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自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
27/48

01-19(旧) ティエリアの思考

遅くなりました。


17/01/16 オーギュストの名前がガーランドに改名されていたのを修正 ひどいミスだ……

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 ***** 二日目(3) *****


 (…さて、これで目前の問題だけは片付いたかな。防衛戦なんてしてるのを考えると頭が痛くなるけど)


 俺は思考をティアへと繋がるパスへと伝える。契約でキャロとのパスが増えてしまった今、ティアと脳内で会話するのにも一工程増えてしまった。今までのように何も考えずに思考を伝えると、キャロとティアの両方に伝わってしまうのだ。そのうちミスをやらかしてしまいそうである。


 (リョウはどうするの? 休んだ後に加勢する? それともこのままキャロを愛で続ける?)


 目の前には、ベッドに足を延ばす俺の膝の上に座っているキャロ。まだ少し顔色は悪いけれど、契約前と比べると明らかに体調が良くなっている。そんなキャロの髪をいつものように手櫛で梳いているのだけど、足をぱたぱたさせていたりといつもよりも気分良さそうにしているように見える。


 (えへへ、いつもみたいにしてもらってる上に、アヤお姉ちゃんと繋がりを感じられて、さっきまでが嘘のように幸せな気分)


 思考が駄々漏れになっているキャロの様子に、ちゃんと教えてあげないとなあ、なんて考えながら、いっそこのまま撫でつづけるのもアリかなと思ってしまう。

 そんなダメ人間のような思考をぶんぶんと追い払うと、ティアに意識を向ける。


 (魔力を大分使ったみたいだから、ひとまず休もうかと思ってるけど……悪魔(デーモン)と対峙したときのこと、先に聞いておきたいかな)


 あの時、ティアがアヤの身体の主導権を奪い、悪魔(デーモン)と会話した時のことがどうにも気になっていたのだ。ただ情報を引き出していたように思えるようで、明らかに何か関係がありそうだったもの。最後の最後でフォンベルクの家名まで明かしてるし。


 (たぶんリョウも分かってると思うけど、目的は情報収集。ヴルダラクの名前なんて出してきたから、それに乗っかってやったのさ。ヴルダラクっていうのは吸血鬼族の中でも戦闘能力に特化した一族でね、何度も爵位持ちの悪魔(デーモン)を討伐なんてしてるから悪魔殺し(デーモンキラー)の一族なんて呼ばれてるの)


 (おおう、物凄そうな奴らと間違えられたもんだ。どおりであんな強気に交渉してたんだね)


 あの時挑発するような言葉を話していたことに納得がいく。ひやひやしていたのは結果以前にそもそも前提から杞憂だったみたいだ。


 (裏では黒いことしてるから、お近づきになりたくない一族NO1なんだけどね。ほら、『わたしはこの件は一切聞いていない』って言ったの、あれ、カマかけてたのさ。見事引っかかってくれたのには笑うのを抑えるのに苦労したよ)


 たしかそのカマに対して、悪魔(デーモン)はお互い引く事を提案したんだっけ。ということは何らかの情報の行き違いとして捉えられたということかな? うーん、でも『ヴルダラクについては関わるな』と主とやらに念を押されてると言ってたっけ。


 (悪魔(デーモン)の主とヴルダラクの一族は関連性はない? だとすると、ティアの言葉が矛盾しちゃうし……むー、わからない)


 (あー、吸血鬼族の事情を知らないから無理もないか。ヴルダラクには分家でフドラクってのがいて、お互いの家で協力体制を敷いているの)


 (……だんだんと読めてきたよ。フドラクとヴルダラクの間には情報の齟齬が出る可能性があったので、あの悪魔(デーモン)の提案って訳か。で、こちらをヴルダラクの一族と勘違いしていた悪魔(デーモン)の主というのは、フドラクの一族の者ってこと?)


 (うん、それが私の予想。というかベイグラントの時と全く同じ手口なんて隠す気ゼロだよね。あ、そうか、わたしがここにいる事なんて知らないのか。あはははは、こんな偶然の重なりで一泡吹かせられて今どんな気分してるのやら。ざまあみろ、あはははは)


 悪魔殺し(デーモンキラー)のヴルダラクと悪魔(デーモン)の主が居るフドラク。そして両家は協力関係にある。……うん、黒い関係しか想像できない。ついでに今のティアも黒くなっててちょっとこわい。ティアは何か恨みでも持ってるのだろうか。


 (そういえば最後にティアの家名――フォンベルクの名前を出してたけど、大丈夫なの?)


 その言葉にぴきりと固まるティア。たぶんこれ、つい勢いで言っちゃったやつだ。


 (……たぶん大丈夫。今の外見は昔と変わってるから、アイツに情報が伝わってもわたしだとバレることはない、はず)


 (だとしても、要らない爆弾を抱えることになったって訳か……はあ)


 (うう……ごめんね……)


 思わずため息がこぼれる。色々と思うところはあるけれど、こればかりはひとまず後回しにするしかないよなあ。尤も、導火線に火が付く前にはなんとかしないといけないとは思うけれど。



 さて、状況自体は依然として変わらないけど、斜め上の情報がティアのおかげで集まってしまった。悪魔(デーモン)の主の正体が吸血鬼族のフドラクの一族の者ということ。そして、あまり自覚はないんだけど、吸血鬼族は魔族である。

 つまりこの戦いは、ただの悪魔(デーモン)の襲撃ではなく、人族側の陰謀でもない。人族への、魔族からの襲撃――戦争ってことだ。


 (もしかして、フドラクの一族がこの防衛戦で出てくる可能性もあるのか…?)


 ふとした思いつきに背筋がぶるりと震える。悪魔(デーモン)を使役するような吸血鬼。そんな存在が出てきたら、一気に戦線は瓦解するんじゃないだろうか。


 (それは絶対に無いから安心していいよ。アイツが姿を現すリスクなんて冒す訳ないもの)


 ティアの断言するような言葉にほっと息が洩れる。というかティア、さっきからの会話で想像つくんだけどさ、その相手のこと確実に知ってるよね。


 (とりあえず、目下の問題は変わらず悪魔(デーモン)かあ…)


 窓から外を眺める。見える範囲の街並みだけでも、活気というものが皆無になっているのが分かる。街の人たちはアルレヴァの外へ逃げてしまったのだろうか。それとも、家の中で戦いの終結を待ち望んでいるのだろうか。

 そんな人気のなくなった街を模しているかのように、空にはどんよりとした灰色の結界が見える。常に蠢き続けている模様は、この街の人々の不安感を煽っているようにも思える。


 吸魂の牢獄。この結界は内部に生物を閉じ込め、この結界内で死んだ生物の魂を収集するという、まさに悪魔(デーモン)が生物を狩るための結界である。聞くだけで悍ましい代物だけれど、ティアが言うにはこれでもまだマシなものらしい。何せ、死にさえしなければ魂を狩られる心配はないのだ。

 そしてこの結界は触媒というものを使った永続的な効果を持つものではないらしい。仕組みなどの詳しいことまでは分からないらしいが、ティアは悪魔(デーモン)が結界の核の役割になっていると考えており、悪魔(デーモン)を滅することによって結界は解除されるとのことだ。ティアが過去に悪魔(デーモン)と戦った時の実体験と語っていたので結界の解除条件は間違っていないだろう。


 この結界のことは皆に伝えないことで俺とティアの意見は一致していた。このような知識を十歳の少女の身で持っていることを知られるのは厄介ごとを招くということ、そして知ろうが知るまいが、どちらにせよ悪魔(デーモン)を滅ぼさない限りどうすることもできないという事がこの結論に至った理由である。

 

 (……アヤお姉ちゃ……大好…き……)


 そんなことを思い出しながらぼんやりと窓の外を見ていると、キャロからぼそぼそとこころの声が聞こえた。そして腕にもたれ掛かられるような感覚を受けて、キャロへと視線を移す。腕にもたれ掛かり、静かになったキャロから聞こえてくるのはかすかな寝息。

 俺はキャロを抱えると、そのまま隣へと寝かせる。病み上がりなので疲れが抜けてないのだろう。キャロの気持ちよさそうな寝顔に口元を緩めながら、そっと布団をかける。



 しばらくキャロのあどけない寝顔を堪能した後、もう一つの本題へと入る。


 (さて、あれほど推し進められてアヤとして(・・・・・)契約したのに、何でキャロに存在を隠すのかな?)


 ティアと契約したときの呪文。儀式魔術で契約した時の呪文。そしてキャロと繋がるパスの感覚。


 『魂の繋がりもって、ここに契約を』


 呪文を文面通り捉えると、ここでの契約とは魂と魂の間で結ばれるものだ。ティアとの契約は、俺とティアの一対一のもの。それに対して、キャロとの契約はアヤとの間に結ばれたものだ。

 俺とティアが名前で契約を結んだということは、俺たちはそれぞれ別個の存在であるということを証明している。ならばアヤとは一体誰のことを示しているのか。

 アヤ・ヒシタニは便宜的に名乗っているはずの名前であり、いわばこの身体の名前である。そしてそれが指し示す魂とは、当然この身体に宿る、未だ魂が混ざっている俺とティアのことに他ならない。


 おそらく、ティアもキャロとのパスが繋がっているはずだ。そして俺はキャロにはティアの存在を伝えてもいいかと考えていたので好都合だと思った。けれどティアはパスについて触れなかった。まるでキャロに自身のことを隠しているように思えるのだ。


 (へー、まだ魔術は初歩しか教えてないのに、よく気づいたね。……まあ大した理由じゃないんだけどさ。ほら、キャロは病み上がりなのに、一度にたくさんのことを教えると混乱しちゃうでしょ? だから、明かすのはもうちょっと後にしようと考えてたの)


 実は俺の力だけで気づいたんじゃないんだけどな。魂が混ざった時の記憶の中に契約魔術についての知識があったのだ。ティアとの契約直後に混乱していながらもパスをいきなり扱えたのはこのおかげだったのだと思う。おかげさまで今日も私は貞淑です。

 そしてつらつらともっともらしい言葉を並べていくティア。けれど、それが逆に嘘を隠そうとしてるように思えてしまう。


 (で、本音は? 怒らないから正直に話してみなさい)


 (いきなり語り掛けてびっくりさせようと思ってましたー! …あっ)


 重大なことを隠してると思ってたけど、一体何がしたいのこの吸血鬼。一気に力が抜けてしまい、俺はティアに大げさにため息を向ける。


 (ティアもキャロのことを気に入ってるように思えたのに、何でそんなことを)


 (だってだって、これから永い(・・)付き合いになるんだろうからさ、こうやって楽しみはたくさん増やした方がいいでしょ)


 (……はあ、まさかこんなことでここまで疲れるとは思わなかったよ)


 ティアの言葉に少し引っかかるような感じがあったけれど、もう正直どうとでもなれという気分だ。このやり取りで気力が切れてしまった。


 (まだティアには聞いておきたかったことがあったんだけど……もう限界)


 ふらついた身体を、そのままベッドへと委ねる。体中がだるくて、体を起こすのすら億劫。儀式魔術によって魔力を使った身体は、ぶっちゃけると限界だった。


 隣で眠るキャロの花のような香りに包まれながら、俺はあっさりと意識を手放すのだった。




 ―――――




 北門側の防衛線での攻防は、無限に壁の穴から湧き出てくるようなトロル相手に休む間もなく続けられていた。オーギュストは、既に組みあがっているバリケードの外側からトロルを相手取る隊を時間ごとに入れ替えることで戦線を維持していた。

 そして一方的に一斉攻撃を受けて息絶えるトロルの死骸が詰みあがると、焼却(インシニレート)の魔術によって定期的に焼き尽くされる。


 そのように構築された防衛線は、北門のすぐ横の防壁の穴と、そこから少し離れた場所にも穿たれた穴の二か所に展開されていた。その他にも防壁には魔力大砲(マギカノン)によって崩された箇所はあったが、土魔術によってその侵入口は塞がれている。


 そう、この二つの侵入口はまるで何も考えていない様子で突撃してくるトロルへの餌であった。向こうの攻撃手段を完全に奪ってしまうと何をされるか分からない怖さがある上、ある程度安全に少しずつではあるがトロルの数を減らせられるという算段である。




 一方、南門側では北門側とは違った攻防が行われていた。南側のトロルの軍勢からも魔力大砲(マギカノン)による砲撃が行われたのだが、南門側の防壁上にも防備されていた魔力大砲(マギカノン)によって早々に破壊されていた。


 そして侵入手段のない軍勢との間には、激しい遠距離攻撃の応酬が繰り広げられていた。トロルの軍勢にはリビングアーマーが混じり、南部隊へ闇魔術を放っている。闇魔術は精神に作用するものがあり、こういった大規模戦闘で下手に受けてしまうと部隊の内部から瓦解する危険性がある。


 リビングアーマーを排除しようにも、保有する遠距離攻撃手段では火力が心もとない。魔力大砲(マギカノン)の砲撃を数発叩き込めばいけるだろうが、当然魔力結晶は有限である。

 

 (遠距離攻撃のみだとリビングアーマーを排除することはできない、か。排除を考えると北部隊のように上手く防壁の穴を利用するのが正解だったな。魔力大砲(マギカノン)は早々に破壊してしまったからな)

 

 苦々しい表情を浮かべるチェリベに対し、ノエルは目を瞑り街と戦場を覆うようにして展開されている結界について思考に耽っている。


 (アストラル界から物質界にかけての遮断に、謎の術式か……。永続的な結界だとすれば援軍は期待できないかな。それに結界の核は何だろう。謎の術式にも嫌な予感がするし…)


 魔術師団で行った結界の解析内容、そしてユッカから伝えられた情報を統合しても、この結界を完全に解析することができなかった。それを受けてノエルはこの未知の結界は悪魔(デーモン)の魔法によるものだと結論づけていた。


 (せめて取っ掛かりだけでもあればいいんだけど…。術式は細かく編まれすぎてて内部が分からない上に、表面も見たこともないシンボルばかりだからなあ)


 ノエルは自身の不甲斐なさからか唇をぎゅっと結ぶと、遠距離攻撃の応酬を行う隊員達を見据える。隊員達にはまだ目立った疲労は見当たらない。しかしノエルはこの交戦の選択に強い不安を感じていたのだった。




 正体不明の結界に閉じ込められていること、そして視覚化されたような不安感。日が暮れても終わらないトロルとの交戦に、人々の精神はより早く削られていく。

 結界の詳細を伝えないというリョウとティアの判断は、本人たちのあずかり知らぬところでこの防衛戦の運命を決定づけてしまっていた。

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