赤い獣牙 7
オレステスやイピネゲイアの親がどういう人物が、ナギトはそれなりに知っている。
端的に言ってしまえば甘い人だ。民の生活を第一に考える、と評価すれば聞こえはいいが、裏にあるのは市民への恐怖心だろう。
もともとあの人は、革命に反対だった。
アルクノメの父と兄弟同然に育ったのもある。娘のイピネゲイアと共に、革命派の貴族を説得に回ったそうだ。
しかし、見ての通り失敗している。
それどころか看板に祭り上げられ、皇帝の座に据えられた。
私では器が足りない――未練も後悔もなく、彼が笑っていたのをナギトは覚えている。
今の皇帝は、ただの追い詰められた草食獣にすぎない。
革命など、本来は起こるべきじゃなかった。世間が暴君と呼ぼうが、先代皇帝は間違いなく名君だった。でなければ、どうして貴族たちに敵視されることがあろうか。
腐っているのは皇家じゃない。……まあオレステスは例外だが。
貴族、市民、それら大多数の人々。
彼らから、高貴に生きるという夢が消えた。
残っているのは、ただ存在することに対する未練。少しでも生き残ることに執着する、醜いまでの生存本能。
恐らく手段は問わない。テストミアに兵を連れ込んだのは、その余波と言える。ひたすら支配領域を広げ、考えなしに自分たちの世界を広げる。
「……なんだ、良かったんじゃないか」
口にするのは自分への肯定。
やっぱり腕の一本ぐらい、切り落としておいて正解じゃないか、と。




