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00-02(旧) パズルの代償

16/10/30 文面の修正

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 「その感じだといろいろ思い当たる点があったかな? ちなみに日本語についてだけど、これは影響があったのはリョウだけじゃないってことさ。それにしてもお腹すいた。牛丼とやらを食べてみたいな」


 「なるほどね…。同じくボクもお腹すいたって思ったけど、血を飲みたいって思ってしまってるのもそういうわけなんだ」


 思わず濃厚な血の味を想像してよだれがたれてしまったので、ごしごしと手の甲でこする。ティアは自身のことを吸血鬼と言っていたし、間違いなくその影響だと思う。


 「ひとまずお腹すいたし、軽くごはんをつまんで休憩といこうじゃないか。机の脇にカバンがあるはずだから、その中にビスケットが入ってるよ」


 休憩ということで、言われた通りビスケットを取ろうと立ち上がると、ふらっと軽い立ちくらみがした。そんなに時間は経ってないはずなんだけど、あまりに衝撃的なことばかりだったから、疲れが溜まってるみたい。

 机の横には、今の細身の体でなんとか抱えられるくらいの結構な大きさの、革製っぽい頑丈そうなカバンがあった。そして開けると、黒い丈夫そうな布が見えた。


 「あ、それは着替えのローブだよ。儀式後は能力が落ちるのが分かってたから、なるべく頑丈なのを用意したんだ。だからあんまり可愛くないけど我慢してね」


 「えっと、ボクは男だよ…可愛いのとか、そういうのはちょっと…」


 「今は女の子の体だよ? 大丈夫大丈夫、精神は肉体に依存するから、だんだんと慣れていくさー」


 「なんと言おうと、ボクは男だからね?」


 「はいはい、わかったわかった。それで、手が止まってるよ」


 カバンから取り出した厚手の黒い布を広げると、それはまさしく、魔法使いなんかが着るようなローブだった。まさに黒一色で、ボタンとかも全くついていない、ワンピースのように被って着るだけの服。


 「せっかくの女の子デビューがこれって勿体無いなあ。せめてもうちょっとデザイン入ってるのにすればよかった…こんなことになるって分かってたら迷わず可愛いのにしてたのに…」


 残念そうにつぶやく声を無視して、ボクはそのローブを畳んで机の隅に置いた。着替えるにしても、まず先に体を洗いたい。


 「えーとあとは、ごちゃごちゃと白い布や水筒?が入ってるのと…よっと、この袋がビスケットかな」


 「うん。わたしはお腹が空いているのさ。さあ早くわたしお手製のビスケットを食べるのだ!」


 はいはい…とつぶやきつつ、空腹を訴える身が動くまま、布袋から黒いビスケット取り出し、まず半分くらいかじる。すっきりとした甘さに、バターに近いような、濃厚な味。ただのビスケットなのに、不思議と身体に染み渡るような味。

 そして、たった5枚食べただけで満足してしまった。どうやらこの身体は小食みたい。

 ちなみに布袋にはまだまだたくさんのビスケットが残っている。


 「あー美味しかった。こんな美味しいビスケット食べたの、初めてだよ」


 「うふふふ。なにせわたしのお手製だからね。感謝するがいいさー。…あー、満足満足」


 それにしても体を共有してるのって不思議だなあ、なんて思いつつ、袋の口を縛り、後片付けした。


 「さーて、お腹もふくれたことだし、ささっと問題を片付けちゃおうか」


 「問題?」


 問題だらけすぎて何を指してるのかが分からない。


 「えーと、ビスケットタイム前に少し話したことについてなんだ。わたしとリョウの魂、ほんと訳の分からない結びつきしちゃってるせいで、ふたりとも、すごいちぐはぐになってるの。今出てきてるのは小さい違和感だけど、この先、どんなひどいのが出てくるのか。…とてもじゃないけど、想像したくないよね。だから、そのあたりのちぐはぐを埋めたり整理したりするために、魂同士パスを通したいのさー」


 魂のパスというものが想像つかないけど、ティアの言ってることはもっともだと思う。


 「うん、賛成。このおかしい状況のままだと、不安しかないもんね。…だけど、あと数点だけ、先に聞いておきたいことがあるんだけれど、急がないとまずいかな?」


 「ちょっとぐらいなら大丈夫でしょ。うん、じゃあ先に質問をどうぞー」


 その言葉にほっとする。この質問は、なるべく早いうちに聞いておかなければいけないと思う。


 「ええと、新しい体に魂を移していた、だっけ? なんでそんなことを?」


 「…ごめん、それについては、あんまり話したくないかな。ただ、お姉さんは優しいからヒントくらいはくれてやろう! ありがたく思ってね!」


 うーん…? ティアってくだけた雰囲気とか口調とかで話しやすいし、正直こんな事態になったにしてはありがたい相手だったと思ってたけど、もしかして性格は残念な部類だったりする…?


 「純粋な吸血鬼族っていうのは、寿命ってものがないのさー。あ、もちろん私もそうだったよ。だから、無理に生き急ぐ連中なんてそうそういない。殺されたらもちろん死ぬんだもの。よし、ヒントは以上!」


 あの、ヒントというか答えらしきものがほぼど直球で分かっちゃったんだけど。

 ふふん、とふてぶてしく腰に手を当てている銀髪の少女( ・・・・・)の姿を幻視してしまい、なんだかツッコミを入れる気力が失せてしまった。


 そして、次。こちらがある意味本命の質問。気を引き締め、言葉を絞り出す。


 「次の質問ね。…魂を移すための肉体って、どうやって用意したの?」

 

 用意した肉体に魂を移すなんてことをやってる以上、当然出てくる疑問である。そんな都合のいい肉体なんて、まともな方法で手に入れられるわけがない。回答しだいでは、ボクはティアとの付き合い方を考えないといけない。こんな非常識な世界だからこそ、根本的に相容れない存在はいるはず。そんな覚悟を決め――


 「え? そんなの、古代文明の謎装置を使って造ったに決まってるよ。いやー、ちょっと皮膚を削ったのを材料にするだけで自分とほぼ同じの、魂の入ってない肉体が作れるとか古代文明様様だよー。もしかして、リョウって生きている肉体を無理矢理…とか考えたり? あははは、そんな無駄なことするわけないじゃんー」


 斜め上の回答が返ってきた。ひとまずティアについては大丈夫そうだけど――

 ヤバい、古代文明ヤバい。クローニング技術的なものを持ってるような文明だった上に、そんな装置が現存してたりするとか。ここがどんな世界なんてまだ知らないけど、古代文明の遺産は間違いなくヤバいものだと確信してしまった。

 ボクはできるだけ近づかないようにしようと、そっと心に決めたのだった。


 「ちなみに、今回ティアが使ってた装置はどれ?」


 「また妙なこと聞くなぁ。隣の部屋にメインの装置類があるよ。でも、たぶん儀式の途中に吹き飛んだんじゃないかな。すごい爆発音してたし」


 「あ、うん、それ聞いてちょっと安心した」


 後で確認しよう。全部使えない状態になってたら、少なくともここの遺跡は安全かな。ふう、と安堵の息が漏れた。


 「ええと、とりあえずの最後の質問。渡り人で、元の世界に帰ったって人はいますか」


 「わたしの知識では、聞いたことがないかな。世界中探してみればそういうのもあったかもしれないけど、そもそも帰る前にこの状態をなんとかしないといけないんじゃない?」


 うっ…っと言葉に詰まる。視線を下げ、自分の体を見る。細身で、血まみれのままの、年端もいかないような少女の体。ボロ布で巻いた胸にかかる、艶やかな金色の髪。もしこのまま元の世界に帰れたとしても、どうすればいいのか全く見当がつかない。それに、頭の中のもうひとりの住人。


 「うん、ティアの言った通りだ。片付けないといけないことがたくさんある」


 何から始めるべきか。話を聞いた感じだと、難題ばっかりだ。体の問題は、魂を移す儀式?でなんとかなりそうだけど、元の肉体はすでになくなっている。魂だって、ボクよりこの世界のことをよく知ってるティアが訳のわからない状態と言っている。そもそも、ボクはこの世界の事を何も知らない。一体どれだけの年月がかかるのだろうか。たくさん時間をかけて、それでも戻った元の世界に意味は、居場所はあるのだろうか。


 「よーし、質問も済んだようだね。ばぱぱっとパス繋いじゃうよ。」


 思考の渦に飲み込まれていた中、ティアの声が響いてボクは現実に戻ってきた。そうだ、ひとまず目先のことから片付けないと、だよね。


 「…我、ティエリア・フォンベルクが望む。血脈が血脈たる由を、今ここに示せ。(なれ)、ヒシア・リョースケとの魂の血脈もって、ここに契約を」


 ティアが凛と、厳かな言葉を紡いだ瞬間、妙な感覚を覚えた。何といえばいいか分からないけど、何か自分の根源的なものが、するすると包み、包まれていくような感覚。体から感じる五感とは全く違う、初めての感覚。


 「や、んはぁ…そんな、もぞもぞと…んあぁ」


 そして溢れる、艶かしい声。何やってるんだこのひと。

 自分の口から勝手に発せられてる言葉にどぎまぎしながら、それを極力無視しようと感覚の方に意識を向ける。感覚は何かが流れ込み、同時に何かが流れ出すようなものへと変わっていた。


 そして、世界がブレた。

 ボクが持っている知識や五感、そして妙な感覚が、二重にぶれている。いや、全く別々のものが、まるで重なったかのような。ボクのものではない異質な感覚が同時に流れ込んできている。そんな事態に、ひたすら混乱する頭で考えを巡らしても何とかなるわけがなかったのだけど、不思議とこういうものなんだ、と頭が徐々に理解し始めた。


 そして、欠けていた何かがはまっていく感覚。混ざりあっていた精神的な性別が整理されていき、元の世界とこの世界の知識が分離され、それと同時にぼんやりとしていた地球のことがはっきりしていく。だんだんとボクがボクであることに確信を得ていく中、ボクの名前であるはずの菱谷涼介という人名だけは、何故か違和感のあるままだった。


 そして、異質な感覚とパズルが組み合わさっていくような感覚の中、少し冷静になっていったボクは、置かれている状況に愕然とした。

 荒い呼吸と艶かしい声が溢れ、熱く火照りジンジンとうずく身体。いきなりそんな感覚に襲われ、頭が蕩けていく。明らかに異常事態だった。


 「んぁぁあぁ…たまには魂が犯されるのもいいのぉ…ぁあぁぁ…」


 完全に蕩けきった声をティアが上げる。異常事態の中、まだ意思を保ってるボクも声を上げるのだけど―


 「はぁ、はぁ…んっ…何が、どうなってっ…」


 思わぬ事態にただ荒い息が零れるだけだった。それでも必死にぞくぞくする感覚を意思の力で抑え、この異常事態をどう脱するか考える。

 当然こんな状況の中では集中して考えを巡らせることなんてできず、さらにそちらに意識を向けすぎていた結果、気がついた時には体と理性が限界に達していた。


 気がつけば、無意識に左手はつつましい胸をまさぐりっており、皮膚が触れ合う感覚と胸が撫でられる感覚に、ぴりぴりと脳髄に快楽が走る。

 ボクが発したのかティア発したのかなんて既に分からなくなっている艶かしい喘ぎ声が響き、そこにはただ、発情し蕩けた表情を浮かべた少女がいた。


 そして最後まで抗っていた思考も蕩けていき、快楽の波に抗うかのように握り締められていた右手の力がゆっくりと解け、するすると股へと伸びていきー



 まずいまずい、これ以上はまずい。これ以上進むと、何か分からないけど、大切な何かを失ってしまう気がする。


 蕩けた思考を引きずりながらも、自分の意思で動かない体に代わり、必死に何かを探す。そしてあっさりと見つかったそれを手繰り寄せ、それを手にした途端、ボクはそれが何なのかを理解した。そして、必死にその権限を行使する。


 身体共有、オフ。感覚共有オフ。意識共有オフ、知識共有オフ、魂感覚共有オフ、オフ、オフ、オフオフオフーーッ!


 頭が蕩け、体の火照りと荒い息が零れる中、ティアとのありったけのパスをオフにし続け、


 「何てことしやがるこのエロ吸血鬼――――!」

 そして、()の怒声が辺り一帯に響いた。

しばらく『ボク』の出番終了

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