独立後の動き-後方部隊の雇用編-
こうして戦闘に参加する実働部隊を雇い終え、旅の目的を決定できたら、ようやく出発することができる。その期間は一週間から半年以上まで様々であり、何を持って冒険を終了するかは主催者に一任されている。そのため、賞金首のモンスターを倒すだとか、希少価値の高い財宝を探し出すなどという具体的成果を伴うものを旅の行程に入れておくのが通常である。魔王討伐という漠然な目標を掲げて冒険に出ても、長期にわたり達成できず資金ショートという可能性が高いため、大きな目標を定めた後は、金銭に直結する依頼を短期的に道中こなすようにルート策定することが多いのだ。
そんな中、どうしても移動というのが旅にはつきものとなる。移動こそが冒険のほとんどを占めるといっても過言ではなく、野営設備や馬車など色々と準備しなければならない。なので、パーティーを編成する際は、実働部隊以外に後方部隊も雇用するのが一般的である。後方部隊は主に、馬車の操縦、道具の運搬、ひいては、金銭的に余裕があるなら料理人や整体師まで多種多様に渡る。戦闘を行う冒険において、移動中は休息という側面が強い、なのでそれらに関連する業務を全て引き受けてくれるものたちを雇用する必要があるのだ。従って、基本的なパーティー編成としては、実働部隊4人に加え、マネージャー1人、馬車隊2人に荷物隊2人の9人編成が基本となる。勿論、これらは旅の最小限と考えられており、険しい山岳地帯を行く場合などは、道に詳しい現地シェルパを追加で雇うことが多いのだ。
馬車隊や荷物隊はそれらの業務を総合的に引き受けてくれる企業が存在するため、一括で申し込むことが多い。勿論、必要に応じてオプションも可能で、金銭的に余裕がない場合は、御者なしで馬車のみの貸し出しも行っている。特にグローバルボヤージュ社とカゴトネリ社は業界最大手として全国的な展開を行っており、各地と連携が取れているため広範囲の冒険において利用しやすい。また、料金であるが、馬車2人に荷物2人プランだと、月100万タラバ程度で雇うことができる。しかし、大手の移動会社は中間搾取がひどいと言われ、ある程度の心づけを払わないと現地の御者たちにボイコットされるという事例が多数ある。勿論、企業体質として酷いのはあるが、チップというのは勇者にとって躊躇すべきでないとされているため、企業に払う金銭以外に御者たちにも気持ちを支払うというのが慣例となっているのだ。後方部隊の言いなりになってもいけないし、そっぽを向かれてもいけないので、勇者は利害関係の調整に追われることとなる。
最後に旅にかかる費用をまとめてみよう。「独立後、最初の旅」というのをモデルケースとし、全員新人かつ、最低限のメンバーで挑むと想定する。まず、二番手勇者の雇用に60万タラバ、しかし補助金が入るので24万タラバとする。そしてⅠ種魔法使いの新人が70万タラバ、格闘家の新人が支払い分だけで20万タラバ、マネージャーが30万タラバ、移動後方部隊に100万タラバとなり、合計すると244万タラバとなる。勿論、これはひと月にかかる試算であり、旅の長期化とともに肥大していくこととなる。また、それ以外にエージェント分の支払いも加算されたり、各種チップや武器の整備費用にアイテムの補充費用などを加えると、月に平均450万タラバが必要とされるのだ。従って、旅にすぐ出ようと思っても、資産家でもない限りほぼ不可能であり、勇者は予備校講師として副業を行ったり、剥ぎ取り素材の換金に勤しんだりしなければならない。また、それ以前に莫大な資金提供を仰ぐためのスポンサーの存在が必要不可欠となるのである。
ちなみに、食事代金だけは勇者以外の実働部隊が負担するという習慣がある。これは、諸説あるが、かつての勇者は真っ先に食事代金を削るものが多く、雇用された側としては食事だけはこだわりたいと意見するものが多発したためとされている。また、勇者は冒険中はストレスで食事がおろそかになりがちという調査結果もあり、そのような不栄養な状態は士気の低下に直結するということで食事は他者の管轄であるという説も唱えられている。




