魔石
この国を取り巻く魔法産業社会の要である魔石の性質について、もう少し詳しく解説していこう。
オカルトの類だと考えられていた能力が、科学的に証明され、魔法と言う形で体系化された。そして、魔力認知能力を持ち、魔法放出が可能な魔法使いという存在を生み出した。また、彼女らは自らの体内の魔力を認知できるだけでなく、万物にも魔力があることに気づいていたのだ。そのような高濃度の魔力を持つ物質の総称を「魔石」という。魔石の発見は、特有技能だと考えられていた魔法を一般市民にも広めることとなり、広く産業利用されるに至ったのである。ちなみに、魔石といっても岩石や鉱物に限定されるわけではなく、魔力の強い物質は須らくこの名称で呼ばれている。しかし、性質的には岩石中において発見されることが多いとされる。
前述したように万物には微弱ながらも魔力が存在していると考えられている。その中でも、廃残留魔力の影響などで高濃度の魔力を持つ物質を魔石と呼んでいる。この魔石の特徴としては、密度が非常に高くなると言うものがある。例えば、卵サイズの金があるとしよう。金というのは非常に密度が高く、そのような大きさでも、実際の卵の20倍程度の密度があると考えられている。しかし、魔石はその金の3倍程度の密度を持っているという調査結果が出ているのだ。従って、魔石という物質は小さい割には非常に重たい物質となっており、割れると魔力性質を失うという特徴からも、運搬には困難することが多い。ちなみに特大ビールジョッキ8杯程度の体積で四人乗りの馬車一台分の重さと同程度だとされている。
それから放出される魔力の量は基本的には一定と考えられており、魔力が強ければ強いほど魔石は巨大化する傾向がある。また、巨大化すればするほどエネルギーとしての変換効率が良くなるのも特徴的であるが、この原理は未だ分かっていない。ただし、前述したように分割すると性質を失ってしまうので、巨大魔石を採掘したからといって、小分けにしてそれぞれが高い変換効率を持つ魔石として利用することは不可能である。従って、船などの大きものを動かすには分がいいが、馬車などの小さいものを動かすには変換効率が悪いなど、我々が日常的に利用する乗り物において、実用化には至っていないという欠点がある。これだけ便利なエネルギー源が存在するのに、我々は未だに馬車に乗っているのだ。ちなみに、現在陸上での大量輸送をもたらすため、レールの上を魔力で走る魔力機関車の開発が進行中であるが、その莫大なスケールとコスト面から、難航すると考えられいる。
また、魔石は長期にわたるエネルギー放出が認められ、船舶は基本的に魔石一つで5年程度動き続けると言われている。エネルギー放出が限界まで行われると自ずと砕け、崩壊すると言われている。この崩壊時における事故が多発しているため、どこまで使い切るかの見極めが重要と言われている。勿論、そのような点検は魔力認識者の役割であり、魔法使いは魔法分野において必要不可欠な存在であるのだ。
ちなみに、勇者にとって重要な魔法制御指輪など、大量の魔力は必要としない魔石は、指輪サイズまで小型化する技術が発見されている。しかし、これは低魔力の魔石に限っており、高い魔力を持つ巨大魔石においては再現に至っていない。またこれも使い続けると5年程度で壊れるとされているため、五年以内に次レベルの指輪に交換するのが目安となっている。そして、指輪が壊れた場合は、上位レベルの指輪としか交換を行わないという決まりがあるため、5年以上同レベルに留まっているのは、勇者失格としての烙印が押されてしまうのだ。
そして、我々平民による魔石利用の象徴とされるのは、遠隔地間における音声伝達と映像伝達の分野である。音声伝達は公衆魔法音声局に行けば、金銭を払って遠隔地のものと会話をすることができる。そして、会話ではないが、「マギレイディオ」と呼ばれる受信機があれば、一方的であるが音声の受信が可能となる。これは庶民の情報入手の元とされ、広く活用されている。
また、映像伝達においては「マギビジョン」という魔法を動力とする機械を手に入れれば、魔法科学省の番組を受信できると言われているが、未だに高価なため、一部高所得にその所有は限られている。ちなみに、魔法使いは、自己魔力による音声伝達を、能力を持つもの同士で行うのが可能である。また、最近では、文字情報の伝達も自己魔力で実現できる可能性が浮上してきたため、メカニズムの解明に急いでいる。
(※日本語版訳註:当時の記述から推察するに、100kgのものを魔石750kgで、1tのものを1tで、10tのものを1.25tで、100tのものを1.5t程度で満足に動かせるエネルギーを持つとされている。ただし、魔石自体の重量は含まないものとする。また、魔石の密度は60g/cm^3程度だと考えられており、それ以下の物質は魔力が多くとも、魔石とは呼ばれない)




