら瞼を上げる。視界は霞んでいたがまばたきを数度繰り返すと、赤黒いシミがこびりついた石のタイルの天井が見えた。


 そうだ、たしかボクはとっておきの魔術を行使していたんだった。希少な品質の魔力結晶を惜しげもなく注ぐことで得られた膨大な魔力を術式に注いで、その確かな手応えにほくそ笑んで、突然白い光が広がって、保養ケースが割れて、保養液ともども地面へと肉体が投げ出され、でも手応えは失敗ではなくて、全身に渡る激しい痛みに意識自体が飛びそうになりながらも、術式の制御だけは手放すまいと必死に歯を食いしばって――


「……ぼんやりしてる場合じゃない、早くゼミに行かないと。せっかく徹夜までして資料をまとめたのに」


 慌てて両手をついて体を起こすと、着ていたシャツがはだけて控えめな胸が見えていた。ボタンを留めようと腕を持っていくも、赤黒く汚れたシャツは擦り切れたり破れたりとなんとか服の形状を保っているだけのボロ布といったありさま。当然ボタンは千切れていて留めることは叶わない。

 下に履いていたぶかぶかのジーンズもボロボロだけれどシャツよりはだいぶマシな状態だ。


 ため息をつくと、腕を上げ手首を掴んで伸びをした。

 身体がバキバキと音を立てる。床も天井と同じく石畳であり、妙な場所で眠ってしまったせいか体の節々が痛かった。

 このままサボってしまおうという誘惑を首を振って払い除ける。長く伸びた髪が首から肩を撫でてくすぐったい。

 濃密な鉄の臭いから逃げるように「んしょ」と喉を震わせて立ち上がる。履いていたスニーカーもボロボロでぶかぶかだ。


「あーあ、なんでこんなことに……」


 とひとりぐちて替えをどうしようかと思いつつ一歩踏み出すと、裾を踏んでしまっていたのか、ジーンズがぴんと引っ張られてするりと膝まで落ちた。


 下にはいていたパンツごと。



 あわててひきあげようと視線を向け手を伸ばすと、視界に映ったのは乾燥しパリパリになった血がこびりついている白く細い素足。そして赤い血に塗れて地面を擦っているジーンズにトランクス。

 そして、あるべきものが、そこには、股間にはなかった。


「――えええええええええっ!?」


 思わずボクの声じゃないみたいな声が口から飛び出した。

 なんで? 無い? いやそれ以前になんでこんなに下半身がつるつるしてるの? いやいや有る方がおかしいよね? え? なんだこれ? 何これ? 夢? こんなどうしようもない夢なんていらな――いやあの痛みに呻くだけの夢よりマシに決まってる? え、でもでも、ついてないよ? んえぇ?


「んあははは、なんだか面白いことになってるなー? 他人事じゃないけど。あははははは」


 あまりにも滑稽な姿に耐え切れなかったようで、()()()が声を滑らせてしまった。


「え、なんで、何? どういうこと?」


 思わずして、()()の声も漏れてしまう。


(どうみても失敗だよねーこれ。せっかく長いこと準備してきたのに、妙なのがいきなり転移してきて、体が乗っ取られかけるわ、それでも頑張って制御しきれたと思えば魂が混ざってよく分からないことになったし。いつもならイライラしてどうしてくれようか、って気持ちしか湧かないはずなんだけど……いや、あまりに想定外すぎて、逆に、笑いが、こみ上げて、きてる)


 笑いを噛み殺しながらわたしが()()()で言葉を(まく)し立てる。


「えぇ待って何、頭の中に声がっ」

(いい感じに混乱してるね、うははは。流路は双方向性だから、キミも頭で念じればわたしに直接言葉を届けられるよ)

(何この不思議現象、ここ夢の中なの、中なのっ!?)

(そうそう、飲み込みが早いね。まあこの場にはわたし達以外居ないからあまり意味ないんだけど)


 混迷する思考、言葉。そして噛み合わない会話。ボクの頭の中は混沌の極みにあった。

 そんな状況の中、ボクは彼女と邂逅(かいこう)を果たしたのであった。




 *―――――*―――――*




 改めて辺りを見回すと、一面がぼんやりと光っている石畳の部屋だった。部屋の中央付近——ボクが眠っていた場所辺り——はどす黒く変色した血が広がっていて、まるでスプラッタ映画のワンシーンみたいな光景になっている。

 血溜りのすぐ隣には、円柱の形をした人が入るほどの大きさの標本ケースみたいなものの残骸が横たわり、ガラスのようなものの破片が散らばっている。

 それらを眺めていると、鳥肌が立ち背筋が凍るような感覚がした。

 なんだろう、本能がヤバいと訴えかけてきている。深く考えないように視線を外すと、部屋の隅で椅子が転がっていたので起こして机へ向かい合う形で腰掛ける。


 少し間を開けたおかげで頭はやや冷静さを取り戻していた。

 ボロボロだった姿も少しだけ整えた。さあ真面目にお話するぞという態勢である。


(まずは自己紹介からかなー。これから否が応でも一緒することになるからね。わたしはティエリア・フォンベルク。性別は女。【吸血鬼族】で、現フォンベルク当主の二女だよ。ってこんな状態じゃ分からないか。あははは)


 何がおかしいのか、けらけらと笑う声が頭の中に響く。色々ツッコミを入れたい単語が出てきたけど、話が進まないと思って先にボクも自己紹介する。


(ボクは菱谷涼介? ええと、性別は男で、大学で三回生やってます)


 二十三年生きてきた記憶として刻まれた名前を答えたけれど、何故か違和感を感じてしまい疑問形になってしまった。まだ混乱してた影響が残っているみたい。


(ヒシア・リョースケ? 変わった名前だね。ヒシアって呼べばいいのかな?)


 さすがに救世主みたいな響きの呼び方はやめてほしい。

 ティエリアという名前からしてわたし……じゃなくて、彼女は外国の人だろう。そういえば国によって苗字と名前の順番が違ったりするんだっけ。


(ええと、菱谷が家名で、涼介が名前だよ、ティエリア……さん)

(そんな他人行儀な呼ばれ方嫌だなー。こんな状態になって他人ってわけないでしょ。友人知人どもからはティアって呼ばれるし、そう呼んでほしいなリョースケ)


 友人知人どもって……。なんだかテキトーな呼び方だなあ。

 ともかくこんな状況でいきなり愛称呼びとは、彼女……もといティアはけっこう親しみやすい性格なのかな。


(うん、わかった。よろしくティア。ボクのことも、気軽にリョウって呼んでくれないかな?)

(あいー、リョウ、ね。こちらこそよろしく。それで? 一体どうしてこんなところに【転移】してきたの?)


 そしてティアが再び口にしたのは、日常生活で聞き馴染みのない単語。もくもくと嫌な予感が頭の中を覆っていく。


(転移……? よくわかんないけど、ボクは今日の分のゼミの資料をまとめて、大学に行く途中だった。そして、気が付いたらこんなところに、こんなことに)


 ほんと、ただ平凡な大学生の日常を送っていたはずなんだけど、何でこんなよく分からない事態になってるんだろう。


 はあ、とため息をつきながら視線を自分の身体へと向ける。

 混乱に陥った原因となったジーンズは裾をめくり、ベルトを限界まで締めることでなんとか履くことができている。歩くとすこしずつずり下がっていくけど、何もつけないよりかは遥かにマシだろう。

 シャツは完全にダメですぐに着ることを諦めた。せめてぷっくらとささやかに膨らんでいる胸だけでも隠そうと、残骸を胸部に巻いている。


 そう、何故か残念な下半身露出事件が起こるまで違和感を覚えなかったのだけれど、今のボクの身体はどうみても女の子のものになっていた。鏡がないのでどういう姿をしているのかは分からないけれど、のっぺりとした体つきを見るに小学生ぐらいの外見だと思う。小さく細くなってしまった身体と、その腰のあたりまで伸びている金色の髪が性別の違いを明確に示していて、言いようがない不安がじくじくと心を蝕んでいく。ついさっきまでただの男子大学生だったのに、ほんとどうしてこうなったんだろう。


(ふむー? いまいち要領を得ないなあ。情報を整理してすり合わせてこうか。ここは【人族領】で、具体的には【エガード王国領】の東の端っこにある【シェイムの森】の、【古代魔法文明】時代の遺跡の中。ここに来る前はどこにいたの?)


 人族領、国名、地名、古代魔法文明。聞き覚えのない単語のオンパレードだ。頭の中を覆い尽くした嫌などころか悪い予感をごまかすように、指で前に一房垂れていた髪を(もてあそ)ぶ。髪が身体を撫でる感覚が少しくすぐったい。


(ボクは日本という国の、東京という都市に居ました。その国が存在する世界……その星は地球と呼ばれていました。ティアの言ったエガード王国という国は聞いたことがありません)

(……もしかしてリョウは【渡り人】? え、それだけでも滅多にあることじゃないのに、さらにこんな形で? …それなりの時を過ごしてきたけど、こんな話、初めて聞いたよ……)


 ティアの声が段々とぶつぶつ呟くように小さくなっていく。どうやらボクの今の状況に心当たりがあるみたいだ。

 ……うん、できればボクの想像は外れてほしい。

 だけれどそんな思いはティアの言葉で無情に打ち砕かれる。


(……この世界は【フォアグリム】って呼ばれてて、リョウがいたところとは別の世界。たぶんリョウは、何かが起こって、こっちの世界に転移してきた。リョウみたいに別の世界から来たってひとはごく稀にいて、渡り人って呼ばれてるんだよ)


 ボクの頭に浮かんでいたのはいわゆる異世界転移。男だったのが女の子になってしまっていたり、二人の別々の意思が同じ体にあるなんてありえない事態や、聞かない単語や固有名詞がぽんぽん出てきたからこそ出てきた単語。

 日本でなら妄想と切り捨てられてもおかしくはない、荒唐無稽(こうとうむけい)な考えだが――


(やっぱり、そんなことだろうと思ったよ……。ええとそれで、何でこんなことに? ボクは転移してくる前は男だったはずだし、もっと年もとってたはず。そもそも、同じ頭の中にティアはいなかった)

(転移してきたタイミングが悪かったんだよ。ちょうどわたしは新しい身体に【魂】を移すために、【儀式魔術】を行使してた。そして実際に魂を移す工程中に、魂を移す予定の肉体が入っていた保養ケースの中にリョウが転移してきた)


 ティアは饒舌に話す言葉を一旦切ると、歯切れが悪そうに続けた。


(そこからは残念ながらわたしの記憶もはっきりしないのさ、気がつけばリョウの肉体と用意してた肉体は完全に混ざってて、そこにわたしの魂までぐちゃぐちゃに混ざってしまいそうになってたしね。必死に抵抗してなんとか自我は守ったけど、今、リョウの魂とわたしの魂は半分くらい混ざりあって、(いびつ)にくっついてる状態。肉体の方は、結局転移先の肉体ベースになっちゃったみたいだね。まあ、命あっての物種っていうらしいし、歪だけどこうやってふたりともなんとか存在できてて、良かったんじゃないかな。うん、この言葉、よい言葉だ)


 途中まで歯切れが悪かった言葉だが、最後の方はティア自身をも奮い立てるように捲し立てるようなものになっていた。

 そしてその内容はとんでもないもの。想像していたよりも何倍もタチが悪いぞ、これ。

 フリーズしそうになった思考を首をぶんぶんと振って無理やり繋ぎとめると、それらの間違いなく重要である言葉たちをじっくりと味わうように頭の中で反芻(はんすう)しながら整理していく。


(ええと、整理させてね。まず、ボクは何故だかわからないけど、フォアグリムっていう別の世界に転移してきた。そしてこの体は、ティアが用意していた女の子の体になってしまった。さらに、ボクの魂とやらとティアの魂が混ざって一緒になってるから、ひとつの体にボクとティアが共存している……これで合ってる?)

(厳密にいえばちがうけど、大体そんなところだよー。渡り人ってことで通じるか不安だったけどこの分なら大丈夫そうだね。魂が混ざってる影響もあるのかな?)


 先ほどのティアの(げん)によるなら、今この身は二人の魂が混ざり合っているなんてよくわからない状態にある。そりゃあ何らかの影響が出るだろう。


(混ざり合ってる影響?)

(リョウの考えてることや知識、感覚とかに違和感はなかった? わたしはたくさんあったよ)

(……うん、嫌という程ある)


 大量の血の痕とズタボロになった服装に対し、妙に冷静だったこと。

 最初、この姿に違和感を覚えなかったこと。

 自分自身の名前がしっくりこなかったこと。

 トンデモ単語や話が飛び出してきたけど、その内容がすとんと胸に落ちたこと。


(そして、わたし達は日本語で会話をしていた。当然だけど、この世界には日本語なんて存在しない)


 ティアの言葉に引きずられるように馴染みのない言葉が自然と頭に浮かぶ。直感的にこれが■■■■■――日本語で直訳すると【魔族共通語】かな――であると気づいた。言語に関する知識を漁ってみると、次々と【人族共通語】やら【東方語】、【獣人語】など見たことも聞いたこともないはずのものが引き出されていく。

 なるほど、確かに知識が混ざり合ってる。そして自然に日本語で会話をしていたということは、ボクと同じようにティアの知識に日本語が混ざっていたということで。


(うん、確かにボクとティアの知識が混ざり合ってる)

(しっかりと分かってくれたようだね。さて、今のわたし達は、色んなものがごっちゃになって混ざり合ってて、危うい状態にある)

(うん、何となく分かる)


 経験――記憶はいわゆる自己同一性(アイデンティティ)を形成する要素のひとつだ。人は記憶を積み重ねるからこそ、その人として存在できる。

 それなのに、今のボクとティアは記憶が混ざり合ってしまっていて、身体さえも変わってしまっている。

 こうしている間も、日本で、菱谷涼介という男として二十三年過ごしてきたはずなのに、本当にそうであったのかという疑問が頭から離れない。髪が首筋に触れる感覚が久しぶりで、感じたことなくてくすぐったくて。右手にあったはずのホクロはどちらのものだったっけ。


(だからその問題を先に解消したいと思うのさ。わたしとリョウの魂、ほんと訳の分からない結びつきしちゃってるせいで、ふたりともすごいちぐはぐになってるの。今あるのは記憶の違和感だけだけれど、この先必ず根本を揺るがすような問題が出てくる。そうならないように魂同士に【パス】を通して経路を限定して、あるべき形に整えておきたいのさ)

(パスというのがよく分からないけど、それで記憶の問題が解決できる?)

(うん、記憶がどちらのものか、ちゃんと認識できるようになる)


 ティアの提案は願ったり叶ったりだった。それでまともでいられるのなら、是非ともお願いしたい。


(うん、それならお願いします)

(任された。ではでは、ばぱぱっとパス繋いで弄っちゃうよ)


 そうティアの言葉が響いた直後、ボクの口が自然と言葉を紡ぎ始める。


「……我、ティエリア・フォンベルクが望む。血脈が血脈たる(よし)を、今ここに示せ。汝、ヒシア・リョースケとの魂の血脈もって、ここに契約を」


 凛と厳かな言葉を紡ぎ終えた瞬間、妙な感覚を覚えた。例えるならそう、何か自分自身の根源がするすると包み包まれていくような感覚。体から感じる五感のどれにも当てはまらない、未知の感覚。


「や、んはぁ……そんな、もぞもぞと……んあぁ」


 そして口から(あふ)れる艶めかしい声。おそらくティアの仕業だろう、何やってるんだこのひと。

 自分の口から勝手に発せられてる声にどぎまぎしながら、それを極力無視しようと未知の感覚へと意識を向ける。感覚は何かが流れ込み、同時に何かが流れ出すようなものへと変わっていた。


 そして、唐突に世界がブレた。

 ボクが持っている知識や五感、そして妙な感覚が、二重にぶれている。いや、全く別々のものが、まるで重なったかのような。ボクのものではない異質な感覚が同時に流れ込んできている。そんな事態に頭は混乱してしっちゃかめっちゃかだったのだけれど、徐々にこういうものなんだと頭が理解し始めた。


 そして、欠けていた何かがはまっていく感覚。混ざりあっていた精神的な性別が整理されていき、元の世界とこの世界の知識が分離され、それと同時にぼんやりとしていた地球のことがはっきりしていく。記憶の境界がはっきりと分かれ、だんだんとボクがボクであることに確信を得ていく。


 異質な感覚とパズルが組み合わさっていくような感覚の中、少し冷静になってくるとボクが置かれている状況も冷静に捉えられていく。そしてあまりの状況に愕然とした。

 荒い呼吸と艶めかしい声が溢れ、熱く火照りジンジンとうずく身体。どうしようもなく頭が蕩けていく。明らかに異常事態だった。


「んぁぁあぁ……たまには魂が犯されるのもいいのぉ……ぁあぁぁ……」


 完全に蕩けきった声をティアが上げる。異常事態の中、まだ意思を保ってるボクも声を上げるのだけど――


「はぁ、はぁ……んっ、何、が、どう…んぅっ……て――っ」


 言葉は言葉とならず、荒く甘い息がこぼれるだけになってしまう。甘く蕩けてしまいそうになる中それでも必死に理性を振り絞って耐え、この異常事態をどう脱するか考える。

 当然こんな状況の中では集中して考えを巡らせることなんてできず、建設的なことは何も浮かばない。

 そして気がついた時には身体と理性が限界に達していた。


 気がつけば、無意識に左手はつつましい胸をまさぐっていた。皮膚が擦れる感覚は甘く痺れるようで、それは身体全体へと広がりお腹の奥がきゅっと切なく震える。

 ボクが発したのかティアが発したのかなんて既に分からなくなっている喘ぎ声が口から響き、脳髄が甘く痺れ、表情が緩み蕩ける。


 そして最後まで抗っていた思考も蕩けていき、耐えるようにきゅっと握り締められていた右手の力がゆっくりと解け、するすると下へと伸びていきー



 まずいまずい、これ以上はまずい。これ以上進むと、何か分からないけど、大切な何かを失ってしまう気がする。


 蕩けた思考を引きずりながらも、必死にこの状況を打開できる何かを探す。そしてあっさりと見つかった【流路(それ)】を手元へ手繰り寄せるかのように意識を集中させ、不思議とどういうものなのかを理解できたその権限を行使する。


 身体共有、オフ。感覚共有オフ。意識共有オフ、知識共有オフ、魂感覚共有オフ、オフ、オフ、オフオフオフーーッ!


 頭が蕩け身体が疼き、体の火照りと荒い息が零れる中、ティアとのありったけの流路をオフにし続け、


「何てことしやがるこのエロ吸血鬼――ッ!」


 そして、()の怒りに染まった声が響き渡った。

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