冒険者の引退
勇者と言っても所詮は人間であり、その肉体の衰えを避けることができない。やや肉体的にもピークを越え、経験や知識が一番冴え渡っているとされる三十代前半が能力的なピークとされ、それ以降は個人差あるが、勇者としては下り坂を迎えるものが多い。そうなると必然的に冒険の活動範囲も縮小され、怪我や後遺症などの影響もあり、四十前半で引退を表明するものが多数存在するのだ。引退と言っても、それは本人の意思で冒険に出ないと決めることもあり、復帰することも自由である。
勿論、職業勇者の制度としての引退は存在しないため、冒険を辞めても国からの給与は貰え、安泰したセカンドライフを過ごすことが可能となる。しかし、職業勇者は継続級という制度があり、年齢を重ねれば重ねるほど、給与は上昇していくこととなる。そのため、引退後勇者は、必要経費以外は活動中にお世話になった機関や人々、あるいは地元自治体に寄付を行ったり、後進を育成するために利用することが多い。引退してもなお、勇者であり続けることが美徳とされるのである。
平均四十前半で引退を迎えた勇者は、引退後も冒険業に関わることが多いとされる。基本的なのが、予備校や私塾の講師であり、現地で培ったノウハウを活かし、後進の指導に当たるのだ。それ以外では、各種武器・道具メーカーにおけるアドバイサーや、商品開発に携わることも多い。現役の勇者のノウハウというのは、メーカーにとっても重宝されるものなのだ。
また、各地を冒険で行き来したことによる様々な人々とのコネクションを生かして、貿易の分野で活躍するものも多いとされている。特に、商人の都市間移動に於いては、護衛役の勇者を雇う経費削減になるため、商人として、新たな人生を歩むことが多い。いずれにしろ、引退というのは第一線を退くという意味合いが強く、冒険の魅力にとりつかれた勇者たちは、その世界に関わって生きて行くことが多いのだ。
ちなみに、魔法使いの平均引退年齢は36歳であり、勇者よりやや早期に引退するものが多い。魔法使いは肉体的な限界よりも、脳の酷使による限界が原因で冒険業から退くものが多いとされ、限界よりも余力を残しながら、辞めていくことが多いのだ。それ以外にも、結婚や出産を契機とするものも多く、家庭ができると引退するものが多いのが男性中心の勇者とは違う特徴である。前述したように、魔法使いは脳の使用による若年性痴呆におびやかされるものが多く、引退後は殆ど魔法を使わずに生活するものが多い。勇者とは違い、引退後は冒険業を退き、家族に囲まれ、真新しい第二の人生を歩むものが多いのだ。
また、格闘家は四十後半程度まで冒険業に従事することが多く、勇者や魔法使いに比べると継続年数も長くなる。肉体の衰えがあるものの、冒険主催ではなく同行業務が基本なので、小規模の探索などの役割もあってか、その継続年数は長くなる。引退後は軍部に戻り、軍部校講師や別の分野で活動を続けることが多い。軍部は55歳が定年とされているため、冒険同行をする者の中には、五十代のものも多数存在するのだ。
ちなみに、現役で冒険を行っている勇者の最高齢は72歳だと言われている。彼は生涯現役を掲げ、自分のできる範囲で探索を続けているのだ。もちろん、魔法使いによる万全のケアが必要不可欠であり、二番手勇者の役割も強いことから、「要介護勇者」と呼ばれることも多い。そのようなの憐れみもあるが、その歳でもなお、冒険を続ける姿はリスペクトされることが多い。なんでも、この高齢勇者は多額の借金が残っているらしく、それを返済するために冒険を続けているそうだ。




