00-00 始まり
出グロ。
16/08/14 ルビ振り、修正
17/02/04 改稿
17/04/17 文頭揃え、年表記追加
絶叫が、響いていた。
いや、絶叫と呼ぶのすらおこがましい。獣を彷彿とさせるような、人から発せられたとは思えない声。あまりにも長く続きすぎたせいで声を発する喉は潰れ、意味を持つ言葉はとうに失われ、彼の口の端には血の泡を生じている。
かすかに土埃の舞う部屋の中央に若い男がうつ伏せで転がっていた。右手は何かにすがるように前へと伸びているが、爪は剥げ皮膚は削り取られ血に染まったピンク色の肉が覗いている。その削り取られている手は痛みを痛みで抗うように、なおも石畳を引っ掻き自らを削り、血を塗り重ねていく。
左手は苦痛にあえぐ身を抱くように彼の身体の下へ潜っているが、それはただ向かう先が石畳か、自身かという違いでしかない。いや、対象が自身であるおかげでより凄惨であると言える。
血を塗りたくる先のない左手はべっとりと赤黒い血で染まり、爪は右手と同じように剥がれ、指は関節の可動域を無視した方向へ曲がっている。彼の着ているシャツは右肩から腹部にかけて血を吸いズタボロに引き裂かれ、その下の身体にもの爪で引っ掻き抉った痕が無数に広がり、石畳に血の雫を散らしている。
彼の身体の動く部位は全て痛みに抗うかのように痛みを求め、まるで石畳で身体を摩り下ろすかのように動き、石畳の上にうっすらと広がる土が擦り込まれ、より凄惨な傷が広がっていく。
痛みに抗う彼をあざ笑うかのように肉体がうねり、さらなる苦痛を撒き散らしながら意識を保たせ、生きたままその肉体を変質させ続ける。ぶちぶちと体の中が千切れ、砕け、溶け、融合し、さらに侵食を進め、途切れることなく彼を蝕む。
暫くするとまともに叫び声を上げることすらできない程彼の喉は壊れ、血に染まった吐瀉物のようなものか口から溢れだした。
何かに触れた腕から侵食されるように始まった痛みは既に全身へと広がり、様々な部位が蠢き、変質し、苦痛を散らす。もはや虫の息となった状態においても、容赦なく肉体は変質しつづけ、それはまるで意識を手放させまいと繋ぎ止めているかのように見える。
そして、永劫に続くかと思われた地獄は、肉体を変質し終えるとあっさりと彼を苦痛から解放した。
(ああ――俺は……なんで、こんな、ことに…)
唐突に苦痛に襲われ、そしてまた、唐突に苦痛から解放された菱谷涼介はあっさりと意識を失った。
そして、何事もなかったかのように部屋は静寂に包まれた。
唯一先ほどの光景の証明のように部屋に広がる血溜まりには、悪夢から解放されたかのような穏やかな顔で眠る、ひとりの血塗れの少女がいた。