コネについて
コネが横行する勇者受験制度であるが、その詳細について補足しておこう。
勇者試験において応募要項には推薦保証人という欄が存在する。この欄は受験者の身分を保証するもので、受験に不正などがあった場合はもっぱらその推薦人の監督責任として罰されるのだ。この推薦保証人は成人しており、身分保証ハンコさえあれば誰でもなることができる。
その推薦人の名前こそがコネに大きく関わってくるのだ。職業勇者ならもちろん優先的にコネが働き、面談における優遇を受けることができる。対して、平民階級ならば最低限度の保証人としてしか意味合いを持たないのだ。予備校などは経営者の職業勇者のハンコを一律でもらえるのが慣例であり、よりより保証人を手にいれるためには予備校に入るほかないのだ。
受験者に粗相があった場合、監督責任として罰せられるなどそのリスクは甚大であり、ハンコを押す側も慎重にならざるを得ない。なので予備校生でも成績不良者などはハンコをもらえない可能性が有る。それゆえ、生徒も必死になって勉学に励むといういい作用が生まれるのだ。
また保証人偽装を防ぐために身分保証ハンコというのが非常に役立っている。名前の通り、身分によりハンコのデザインが違い、なおかつ指紋レベルで同じものは一つもない精巧なつくりとなっている万全のセキュリティを誇るハンコなのだ。偽装することはもはや困難であり、ハンコ自体も厳重な管理下に置かれている。またハンコ自体も国家から支給されるものであり、その原本も一律で厳重に管理されている。
たとえ盗み出したとしても、盗難の届け出があればすぐさまそのハンコの効力は力を失い、そのハンコがしてある応募書類は全て失効される。おまけに盗難にあったものは最発行のために多額の罰金を払う必要があるのだ。それゆえに、ハンコの管理は高い身分になればなるほど厳重が必須であり、個人で管理するのではなく、良識ある管理会社に委託するのが常である。
そして、盗難届を出さないという手段があると考えてしまうが、職業勇者身分のハンコは三ヶ月に一回の交換をしなければならないので、すぐに隠匿は発覚してしまうのだ。ちなみに隠匿こそが最大の罰金となっており、その交換を忘れるのは勇者にとって最もやってはいけないことである。それゆえに個人負担の少ない管理会社の存在が勇者にとっては重要となる。
しかし、低い身分においては偽装されてもあまり恩恵を受けることができないため、管理は厳重ではない。特に貧困農村部ではコネがないなりにも何かしらコネを受けようと村長のハンコを盗み出す事件が多発しているが、あまり問題視されていない。これは自治体の長レベルでは試験においてはコネは発動しないからであり、あくまでも勇者関係者のハンコこそ価値を持つという実状があるからである。しかし、このようなケースは盗難事件として別の制度で裁かれることがあるので、要注意である。
ちなみに、数十年前、まだハンコの管理体制が確立されていなかった時代に、ある予備校の校長のハンコが盗み出され、その年の予備校生全員が受験資格失効、校長は生徒全員分の多額な罰金に加え、生徒個人からも民事訴訟を起こされるという事件があった。勿論、その校長は自殺、予備校は廃校となってしまい、校長の死後数十年経過した今でも、その遺族は罰金ならびに民事訴訟の裁判を続けているとされている。
あくまでも間違えて欲しくないのがコネのみで勇者になる者は存在しないということである。試験突破に於いては、筆記と実技は実力でこなさなければならない。その次の面談の段階においてのみ効力を発揮する。コネクションというのは勇者にとって必要な資質の一つであるということを肝に銘じておいて欲しい。実技試験においてある程度のコネが働くという噂もあるが、これは試験自体の合格基準の曖昧さもあって、明確な証拠はない。