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第一話 皇帝の遺言 1
声が聞こえる。荒い、急かされるような男たちの声が。誰かを探しているようだった。
なら、付き合ってやる必要はあるまい。少年は焦る彼らと同じように、急ぎ足で少しでも速く進もうとする。
「ちょ、ちょっと」
まだ納得してない――そう言いたげな後ろの彼女。少年は無理やり引っ張るように、腕の力を強くした。
敵、と形容していい連中が探しているのは彼女だ。まだまだ追ってくるだろうし、森に逃げ込んだぐらいで安心するのは気が早い。せめて町の方に紛れこまないと。
頭上から降り注ぐ月光の中。少年少女による逃避行は、刻一刻と進んでいく。
「……歩くながらでいいから、せめて理由を説明してくれない? 気になってしょうがないんだけど」
「――」
逃げる方が先決だ、と言わんばかりに少年は無言。
その態度に少女は苛立ちを露わにしたが、腕を振り払おうにも払えない。相手は男で、反対に彼女は、身体を鍛えているわけでもない細腕だ。多少の痛みがあったところで、今は我慢するしかなかった。
「ねえ、ナギト」
それでも口は自由なわけで、変わらず疑問を口にする。




