小夜子
綺麗な人じゃ、思うた。へぇで、思わずシャッターを切った。たまたま九州へ遊びに来て、こがん美しい女子
と出会えるとは思っとらんかったけぇ、直ぐ様嫁に貰おうと決めた。
小夜子はなかなかの苦労人じゃ。満州から命辛々逃げ帰って、自殺を踏みとどまってまで産んだ子供を亡くし、一人きり、淡々と、地道に生きとった。まるで、野に咲く黄色いタンポポのような、強く、優しい女子じゃった。
わしのことを好きじゃと言うてくれた日にゃぁ、死んでもええ、思うた。この人の為に、力いっぱい生きていこうとお天道様に誓うたんよ。……運命いうもんは、残酷じゃのう。せっかく一人前に会社を軌道に乗せ、可愛ぇらしい女の子を授かって、さぁこれからじゃぁいう時に結核にかかるとは情けねぇ。わしの命はあと三月じゃと。最近血痰が出て、胸が苦しゅうていけん。こりゃ、もうじきお迎えが来るじゃろうな。……一つ気になるんよ。わしがあの世へ逝ったあと、小夜子は当然この子を抱えて一人で生きて行こうとするはずじゃ。その時に、あの、水口社長がどう出るか……。あの方には非常に世話になっとるけぇ、こんなことは言いとぉねぇんじゃ。しかしよ。どうも小夜子を見る目がのぉ。まだかまだかとてぐすねひいて待っとるように見えていけんのんよ。わしが死ぬのを楽しみにしとるような……。
じゃけぇ、あんたには世話をかけるが、どうかわしが逝ってしもぅたら、娘共々、小夜子を守ってやってくれんかの。頼まぁ。ほれ、おまさんが持っててくれ。大事な写真じゃ。棺桶に入れて燃やす事なんか出来んわ。こがん綺麗な小夜子を。