1月15日・後篇
ボス部屋の前で息を整える。
この扉の向こうにどのようなモンスターが、待ち構えているのかを想像しながらお手製のポーションを飲み干す。
Bランクの道中では、獣人タイプで様々な武器や魔法を使いこなすモンスターが、3~6体のパーティーを組んで徘徊していた。
武器は、剣・短剣・斧・弓などバラエティに富んだ編成でそれぞれの対処法を学ぶいい訓練になった。
魔法に関しては、獣人と言うこともあってか大火力の殲滅魔法ってよりは身体機能を向上させる補助魔法をメインで使ってきたが、どちらかと言うと各獣特有の機能に特化している獣人が更に尖った強化を施されて迫ってくるのだ。
Cランク以下では、モンスター達がうまく連携を取り行動することはボス戦以外ではなかったのだが、Bランクでは当たり前のようにそれぞれの装備に合わせた立ち回りで苦しめられた。
そして、一番の苦戦した要因が【修練の門】内に居るモンスターは情報を共有しているようで内部で取った此方の行動に対して、次に出会ったパーティが自然と対処してくるのだ。
一応救いとしてリタイアするとリセットされるのだが、力を隠さず全力で進んでいたときなんかは、後半になるにしたがって見た目は同じなのに此方の戦術に合わせた装備を持ち襲い掛かって来たときなんかは戦慄を覚えた。
其れからは、出来るだけ力を温存したうえで木刀を破損させないように相手を葬ると言う、もともと難度の高いダンジョンをハードモードで進む苦行を乗り越えて遂にここに到達したのだ。
扉を押して部屋の中へと進む。
そこは、直径50mくらいの円形の闘技場を模したような造りとなっていて中心辺りにボスと思われる獣人が立っていた。
その見た目は、異形と言って差し支えないと思う。
チーターを思わせるような脚を持ち、熊のように太い腕からは20cmほどの鋭い爪が生えていたりと2mほどの体に様々な動物のパーツを組み合わせたような恰好をしていた。
扉が閉まり、ボスがこちらを認識すると威嚇のための低いうなり声を上げる。
木刀を構えて相手の出方を伺いながら少しずつ距離を縮めようとした瞬間、ボスが地面を蹴ったと思ったら、目の前で爪が振り下ろされるところだった。
慌てて木刀でガードしてしまった。
其れだけで、木刀の耐久値がレッドゾーンに突入した。
「うわ!マジか、速すぎるだろ」
思わず独り言が口から飛び出した。
勿論相手は待ってくれるはずもなく、壁や天井を飛び跳ね廻るように移動して全方位から攻めてくる。
それから5分ほどは耐えたと思うが、最後は両腕を封じられたところで首を食いちぎられてリタイアとなった。
【修練の門】入り口前の広場の有るベンチに腰掛けて空を見上げる。
ここまで圧倒的に負けたのは、何時ぶりだろうか?
大きくあけられた口が首に迫ってくるのにどうすることも出来ない恐怖と直後の痛みに襲われて、悲鳴を上げる間もなく復活ポイントであるこの広場で生き返ったが、あの瞬間の恐怖がまだ癒えそうもないので今日はこれ以上のアタックはやめておこう。
しばし心を落ち着けるために背もたれに体を預けて空を見上げていたが、不意に声をかけられた。
「ヨウさん、お久しぶりです。」
声のした方を向くとクレアさんが立っていた。
「どうしたんですか?こんなところで黄昏ちゃって」
クレアさんに今やっている修行について説明すると、「うわぁ」とちょっと引きながら聞いてくれた。
「ところで、その【天心剣刀流】の道場って私も行ったりできるんですか?」
「興味あるの?」
「はい!ぜひ紹介してください!!」
そんなクレアさんを連れて道場へと戻ると
「ふむ、彼女かの?」
「え?」
前にも似たようなことが有ったなと思いながらクレアさんのフォローをする。
「違いますよ。入門希望者です。」
「あ…はい、クレアと申します。今日はヨウさんの紹介で来させていただきました。」
「ふむ、立ち話もなんじゃ。上がるがよい」
そう言って奥へと入っていくおじいさんを追いかけて居間に入るとデケがこちらに駆けてきた。
「ご主人さま、お帰りなのにゃ。その様子だと失敗した気晴らしにナンパして帰って来たのかにゃ?」
「え?え?」
「デケ、違うからナンパとかじゃないから」
「なにこれぇぇ!かわいぃぃぃぃぃぃ!!!」
突然奇声を上げてデケを捕まえて撫でまわし始めてから10分ほど経過したところで、ようやく正気に戻ったクレアさんを座布団に座らせてお茶を勧めるおじいさん
「落ち着いたかの?」
「すいません、デケちゃんがあまりにも可愛かったもので取り乱してしまいました。」
「ご主人さま酷いニャ、助けてって言ったのに無視するにゃんて」
「からかった罰だ。でもお前もこんなかわいい子に撫でまわされて満更でもなかっただろ?」
「え?」
ぐったりしたデケをクレアさんから受け取りながらそんな事を呟いた瞬間、クレアさんの顔が真っ赤になった。
ん?
なんか変なことでも言っただろうか?
「ふむ、話を進めてもいいかの?」
「すいません、よろしくお願いいたします。」
そのあとは僕の時と同じ話して、丸太きりの実演を見せてクレアさんの入門が決まった。
縁側におじいさんと2人で座ってクレアさんを眺める。
量産される折れたススキを集めて、焼き芋が出来上がる頃にはぐったりとしたクレアさんがデケを撫でながら遠い目をしていた。
「難しいですね、これって本当にプレイヤーでも出来るんですか?」
「出来るよ、先ずは疑わない事がこの修行の一歩目ってとこかな?」
「そうですか。」
「偉そうに言ってるけど、ご主人さまも斬るまでに1週間近くかかったニャ」
「ふむ、イモが焼けたようじゃ冷めぬうちに食うとよい」
おじいさんから渡された焼き芋を食べて、お腹をパンパンにはらしたデケをからかった後、ログアウトした。
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ヨウ
ライフスタイル コスト7
≪魔王21≫
装備スキル 3/3
≪孤軍奮闘82≫≪武運37≫≪空間把握42≫
控えスキル
≪刻印魔法30≫≪上級採掘6≫≪上級鍛冶12≫≪上級革加工5≫≪福運52≫≪上級錬金術15≫≪属性付加62≫
言語スキル
≪イデア語≫
商業ランク D
称号
【グラッジ草原の覇者】
【ヘイゼン沼地の覇者】
【トレント症を克服させし者】
【魔神?のご主人様】
【天心剣刀流・駆け出し】
同行者
【デケ】
遅くなってしまい申し訳ないです。
戦闘シーンを描くのが苦手なので苦戦しました。




