表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
20/48

01-12(旧) 嵐の前日

16/09/31 誤字・表現修正

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 「風よ、我が望む。風よ、我が望む。風よ、我が望む。風よ、我が望む。風よ、我が望む」


 シェイムの森に、キャロの幼くも凛とした声が響く。起点魔術の連発で、五つの風の塊がキャロの周囲を漂う。

 そしてトロルが視界に入った途端、その数の暴力が放たれた。


 「切り裂け!」

 トロルの着けている皮鎧が切り裂かれ、その下の皮膚まで傷ができる。

 

 「切り裂け!」

 両太ももが薙ぐように切り裂かれ、ぱっくりと割れる。

 

 「切り裂け!」

 上半身を守ろうと両腕で守っているトロルだが、関係ないとばかりにその両腕が切り裂かれる。

 

 「切り裂け!」

 もう一度上半身を狙った風の刃は、両腕をさらにズタズタに切り裂く。

 

 「切り裂け!」

 そして、だらりと下がった腕のガードの下、顔へと風の刃が飛び、こめかみからから首までを斜めに切り裂く。


 首を切り裂かれたトロルは、程なくして地面に崩れ落ちた。



 「・・・・・・」

 (・・・・・・)


 幼女(キャロ)が引き起こした光景を前に、無言になるリョウとティア。


 「詠唱短縮って本当便利ですね! 使えるようになったばかりの攻撃魔術を、こうやって連発できるんですから!」


 キャロはそんな様子に気づくことなく、無邪気に喜んでいる。無邪気な分、より性質が悪いように思えるのは気のせいだろうか。


 (魔力に属性を纏わすのに思ったより手間取ってるな、とは思ってたけど。まさか使えるようになった途端に、五重に発動させた起点魔術からの短縮詠唱風刃(ウィンドカッター)の連射って……)


 心ここにあらずといった口調でぶつぶつとつぶやくティア。魔術ことはまだ全然理解していないけれど、これはやりすぎだろうというのは分かる。


 そんな二人の苦悩を知ってか知らずか、相変わらず血塗れで転がっているトロルを視界に入れたまま、全身を使って喜びを表しているキャロ。ひとまず現実逃避という便利な思考放棄と共に、残りのトロルを片づけるべく、植物の壁を回り込むことにした。


 今回使っているのは昨日使った戦法と同じだ。真っ先に三体トロルのうちの一体を無効化し、数的優位を対等にしてからの直接戦。視界を邪魔するために作ってもらった植物の壁が、思った以上に役に立っている。



 植物の壁の裏側へ踏み込んだと同時に、待ち構えていたかのように大剣が振り下ろされた。即座に一歩踏み込むと、剣先を少し外側に傾けるようにして、側面で大剣を受ける。手首の力は少し抜いており、言うならば柔らかく受けるというところか。

 大剣は込められた力を逃がされ、リョウの剣の側面を滑るかのように剣筋が逸れる。


 (うおお、今の、受け流しってやつ? すごいすごい! ほんと、いつの間にこんなに剣の腕前を上げたの?)


 何やらティアが過大評価しているが、実情は冷や汗ものの一瞬の攻防だった。力を逃がしきれなかったせいで、手がじんじんしてるし。


 距離を取り、先制攻撃を仕掛けてきた毛色の違う相手の様子を窺う。

 そこには今までのトロルより一回り大きく、鉄なのか鋼なのか素材は分からないが、板金鎧(プレートアーマー)に全身を覆われた何かがいた。こいつの後ろにはすっかり見慣れてしまったトロルが一匹控えるように待機しているが、板金鎧はそのトロルよりもずっと纏っている悪魔(デーモン)の残滓が強いのが分かる。ヘルムの隙間から覗く爛々と輝く眼に全身を射抜かれたように感じ、背筋がぞっとした。


 (うーん、可能性から言えばトロルの上位種、ハイトロルだとは思うけれど、リビングアーマーの線も捨てきれないなあ。こいつも悪魔(デーモン)が召喚したって記録があるからね。ちなみにハイトロルは危険度40、リビングアーマーは危険度51ね)


 さっきまで相手をしていたトロルが危険度30だったっけ。強さ跳ね上がりすぎだろおいい。


 (仮にハイトロルだったとしても、板金鎧(プレートアーマー)装備とかありかよ!?)


 (『ベイグラントの悪夢』でもトロル軍団は武装してたよ…って話だよ?)


 (ご丁寧にしっかりとヘルムまでつけてるから一撃で終わらせられないし…ああもう、このやろっ!)


 (ともかく、しばらくは大きく仕掛けないようにして戦って。魔術の詠唱を始めたり、鎧の間から黒い靄が出てきたら間違いなくリビングアーマーだから、その時はキャロを連れて逃げて! 視線は通らないように! 高度でない闇魔術は視線が通らないとほぼ無意味だから!)


 (了解! まずは相手の正体を見極める!)


 ティア先生の的確なアドバイスに感謝しつつ、どうやって攻めたものかと考える。関節部みたいな隙間を狙うのが全身鎧に対するセオリー、みたいな知識はあるけれど、関節部を守るようにパーツがついているおかげでどこを狙えばいいのかが分からない。いっそのことヘルムの隙間にでも剣をぶっ刺し……そもそも背が届かないや。

 ひとまず考え込みそうになるのを抑え、先に声を張り上げてキャロへ情報を伝える。


 「キャロ、魔物の正体が分からない。ハイトロルかリビングアーマーだとは思うけど、リビングアーマーだった場合、逃げるぞ! あと、この相手で手いっぱいになると思うから、もう一体のトロルは任せた!」


 植物の壁の向こうにいるキャロから、「あいさ、です!」と確認をとると、目の前の板金鎧に集中する。

 有効そうな部位は、膝の関節の裏とか、肘の関節の裏くらいか? これ、どうやって当てればいいんだ?


 (ティア、魔鋼ってミスリルと同じくらい丈夫って聞いたけど、具体的にどのくらいか分かる? 例えば、目の前の鎧に叩きつけるとどうなるかとか)


 (多少痛むとは思うけど、鋼相手なら間違いなく叩き潰せるね。ただ刃は間違いなくボロボロになるよ)


 (あー、今後を考えたら、鈍器代わりにするのはないな。…いや、片側の刃だけ使い潰すか?)


 ふと思いついた妙案に、これでいけるんじゃないかと思ってしまう。こういう時に限って何か穴があるのが今までの経験則なんだけど、まずは一発は試してみないとな。

 板金鎧はヘルムの横に大剣を立てるように構え、こちらの様子を窺っている。見たこともない構えに、どう攻めたものかと思案する。俺が知ってるのは剣道の基本的な構えと、あとフェンシングとかの突きだすようなやつだけだ。

 あの構えからのパターンは、振り下ろしと角度に制限のある袈裟切り、薙ぎだ。振り下ろしと袈裟切りは受け流し(微成功)の経験があるのでまだいい。薙ぎは受けられる気がしないので避けることに決めると、こちらから軽く仕掛けるべく身体加速(アクセル)を発動させた。


 大剣の正面へと踏み込み、率直に斬るような動きを見せて振り下ろしを誘う。板金鎧はその誘いには乗らず、大剣を薙いだ。

 ぐっ、下を抜けるには位置が低すぎる。

 大剣の進行方向へ回り込むように移動すると、体をバネのようにして膝へと剣を突く。狙いが芯から外れていたためか、剣が弾かれるのを確認すると、遅れてこちらへ振るわれてきた大剣を転がるようにして回避する。


 一応試してみたけれど、素人の突きじゃ無理っぽいな。素直に鈍器戦法に切り替えるか。

 立ち上がり体勢を整えたタイミングで、キャロの詠唱する声が響いた。


 「森の管理者たる私が望むがままに、拘束せよ!」


 これで向こうは片付いた。拘束(バインド)の後に風刃(ウィンドカッター)の連射が聞こえてきた気がしたけど気にしないことにする。


 再び板金鎧と向かい合っていると、今度は向こうから仕掛けてきた。上段からの袈裟切り。これも受けようとはせず、大剣の内側へと踏み込んで回避する。

 続けてがら空きの腕に一撃を叩き込もうとしたところ、悪寒を感じた。既に俺へと振るわれていた薙ぎを察知しすると、剣を叩きつけるようにして大剣を受ける。吹き飛ばされることを覚悟したけれど、剣を叩きつけたのが功を制したのか鍔迫り合いの様相になった。ぎりぎりと剣がこすれ合いながら、双方の剣先が持ち上がる。

 願ってもみない展開にほくそ笑むと、剣を少しひねって大剣を押し付けるようにして、そのまま剣を滑らせて移動する。板金鎧はあわてて大剣を引くが、反応が遅い。こういう小細工は身体加速(アクセル)を使っている俺の独擅場だ。

 素早い相手の、ある程度動いている状況での次の行動と、止まっている状況からの次の行動。どちらが厄介なのかは言うまでもないだろう。


 板金鎧の横を通り抜けるように思い切り踏み込み、足へと魔鋼の剣を力の限り叩き込む。金属が激しくぶつかる音とその抵抗を感じながら、剣を傾けて板金鎧の横を抜けた。即座に振り返ると、なおも健在な板金鎧がいた。これ、一体どうすればいいんだよ。

 剣を叩きつけた足を確認すると、三分の一くらい凹んでいた。む、よく見ると板金鎧の姿勢が微妙に足をかばうように崩れてるし、もしかして効果ばっちりだった…?


 (これで確定かな。こいつはハイトロルだ。リビングアーマーだと、この程度の凹みなんて気にすることなく襲い掛かってくるよ)


 ティアの言葉にほっと息がこぼれる。中身が生物なのなら、今みたいに打撃で鎧の中身を潰すことで、いつか決着がつく。


 少し長引きそうだなと思い、キャロに警戒をお願いすると、魔鋼の剣(鈍器)を両手にハイトロルへと踏み込んだ。




 ―――――(ハイエム視点)




 「ここにシェイムの森調査隊の野営地を築く。設営と防衛は儂のパーティの担当なのでな、おのおの方は調査の方、よろしく頼むぞい」


 がははは、と炭鉱族(ドワーフ)のファーラーさんが豪快に笑う。初めて顔を合わせた時から変わらないもじゃもじゃの髭は相変わらず健在である。

 彼のパーティが野営地の当番なら万が一ということもないだろう。野営の道具にまぎれて酒樽を持ち込んでいたのを見つけていたりはするが、炭鉱族(ドワーフ)なら酔い潰れることもないだろうし、上には黙っておこう。


 野営地の準備をするファーラーさん達を横目に、俺たちも森へ入る準備をする。とはいっても、ちゃんと野営地は用意してくれるから野宿用の道具は必要なし。食料も最低限でいい。毎日ここに戻ってくるたびに補給すればいいのだ。とはいえ、万が一のこともあるし、こういう備えは俺の本領発揮というところだ。


 「ねー、ハイエム―? 準備まだ終わらないのー?」


 「あと五分くらい待ってくれ」


 「はいはいー。また念のため、っていろいろ詰め込んでるんでしょ」


 「万が一ってのはできる限り減らさないといけないからな。…にしても、ユッカ、助かったよ。こんな早く精神保護(プロテクトマインド)お守り(チャーム)が品切れになってるなんて思わなかった」


 「感謝ならアヤさんに。昨日彼女が教えてくれたから」

 

 イルミナの横で、ユッカがのんびりと岩に腰かけて寛いでいる。彼女はAランクの凄腕の魔術師だ。二つ名は『氷雪』。氷は、水と水の混合魔術らしいけど、彼女はさらにそれを他の属性と合わせて行使する――即ち、三種混合魔術以上を扱える規格外の魔術師らしい。らしい、というのはイルミナから聞いた話だからだ。魔術のことなんてよく分からん。

 俺が聞いたことがあるのは、寒冷地に生息するサイクロプスの群れを纏めて氷漬けにしただの、若いドラゴンを氷漬けにしただの真偽の分からない噂話ばかりだ。ドラゴンの話に至ってはSSランク相当の実力が必要だしありえないだろ。ただ、トライラントの中で唯一Aランクであるカイの常識外れな腕前を考えると、あながち間違ってもいないように思えるのが恐ろしいところである。

 そんな腕前の魔術師なら様々なパーティから引く手数多だろうに、ソロで活動しているというのも彼女が注目される一因である。まあ俺達冒険者の御多分に漏れず、何か訳があるんだろうな。


 それにしても不思議な縁だ。まさか宿屋でちょっとだけ話したアヤちゃんとの繋がりで、氷雪とこうやって臨時パーティーを組むことになったのだから。


 最後にカバンのすぐ取り出せる場所に『とっておき』を入れ、荷造りを完了する。


 「さて、お待たせしましたっと。……あれ、もうほかのパーティは出発してる?」


 「うん、時間かかりそうだから、先に出発しておいて、って伝えておいたよ」


 出発前に他のパーティと情報交換とかを考えていたんだが。まあ今回は合同討伐とか護衛とかじゃないからいいんだけど。野営時にも機会はあるだろうしな。


 イルミナはぱんぱん、と手を鳴らして合図すると、探索開始の号令をかけた。


 「さ、準備が整ったし、トライラントとユッカちゃんの臨時パーティ、出発するよ!」



 森を歩く隊列は、俺、イルミナ、ユッカ、カイの順番だ。むしろ近接職二人、魔術師二人という構成に、サンドイッチ以外の隊列は思い浮かばない。

 邪魔な植物を寄せたり切ったりして通りやすくしながら進む。地味ながらも道の無い森を進むには重要な役割だ。そして森の中を進むこと数十分過ぎた頃。


 「お、前方にシェイムボ「打ち抜け」


 俺の魔物の種類報告にユッカの詠唱がかぶせられ、発見したシェイムボアが氷塊に眉間を貫かれて絶命する。いやいや、初級魔術の(バレット)でこの威力っていうのは、さすがに俺でもおかしいのが分かる。

 

 魔術を放った主へ振り返ると、相変わらずの無表情で、数えきれないほど(・・・・・・・・)の氷塊を体の周りに浮かべている。こうして実際に目の当たりにすることで、イルミナが言った規格外という言葉がすんなりと理解できた。


 「ハイエム? 足が止まってるよ」


 足を止めたままになっていたようだ。俺は合図を送ると、再び奥へと歩を進める。


 「火よ、我が命ずる。骸を燃やし尽くせ!」


 シェイムボアの死骸の脇を通り過ぎて、背後から聞こえてくるイルミナの詠唱と、火の爆ぜる音、そして肉の焼ける臭い。今回は調査という名目なので、途中の魔物は魔力結晶を抜いた後に処分(焼却)すると事前に決めている。

 こういう時焼却(インシニレート)の魔術は便利だ。どういうからくりかは分からないが、対象を燃やし尽くすだけで、延焼する心配がない。だからこんな森の中でも使えるのだ。


 「お、前方にブルーウル「打ち抜け」


 「あ、前方にレッドボア「打ち抜け」


 「う、前方にハウンド「打ち抜け」


 「ん、前方にゴブリンの群れ「爆散せよ」

 

 ユッカが張り切り過ぎて戦闘が一瞬で終わってしまう。最後のゴブリン三体なんか、威力が強すぎて肉塊になってたぞ。


 「いやー、『氷雪』なんて呼ばれてるだけあって、ものすごいね」

 「ん。イルミナもコツをつかめばできる」

 「えへへ、そうかな。ちなみに何かいい練習法とかある?」

 「魔力の並行制御。こんな風に、短縮詠唱し放題になる」

 「なるほど、いいこと教えてもらっちゃった。ありがと!」

 「お礼を言われる程の事でもない」


 そして惨状を視界の隅にすら入れていない二人。同じく暇なはずのカイへ目を向けると、気だるげに干し肉をかじりながら歩いていた。ダンジョンと違って、魔術師の魔力感知が効くから後衛にあまり意味はないけどさ、気抜きすぎだ。


 「で、アヤちゃんのどこを一番気に入ってるの?」

 「ぜんぶ。一目見ただけで分かる。あれは反則な可愛さ」

 「たしかにすごい悩むけど全部ってぶっちゃけすぎでしょ!?」

 「可愛いものは可愛い。これでいい」

 「う、そう言い切られちゃうと追及しづらい…」

 「イルミナ、がんばって」

 「なんであたし応援されてるの!?」


 そしていつの間にか話題がアヤちゃんの可愛いところトークになってる女性陣。悪魔(デーモン)が出るかもしれないのにマイペース過ぎるだろ。



 女性陣がわいわいしている中、急に口を閉ざしたユッカが森の一点を指さした。

 

 「……む。悍ましい魔力の反応。来る」


 即座に俺とカイが得物を抜いて前へ出る。Cランクの魔物相手なら全く問題はないが、何が出てくるのかが分からない分警戒が必要だ。皆、頭を切り替えて真剣に辺りの様子を窺っている。

 暫く警戒をしていると、悍ましいものがこちらへ向かっていることが俺にも分かった。


 「うわー、これが悪魔(デーモン)の残滓ってやつか。お守り(チャーム)有りでこれだったら、悪魔(デーモン)本体に遭遇したらやばいな」


 「ああ。念のため精神保護(プロテクトマインド)を切らさないようにするべきだな」

 

 「うーん、そうなるとあたしがあんまり魔術撃てなくなるよ?」

 

 「大丈夫、私がやる」


 こういう時、臨時で組んでくれたユッカの存在が大きい。常に補助魔術をかけて安全を確保できるというのはなかなか難しいからな。

 俺達はまずは目の前の魔物を片づけようと、視界に入ってきた人型の魔物を見据える。


 板金鎧を着けているのが一体、皮鎧を着けているトロルが二体。トロルの見た目は出発前の会議で見た全身画とほぼ同じだ。それぞれの魔物は、カイの背を超える程の大きさの大剣を握っている。


 最初にカイが板金鎧へと駆けた。「あー! いちばん美味しそうな奴をー!」なんて声が後ろから聞こえてくる。まあ魔術師が二人居るし、俺の出番はないと思うが念のため警戒だけはしておく。

 

 「氷は氷に。冷徹なる槍と化し、刺し貫け!」

 ユッカの魔術で左側のトロルの頭に氷の槍が突き刺さり、そのまま地面へと縫い付けられる。ちなみにハイエムの知るところではなかったが、これは四種混合魔術だった。


 「大地よ、我が命ずる。暴虐的たる御身は鋭き意思と共に放たれよ!」

 自然体のユッカが放った四種混合魔術に驚愕しながらも、イルミナは尖鋭岩矢(シャープロックアロー)で右側のトロルの頭半分を吹き飛ばす。


 そして中央の板金鎧はというと、大振り気味の大剣がカイの刀に撫でられるように剣筋を逸らされ、カイの踏み込みからの一閃で被っているヘルムごと首が飛ばされた。相変わらず意味の分からない技量だ。ユッカといいカイといい、Aランクになるにはここまで常識外れになる必要があると思うとつい遠い目をしてしまう。

 首から黒い血を噴き出しながら崩れ落ちる板金鎧に、こいつの中身はハイトロルと検討をつける。今のところは大群に囲まれない限りは問題ないな。


 全ての魔物が事切れたことをを確認すると、俺はミスリル製のナイフを取り出し、トロルの耳を切り取り、魔力結晶を抉りだす。こいつらがアホみたいな威力を出せるから、中々出番が回ってこないのだ。なので大抵は残った作業――討伐部位の回収や剥ぎ取りが俺の仕事になってしまう訳だ。


 俺が剥ぎ取りを終えたことを伝えると、イルミナがトロルに焼却(インシニレート)をぶっ放す。


 「情報通り本当に居たな、トロル。疑っていた訳ではないが」

 

 「武装したハイトロルまでいた」


 「イルミナ、どうする? 一応成果はあったし、野営地に戻るか?」


 俺の質問にイルミナは顎に手を当てて少し考え込んだ後、首を横に振った。


 「どうせなんだから、進める所まで進んじゃおうよ。念のためアヤちゃんも探さないといけないしね」


 どこか楽しそうに目を細めるイルミナに内心やれやれと思いながら、森の奥に進むべく目の前の邪魔な木の枝を斬り落とした。

ちなみにリョウの受け流し?は自己流なので思いっきり間違っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ