貧乏勇者の貧困なる冒険
富裕層勇者が存在すれば、必ず貧乏勇者というのも存在する。彼らは、金銭面において困難を抱え、本来なら、冒険に出るのも躊躇うような貧困具合であるのに、無理を押して出発するものが多い。彼らは、冒険という魅力に取り憑かれてしまい、一般的な生活の中で金を稼ぐというのは耐えられないのである。ちなみに、貧困勇者ほど高頻度で冒険に出かけるというデータもあり、いかに後先考えずに場当たり的に行動することが、さらなる貧困をもたらすかお分かりであろう。
貧困勇者は基本的に借金がある。これまでの冒険中に大きな事故を起こしたり、怪我をしたものや、資金難で冒険に出発し、冒険中の依頼案件で資金回収を目指したが、それが成し遂げれなかったものなどが挙げられる。彼らは、金銭以外にも、信用力に欠けることとなり、貧乏になればなるほど、お金を借りることができなくなり、負のループに陥りがちである。
わが国では、高利貸しは基本的に禁止の措置を取っている。低い利率でお金を貸してくれる公共の機関は存在するが、基本的には相互補助の意味合いが強く、大きな金額は借りることができない。したがって、冒険に大規模な金銭を必要とする職業勇者は、一部賎民が行う高利貸しから資金貸与を受けることとなる。金融業はある種、賎民区分にあるものの専売特許であり、勇者産業の発達は賎民たちの経済的基盤を一気に押し上げた。といっても、基本的に職業勇者はお金を借りずに冒険を行うという風潮がある。普通のものなら、企業スポンサーまたは市民スポンサーが付くのが常であり、融資を受けずとも最低限は確保できるのだ。
ちなみに勇者はその収入の不安定さから、長期的なローンの審査が基本的に降りない。賎民たちによる高利貸しでも同様の状況である。したがって、家を建てるときなどは現金一括で支払いを行うものが多数である。様々な特権を持つ勇者であるが、このような点においては不利であると言えるだろう。ただ、最近では基本給と継続給を常に収め続けるとローンが降りるという新しい金融商品も存在しており、ローンを払い続けるために、一生働かないといけないものもいる。
貧乏勇者の冒険は非常に小規模なものとなる。冒険の目的も「とにかく金をかけずに金を稼ぐ」というものが多く、近場のダンジョンで討伐や財宝発掘に勤しむものが多い。雇う仲間も、二番手勇者は基本的に派遣、魔法使いは二種免許区分のものや、怪我や高齢により雇用費が最低ランクのもの、格闘家は無届けのため同行しないことが多い。後方部隊やマネージメント費用も削減し、自ら歩きで冒険を行い、まるで旧世代さながらの勇者の冒険スタイルをとるのだ。勿論、雇われる側もそのような勇者の仕事を敬遠することが多く、酷いものであると単独で冒険を行うものも存在しているのである。
また、プライドを捨て、自己資金に頼らず冒険ができる二番手勇者として他の勇者に同行するものも存在している。一度独立を図った勇者が「二番落ち」するのは、勇者ならば絶対に避けなければいけない屈辱であり、二番落ちするのなら廃業したほうがマシと考えるものが多い。ちなみに、貧乏勇者の二番落ちを許す勇者はかつての同僚であったり、後輩であることが多く、以前は気前よく奢ったり、雇用していたのに、今度は雇われる側という悲しい状況となる。なんらかの義理がなければそのようなものは基本的に雇用されることはないので、このような状況を生みだしやすのである。




