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00-03(旧) 残念な吸血鬼

16/08/14 誤字修正、加筆修正

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 (うー、ごめんってばリョウ。つまんない作業の間に女の子の良さを教えてあげようと思っただけなんだよー)


 俺は一通り事情を聞いた後、頭の中に響く残念な声にため息をついた。


 ―――――


 あのカオスな状況が強烈すぎたけど、どうやら魂同士にパスを通すことと、治せる範囲のちぐはぐな状態はちゃんとどうにかしてくれたみたいだ。

 おかげで知ってるもの・知らないものとかの線引きがちゃんと分かるようになったし、何より、誰なのコイツ…みたいな口調の、『ボク』と称していた自分が、転移前の口調や考え方の『俺』に戻っている。


 ティア曰く、(わたしと混じってたのと、精神が肉体に依存しちゃってたのが原因かなー? この身体、思ったより幼いみたいだし)とのこと。それでも、受け答えや情報収集はきちんとしてたし、俺2号グッジョブ、と言葉を贈りたい。


 魂のパスを繋ぐと、いろいろなものを共有したり融通したりすることができるらしい。そのあたりはさっきの事態で無理やり体験させられたから、どういうものなのかすんなり分かる。


 そして、流路は細かくオンオフできる。

 (うふふ、わたしがやったからこそ、こんな強固なパスができたんだよ)と自慢気に伝えてきたティアだったが、その点にはありがたみを感じなかった。その代わりオンオフ機能には多大なありがたみを感じ、流路は片っ端からオフにしている。


 パスが繋がっている唯一の利点を挙げるなら、ティアと頭の中で会話できるようになった事だろうか。同じ身体、同じ口、同じ声で会話を繰り広げていたのはどう客観的に捉えても不気味だったと思う。


 ―――――


 そして、冒頭のティアの脳内音声に戻る。


 (だから、俺は男なの! そんなもの知りたくも聞きたくもないっての!)


 (でも身体は女の子なんだよ? こんな機会、普通あるわけないんだから楽しめばいいのに。楽しくない人生なんてクソだよ、もっと積極的に楽しまないと)


 真面目な声で語るティア。言わんとしている事はわかるが、残念な言葉と絶妙に組み合わせないでほしい。


 (ティアのいう楽しむは絶対ベクトルがおかしいだろ!?)


 (わたし、知ってるんだからね。さっき、改めてちらっと自分の身体ながめて、どきどきしてたこと)


 (ついさっきまで男の身体だったんだし、健全な男の当たり前の反応だろ!)


 なるべく身体のことを意識しないようにしつつ、机に頭を乗せて足をぷらぷらさせていたリョウだが、その顔が少し赤みを帯びていたのは彼の知るところではなかった。


 (もういいもういい。この話はストップ。とりあえずこの身体洗いたい。べたべたしすぎて嫌)


 不満そうな声が脳内に響いたけど、無視無視。

 頭を上げ、おずおずと自分の体を見る。いまだにこの身体には慣れないが、なんとか服?で隠すところは隠せてるからまだいい。問題は、全身にこびりついた血の痕だ。既に乾いていて、指でこするとぽろぽろ取れるような部分はあるのだが、大半の部分がべたべたしていて気持ち悪い。血は髪にもこびりついていて、視界に入る分だけでも何箇所も房のようになっている。できればすぐにでも洗い流して、まともなものを着たい。


 ちなみにティアに何でこんな状態になっているのか聞いたら、意識がぶっ飛んだ。そして正気に戻ったとき、机の下に入り込んで体をガタガタ震わせている状態だった。思い出さない方がいい事はきっとあるのだと考え、この件はそっとしておくことにしている。


 (ここの遺跡を出たところに湖があるから、そこに行けばいいよ)


 そしてティアが教えてくれる素敵情報。ちゃんと水も澄んでいるだろう。ありがとうティア先生!


 (ナイス情報! ありがとう)


 その言葉で即座に行動に出ようとローブを手に取り、部屋の外へ駆けようとする。そこを、せめて荷物だけは持って行けと引き止められ、しぶしぶ持っていたローブをカバンに詰め込み、なるべく汚れないようにカバンを抱えてえっちらおっちらと歩く。



 そして、部屋をつなぐ通路付近にローブとブーツ、そして杖が転がっていた。


 (すっかり忘れてたけど、それ、儀式前にわたしが着てた服と杖だ。そりゃ中身が消えたら着てたものは残るよね。できれば回収してくれると嬉しいかな)


 その言葉で、目の前の光景に現実を感じてしまった。今更だけれど、いろいろな事が起きすぎてしっかりと意識を向けていなかった。ここで、人が消えたという現実。所有者だけが消え、それがそのまま転がっていることに生々しさを感じ、思わず生唾を飲み込んだ。


 (――リョウ?)


 (…ごめん、なんでもない)


 動きを止めていたのは十数秒だろうか。ぶんぶんと首を振って髪を乱し、その意識を振り切る。結果的に、その所有者はふてぶてしく俺と同じ身体に住み着いているのだ。消えてしまっただけではない。


 幸い、詰め込めばなんとかカバンにおさまりそうだった。

 編上げになっているブーツは試しに履いてみないと分からないが、今履いているぶかぶかのスニーカーよりサイズは小さい。身体を洗った後、こっちに履き替えてしまおう。

 杖はさすがに持ち歩くしかないよなあ、と思い、ひとまずカバンを下ろす。そしてローブを拾い上げ、ばっと広げてみる。黒をベースに首まわりやカフス、裾に白色の布があてられている。首下から胸元あたりまでは三つのボタンでとめられて開くことができるが、首まわりが大きく開いているので、おそらくただのデザインなのだろう。当然ながら、カバン入っているローブより格段に見栄えがいい品だ。


 (あんまり目立ちたくなかったからシンプルなの着てたけど、なかなかいいでしょ)


 (たしかに、黒一色な地味なのと比べると、こっちの方がいいなあ……はっ)


 (ふふふふふ、言質ゲット。ある程度なら可愛いものでもオーケーと)


 (何かやらかしてしまった気がする――!)


 なんて会話をしていると、ローブの裾から、はらり、とベージュ色の何かが落ちた。


 (おっと、下着は無理に持っていかなくていいよ。新しい身体には前着けてたのは合わないだろうと、カバンの中にブラの代わりに巻く布とドロワーズ用意してるからね)


 その言葉に、落ちたものが何なのか確認しようとした体がぴきりと固まった。


 (そうだよな、ちゃんと下着はつけないとな。ノーブラノーパンでローブだけ着るとかどこの痴女だよ。隠せたらそれでいいってものじゃないしな。つけるために存在しているものを無視するとかいやーほんとマジで意味がわからん。うはははは)


 若干混乱してわけのわからない言葉を発しながら、素早く下着とローブ、ブーツを回収し、カバンに詰め込む。ティアから生暖かい何かを感じるのは気のせいだ、うん。

 杖も拾い、再びカバンを抱え上げると、俺はよたよたと隣の部屋へ向かった。



 ―――――



 ((なるほど、そういうこと。やー、うぶで可愛いなあこの子。……待てよ、これってわたし色に染め放題ってことじゃない? 幸いパスは通ってるし、魂は面白い事になってるし、いろんな事できるねこれ。あははは、テンション上がってきた――))


 上がったテンションをそのままに、わたしはうきうきとリョウとの流路をいじり始めた。

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