金銭事情
勇者という存在はとにかくお金がかかるし、リスクも高い。細々と暮らそうと思えば、一生、国から支払われる基本給だけで暮らしていけるが、やはり、厳しい世界に魅せられた勇者達は、その足を止めることなく、いくつになっても冒険を止めない。冒険とは、お金ではなく、名誉や自分自身の向上、限界への挑戦という意味合いが強いのだ。といっても、その目的を達成するには最低限の金銭は必要である。この項では、勇者の金銭事情についてもう少し詳しく解説していこう。
前述したように、勇者は一年間に平均3ヶ月程度、冒険を行なっている。新人勇者の冒険には月450万タラバ程度かかると試算したが、新人含む勇者全体での必要経費の平均は、月に平均1100万タラバだという調査結果が挙がっているのだ。勿論これは、平均であって一部の高所得勇者が押し上げており、勇者の円熟期とも言われる32歳の平均は月830万タラバ程度であることを補足しておく。そのため、年平均、2500万タラバ程度の出費を冒険のために行なっていると考えられる。果たして、そのリスクに見合ったリターンが得られるのだろうか。
例えば、そのシーズンは継続して3ヶ月の冒険に出ると仮定しよう。シーズン初め三月から動き始めるとすると、三月から五月までの3ヶ月間は仲間や資金集めの準備期間となり、六月から九月までが、冒険の本番という計画が一般的となる。したがって、ここでは、2500万タラバを3ヶ月でかき集めなければならない。ポケットマネーにスポンサーへの営業、または市民スポンサーへの説明会など各種にエージェントともに動き回らなければならない。しかし、3ヶ月で2500万タラバをかき集めるのは、一般的な勇者であっても困難を極める。なので、勇者はある程度の資金が確保できたら、そのまま冒険に旅立ち、賞金首やアイテム発掘、素材換金で不足分を補うことが多い。
まず、冒険に出る前に、雇用契約を結んだものに対して、事前に一月分の給与分を渡さないといけないという、取り決めがある。これは契約金のような側面が強く、資金不足による給与未払いを防ぐ役割がある。そして、各種道具仕入れや、後方部隊の雇用もあるため、出発前に最低でも600万タラバ程度は準備しておく必要があるのだ。といっても、基本給の存在もあるため、継続給の関係でその程度は散財しない限り用意できるものが多い。
それをクリアできたら冒険に出発し、基本的にはまず、不足資金分を補うための行動を行う。賞金首はモンスターにもよるが、50万タラバ程度から依頼が存在しており、上限はない。これは、現状のモンスター被害にあっているものから、冒険省を通して掲示されるので、依頼数も多く、手っ取り早く稼ぎにありつけることができる。ちなみに、勇者側に50万タラバ入る依頼案件は、依頼する側は100万タラバ程度、冒険省に支払っているとされている。つまり、半分は中抜きされているのだ。といっても、これらは給与や宿や運営の資金に回され、勇者全体の福祉のために使われいる。
対して、アイテム発掘はその確定性の低さからも、必ずお宝にありつける訳ではない。ダンジョンでの探索は経験者の勘と運が大半を占めており、何も発見できずに終わることも多い。したがって、発掘作業はリスクを承知で手っ取り早く稼ぎたい資金的に追い込まれたものか、少しばかり余裕のあるものの二種類に分けることができる。といっても、価値のあるアイテムが存在するダンジョンというのはモンスターの発生が常である。したがって、探索がボウズに終わっても、モンスターの剥ぎ取り素材の換金である程度、探索分費用はペイすることができるだろう。
また、魔石を発掘すると、その大きさにもよるが非常に高値で売ることができる。前述したように、魔石は大きければ大きほど魔力が高く、分割を行うと高価が発揮しなくなるため、その値段も大きければ大きいほど釣りあがっていくこととなる。一説では、卵程度の重量のもので51万タラバすると言われている。非常に小さい欠片にしか見えないが、そのぐらいの価値があるのだ。また、重ければ重いほど、その値段も比例以上の割合で吊り上っていき、この世の魔法動力で最大級を誇る某飛空挺の動力源となっている魔石などは、400億タラバ程度の買取値段がついたとされている。ちなみに、その飛空挺の総開発費は500億タラバだと言われており、その総開発費の5分の4が魔石取得にかかったとされている。というのも、魔石を動力としている以上、入手した魔石に合わせて、飛空挺を設計するのが基本となっている。つまり、船を作ってから動力を探すのではなく、動力を確保したら、それに見合ったものを作るという工程を取るのが一般的である。
(日本語版訳注:当時の金の価格が1グラム5000タラバだとすると、魔石は1グラム一万タラバだとされている。しかし、1kgとなると金は500万タラバであるのに対し、魔石は1kg1500万タラバまで跳ね上がる。これは魔石の分割性のなさが理由となっており、重さに単純比例するわけではない。ちなみに金1トン50億タラバに対し、魔石1トン200億タラバ)
したがって、ポーション4本分の重さの魔石を採掘できれば、3000万タラバ以上の価値となり、年平均の費用は楽々回収でき、おまけに500万タラバ程度の利益も上げることができるのだ。アイテム探索は当たれば非常に美味しい案件であるが、なかなか探索成功率は高いとも言えず、どっちつかずである。また、軽い魔石はまだ比較的入手しやすいが、重い魔石となるとなかなか出てこず、何年もダンジョンで探索を継続し、魔王を倒すなどの本来の目的を忘れ、発掘作業にとりつかれるものが多いという。
(日本語訳版訳注:ポーション一本500ml500グラムと考えられているため、この場合の魔石は2kgであると推察できる。)
ちなみに、勇者全体の基本給を除く、冒険稼業だけでの平均収益は1200万タラバ程度にすぎない。これは、冒険がいつも成功に終わることなく、その失敗率や出資金回収率が非常に高いことを表しており、且つ、一部の利益を多いにあげたものが平均を多いに押し上げているという結果を表している。勿論、死亡率も高く、利益出ずとも生きて帰れただけで運がいいと考えるのが一般的である。




