勇者依存社会
魔法の発展は廃残留魔力を孕み、それによるモンスターの凶悪化や魔王の誕生は、討伐のための勇者という存在を必要不可欠とした。勇者は我々にとっての英雄である。幾つもの脅威から私たちを救い、平穏を保ち続けてきた。しかし、我々はそんな勇者産業に完全なる依存を果たしている。モンスターを討伐するためには大量の資金や道具を必要とし、関連産業に従事するものも多く、その市場規模は莫大なものとなっているのだ。
特に前述したダンジョン街の存在は依存度で言えば、ほぼ100パーセントであり、各地にその数を増やしているのだ。勇者がいなくなってしまった時のことを考えると恐ろしいほどである。もっとも、魔力使用によるモンスターの凶悪化というのが根源的な要因であり、それさえなければ、モンスターも存在しないし、勇者も存在しないのだ。しかし、我々は魔法の便利さを覚えてしまい、そのような前時代に立ち返れない。ある種、禁断の果実に手を出してしまい、もうこの仕組みを維持していくだけでも精一杯なのだ。
勿論、勇者産業の成立は我が国の経済力を莫大なものとし、国力の莫大な強化につながった。民衆も共通敵の存在により、団結力を強め、さらなる富国を目指すことになるだろう。進歩のためにはある程度の犠牲はつきものであり、我々はこの制度の存在を歓迎しなければならないのだ。ちなみに、廃残留魔力の影響力を知ってしまった者の中には、旧文明に立ち返り、農村部でコミューンをつくり魔法に頼らず共同生活を送っているものも存在すると言われている。そのような非魔法文明主義者の数は、職業勇者成立以降増加傾向にあるが、未だ影響力を持つに至っていないのが現状である。
また、職業勇者制度が成立した背景には、国内の魔物の討伐以外に、もう一つ理由がある。それは自国領土の拡大のための探索である。この世界は未だ全貌が明らかになっておらず、モンスターの発生も伴って、探索が長距離になればなるほど、危険性が高まることとなる。そのような、探索者の役割を勇者に一任することによって、交流のない対外諸国との関係性を作るのという目的があるのだ。
探索中の他国においてモンスターが発生した場合、勇者はその討伐を行う。勿論、脅威から逃れることができた他国の人々は我が国の勇者に国家をあげて賞賛を送るであろう。そうすれば、我が国は他国との侵攻、あるいは交流において、幾分か有利になるのだ。つまり、他国におけるモンスター討伐は、その国において勇者制度を整えるきっかけとなりやすく、その役割を我が国が一任することにより、ある種、同盟国や植民地的に支配するのが可能となる。これにより、自国拡大を行い、各地に拠点をつくりさらなる探索が可能になるという作用が生まれる。
勿論、支配においてはこれの下敷きとなっている、魔法産業文化の伝搬が大義名分であり、属国の文明水準を引き上げることが可能となり、さらなる勇者需要の拡大も見込めるのだ。また、軍隊の管轄下にある、格闘家が同行するのは、こういった領土拡大の際に、勇者と魔法使いのみが手柄を上げ、冒険省と魔法科学省の権力の拡大、暴走を防ぐためという目的もある。
まとめると、他国侵攻の手順としては、探索者がモンスター討伐し、外敵の防衛を我が国に一任させる理由作りを行う。それに伴い、魔法文化の伝搬を文化政策として行う。そして、それに伴う治安悪化を防ぎ、さらなる周辺国からの侵略を抑えるためにも、軍隊が派遣されるという段階を踏む。その手順で我が国は実質的に他国支配を行い、順調に国力を拡大しているのだ。




