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自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
12/48

01-04(旧) ショッピング

気づいたら加筆しすぎて20000字付近に。せっかく分割したのにどうしてこうなったのさ。

でも後悔はしていない。


18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 まずはアヤ(リョウ)たっての希望により、イルミナさんに靴が買えるお店へと案内してもらった。店内には見るからに安そうであまり持たなそうな靴から、今アヤ(リョウ)が履いているようなしっかりとした革製の編み上げのブーツまで、さまざまな品が並んでいる。しかし残念ながら、アヤ(リョウ)に合うサイズの靴はあまりなかった。

 仕方ないので、サイズの合う中からふくらはぎの下くらいまでの丈の履きやすそうなブーツを選び、メインにしようと考えていた膝のあたりまでの長さのブーツをオーダーメイドで注文しておいた。それぞれ1,000イクスに4,000イクスとそれなりに値が張ったが、これから何度もシェイムの森に行くことを考えると安くないと思う。


 そして、すぐさま湿った編み上げブーツから履き替えようとしたのだが、既に脚は蒸れてしまっていた。そんな状態なのを見かねたのか、靴屋の主人のご好意で脚が乾くまでカウンター脇で休ませてもらっている。


 「いきなりオーダーメイドとか、思い切ったことするね」


 足をぱたぱたさせていると、イルミナさんが少し驚きを含んだ声で話しかけてくる。


 「この湿った編み上げブーツ、実はサイズが合ってないんです。それから、しばらくシェイムの森で路銀を稼ごうかと思っているので、足回りにはちゃんとお金をかけておくべきだと思ったんです」


 それは森を抜けてきた実体験から学んだことだった。足元にいろいろな植物が生い茂っている森では、丈の長い編み上げブーツのおかげでかなり楽に進むことができたのだ。足元が安定しているということは、それだけ危険が少なくなるだろう。

 ちなみに主人は大急ぎで仕上げてくれるらしく、一週間後(六日後)に出来上がるとのことだ。普通オーダーメイドといえばもっとかかると思っていただけにありがたい話である。


 「へえ、そういうことちゃんと考えてるんだね。えらいえらい」


 そう言いながらイルミナがアヤ(リョウ)の頭を撫でる。

 今日出会ったにしてはやけに距離感が近いように思えるが、頭を撫でられるのは思ったよりも気持ちがよく、なんとなく安心感も感じたこともあり、撫でられるがままにされていた。

 

 ちなみにティアから教えてもらったことなのだが、この世界での日付は一週間が6日。それぞれ火、水、風、土、光、闇の日と曜日のように呼ばれている。

 そして一月(ひとつき)は5週間で、30日固定。そして月は一月(いちがつ)から十月(じゅうがつ)までしかなくて、一年は300日。

 1月から2月が春、3月から5月が夏、6月から7月が秋、8月から10月が冬らしい。天体の動きの違いもあったりで、さすが異世界といったところだろうか。

 ちなみに今日は1月24日。まさに春真っ只中で、納得のぽかぽか日和である。


 ―――――


 「さよなら蒸れ蒸れの気持ち悪いブーツ! こんにちは新しいブーツ、よろしくね!」


 上機嫌のアヤ(リョウ)を微笑ましく思いながら、イルミナは手を繋ぎ次のお店へ向かっていた。アルレヴァでは服飾系のお店が東の区間に集まっているので、目的のお店に到着するまでそんなには時間がかからない。

 そして、次のお店の中に入った途端、上機嫌だったアヤ(リョウ)が固まった。アヤ(リョウ)の視界の中には、フリルがふんだんに使われたネグリジェやキャミソール、地味な見た目のものからプリーツやフリルがふんだんに織り込まれたものまで幅広いラインナップのドロワーズ、サイズ別に整理されているのか、色とりどりの生地や加工が施されたブラジャー、そしてそのブラジャーとセットになっているのか、同じデザインのものが並べられているパンツ。

 まごうことなく、そこはランジェリーショップだった。何でこんなところに立っているのだろうかという違和感がすさまじい。ただただここに居るのを場違いに感じてしまう。


 「えーと、一応聞いておくけど、今着てるの以外に替えの下着って持ってる?」


 そんなアヤ(リョウ)の様子を(こういう大人っぽいお店に来るの初めてだったのかな)なんて考えながら、イルミナは念のために聞いた。


 「も、もう一セットだけありまス」


 俺は店内のピンクな雰囲気に圧倒されながらも、なんとか答える。そのせいでおもいっきりカタコトになってしまった。

 イルミナは少し考えを巡らせると、アヤ(リョウ)の手を引き、試着室に連行した。そして、「ちょっと失礼するよ」といって中腰になり、アヤ(リョウ)の着ているローブをめくり上げた。


 「!?!?!?」


 イルミナの思わぬ行動に声にならない音がアヤ(リョウ)の口から溢れた。女の子にローブを捲り上げられて下着を見られてるこの羞恥プレイは何だ。下に穿いているのはドロワーズだからまだマシな気はするけど、それでも相当恥ずかしい。


 「ふむふむ、シンプル目なドロワーズと。……あれ、妙な位置が染みになってるね。うーん、折角だから買い替えちゃおうか。それでもって上は…」


 めくり上げていたローブの裾から手を放すイルミナ。思わずすぐにその裾を両手で押さえつける。

 そしてイルミナは立ち上がると、今度はおもむろにローブの首元を引っ張って中を覗き込んできた。ローブの裾をめくられる程じゃないけれど、こっちも恥ずかしいものは恥ずかしい。買い物のためにわざわざ確認してくれているのはわかるので、顔を赤くしつつなんとか我慢する。


 「ん、ブラじゃなくて布巻いてるの? うーん、これはちょっとだめだね。まだ成長し始めっぽいけど、こんなのずっとつけてると胸の形が崩れちゃうよ。ちゃんとブラつけないと」


 そしていきなり説教される図。ティアが用意した布だもの。俺悪くないよね? それに元から一時しのぎって話だったもんな。


 ちなみにティアは(親切な人を見つけられてよかったね。なんだかんだ言って冒険者の準備と女の子の準備は合わせたらかなり大変なんだよ)なんて脳内で言っているが、その言葉の端々からこの状況を楽しんでいるのが漏れている。このやろう。



 「店員さん! この子のサイズ図るのお願いします!」


 そんなこんなしているうちに女の店員さんを呼ばれ、サイズを測るためにローブを脱ぐことになってしまった。そして胸に巻いている布も、サイズが分からないからとするすると外されてしまう。もうお婿に行けない身体になっちゃった。

 そうして腰回りから胸、肩幅と測られ、こちらのブラジャーがサイズの合う商品になります、と水色の水玉模様の可愛らしいデザインのブラジャーを手渡される。イルミナも店員さんもなんだか微笑ましい目で見てくるし、ティアはずっと笑いをこらえているしで、俺は覚悟を決めることにした。

 手渡されたブラをまじまじと見つめる。水玉模様のカップの反対側は柔らかめのシンプルな生地になっていて、おそらくこっち側が胸に直接触れる方なのだろう。となると胸に当てるカップの部分から上に伸びている紐は肩に当たる部分。そして横へと伸びている布地は留め金がついているから、背中側で止める。おそらくそんな感じのはずだ。

 まずは前後を間違えないように肩に紐を通す。そして紐や布地を捻らないように背中側へと引っ張って、留め金を……あれ、引っかからない。ぬ?

 そのまましばらく格闘し、ようやくパチリと音がして留め具がはまる。ふう、ついにやったぜ。努力の成果を目に焼き付けようと目線を下に向けると、結局右肩の紐は捻じれている上に、ブラジャーは全体的に上の方に装着されていたようで、けっこう危ない見た目になっていた。まだ幼い身体なのに目に毒な光景だ。


 「ねえ、アヤちゃん。もしかして、ブラジャーつけるの初めてだった?」


 俺はこの残念さを前に、ただ「うん……」と頷くことしかできなかった。



 そして十数分後、レクチャーを受けた俺は手馴れた手つきでブラジャーを着けられるようになっていた。肩紐は最後。最初は脇の下を通して前後反対に装着。胸の前で留め金を止める。そしてくるりと前後を回転させ、カップの位置や胸の位置を調整。あとは肩紐を通すだけ。

 うん、あの苦労は何だったんだろうね。分からないなりに頑張ったのに物悲しい。


 ちょっとだけ苦労を共にしたこの水玉模様のブラジャーは買うことにし、このまま着けさせてもらうことにした。今まできつく胸に巻いていたのと違う、ほどよい圧迫感。よく考えられているんだなと思いながら、同サイズのものをもう二枚だけ買うことにした。一つは白色でレースと少しばかりのフリルで装飾されたシンプルな一品。もう一つは桃色でフリルがふんだんに使われ、ちょこんとリボンのついた可愛らしい一品。イルミナに押し付けられたこちらはさすがに俺にはまだレベルが足りないように感じたので突き返そうと思ったが、アヤ(ティア)が「わあ、すごく可愛い!」なんて割り込んできたので気が付けば購入リストへと加えられていた。

 そしてそのまま流れるように寝るときにつけるブラジャーも購入リストに放り込まれる。こちらは普段つけるのよりもゆったりとしてる。店員さんからちゃんと寝るときも専用のブラジャーをつける方が形良く胸が成長するのだ、成長期からちゃんと手入れをすることが重要なのだ等長々と力説され、そしてその勢いにつられるがままに購入を決めてしまった。

 しばらく物色していたせいか、気づいたら何やら下着に愛着が湧いてしまっている。……うん、女の子の身体してるからこれは仕方ないんだ。


 そして次はパンツ選びへ。とはいっても、俺の中ではドロワーズ一択だった。ズボン状なので割と違和感はないし、何よりローブがめくれてしまってもパンツよりかは恥ずかしくない。意気揚々と物色しているところ、スカートの裾からちらりと見えるような長さのものを身に着けることで可愛さをより引きだせる云々と無駄な知識をティアがら教授されてしまう。

 そしてドロワーズも三枚買うことに決めた。ちなみに白色と桃色と水色で、それぞれにレースとフリルがあしらわれどれもシンプルからかけ離れたものだった。そしてそれぞれはブラの色に合わせたようなチョイス。間違いなくイルミナさんと店員さんのせいだ。


 (ふふふ、こんな可愛らしいの選んじゃって。女の子の楽しみがちょっと分かってきたかな?)


 (ほとんどイルミナさんと店員さんに押し付けられたようなものだけどな!?)


 ちらりとお店のカウンターの方を見る。そこには、選んだ下着が丁寧に並び重ねられていた。選んだものは店員さんに渡していたのだが、あそこにストックされていたのか。

 そして見覚えのないものまで重ねられているのに気付いた。あれは肌着の部類かな。ローブの下がすぐ下着というのも問題だもんな。おそらくイルミナさんが選んでくれたのだろう。イルミナさんは出会った時の印象が強すぎて一癖も二癖もあるような人だと思っていたが、服飾のセンスは中々なのかもしれない。なかなか無難なものや俺の好みのようなものを次々と持ってくるのだ。


 そんな中、そういえば寝巻に着るものも欲しいなと思い、ネグリジェを物色してると、世間話でもするかのようにイルミナさんが話しかけてきた。


 「そういえばアヤちゃんは初経はまだきてないの?」


 しょけい? 聞かない言葉だ。処刑じゃないだろうし、何だろう。

 そんな脳内に浮かぶ疑問に答えるかのように、ティアが教えてくれる。


 (ああ、アレだよ。月経。初めての月経のこと)


 「ぶっ」


 思ってもいなかった言葉が飛び出してきて、思わず吹いてしまった。そうだよな、女の子の身体だものな、うん。元の世界でもちょっと知った気でいたけどやっぱりよく分からん。元の世界で妹が辛そうにしていたのだけは覚えている。


 「その様子だとまだみたいだね。でもそのくらいの身体だったらいつ始まってもおかしくないから、準備と心構えはしておいた方がいいよ」


 経験者は語るというやつだろうか。ベージュ色のショーツが購入物の山へつ積みあげられながら月経についてレクチャーされる。ショーツと清潔なタオルは常日頃から用意しておくこととか、兆候はあそこに液体がでることとか、初経の時の血は大したことないけどだばだば出るようになるからちゃんとタオルを充てて甘く見るなとか、重さ辛さは人によって違うけどよほどひどいなら治癒魔術で一時しのぎになるとか、大体一か月周期でくるから予測が立てられるとか、あれやこれやと次々とレクチャーされる。あまりに生々しい話を前に、女の子はいろいろ大変なんだなあ、とか、そういえばこの世界には便利な生理用品なんて無いだろうから面倒なんだろうなあ、とかが頭をよぎる。


 そして気がつけば、4,200イクス分の下着肌着寝巻靴下を買って、次の店へ向かっているところだった。思えば女の子になってしまってから初めてのこの身体に対する現実逃避だった。いままでのらりくらりとやってきた身にとって生々しい話はショックがあまりにも大きかった。


 次のお店では反物やハンカチ、タオルを扱っているお店だった。ぼんやりとする頭のまま、ワンポイントの入ったハンカチ三枚と宿用の大きなタオル二枚、そして手ぬぐいサイズのタオル六枚を購入することになった。しめて800イクス。イルミナさんも特に物色するような品物はなかったようなので、早々と次のお店へ。



 次は服屋だった。数軒並ぶうちの一件で、ここのお店が一番値段と質のバランスが良く、可愛い服を中心に扱っているとのこと。お店に入ってから数分で既にイルミナさんから白色の可愛らしいデザインのワンピースを手渡されている。

 ちなみに試着させられたときのイルミナさんの感想はというと、

 『アヤちゃんは白い服が似合うね。可愛い顔立ちしてるし、髪も綺麗だし、肌の色も白いし、貴族のお嬢様って言われても納得しちゃいそう』

 とのこと。アヤ(リョウ)は褒められて割と満更でもなかったが、そもそもここへ来たのは森へ行くときに着ていく汚れてもいいローブを買うためだったので内心すこし複雑だった。


 そしてイルミナさんの次の襲撃の前に、真っ黒いローブが並べられているのを発見した。アヤ(リョウ)はそのうちの丈夫そうな三着を手に取る。そして一応試着だけはしておこうかと試着室へ向かう。裾を地面に擦らなければ着られるのだが、その分武器を握るために袖が邪魔になる。せめて指が出るくらいの袖の長さであることを確認したい。



 そんなアヤ(リョウ)の様子を見つめながら、イルミナは見るからに旅や冒険者とは縁の遠そうな見た目なのに、的確に買う物を選ぶなあ、と感心した目を向ける。いくらイルミナが最初に手渡したワンピースのようなデザインのよい気に入った服があったとしても、それは冒険者には向かない服なのだ。何せ、依頼の中で服なんて簡単に汚れ、ボロボロになっていしまう。特殊な繊維が織り込まれた服や加護のついているものなどはそう簡単にダメにならないのだろうが、おいそれと手に入るものではないのだ。

 その点、アヤ(リョウ)は汚れてもよさそうなローブ自体を目的に来ていたようだった。


 (なんて考えてても、いろいろと押し付けてやるんだから)


 思えばアヤ(リョウ)は女の子らしいところとそうでないところが混ざってちぐはぐに見えるのだ。むしろ女の子らしくない部分の方が大きい。せめて外見だけでも気を使ってほしい、とはイルミナの本音だった。



 試着室で確認を終えた時、俺はそういえばキャロも萌え袖を気にしていたなあ、と思い出した。そしてお土産にでもしようかな、とキャロのためのローブを探すことにする。頭一つ分ともう少し背が低かったな、と思い出しながら、浅緑(あさみどり)色のローブを選ぶ。彼女が着ていたのはもっと濃い萌葱色(もえぎいろ)のワンピースだったので、色の濃淡でちゃんと差が出ている。うん、いい感じになりそうだ。


 その後も二度イルミナから襲撃に逢い、ブラウスとスカートのセットやドレスみたいな服などを試着させられた。前者は清楚さのある組み合わせで、こちらは購入リストに加えられた。後者は……うん、さすがに突き返した。確かにその赤色のドレスはアヤ(リョウ)には似合っていたのだが、一人で着られないのは大問題すぎた。ティアから不満げな声も聞こえてきたりしたが無視無視。買ったとしてもクローゼットの肥やしになるだけに違いない。

 目的のものを見つけた俺はついでに何か良さげなものはないかと店内を見回る。すると白が基調の、派手すぎない落ち着いた加工がされたローブを見つけ、気に入ったのでそれも手に取る。ちょうど今着ているローブと色合いが正反対のような一品だ。そのまま服の山を抱えてえっちらおっちらと店内を巡っていると、見るからに目を引かれるそれを見つけてしまった。

 白と黒が基調の、フリルとレースがふんだんにあしらわれた、ワンピース状の編み上げの服。いわゆるゴスロリ調の可愛らしいその服に、思わず目が行ってしまう。他の服と異なり、細部まできちんと手が入っているようである。試しに裾を捲って裏地を確認すると、しっかりと裏側も加工がされている。服に詳しくない俺から見ても明らかに他の衣服とはクオリティーが違うことがわかる。値札を見ると、5,000イクス。出来のよさからいって納得の値段ではある。そしてもちろん買えないことはないのだが……

 この服を着て、街を闊歩しているところを想像する。うん、似合いすぎる。金色の髪と紅い眼の人形のような見た目に、たくさんフリルあしらわれた可愛い服、そして歩く度に裾が揺れ、ドロワーズの裾のがちらりと見えるイメージ。よりこの身体の可愛さが引き立ちそうだ。正直、その素敵すぎるイメージの前では性別なんてどうでもいいと思ってしまった。


 (うん、これは職人の技巧の詰まった素晴らしい服だね。こんな品はほぼ出回らないし、是非とも買っておくべきだよ!)


 そしてティアの一押しもあり、すぐさま店員さんを呼んでサイズを確認してもらう。どうやらちょうどのサイズのものの在庫があるようで、直ぐに購入できるようだった。

 しめて8,800イクス。半分以上が思わず買ってしまったゴスロリ調の服の価格だが、後悔はない。


 「うーん、あまり可愛すぎる系のは好みじゃなさそうだと思ったけど、そういうわけでもなかったんだね」


 ほくほく顔のアヤ(リョウ)を見つめながら、イルミナは納得したように頷いていた。


 ―――――


 そして次は武器屋へと連れていってもらう。武器屋は中央区画にあるので、少し歩くことになる。それにしても、この短時間ですっかりイルミナさんに手を繋がれるのに慣れてしまった。


 シェイムの森で使っていた短剣は魔鋼と呼ばれる特殊な金属から作られたものらしく、切れ味はすさまじいのだがリーチが短すぎて武器としては扱いづらかったのだ。なのでもっと剣身の長い剣が欲しいところだったのだ。


 そして武器屋へと到着し、イルミナさんの後ろに続いてお店に入ると、ガタイの良いおっちゃんから声かかった。この世界、おっちゃん率高い気がする。


 「よう、らっしゃい……お、イルミナか! 残念ながら新しい杖は入ってないぜ」


 どうやらこの武器屋のおっちゃんはイルミナさんの知り合いみたいだ。


 (ちなみにわたしは細身の男の人や女の人、それにショタっ子やロリっ子が好みだから、むさいのは御免こうむる。あ、でもでも、ダンディーで紳士的な人とかはいいな…うへへ)

 ストライクゾーンが方々に飛びまくってるなこの吸血鬼。


 「こんちはー、おっちゃん。今日はあたしじゃなくて、この子の買い物に付き合ってるんだ」


 「はじめまして、お世話になります」


 ぺこりと頭を下げ、挨拶をする。右も左も分からない場所では、こういう何気ないコミュニケーションが大切なのだ。きっとおそらくたぶん。そんなアヤ(リョウ)に向かっておっちゃんは笑みを浮かべると、親しげに話しかけてくる。


 「おう、可愛らしい嬢ちゃんだな。イルミナと同じ術士か?」


 やはり杖を持っている=術士と思われるのだろうか。うーん、ここまで連続で勘違いされるのなら、ある程度ティア先生の魔術講座が身に着くまでは持ち歩かない方がよさそうだ。


 「いやそれがね、この子の得物は剣らしいんだよね」


 「うははは、それはすごいな! ゆっくり見ていってくれよ!」


 店内には、剣から始まり、槍、斧、メイス、弓、杖とあらゆる武器が揃っていた。そして銅製から始まり、鉄製、鋼鉄製、魔鋼製、ミスリル製と素材が異なり、さらに形状やサイズにも一つ一つ違いがあるのだ。武器は冒険者にとって命を預けるものだからか、店内で武器を物色していた冒険者はとても真剣な眼差しで握り心地などを確かめていた。

 そして俺は安い素材のものから剣を物色していく。鋼鉄製の武器までは自由に手にすることができ、それ以上の武器は高価なためなのかケースに飾られているようだ。試しに適当に銅製の剣を手に取ってみると、見るからに質が悪いことが分かった。剣身は微妙にくねっており、握りの部分はアヤ(リョウ)の手でぴったりな程度に短く、バランスが悪い。これなら森でゴブリンから奪った剣の方が質が良いのではないかと思ってしまう。

 鉄製の剣も同様に質が悪く、特筆すべきところはなかった。そして鋼鉄製の剣を手に取る。今までの低品質の品から一気に質が良くなったように感じる。剣身は真っ直ぐに伸び、握りの感覚も問題がない。少し気に入ったそれを軽く縦に振り下ろしてみる。

 ……思ったより振り心地が悪い。おそらく、思ったよりも軽すぎるせいなのだろう、アヤ(リョウ)の手では力が乗り切らないように感じ、元の棚へと戻す。そしてもう一ランク上の魔鋼製の剣を物色しようと、高級素材の武器が陳列されているケースへと向かう。そして目当ての魔鋼製の剣が並べられているのを見つけた。刃渡りは50cm程でやや長い気はするが、握りも見た感じ良さそうで、アヤ(リョウ)の手の大きさだと両手で扱うこともできそうだ。値段は30,000イクスとかなり財布に痛い。

 使い心地を試させてもらえないかと、おっちゃんに聞いてみる。


 「すみません、この魔鋼製の剣なんですけど、振り心地を試させてもらえませんか?」


 「ああ、かまわないが……嬢ちゃんにはちょっと荷が重いんじゃねーかな」


 ちなみに魔鋼製の武器はミスリルに次ぐ切れ味と耐久性があると言われるが、かなりの重さがあるのでおいそれと扱えるものではなかったりする。もちろんその事はリョウの知るところではなかった。


 「いや、アヤちゃんなら大丈夫だと思うよ。……大丈夫だよね?」


 イルミナさんがフォロー? を入れてくれる。自分で言っておきながら途中で不安になるなよ。


 「イルミナの知り合いってことならまあいいだろう。よし、これだ」


 ケースから魔鋼製の剣が取り出されて手渡される。短剣や鋼鉄の剣とは明らかに違う、手になじむかのようなずしりとした感覚。

 剣を振るスペースが欲しいので庭を借りて良いかと聞くと、二つ返事で許可をもらえたので、魔鋼製の剣を手にしたままカウンター横のドアから店の庭へ出る。アヤ(リョウ)の腕っぷしが気になるのか、イルミナさんとおっちゃんも庭へと見物に出てくる。店放っておいて大丈夫なのか。


 そして、まずは剣道の授業を思い出しながら数回素振りをする。元の世界で真剣を扱わせてもらったときとは違い、ぴたりと剣先が止まる。重さも握り心地も問題なさそうだ。

 次に、ゴブリンを屠った時を思い出しながら、横への一閃を放つ。やや剣先はぶれたがイメージ通りの剣筋だった。続いて手首を返しての袈裟斬りのような剣閃。これも大きな問題は感じられない。今度は短剣の時のように逆手に握ってみるが、これはすぐに剣身が長すぎて使えないと悟った。

 そして再び普通に握りなおすと、踏み込んでからの一閃を試す。もちろん、庭先を破壊しない程度に手加減をした踏み込みだ。切り上げから手首を返し、横への一閃を伴ったサイドステップ、そして手首を返して左からの切り上げ。剣筋はほぼ思うがままの動きをした。ただ、剣先がぶれてしまっているのはまだまだ修行不足ということなのだろう。

 そして、剣を鞘へと仕舞い、


 「うん、使いやすい。これ買います」


 と汗ひとつかかず、アヤ(リョウ)はにこりと笑顔を浮かべた。そんなアヤ(リョウ)の様子に驚愕の表情を浮かべるイルミナと武器屋のおっちゃん。魔鋼製の剣はその重さから扱える者が限られており、今アヤ(リョウ)が振るったサイズのものでも、筋骨隆々したおっさんが力任せに叩き斬るように使う代物なのだ。それを軽々と片手で、それも技術を乗せて扱った、見るからに剣が似合わぬ少女。

 これはもしかして、将来とんでもない大物になるかも、とぶるりと震えるイルミナであった。

 ちなみにアヤ(リョウ)は気に入った武器が手に入った上に、剣帯までサービスでつけてくれたので上機嫌であった。



 次は数軒隣にある防具屋へ。いくら吸血鬼族に急速回復があるとはいっても、できるだけ傷は避けたい。痛いのは嫌だものね。防具ひとつで傷を避けられるのだったらとてもありがたいはずだ。


 「らっしゃい! イルミナか、今日はどうした?」


 そして店の中には、武器屋のおっちゃんがいた。

 いや、正確には武器屋のおっちゃんの弟だった。こうしてみると髪型と服装以外の違いが分からないが、二人を並べて比べてみたら分かるのだろう。

 店に居たのは、そんな感じにとても似ている防具屋のおっちゃんだった。


 「こんちはー、おっちゃん。今日はこの子の防具を見に来たの」


 ほほう、とローブ姿に剣を帯びている少女の姿に防具屋のおっちゃんの目が光る。


 「はじめまして、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる。あいさつは基本。同じような顔の人を相手に同じことをしているので違和感がすさまじい。


 「おう、よろしく。嬢ちゃんは剣士か? それにしてはまた似合わない格好をしてるな」


 うははははは、防具屋のおっちゃんは豪快に笑う。ほんと笑い方まで武器屋のおっちゃんとよく似ている。


 「はい、なので何かないかと見繕いにきたんです」


 武器屋と同様に防具屋も、様々な素材、品質、種類、形状の防具が所せましに並んでいた。一つ一つの防具が武器よりもとるスペースが大きいせいか、店内はとても狭く感じる。

 俺はきょろきょろと店内を見回すと、特に全身鎧の存在が目立つ。自分の身体を見下ろしてみると、ぶかぶかのローブを身にまとっただけの細身のちっこい身体。明らかに大きくて重そうな全身鎧をつけるのは無理そうだ。

 そして次に身を守ってくれそうな鎧を見る。軽鎧というやつだろうか。各パーツごとにはっきりと分かれており、守ってくれる範囲はそう広くないがこれなら身に着けても動けそうだ。そこではたと気づく。

 この世界に着てからはほほずっとローブ姿であり、そんな日々の中で俺はローブという服を気に入っていた。脱ぎ着が簡単で、男女兼用のためこの身体で着ていても違和感がない。あえて気になるところを挙げるなら少し足元の風通しがいいということくらいか。ついでに付け加えると、このティアが着ていたローブのデザインを割と気に入っていた。

 仮に軽鎧を付けるとすると、ローブの下にということになるだろう。当然下着姿に軽鎧などアホな格好をするわけにもいかないし、せめてズボンやシャツの着用が必要になる。となるとまた服屋に足を運ばないといけないし――


 そんな感じにうんうんと頭を捻らせていると、イルミナさんが「アヤちゃん、これなんかどうかな?」と何やら金属で編まれた肌着状のものを持ってきた。これは鎖帷子(くさりかたびら)とかチェインメイルと呼ばれるやつだろうか。鉄の鎖らしきもので編まれたチェインメイルは窓からの光を反射して意外と眩しかった。

 イルミナさんからそれを受け取り、両手で掲げるように持ち上げてじっとみつめる。金属がこすれ合い、じゃらじゃらとした音が鳴る。実物を見るのは初めてで、よくこんなのを編んで作るなあ、と思った。そして掲げているのをすっと降ろすと、本音がぽろりと漏れた。


 「なんか見た目が嫌です。あと割と音が耳障り」


 思わず拒否反応が出て、イルミナさんに押し付けるように突き返した。イルミナさんはそれを受け取ると、「ローブの下に着込むならアリだと思ったんだけどなー……やっぱりかわいい方が好みなのかな」なんてぶつぶつ言いながら店の奥の方へ消えていった。あれと比べると胸当てをつける方がだいぶマシだと思う。それにたぶん、チェインメイルだとレッドボアがしてきたような突く攻撃には対応できなさそうだ。

 ものは試しということで、サイズが小さ目な胸当てを手に取り、試着室でローブの下に着込んでみる。ブラの上に直接つけるという形になってしまったので、ごつごつしているのが気になる。

 そしてその上からローブを着てみると、見るからに不自然なシルエットが出来上がっていた。


 うん、ないな、これは。


 いそいそと胸当てを外すと、元の場所へ戻す。外套の下に軽鎧ということなら普通にアリだと思うが、ローブの下には絶対にナシだ。


 (けっこうこだわるねー。この分だとミスリル糸で編んだ肌着なんかは気に入りそうな感じだけど、ミスリル糸は生産元が魔族領だけだし、それに値段も相当するんだよね)


 (名前からして丈夫そうな素材だな)


 ティアからミスリル糸という素材の存在を教えてもらう。その名称から、さっきのチェインメイルみたいな荒い網目のものではなく、合成繊維製の衣類のようなものではないかと想像する。合成繊維はプラスチックからできてるという話だしな。……うん、だいぶそっちの方がよさそうだ。お金がたまったならそれを狙ってみることにしよう。


 そして鎧系のもので欲しいもの・合うものがないのを確認すると、次はもう少し小さいもの――盾を眺めてみる。適当な鋼鉄製の盾を手に取ると、左手で裏の持ち手をつかむ。


 (うーん、ものすごい違和感。なんというか異物感がすごい)


 試しに盾を持ったまま魔鋼の剣を右手で抜き放ってみる。店内は狭いので振り回したりすることはできないが、それでも軽々と魔鋼製の剣を抜き放ったアヤ(リョウ)の姿に防具屋のおっちゃんは驚愕する。

 そんなことは露知らずに、アヤ(リョウ)は剣の構えを変え立ち方を変え、使い心地を確かめる。


 「おい、イルミナ、あの嬢ちゃん何者なんだ?」

 「昨日この街に来たらしくて、あたしとも今日知り合ったんだよ」

 「そこまで親しい知り合いって訳じゃないのか。それにしてもこの見た目でアレって、将来が恐ろしいな……」


 イルミナと防具屋のおっちゃんがこそこそと話す中、俺は剣が扱いづらくなる上に片手が塞がれるのはダメすぎる、と結論付けて剣を仕舞い盾を元の場所へ戻す。そしていっそのこと肘から手首までのアームガードみたいなものの方が邪魔にならずとっさに身を守れるんじゃないかと思いついた。あくまでアームガードみたいなもの、だ。籠手だとどうも元の世界の剣道の授業、あの臭いを思い出してしまう。

 早速防具屋のおっちゃんにそういうものがあるのかと聞いてみるが、やはりというかこの店には無いらしい。一応手甲の手首から先の部分を外す加工をすればなんとかモノ自体は用意できるとのことだが、本来手甲ははめて使うもの。固定できずに使い物にならないだろう、とのことだった。鎧の肩から腕の部分を流用すればいけるかもしれないとの話もあったが、外見がすごい肩パッドをつけているみたいになりそうだったので丁重にお断りをした。


 そこでオーダーメイドの相談である。半筒状で腕の外側だけを守る、穴をあけて紐で縛ることで身に着けるという感じで聞いてみたところ、ずれて使い物にならないだろうという防具屋のおっちゃんの見立てが返ってきた。

 その後防具屋のおっちゃんとああでもないこうでもないとやり取りが繰り広げられ、結局半筒状パーツ二つを留め金でくっつける、という形になった。技術的にも、残金的にも魔鋼製のものは無理ということなので、鋼鉄製のものを3,000イクスで注文した。

 アヤ(リョウ)の腕のサイズを測り終えたおっちゃんは、一週間後にはできているだろうから受け取りに来いと言った。偶然にもブーツの受け取りと同じ日だったので、面倒がなくてよかった、と思う。



 衣類と武器を買い、オーダーメイドもした後、次は露店の広がる広場へと向かった。冒険者に必要な買い物ということで、これはイルミナさんがさくさくと選んでくれた。

 まずは剣の手入れをするための油とボロ布。ボロ布は他の場面でも使えるのでもう数枚買ってある。

 それから日持ちするビスケットなどの食材に密封性の高い袋。袋は魔物の討伐の証拠や素材、そして洗濯待ちのタオルなどを入れるのに適しているそうだ。

 そして野営のための火打ち石と、塩と、魔物の肉の臭みをごまかすためのハーブ類。それから宿にも備えられていた魔晶ランプ。最小サイズの魔晶石でも二週間くらい明かりが持続するらしいが、念のために魔晶石も余分に買っておいた。

 さらに身体を洗うための石鹸。水浴びだけでは心もとないと思っていただけにありがたい存在だ。

 それから回復のポーション類。ティア曰く、低級のものは即効性がないので種族技能の急速回復で十分とのことだが、逆に買わないと怪しまれそうなのでビンに詰められた緑色をした低級ものを五本程度買っておく。それと解毒剤。毒は命にかかわるということでこれも買っておく。


 ちなみに冒険者の必需品として水が少しずつ勝手に補充されるという不思議な水筒という存在があるのだが、ティアのカバンに入っていた水筒がそれだったので買わずに済んだ。何気なく飲んでたけど、あれってそんな代物だったのな。

 そしてついでに五本セットになっているリボンと赤い花のついた髪留めをイルミナから無理やり押し付けられてしまった。女の子なんだから、ちゃんと身に気を配りなさいと言われてしまう。有無を言わせぬその迫力に、俺はただ頷くことしかできなかった。


 そして精霊の囁き亭へと戻り、たっぷり買い込んだ物を部屋へ運んだ後、買い物から荷物運びまで手伝ってくれたイルミナさんにお礼を言う。

 「あはは、将来有望そうな後輩ちゃんってのもあるし、気にしなくていいよ。機会があればまた一緒に買い物したり臨時パーティー組もうね」と笑いながら手をひらひらさせてイルミナさんは出て行った。今度会った時にお礼をしようと心に誓う。

 そして、さっきの「身に気を配りなさい」という言葉が気になったのか、せめて髪くらいはまとめておこうと、イルミナさんから貰ったリボンのうち赤色のもの取り出す。そして当然ながら髪のセットの方法なんて知らないので、今回は簡単に後ろでまとめようとする。…が、何度試みても違和感しか感じない。

 鏡の必要性を強く感じ、がっくりうなだれるアヤ(リョウ)であった。次に買い物に行くときは姿見を買おうと決心しつつ、せめて髪の毛をもぐもぐしないように赤い花の髪留めをつける。髪の毛が長いから、油断していると髪が口に入ってしまうのだ。


 (ふふふ、次に髪をセットするときはティアお姉さんが教えてあげよう)


 そんなティアの脳内ボイスを聞き流しつつ、杖を部屋に置く。ローブ姿に髪留めをつけ、剣を帯びカバンをかけるというスタイルで再び宿を飛び出すことになった。



 次は入街証の返却だ。門番さんたちのいる街の正門へ行き、ターラルさんのことを尋ねるとすぐに門のところに立っている姿が見つかった。


 「こんにちは、ターラルさん。無事冒険者カードを再発行できたので来ました」


 「おお、昨日の嬢ちゃんか。よし、ちょっと手続きが必要だから守衛所へついてきてくれ。こっちだ」


 ターラルさんは近くの門番さんに「少し離れるから頼む」と言づけ、俺と一緒に守衛所へと向かう。割と上の方の地位の人なのだろか、ほかの門番さんや警備の人たちがお疲れ様です、と声をかけてくる。そんな人たちに「ああ、お疲れ」と返事を返すターラルさんと笑顔を向けて手を振っているアヤ(ティア)。ええと、こいつは何をしているんだろうか。

 ちなみに手を振ると一人一人反応が違って、その様子を楽しんでいたみたいだ。そして何故ロリコンらしき人を見つけると満足げにしているのだろうか。


 守衛所の中に入ると、山のような書類とにらみ合っている人たちがいた。その人たちともお疲れ様とのやり取りを行う。そして、一層大量に書類が積み上げられている守衛所の奥の机へと向かうと、早速ターラルさんが話しかけてくる。


 「よし、冒険者カードと入街証を出してくれ。すぐに返金するからな」


 アヤ(リョウ)が冒険者カードと入街証を取り出したタイミングで、ターラルさんも手続きに必要な書類をちょうど取り出したところだった。書類の山には驚いたが、きちっと必要なものは分類しているようだ。


 「よしよし、入街証の番号を冒険者カードの番号に書き換えて、ちょっと記入内容をいじくってと…よし、これで大丈夫、入街料を返却だな。

 それと、できればこのことは黙っておいてほしい。こんな安そうな紙ぺらでも一応公文書だからな」


 やはり正式な手続きではなかったようだ。ターラルさんに感謝しつつ、約束をする


 「ありがとうございます、おかげでとても助かりました。このことは内緒にしておきますね」


 ニヤリと笑うターラルさん。おそらく何度かこの手のやり取りをしたことがあるのだろう。人の良さは顔に出るんだなあ、としみじみと思いながらターラルさんに頭を下げ、守衛所を後にした。



 入街証を返却した後、イルミナさんと一緒にいては買えなかったものを買うべく再び露店の広がる広場へと向かった。

 そして、ティアに言われるがままよく分からない買い物を進めていく。

 羊皮紙やペン、インクから始まり、大小のビン、蝋燭、乳鉢、謎の植物の根、石鹸、魔結晶らしきもの、よく分からない鉱石、くすんで価値の低い宝石。

 そして小瓶に詰められた青い液体を見つけた時ティアは狂喜乱舞していた。もちろん脳内で。ただ、一瓶10,000イクス。流石に残金が心もとないので、購入するのは一瓶だけにしておいた。不満げなティアだったが、思いもよらぬものが手に入ったと喜んでいた。


 一通り買い物を済ませると、既に日が暮れ始めていた。そして空腹を感じるのに気付く。そういえば昼ごはんを食べないままずっと買い物をしていた。


 精霊の囁き亭へと戻り、夕食を摂るために酒場へと向かう。まだ時間が早いのか、人の数は少ない。そのまま席へつくと、若い男の店員さんがメニューを片手に注文を取りにやってきた。しっかりしたものを食べてみようとメニューを見繕い、イシュム鶏の香草焼きとパン、野菜スープにお水を注文した。飲み物類は酒場らしくお酒類が大半で、その他は少種類のジュースと水しかなかった。もともとの年齢が20歳なのでお酒を飲むのには抵抗はなく、むしろエールや蜂蜜酒、火酒など試しに飲んでみたい代物ばかりだったのだが自重することにした。


 そしてしばらく後、運ばれてきた料理に舌鼓をうつ。一体朝食のシンプルな味とは何だったのか。濃いめの味付けのされたイシュム鶏は初めて食べる香草の香りに食が進み、その味の合間合間にパンや野菜スープを食べてバランスをとる。シンプルな味付けの朝食を思い返した時に不安だったのだが、食文化がある程度発達していることに安堵し、もきゅもきゅと食べ進めていく。


 「あ、昨日の子だ。この宿に滞在することに決めたのかな」

 「今日はココリナの花の髪飾りをつけてるのね。年相応って感じでますます可愛く見えるわ」

 「それにしても幸せそうな顔をして食べてるなあ。オヤジ! イシュム鶏の香草焼きとエールを追加で!」

 「俺も追加で香草焼きと火酒を!」


 幸せそうな表情を浮かべて美味しそうに食べていたアヤ(リョウ)に釣られたのか、次々と同じ注文がされていく。そんな様子を尻目に、まさしくお酒が進むような酒場らしい味付けに満足した俺は代金として240イクスを支払い席を立つ。朝食の二倍以上の値段だし、美味しいわけだ。

 ちなみに元の世界ではお酒は二十歳からだったが、この世界ではどうなのだろうか。


 (特に決まりはないけど、慣習的に10歳の誕生日に初めて飲む感じだね。アヤは自称10歳だし、飲んでも不自然ってわけじゃないよ)


 (おお、飲んでも大丈夫なんだな。よし、次からはお酒も注文しよう)


 この身体がどのくらいお酒に強いか分からない不安もあるが、こうして明日からの楽しみが一つ増えたのであった。



 ―――――



 部屋に戻り、まだそこまで日は暮れてなかったので先にティアに魔術を教えてもらおうかと思ったのだが、初日はいろいろあるらしく先に水浴びを済ませた方がよいと言われた。

 そこで買ったばかりの石鹸とタオルを持ってうきうきと風呂場?に身体を洗いに行く。石鹸で泡をたてて、肌を滑らせていく感覚がなんともいえず気持ちが良い。水浴びはしていたとはいえ、最後に泡々してからそんなに時間は経っていないはずなのにここまで気分がよくなるものなのだろうか。ちなみに胸を洗うときに痛みを感じたり、デリケートなところを洗うのに緊張したりと、この身体にはまだまだ慣れる気がしない。慣れたところでどうなんだろう、とも思うのだけれど。

 そしてタオルで体を拭き、髪の水分をとった後、水色のドロワーズと寝るとき用ブラを身に着け、ネグリジェを着る。ひらひらとしたそれを着たことで一気に女の子らしい格好になってしまい、違和感を感じる。何気なくその場でくるりと一回転すると髪が躍り、ふわりとスカートが広がって脚に空気の流れを感じた。今まで着ていたローブは厚手のものばかりだったので、あまり裾の部分を気にすることはなかっただけに違和感がすごい。


 (ふふー、よく似合ってるよ。あとは慣れていくだけだね)


 そしてそんなアヤ(リョウ)の可愛らしい格好に嬉々としているティア。ティアは女の子だからこういう可愛い格好の方が好きなんだろうなという思いと何か裏があるんだろうなという思いが複雑に絡む。魂のパスを通した時のあの惨状、ちゃんと覚えてるんだからな。


 そしてある程度髪が乾いたというタイミングで、魔術講座開始の声がかかる。

 ちなみに自然乾燥じゃなくてちゃんとタオルで水分を取った方が髪に良いと注意されたのは余談である。



 (さーて、第一回ティエリア先生の魔術講座のお時間でーす。はい拍手ー!)


 初めての魔術講座ということで少し緊張していたが、響くのは相変わずお気楽なティアの声。


 (まず簡単に魔術がどういうものなのか説明するね。この世界には魔力という不思議な力の源があって、それを燃料みたいにしてぶっ放すのが魔術と呼ばれてるのさ。

 魔力は二種類あって、その辺に漂ってるマナと呼ばれるものと、人の体内に溜めこまれるオドと呼ばれるもの。講座ではしばらくはオドについてしか扱わないからよろしくね)


 シェイムの森で所持魔力が枯渇寸前になった事が脳裏に浮かぶ。あれがオドと分類される魔力ということなのだろう。


 (前も話したと思うけど、魔術はプログラミングみたいなものなんだ。体内で魔力を練り属性を持たせつつ、呪文を組み立てることでどんな効果を及ぼすのかを決め、それを口に出して詠唱、体内の魔力を放出することで現象を起こせるの。

 例えば単純に火の魔力を練って放出することで火を出したり、風の魔力で風を起こしたり、いろんな属性の魔力を上手く組み合わせて温風を出したり、それはもういろいろなことができるのさ)


 魔術を使うための流れは、魔力に属性を持たせる→呪文の組み立てで効果を指定→その呪文を詠唱で効果を発揮、という感じか。


 (ということで、魔術の特訓の第一歩は魔力を感じるところから始まるわけ。その(あと)に魔力を練る訓練。普通、それらの基礎訓練は何年もかけて行うものなのだ)


 (何年も練習してようやく使えるってことか。気の長い話だなあ)


 一応吸血鬼族だから年月はそこまで気にするものではないにしても、血液を入手するという目的があるので習得は急ぐ必要があるのだ。もちろんそれはティアも分かってるはずで――


 (そこで裏技の出番というわけ。この裏技であら不思議、魔力をすぐにでも繊細に感知できるようになるので、直ぐに魔力を練る段階に入れるのさ!)


 その言葉に嫌な予感しかしない。そんな予感の中、アヤ(ティア)は露店で買ってきたものを取り出し、加工をしていく。

 まず乳鉢に魔晶石らしきものを入れ、砕き、粉々にすり潰して小瓶に入れる。

 次に、謎の植物の根っこを同様にすり潰す。

 そして大き目の瓶に10,000イクスした青い液体、すり潰した根っこ、粉々の魔晶石らしきものを順番に移す。

 蓋をして撹拌すると、蒼い液体は少し色が薄くなり、きらきらとした輝きを帯びだした。


 (よし、これで完成だ。これ飲んでね)


 オートモード(アヤを動かすティア)が止まり、目の前に置かれたのは怪しげな青い液体。きらきらと光っているので眺めている分にはとても綺麗である。


 (これを、飲むのか……?)


 (うん、魔術を覚えるための最短経路だよ。さ、さ、手段なんて選んでられないでしょ)


 最短経路を通らなければいけないことを分かってはいるが、そのために必要だというものは見るからに怪しい物体。アヤ(リョウ)は少し躊躇しながらも覚悟を決めると、その液体を飲み干した。


 「ぷはあ。まずい、もう一杯!」


 ノリで言ってしまったが、不味くも美味しくもない不思議な味だった。


 (もう一杯はいくらリョウとはいえやめておいた方がいいよ。何せ、体中の魔力を暴走させる劇薬だからね)


 (何飲ませやがるこのやろう!?)


 聞き捨てならない単語が聞こえ、思わずに声を荒げ――


 そして、感覚が遠くなり、体の中が脈動する。体の中が荒れ狂うかのような気持ち悪い感覚。思わずふらふらとベッドへ倒れ込んでしまう。これを見越して先に水浴びって言っていたのか。ぐるぐるとまわる頭の中、吐き気のような感覚に襲われる。


 (いやあ、吸血鬼族でよかったねー。急速回復があるからこうやって手荒な真似ができるんだから。お、そうこうしてるうちに早速魔力酔いか。さすがオリジナルが私の身体、才能があるみたいだね)


 そして朦朧とする意識の中、このどくどくと身体の中を荒れ狂う感覚が、いつかティアが魔術を使った時の感覚にどこか似ているな、なんて思い出した。



 そうして、アヤ(リョウ)は意識を失った。

次話は16/08/21 18:00予定です。

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