魔王を倒すには・倒したら
職業勇者制度の根源的な役割は、魔王を倒すことである。法的な資料においては、職業勇者の役割は、「人類の脅威となり得る存在の殲滅を行う」としか記されていないのである。したがって、国外探索やその他モンスター討伐、財宝探索は本来の業務ではない。だが、魔王を倒すというのは非常に困難を極めることとなる。
前述したように、魔王とは廃残留魔力の影響で凶暴化したモンスター又は人において、知能指数の高さから、魔力によりモンスターたちをある程度、統率にできるものを指している。簡単に言えば、モンスターの中でも、一番頭が良く、魔力を使えるものが自動的に魔王に昇格するのである。そのようなものたちは、自らは手を下さず、遠隔的に各地のモンスターを統率して、我々に脅威を加えてくることが多い。魔王、並びにモンスターの人類への攻撃性の原因は明らかになっていないが、我々にとっては意思疎通もできず、危害を加えてくるため、討伐を行うのが正義とされているのだ。そのため、魔王というのは、廃残留魔力の溜まりやすいダンジョンの中でも、特に高濃度の場所に潜伏しているとされる。勿論、そのような場所は、魔王以外のモンスターも存在し、その高濃度さから、非常に手強いモンスターが発生する多い。
このような理由から、魔王の討伐はある程度、実力のないものでないと行えないとされる。我々は廃残留魔力を感じることもできないし、どこに生息しているか把握していない。また、そのような強力なモンスターがいる場所の周辺には、さすがにダンジョン街も形成されず、場所を特定しても、かなりの遠征を行わないといけないため、実力に加え、莫大な資金力も必要となる。
したがって、ある程度の強さを持つモンスターに対抗できる実績且つ、魔王の所在の特定能力とそこに至るまでの資金力やコネクションを持つものでないと、魔王には挑めないのである。そのような冒険の場合、失敗すれば即ち、死を意味するため、実力を持つものの中でも躊躇するものが多い。勿論、討伐に失敗し、かろうじて生き延びても、自分の勇者としての資質に大きく傷がつくことは間違いないだろう。魔王討伐はある程度の資質と覚悟が必要なのである。
しかし、魔王討伐すると、その勇者は伝説として未来永劫語り継がれることとなる。街を歩けば現人神のように扱われ、メディアに多数取り上げたり、国民の関心ごとの中心となる。また、魔王の消滅は、モンスターたちの統率力を弱め、ある程度、モンスターがおとなしくなり、平和が訪れると言われているため、名誉だけでなく、国家情勢にも影響力を与えるのだ。魔王を討伐するということはそれだけ、世間に多く影響を与えることができ、討伐からの一ヶ月間は、毎日祝日として、お祭り騒ぎが続くと言われている。
だが、そんな平和な期間も束の間である。我々は魔法産業社会に頼りきっており、次なる魔王の発生までそれほどの時間を要しない。実際問題、魔王討伐から次の魔王発生までの期間は、初代から二代目までの期間は14年程度だったのに対し、先代から今の魔王までの発生期間は4年程度と、年々短縮傾向にある。これは、魔法産業の発展により、廃残留魔力の排出量が非常に増加しているのが原因であり、今後、さらに魔王発生の期間は高速化されていくと言われている。
ちなみに初代勇者が初代魔王を討伐してから、現在まで100年の間に8人の魔王が討伐されてきている。したがって、現存する魔王は9代目と言われており、それを討伐する勇者も9人目の伝説の勇者となるのだ。また、魔王発生の契機はある程度のモンスターの異常凶暴化が指標なっており、その襲撃における頻度の向上と、戦闘スタイルの統制さから推察するというのが一般的である。つまり、モンスターの様子の変化からしか、魔王の発生を我々は認知できないのである。ちなみに、年間勇者死亡者数の増加からも、ある程度、発生を読み取ることもできる。




