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皇帝の遺言 5
「……アルクノメ、ここからは一人で行ってくれ」
「あ、貴方はどうするの? ……上の化け物と戦うとか、言わないわよね?」
「それ以外の返事は用意してないのに?」
アルクノメはまたもや溜め息。でも、放置できない以上は仕方ない。
二人の前には更に鬱蒼と生い茂った一帯がある。夜間であることもあって視界の悪さは折り紙つきだ。闇の世界と言っても過言ではあるまい。
まともに視界が効かない森の奥を、彼女は不安げに見つめている。もともと都会育ちのお嬢様だ。子供の頃はまだしも、最近は野山を駆け巡ることもなかったろう。
「――は、早く迎えに来てね?」
「もちろん」
即席の決意で、彼女は森の奥へと入っていく。
残るのは高らかな咆哮だけ。どうやらこちらの姿を見失い、頭上を旋回しているらしい。
直後だった。
微かに差し込んでいた月明かりが、途端に遮られてしまったのは。
「っ!」
何が起こっているのか――直感的な悪寒に導かれて、ナギトはその場を飛び退く。
間髪入れず降ってきたのは、巨大な鳥の足。