2月4日
先頭が終了してモンスターが、領地内に現れたがやはりゴブリン四天王達は戻ってこなかった。
争奪戦での死亡も通常と同じようにカウントされてしまうようだ。
確認を済ませてログアウトして、眠りにつこうとするが、最後に笑って見せたゴブ達の顔が脳裏に張り付いて離れない。
寝不足のまま、仕事へ行きどうにも集中力に欠けたまま仕事を終えて家路についた。
息抜きのつもりで始めたゲームであったが、いつの間にか彼方の世界を中心に生活を送り始めていた事に今更ながら気が付いた。
コレもVRゲームによる弊害の一つなのかもしれない。
生きていると見間違えてしまうように生活を営むNPCとの会話やモンスターとの戦闘など直に体を動かすようにした体験が、此方へも影響を与えているような気がするのだ。
11月のアップデートによる体感時間の加速によるプレイ時間の延長が更にそれに拍車をかけていると思われる。
そんな事を考えながらいつもの様にログインを済ませるといつもの様に魔王の間の景色が見えた。
「申し訳ございません。
貴重な戦力を失い、敗走してまいりました。」
傅いた格好で迎えたデコーズが悔しそうにそう言った。
「いや、あれはお前の責任ではない。」
「しかし!」
「タラレバを言った所で、起きてしまったことは変わらないんだ。
これを次に生かしてくれると、死んだアイツらも浮かばれるだろう。」
「そう…、ですか。」
「ああ、アイツらの死を無駄にしないでくれよな。」
「かしこまりました。」
パチパチパチ!
突然、魔王の間に乾いた音の拍手が響いた。
「いや~泣けちゃうね。
てか、何マジになってんのNPC相手に」
声のした方を向くと無駄に豪華な金色の刺繍の入った紺色の服を着た小太りの少年が扉の横の壁に背中をあずけ、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「誰だ」
「あれあれ~もしかして対戦相手の顔も分からないのに僕に勝つつもりだったの?
そんなんじゃ彼らも浮かばれないよね~。」
此方を見下すような瞳を向けてそう呟くと、無造作に刀を地面に落とした。
「なぜ…お前がソレを持っている!」
クリストが落したのは、ゴブリン四天王に与えた刀だった。
「なぜって?そぉんなの~争奪戦のドロップに決まってるだろ?」
「ソレを返せ、お前が持ってていいモノじゃない!」
「えぇ~どぉしよっかな~。
そうだ!この争奪戦で勝てたら僕の領地の代わりに返してやってもいいよ。
どうせこんなナマクラ持っててもしょうがないしね。」
「いいだろう、じゃあさっさと始めるか。」
相手が負けても損をしない明らかに不利な条件であったが、奴があの刀を持っていることが許せなかったので、あえて乗った。
「いいけど、いいの今はじめても?」
「怖気ずいたのか?」
そう言った瞬間、ドォォォォォン!!と町の方から爆発音が聞こえた。
視線を向けて窓から確認すると、町が燃えていた。
「ぎゃはははは、いいねその顔!
僕は、そういう顔を見るためにこのゲームをやってるんだ。」
「デコーズ!町を頼む。」
「ははっ!」
「あれあれ~あんなのに任せていいのかな~?また、負けちゃうよ~。」
「お前はもう黙れ!」
「わ~こわい~!」
終始ニヤニヤしたままのクリストに向かって斬りかかる。
ガチン!
見えない壁の様なものに阻まれて刀がクリストに届くことは無かった。
「せっかちだな~争奪戦の戦闘は決められた空間に転送されてからスタートだから今攻撃しても意味ないし、ぷぷぷっ!」
クリストがそう答えると同時に目の前に争奪戦の最終戦の開始しますか?とウインドウが表示された。
YESを選択すると、視界が反転し気が付くと影武者設定の時に来た様な地面だけの真っ白な空間に転送された。
遮蔽物もなく長距離攻撃を遮るものもないどちらにも五分となるであろう決闘用の空間にカウントが流れる。
「3、2、1、スタート!」
開始の合図とともにクリスト目掛けて駆けだした。
相手との距離は、15mくらいだろうか、クリストがこちらを仰ぐように水平に右手を動かすと奴の周りに複数の魔法陣が浮かび上がる。
「ふひひっ、迂闊だな~」
その言葉と共に展開されていた魔法陣から様々な色をした同じ形状の魔法が飛び出した。
矢のような形状のソレは、直線的な動きで此方に迫ってくる。
色から想像すると、基本属性全てが展開されているようだ。
どうやら、スキルリングなどでスキルスロットを拡張しているのだろう。
そして、複数の魔法を同時に詠唱できていることから、魔法特化と言えるスキル構成のようだ。
始めは避けていたのだが、かなりの誘導性があるのか通り過ぎた魔法がUターンして戻ってくるのだ。
慌てて刀で斬りはらい魔法を消滅させる。
クリストは、両手を使って更に魔法を追加で放つが、このレベルの速さなら修行中のおじいさんのの斬撃の方が数段速い、迫りくる魔法を迎撃しながら前進する。
「ちっ、脳筋かよ!」
忌々しそうに舌打ちをして呟いた後、此方に向けて指をパチン!と慣らすクリスト。
突然足元の床が、トゲ状に隆起して襲い掛かる。
先ほどまでの魔法と違い魔法陣の展開などなく行き成り来た、その攻撃に思わず後ろに下がって避けたところに追加の魔法が飛来する。
今度の魔法は、最初と同じような形だったが、大きく弧を描き後ろに回り込むなど全方位から迫って来た。
慌ててダークウォールを背後に展開して壁を背にして魔法を切り落とす。
相手に攻寄れずに一時間程度そんな攻防が続き、少なからず被弾してしまったこちらのHPは5割を下回っていた。
「ぜぇぜぇ、めんどくさいな~。
そろそろ終わりにしたんだけど、僕もう飽きちゃったし。」
「だったら、ギブアップしたらいいだろ。」
「ぷっ、僕に一撃も当てられてないのにギブアップしろなんてばっかじゃないの~。
お前が、さっさと負けを認めたらいいんだろが!」
「いや、そろそろ一撃入れれそうなんで投げるわけにはいかないよ、あいつらの為にもね。」
「あ~やだやだ、もうさっさと死んじゃってよ【ダークインフェルノ】」
そう言ってクリストが、両手を上に振り上げた。
すると、先ほどまでの魔法陣の5倍ほどの大きさのモノが現れたかと思うと5mを超えるであろう赤と黒の混じり合う巨大な火の玉が生まれた。
それは空気を含み、みるみると大きくなっていく。
流石にここまで大きな魔法を使うのに先ほどまでのノータイムとはいかない様で、溜めの時間が必要なようだ。
僕は、あと5mほどまで近づいたところでもう時間がないと思い、刀を振るった。
「【一閃・極】」
「無駄だ!無駄!そんな距離で何が出来る!…へ?」
クリストの両腕が宙を舞いソレを目で追った為か意識が魔法から逸れた、完成しかかっていた魔法が制御を離れて真下へと落下していく。
「な、なぜだぁぁぁ?!!!」
そんな断末魔を聞きながら10m近くまで成長していた火球の落下地点から急いで離れる。
巻き込まれてしまえばこちらも大ダメージを喰らってしまい、折角のチャンスが水の泡になってしまうだろう。
火球が、クリストと触れ大きなきのこ雲が出来上がる。
僕は、出来るだけ距離を置き地面に伏せてその光景を眺め出来る事ならこのまま戦いが終わることを願った。
先程使った【一閃・極】は、この戦いの準備段階の最後に思いついた対プレイヤー用のアーツだ。
【一閃】と同じモーションから、斬属性特化の衝撃波を飛ばすと言う、他の物理系スキルでレベル30を超えた辺りで覚える中距離攻撃のアーツの様なものだ。
ただ、刀には対応スキルが無いと言うことでこの中距離攻撃は当然存在しないというプレイヤーの盲点を突けるよう、対戦終盤などで【一閃】に対応してきたときなどに混ぜ込むことで奇襲に使えるのではないかと思い、奥義書に書き込んだものだ。
奥義書で使えるようにしたアーツは、奥義と言う扱いになるそうで使用に関しての制限が多少普通のアーツよりは重いが、その分威力も高い為ここぞと言う場面で大きく活躍してくれた。
両腕を失い自身の魔法で盛大に自爆したクリストであったが、如何やらHP全損とはいかなかったようでない両腕を前に突き出すような恰好で爆心地に立っていた。
「キサマァァァ、絶対にぃ!絶対に許さんぞぉぉぉ!!」
そこからは、それほど時間は掛からなかった。
切れてがむしゃらに魔法を放つクリストに接近するのは簡単だった。
アッサリと接近を許してしまった彼の首を撥ねて勝利となった。
戦闘が終わり通常空間に戻ると、魔王の間に領地のネームドモンスター達が勢ぞろいしていて負けて転がっているクリストを睨んでいた。
僕は、クリストに近寄り
「さぁ、約束通り彼らの刀を返してもらおうか?」
「うるさい!僕が負けるわけない!お前ズルしただろなんで刀にアーツが有る!」
「不正はしていないどうやったかを教えると森はないがな。いいから、さっさと刀を返せ!」
「うるさい!うるさい!うるさーい!!」
駄々をこねるように、床でジタバタしているクリスト。
思ったより年齢が低いプレイヤーなのかもしれない、どうしたモノかと思っていると
「彼は、不正なんてしていませんよ」
突然、魔王の間に聞き覚えのある声が響いたので振り返ると
「お前は…」
「どうも、ベルゼブブです。お困りの様なのでやってきました。」
「なんか話がこじれる気しかしないんだが?」
「まぁ、普通ならそうですね今回はイレギュラーなことが有りましたので、こういった事もあるかと参上したのですが。」
「と言うことは、状況を把握していると考えても?」
「ええ、大変楽しく観覧させていただきました。
もちろん、解説であなたに不都合になるようなことは言っておりませんので安心してください。」
「それはよかった。それでアレをどうするんだ?」
「あの子は、負けると毎回ああなるんで適当にあしらっておけば大丈夫ですよ」
「そうなのか?」
「ええ、それでは後は此方でやっておきますので」
パチン!
そう言い終えるとベルゼブブが指を鳴らす。
クリストの周りに魔法陣が現れてその姿をかき消していく、多分自分の領地にでも送られているのだろう。
「それでは、今回はおめでとうございました。こちらが、対象の品となりますのでお受け取り下さい。」
ベルゼブブから四人の刀を受け取ると、彼もまた光の中に消えて行った。
「ふぅ、やっと終わったか。」
「よろしかったのですか?」
振り返るとみんなが、心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「ああ、コレには代えられないしな。それはそうと町の方は大丈夫だったか?」
「はい、私が到着したときにはほとんど片付いていました。」
「あの程度の敵、マスターの手を煩わせるほどでもありませんでしたわ。」
「そうニャ、あの程度一人でも余裕だったニャ。」
「そうか、これから城の裏にでも墓を作ろうかと思ってるんだが一緒に来るか?」
「誰の墓を作るニャか?」
「だれって、こいつ等のだが」
「待つニャ。ご主人様、アイテムボックスに魂って名前に付くものを持ってないかニャ?」
「ん?」
デケに促されてアイテムボックスを探ると、そこには【タロウの魂】【ジロウの魂】【サブロウの魂】【シロウの魂】というアイテムが有った。
「有ったニャか?それを使えば彼らを復活させることが出来るニャ」
「そうか…よかった。」
「でもニャ、ご主人様、魂は死んだ時に劣化していくにゃ。
全く同じではないからそこは注意が必要ニャ。」
その後は、ゴブリン四天王を再生させて労をねぎらった後に食堂にて祝勝会と称してまたま居合わせたプレイヤーたちも巻き込み盛大に宴会をしたのだった。




