皇帝の遺言 4
父が行った暴政を正し、国をあるべき姿に戻す――処刑が決定した直後、彼女はナギトにそう語った。だから私を助ける必要はない、生きていれば国に亀裂を生む、とも。
最終的にナギトの身勝手が勝ったわけだが、それで良かったと痛感する。死後に民の変化を知れば、処刑が報われることは無いのだから。
「っ!」
頭上には光。月光を一瞬だけ反射する、狂気の混じった光だった。
言葉よりも先に、ナギトはアルクノメを抱き上げる。
「ちょ――!?」
反論は直ぐに収まった。月光を反射していた何かが、連続して木々を吹き飛ばしたのだ。
断頭台の刃に似た、巨大な刃物。
それが途切れなく、二人の頭上から降り注ぐ。人間技じゃないのは疑うまでもない。――耳を澄ませば、鳥の鳴き声も聞こえてくる。
ナギトは少しでも緑が深い方へと進路を取った。アルクノメがいたんじゃ反撃する暇もない。せめて彼女だけでも安全な場所に逃さなければ。
轟音を立てる刃の雨。太い枝が、巨大な幹が、切断されれば割れもする。
「ひっ」
紙一重で避ければ、アルクノメからは当然な悲鳴が漏れた。
しかし徐々に、敵の攻撃は止んでいく。ナギトの細かな抵抗が功を奏したのだ。目的地への最短ルートからは外れてしまったが、命が拾えれば文句は言うまい。