宿屋
職業勇者の特権はそれだけではない。宿屋の使用も認められるのだ。街中にある宿屋は基本的には勇者専用となっている。ある程度の宿泊料を払わないといけないが、それは心づけのような意味合いが強く、宿屋とは基本的に冒険省によって運営される国営の無料宿舎という位置付けである。
どんな田舎でも安定した宿泊環境を提供できるのは、税金投入されているという理由があるのだ。勿論、勇者免許の提示が入館条件であり、我々平民は原則的に利用することができない。ただ、勇者免許を持つものの同行者15人までは身分関係なく利用することができるのだ。その場合も、宿泊料は基本的に無料なのだが、勇者は人数に応じてある程度の金銭を店側に支払うのが慣例になっている。勇者は税金で高給が賄われているという側面が強いため、そういったチップなどの支払いは高潔な者の義務として一種の美意識となっている。
となると気になるのが平民身分にある者の宿泊である。彼らは原則的に宿屋を使えないため、冒険に出た時は困難を極めることが多い。知人の家に泊まるか、職業勇者に便乗するという手段はやはり難しいのだ。なので基本的には街のはずれに点在するキャンプに駐留することが多い。
キャンプは勇者以外の冒険者を中心に利用されるものであり、難民や家を持たない者達など利用者は様々である。宿屋の運営は基本的に勇者利用が優先され、平民のための宿屋経営というのは利用許可申請が降りないという現状がある。これは国の仕組みからして、勇者産業に依存しつつあるという現状を浮き彫りにするのだ。ただ、キャンプと言っても、その規模はなかなか大きく、炊き出しや相互補助が多く働き、なかなか住みよい環境であるという調査が出ている。ただし、盗難や襲撃などの治安事情は安定しておらず、様々な人種が集うためその根本的な解決は難しいとされている。なかには自警団を結成し、キャンプ運営に介入するものも存在し、ある種のコミュニティーとして確立されている。ちなみに、流行り言葉や新しい文化などがここで生まれることが多く、最先端カルチャー発祥の場としても注目を集めているのだ。
また派遣勇者も原則としては平民身分なので職業勇者にくっついてでしか宿屋に宿泊することができない。したがって、吝嗇家な勇者の元に派遣されてしまうと、経費削減のために宿屋に入れてもらえず、泣く泣くキャンプで世を明かさないといけないという事例も多発している。しかし、国立や大手予備校生であると、予備校と提携がある宿屋に関しては無料利用が可能であり、職業勇者並みの恩恵を受けることができる。なお、予備校は風潮として心づけを払う必要がないので本当に無料で利用できるのだ。ただし、職業勇者達の宿泊が優先され、途中で追い出されてしまうことも多々あるのが悲しいとこである。




