はじめに
勇者のなり方としてかつて一般的であったのは、「王の命令で魔王を退治する」というものであろう。国家の威信を背負って少量の武器と金銭を与えられ、後は自由に旅をする。そこには保証制度もなく、国家としてのバックアップ体制が成り立っていない。おまけに、街の人々の対応も放浪旅人とあまり変わらない様子であった。
勿論、国家サイドも脅威となる存在に対抗する意思を持つ、「勇気ある者」を集っているだけで、あとは自己責任となるのには理由があった。勇者として名を挙げようとする者たちはこの世に数多存在しすぎたのだ。だから与える装備品も少ないし、継続的なバックアップ体制なんてもってのほかである。
いわゆる少量の装備を転売目的であったり、冷やかしに来る輩もたくさんいたことだろう。国家の勇者にかける予算もいい加減というか、志あるもの誰でも皆平等に最低限度のバックアップは効率が悪すぎるという意見があった。
やがて、そのようなゴロツキの増加は社会問題となった。魔王が倒されたあとも失職勇者として、世界各地に氾濫していたのだ。そのような現状を嘆いた初代勇者は勇者の職業制度実施に動き始めたのだ。
新たな脅威に向けて、いつでも上質な勇者を揃える制度で、国家予算もどんぶり勘定で肥大し続けるよりも、制度として管理することにより安定する。そしてなによりも勇者の地位向上というのが目的であった。ふるいにかけることにより、優秀な人材のみ選び抜き、ある程度実力者で少数先鋭を目指す。軍隊とは違う新たな制度としての職業勇者の成立を目指した。
そして、魔王を倒した勇者とその関係者の尽力により、時代の後押しもあり職業勇者は見事成立。この書はこの度、制度成立100周年を迎えたことを記念し、改めて職業勇者を周知する目的で出版される。