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自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
14/48

01-06(旧) 尊敬?

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 「それで、あれから森で問題は起こらなかった?」


 ティアと二人でキャロを思う存分堪能(ナデナデ)し、キャロ分を補給した後にやっと本題に入る。元々キャロを手伝うって約束だったからね、そこを忘れてしまってはいけない。


 「はい、特に問題は起きてないです。なのでたくさんアヤお姉ちゃんのお手伝いができます!」


 えへん、と胸を張るキャロ。キャロが頑張ったおかげなのかは分からないが、問題が無いようなので良かった。


 「そうか、何もないならよかった。ふふ、キャロが手伝ってくれるなら百人力だね、心強いよ」


 前回はキャロのおかげでスムーズに森を抜けられ、さらにいろいろな素材を採取できたのだった。そしてそのおかげで高ランクの依頼を受けられるっていう特別な許可も下りたみたいだったし、まさに本心からの言葉だ。


 「それほどでもないです……」


 そして恥ずかしそうにキャロがぼそぼそと言う。持ち上げられ慣れてないのか妙に親近感を覚えてしまう。そんななんとも言えない気持ちを誤魔化すようにキャロの頭をぽんぽんとなでる。


 「じゃあ、説明しておこうか。今回受けた依頼なんだけど、まずここに書いてあるものを優先して狙っていきたいんだ。ちなみにこれは冒険者になった証の冒険者カードだよ」


 俺はそう言いながら冒険者カードを取り出す。依頼受注内容が書かれているので見せると話が早いと思ったのだ。



|受注依頼:

| ブルーウルフの毛皮集め[12](5枚~) ナコル草の採取[20](出来高制)

| シェイムボアの牙集め[24](4個~)



 「この冒険者カードってものはなにやら凄そうな感じがします!」


 冒険者カードを受け取ると、目をきらきらさせて眺めるキャロ。森に住んでるだけあって、その外の情報なんてそうそう入ってこないのだろう。そんなキャロの様子にどうしたものかと考える。冒険者の存在は知ってるみたいだけど一応その辺りから詳しく説明しておいた方がいいかな? なんて考えていると冒険者カードをみつめたキャロが言う。


 「それで、ここに書いてある受注依頼、ってやつを狙うのですね」


 おおう、すごく物分りがいい。狙う獲物について話すだけでよさそうだ。


 「うん、そういうこと。ブルーウルフ5体、シェイムボアを2体倒して、ナコル草をぼちぼち集めるのが目的。それとゴブリンも対象だから、近くに居たら狙っていきたい」


 「ということは魔物避けは無しで、私はナコル草を探せばいいということですね!」


 キャロは幼い見た目からは想像できないくらい聡かった。見た目の年齢は小学校入学したてぐらいだろうか。そんな姿とのギャップがすさまじい。


 「うん、その通り。キャロは頭の回転が速いなあ。将来はとても賢くなりそうだね」


 頭を撫でられたのと、褒められたのとのダブルコンボでキャロがほにゃっとした表情を浮かべる。……ぐっ、収まれ俺の右腕! また撫でる会が始まると無限ループになる予感がある……!


 「だから安心して魔物は私に任せてね。キャロには手間をかけさせちゃうけど……」


 「そんなことありません、アヤお姉ちゃんの手伝いは私がやりたくてやってるんです!」


 俺の言葉を遮るようにキャロが言う。言葉からはものすごい慕われている感じが伝わってきて、とてもくすぐったい。そんな感覚も悪くないと思いながら、同時にどこか引っかかるような感じがする。気のせいだといいのだが。


 「じゃあ、ナコル草はキャロに任せることにするね」


 「あいさ、です!」


 ぴし、っと敬礼のようなポーズをとるキャロ。垂れる萌え袖のせいで非常に可愛らしい、うん。そんな俺の感想に同調するかのようにティアがまくしたてる。


 (リョウの世界では萌え袖って言うんだよね。いやー、まさかこんな身近なところにこんな可愛らしさが潜んでいるなんて、まだまだ可愛いの奥は深いね。リョウの世界の文化は進んでるようでいいなあ、もし行くことがあったら、とても楽しめそうだよ)


 (元の世界に帰れる日がきたのなら、ぜひティアも連れて行ってみたいな)


 ティアの趣味は日本のサブカルチャーと見事にマッチしている気がするし、地球でも上手くやっていけそうな予感がする。


 (え、それってプロポーズ!? 俺が元の世界に帰っても、ついてきてくれないか、っていう!?)


 訂正。上手くやっていけるにしても、性格がこれじゃ不安感しかないなこれ。

 ……それより、当分は目先のことに集中しないと。帰るための方法を探すにしても、まだまだこの世界中を探索するには足りないものが多すぎる。情報も実力も無い無い尽くしなのだ。



 そしてキャロが森の道をつくる魔術を使いつつの探索を始めてから数分で「あっ、ナコル草です!」と発見報告があった。キャロの指差す前方に、見覚えのある植物が群生している。たしか前回も採取してた覚えがある草だ。


 「これなら一気にたくさん採取できそうだね」


 「はい、幸先がとてもいいです」


 にこりとキャロが笑みを浮かべ、そしてナコル草へと駆けて行こうとしたが、俺はそれを手で制して止めた。


 「……ナコル草の向こうに、2体、何かいる」


 不思議なことに2体何かがいるのを確信をもって感じた。ううむ、いきなり何かに目覚めた? 身体加速(アクセル)って前例はあるけどそうそう目覚めるものではないだろう。


 (ん? 不思議な話じゃないよ。魔物は魔力が関係しているらしい、みたいな話をしたでしょ。だから昨日のアレで、魔力を繊細に感知できるようになったから、分かるようになったのさ)


 (なるほど、いきなり気配を察知できるようになった訳じゃなくて、魔物の魔力を検知できるようになったんだな。これで狩りが捗りそうだ)


 ティアの謎の技をまた一つ理解してしまった。というか技能ではなかったんだな。

 ……と思ったのは甘かったみたいだ。


 (いやいや、魔力を感じるだけってことは普通の人や道具の可能性もあるし、魔力を持たない存在もいるんだから、それだけで判断するのはだめだよ。探知の技術や魔術はとても奥が深くて、高度なものなんだよ。特に魔術でやろうとすると、それはもう魔力の消費がすごいことになるよ)


 脳裏によぎるレッドボアとの戦闘。探知魔術の方が魔力消費が少なそう、とか考えていたよな俺。思わず頭を抱えてしまう。無知ってこわい。ほんとあのときはティアありがとう、精霊さんもありがとう。


 そうこうしているうちに、俺の魔力検知に反応したものが姿を現す。


 「あ、なんだ、ゴブリンか」


 ゴブリンは茂みから姿を現すなり、こちらへとダッシュしてきた。無論、足元なんて見ている訳がなくて――


 「ああああーーー! せっかくみつけたナコル草がーーーー!」


 キャロの叫びと共に、ゴブリン達によって無残にもナコル草は踏み潰されていった。


 俺は剣を抜き放つと、ゴブリンへ駆ける。ゴブリンは二匹とも仲良く並んでこちらに走ってくる。俺は右手で持った剣を左わき腹あたりで握るように構える。そして間合いに入ったと思うタイミングで一気に剣を振りぬいた。おお、しっかりと手首の力まで使って弧を描くようにしたお陰か、遠心力を感じる。

 剣を構えた位置からはゴブリンの首は狙えなかったが、その代わりに剣閃は二匹のゴブリンの腕と胸を斬り裂き、鮮血が飛び散った。そして斜め後ろ方向へのバックステップ。この行動は一撃で屠れなかったときの保険と、噴出する血を避けることを兼ねている。経験って大事だよな。


 そしてその様子を後ろからぽかーんと見つめていたキャロが、剣を収めたタイミングで一気にまくしたてる。


 「あ……アヤお姉ちゃん、凄いって話どころじゃないですよ! 一撃でゴブリンを二体同時とかどんな達人技なんです!?」


 キャロの中で俺に対する評価が不当に上がっていく。いやさ、ただアホなゴブリンが仲良く併走してきたからこうなったんだよ。


 「えーと、なるべくいい武器を使ったおかげでもあると思うよ。この件、魔鋼ってので造られてるらしいんだけど、斬れ味や振り心地がちょうどいいんだ」


 「魔鋼……? え゛っ゛、あの魔鋼です!? あの超絶重いって知識のあの魔鋼!? それの剣ですか!?」


 混乱しているのか、ローブの首元をつかみ、ぐいぐいと前後にゆすってくるキャロ。超絶重いってことはさすがにないだろう。俺がぶんぶんと振り回せるくらいだしな。


 「うん、その魔鋼のはずだよ。……試しに持ってみる?」


 重いという言葉が少し気になり聞いてみると、「ぜひ挑戦してみたいです!」とキャロから即答が返ってきたので試しに持たせてみることにする。俺は鞘ごと魔鋼の剣を外し、念のためそれをそっと草地へと置いた。


 「直接渡すと危ないかもだから、地面に置かせてもらったよ。さ、試してみて」


 「はい、アヤお姉ちゃんの武器――それも魔鋼製のものにふれられるなんて、私、とても幸せです!」


 キャロは大げさだなあ、なんて思いながら持ち上げる様子を観察していると、両腕を使って力を込めているようだけど魔鋼の剣はほとんど動いていなかった。そして真っ赤になっていくキャロの手と表情を見るに、本気で力を入れているのだろう。……え、これって、こんなに重いものだったの?


 (やっぱリョウは一般常識も勉強すべきみたいだね。普通に考えて、身体能力の高いはずの吸血鬼族にとってちょうどいい重さの剣って、一般人からしたら絶対異常なものでしょ?)


 そこまで頭が回らなかったのがうらめしい。あの剣、試し振りとか言ってイルミナさんとか武器屋のおっちゃんの前で何の躊躇もなく振ってたんだよな……。うう、絶対変な目で見られてた……。


 「はあ、はあ……ちょっと動かすだけしかできませんでした。こんな重いものを軽々と振り回すアヤお姉ちゃんってやっぱり凄いです!」


 そしてキャロも一般常識からどこかずれており、変な目で見られるどころかただ俺の評価が上がることになってしまった。あああああ、これを普通と思うようになってはいけない。


 「私、(この世界で)生まれつき(吸血鬼族の身体だったので)力が強いみたいだったからさ、こういうことができちゃうんだ」


 嘘は言っていない。

 

 (リョウってわりと腹黒いのかな……)


 (失礼な。正確な情報しか言ってないじゃないか。全ての情報とは言っていないけど)


 (もしかしたらリョウは貴族とかに向いてるのかもね。作法とかの知識はないけど、頭の回転は早いし、読み書きに計算、なんかよく分からない複雑な計算までできるじゃない)


 (貴族はなんかいろんなしがらみに縛られそうで嫌だ)


 この世界の貴族のことはよく知らないが、おそらくこの世界でもイメージ通りなのではないだろうか。お金や権力を持ち、常に派閥争いにぴりぴりしてそうなイメージ。うん、考えるだけで胃が痛くなりそうだ。


 (あははは、そうだね、実にその通りだ。うんうん、わたしもリョウは自由奔放に生きるべきだと思うよ)


 (自由奔放の塊みたいなティアに言われてもな……)



 ちなみに、まともに回収できたナコル草は3束だけだった。

 無念そうな表情を浮かべるキャロの頭を撫で、「次をみつければいいだけだろ」と何気なく言った。そもそもキャロが悪いんじゃないからな、ゴブリンどものせいだからな。その言葉を聞いた途端キャロの表情がぱーっと明るくなり、「そうですよね、次のチャンスを狙えばいいだけなんです!」と一気に元気になった。

 そんなキャロの様子に、どこか釈然としない感覚が消えない。


 そして再びキャロが森の道をつくる魔術を使い、すいすいと森の中を進んでいく。所々にナコル草は生えていたが、一束単位だった。それでも採取できるごとに俺に向かって嬉しそうな笑顔を浮かべるキャロ。そしてそんなキャロを撫でてしまう俺。


 そんな中で、俺は引っかかる感覚の正体に思い当たってしまった。

 俺はキャロに『依存』され始めてるのか。話によると、キャロは生まれてからまだ一月も経っていないのだ。右も左も分からないまま、ひとりドライアドの本能に従って動いて、凶暴な魔物に襲われた。そして俺に命を救われ、さらにやさしくされてしまったわけだ。整理してみると実に納得がいってしまう。

 洗脳にも近いこういうものは何とかしなければいけないのだが、どこかでそれを嫌だと思う自分がいる。なんだろう、よくない傾向だ。



 ―――――



 その後、ちょうどお昼時ということもあって、キャロと一緒に昼食を摂った。メニューは道中でキャロが見つけたルコの実と俺が持ち込んだ普通のビスケット。ルコの実は小ぶりのみかんぐらいの大きさで赤くつやつやした見た目だ。キャロに教えられそのままかじってみると、甘酸っぱくてラズベリーのような味だった。甘さとすっぱさのバランスがちょうどいい感じにすっきりしていて、ついつい夢中になって食べてしまった。

 そしてビスケットを初めて食べるキャロは、初めての食感に驚きながらも、ほんのり甘くておいしいです、と頬を緩めながら食べていた。

 ちなみに他に持ち込んだ食料で木の実とかはいいのだけれど、干し肉(何の肉かは覚えていない)なんかはキャロが食べて大丈夫なのかな、と思って念のために聞いたところ、自然のものは何でも食べられます、とのことだった。加工してるとはいえ、干し肉も元は動物の肉だし、自然のものといえるんだよな。ビスケットだって元は穀物なのだし。


 そして少し休憩をとる。ぽかぽか陽気に心地よい風、風で木々が揺れ葉っぱの擦れる音、鳥たちの鳴き声。相変わらずこの森は心地いいなあ、とまったりと時間を過ごす。そしてふと魔術の練習をやっておいたほうがいいかな、と指先に魔力を集める練習をしてみる。朝よりかはスムーズに魔力を集められるようになった気はするが、まだまだ道は長い。


「あれ、アヤお姉ちゃん、魔術の練習してるんですか?」


 集まった魔力の反応に気付いたのか、のんびりとしていたキャロが聞いてくる。


 「うん、まだ制御の練習の段階だけどね。未だ属性のつけ方とか分からないし、一応ティア先生からはしばらくこの魔力を制御する訓練を欠かさず行いなさい、って言われてるだけだからね」


 「アヤお姉ちゃんって剣士かと思ってたけど、魔剣士を目指してたんですね! 今のアヤお姉ちゃんっでも凄い、って思ってるのに、これ以上凄くなったらもうどんな反応していいか分からなくなります」


 その言葉に俺は曖昧に笑って誤魔化す。というのもこの魔術訓練は、戦うためじゃなくて吸血鬼族として生きるために必要だから学んでいるんだよな。誤魔化す以外にどうしろっていうのさ。


 「まあ、まだまだ先は長いらしいし、こつこつとだけどね」


 「私は生まれてからすぐに魔術が使えたので、そういう努力をしたことをしたことがなくてなんだか少し心苦しいですが、アヤお姉ちゃんならすぐに素敵な魔術が使えるようになると思います!」


 なるほど、ドライアドは生まれつき魔術が使える種族ってことなんだな。種族にもいろいろとあるんだなあ、とのほほんと考える。吸血鬼族然り。ちなみに人間族は特になし、なのかな。生まれた種族でそれぞれ違うのなら仕方ない話なのだし、キャロがそこまで気にする必要はないんだよな。


 「キャロはドライアドだから、生まれた時から使えたってことなんだろうね。私とは種族が違うってだけの話だから、気にする必要なんて全然ないよ」


 隣でくつろぐキャロの頭を撫でる。まだ少し複雑そうな表情をしていたけれど、撫でている内に頬がゆるんでいくのが分かる。ナデナデは異種族間でも共通です。


 「そういえば今言った『ティア先生』ってアヤお姉ちゃんのお師匠さんですか?」


 おおっと、うっかり口にしていたのを忘れていた。(ちゃんとティエリア先生と呼んでください!)とか聞こえてくるのは無視無視。


 「そうだね、私の師匠……みたいなものかな。ちょっと言動に難はあるけれど、私の知らないことをたくさん知っているし、…うん、すごいひとだよ」


 (ああもう、そんな褒められると照れるじゃん。でもそうかそうかー、そんな風に思ってくれてたんだ)


 ティア先生は満更でもなさそうにしている。そういえば今までで褒めたことってあったっけ。思い返してもボケとツッコミの印象ばっかりしかないぞ。


 「アヤお姉ちゃんのお師匠さんってことはすごい方なんですね。 いつかお会いしてみたいです!」


 こればかりはさすがに無理なので、機会があれば紹介するね、とお茶を濁しておいた。

 そういえば、この前のときにキャロの前で暴走してたし、既に話してたりするんだよな。

次話は16/08/27、28のどちらか、18:00予定です。

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