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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハーレム構成員、少女Eの苦悩

作者: 小山 優

二月十八日 午後四時三十七分開始  対象・花咲桜  担当・磯貝園子  書記・野宮奈々


 私には好きな人がいます。

 いえ、別に特別格好いいとか、運動が出来るってわけじゃないんです。だけど、彼だけは私に……あ、ごめんなさい。話が逸れましたね。それに、このことはなるべく自分の胸に大事にしまっておきたいことなので……。

 仲は良い方……だと思います。学校に他の仲良い男子がいないっていうのもありますけど。たまに話はします。クラスは違いますけど、委員会で同じなので、業務的な会話はしますし、終わった後にちょっと世話話したり……。あとは時々出かけたり、ですか。

 どうして、もっとアプローチしないか、ですか。

 彼、とってもモテるんです。

 あ、これだとちょっと語弊があるかもしれません。

 体質なのかよくわかりませんが、彼の周りには一杯女の子がいるんです。

 幼馴染だったり、妹さんだったり、知り合いの生徒会長さんだったり、先輩さんだったり、クラスの委員長だったり、あとは…保健室の先生とか、交換留学で来てた子とも仲良かったと思います。

 本人に自覚はないんだと思いますけど、自然と周りの女の子を惹きつける、というか。そういう仕草をするというか……。私も多分そういうのにあてられた一人なんだと思いますけど。

 でも彼、そういうのに全く気付いてないんですよね。あ、モテるとかそういうのじゃなくて、女の子から好意を向けられてるってことに、です。

 鈍感、っていえばそれまでなんですけど、わざわざ誰かが呟いた「好き」とか思わせっぷりな言葉が全く聞こえていないみたいなんですよね。難聴なんですかね。

 はい、こっちとしてはもうめちゃくちゃ疲れますね。誰かが告白したらしいんですけど、それすら聞こえてなかったとか、寝惚けて聞き逃したとか。女の子舐めてるんじゃないんですかね。

 私、ですか? そんな勇気ありませんよ。

 一度、学校行事のときに二人っきりになりましたけど、全然脈なしでした。というか、性欲とか恋愛感情とか、そういうのがあるかどうかも怪しいです。

 それに、私なんかより幼馴染の子や、生徒会長さんの方が彼に近い位置にいて、多分私はその他大勢の一部にしか過ぎないんだと思います。

 ……そうですね、ハーレムといえばそうなのかもしれません。彼が中心で、私たちがその取り巻き。そして私はその端っこに引っかかっているだけです。役柄で言うなら……Eですかね。村人をAから順にあてはめていって、Eあたりの符合をもらえる、そんな役です。

 でも、それでもいいんです、私は。

 私に割り振られた符号がAであろうがEであろうが、私が彼を好きなのは変わらないし、彼が誰の気持ちにも気づかない、応えないのは変わりません。それでいいんだと思います。皆で波風立てずに仲良しで、そういう日常をただただ過ごしていく、っていうのも見ていて楽しい生活だと思います。

 はい、だから幼馴染さんを殺しました。

 だって、あの人はこの日常を壊したんですから。ルールを破ったんですから。

 彼を自分のものにしようとしたんですよ? わざわざ文章で連絡を取って、彼に自分の思いを間違いなく伝えられる形で言って。

 ルールを破ったんですよ? 罰があるのは当たり前じゃないですか。

 別に、彼がそれに応えたとか、そういうのは重要じゃないんです。ルールを破るのが誰であっても、彼は相手を傷つけないように「YES」と返事をするでしょうから。

 日常を壊さない。ずっとこのまま。それが私達のルール。暗黙の了解だったんです。

 はい。生徒会長さんの悪評を流したのは私です。でも、彼女だって委員会の仕事配分を調整して私が彼と接触する機会をコントロールしてました。彼女自身、根も葉もない自身への噂程度ならすぐに消し去れる人脈を持ってますし。

 私たちはお互いを牽制しあって、彼への障害を用意しあうことでこの状況にのめりこんでいたはずなんです。もちろん、彼には気づかれない処で、です。

 当たり前ですよ。未成年で、性欲多感な時期ですよ? これだけ女の子に囲まれていて、誰とも何ともないっていうことがおかしいんですよ。別のところから違う力が働いているに決まっているじゃないですか。

 先輩さんが同級生に言い寄られたのは委員長さんの差し金ですし、保健の先生は健康管理という名目で留学生を呼び出してます。

 それぞれがそれぞれの試練を乗り越えることで彼への思いを確認しているんです。

 遊びじゃありませんよ。私たちは真剣です。私たちは真面目に恋愛しているんです。

 彼女は、幼馴染さんはそれがわかってなかった。いえ、忘れてたんですね。妹さんがコントロールにミスをした、とも言えるでしょうが。

 私が彼女を殺してなかったら、別の誰かが殺していたはずです。だって、ルールを破ったんですから。

 だから、私はどうして私は自分がここにいるのかわからないです。

 あ、お水ありがとうございます刑事さん。カツ丼とかは出ないんですね、ドラマの見すぎでした。

 私、ルールを守っただけですよ? 罪には問えないはずです。だってそうじゃないですか。ルールを破ったのは彼女で、その罰を与えたのが私だった、っていうだけなんですから。

 ルールを破った彼女が消えるのはしょうがないことじゃないですか。私も、できればこんなことしたくありませんでした。服とか汚れましたし、運ぶの疲れましたし。

 私たちはただ日常を過ごしていただけです。それが、何か問題だったんですか?


午後五時十三分終了  監察・鳩原健二、山下徹、武蔵純也(階級順)




「すみません……聞いててちょっと気持ち悪くなったんで外出てきます……」

 そう言って、若手の部下が取調室から出ていく。

「……それにしても、凄い倫理観だな」

 呟いたのは、同僚の刑事だった。

 マジックミラーの向こう側。女性署員二名に取り調べを受けている少女の口から出た言葉に自分と二人で戦々恐々としていたところだった。

 少女は高校生。被疑者はその同級生。痴情のモツレ、という見方が一般的だったが、その内情は恐ろしく狂っている。

「ハーレム……俺には理解できんが、最近の若い奴らの中には本当にそんなことをやってるやつらがいるのか」

「そういうわけじゃないだろう。ただ、この集団が狂っている、というだけの話だろ」

 二人で話していると、扉が開く音がした。部下がもう戻ってきたのか、と見ると、さきほど取り調べに当たっていた女性署員の一人だった。

「休憩か?」

「はい、あの子がトイレに行きたいというので、それなら少し休むことにしました。何より、私の消耗が激しいです」

 はあ、と彼女は重いため息をつく。

「見張りは誰が行ってる?」

「奈々に頼みました。多分逃げないでしょうけど」

 彼女は近くにあったパイプ椅子に座り直すと、俯いてまたため息をつく。

「直で対面して、感触はどうだ」

 聞くと、若干顔をあげた。心なしかやつれている。

「……殺人犯の取り調べも何回かやりましたけど、まだそっちの方がわかりやすかったです。それぞれに喜怒哀楽があって……。精神異常者でも、何かしらの反応があるんですよ。殺人サイコ―っていう人もいれば、自分の過ちに怯えているとか」

 彼女は違うんです、と女性署員は言う。

「殺した、っていうことが、日常の一部っていうか、常識のタガが外れているって言った方がいいと思います」

 お水ありますか、と聞いた署員に、近くにあったスポーツドリンクのペットボトルを渡す。

「聞いたことあるな、ヤンデレとか言ったか」

「鳩さん、年に似合わず変な言葉知ってますね」

 若干ニヤけた同僚が気持ち悪い。多分褒められてないぞ。

「でも、違いますね」

 その言葉に、二人してム、となる。

「病んでるんじゃないんです。常識が違うんですよ」

 つまりどういうことだ、と目線で質問する。

「えーとですね……ヨーロッパだと挨拶で頬にキスするのは割と普通のことじゃないですか? でも、日本でそれしたら変人、悪くすると変質者ですよね。彼女にとって殺人は……いえ、ルールを破るっていうのは、そういう違いのことなんです。多分、彼女は精神鑑定を普通にパスしますよ。常識がある一点で違うだけなんですから」

 俺には分からんな、と同僚は言う。

「だが、ホシは確定だろう。本人も認めてる。人権屋が未成年犯罪をどうこう言うかもしれんが、実刑は確定だな。これで執行猶予がついたら恐ろしい。叩けば余罪が出ると思うが、他にも何人かしょっ引くことになりそうだ」

 そうですね、と女性署員が相槌を打ったところで、マジックミラーの向こうに少女が帰ってきた。

「じゃあ二回戦と行きますか」

「大丈夫か。俺らのどっちかが変わってもいいが……」

「同性の方が良いって最初に言ったのは誰ですか。これでも体力はあるほうです」

 頑張ってきます、と女性署員はノビをした後、部屋を出ていった。

「若い奴が頑張ってると嬉しいな」

「それにしては感性とか知識が老人だとは思うけどな」

 違いない、と二人で笑う。

 そこで、外で休んでいた部下が戻ってきた。

「こっちの若いのはダメダメだな」

「何言ってんスか……あの会話聞いてまともな方がおかしいっスよ」

 幾分か顔色は良くなってきている。

「薬かなんか飲んだか」

「あ、はい。たまたま治療用巡回ロボ(メディック)が通ったんで、診断ついでに薬貰いました」

 そうか、と言った同僚がポケットからスマートフォンを取り出す。

「先輩、いい加減に変えたらどうスか」

「ガキの頃から慣れてんだから俺にゃこれでいいんだよ」

 時代には対応した方がいいっスよ、と部下は腕時計型の電子デバイスから立体映像(ホログラム)を呼び出し、操作する。

「よくそんなの使えるなお前。俺には2Dの操作が限界だ。目がチカチカする」

「タイムパトロールだと使用が日常的だし、最近の奴は使えて当たり前じゃないですかね」

 どこで使い方なんて勉強するんだ、と聞くと、部下は少し馬鹿にしたように笑って、

「使ってるうちにわかるもんスよ、こんなの。まあ――」

 彼はデバイスの表示を消した後、

「――常識ですよ」

落ちが微妙、というかわかりにくい。


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