9月30日
1:00
ログインしました。
あれから≪刻印魔法≫のスキル上げも兼ねて、さまざまな実験をしたことにより、少し理解したことがある。
まず1つ目は、刻印魔法で刻印を施せる対象は生産スキルに依存するということだ。
何にでも刻印ができるのか試すため、いろいろな素材で実験してみたのだが、対象の素材に対応したスキルを一緒にセットしていないと成功しないことが分かった。
その結果、現在取得しているスキルで加工できるのは、金属と皮のみだ。
しかも未加工の素材ではダメで、金属はインゴット以上に加工したもの、皮は鞣したものに限られた。
宝石系も、原石ではダメなようで、宝石を混ぜた金属には刻印できるが、研磨して宝石として加工したものには刻印できなかった。
たぶん、宝石に直接刻印を施すには≪彫金≫や≪細工≫といったスキルが必要なのだろう。
2つ目は、≪刻印魔法≫を控えに回していても、間違えずに刻印を書くことができるなら、起動の時だけセットすればいいということだ。
これは、以前作ったヨーヨーの芯を、スキルをセットした状態で起動させてみたところ、回転したことから分かった。
だが、回ったのは上手くできていた1つだけで、ほかのものは回らなかった。
このことから、実際にスキルを持っていない「回転」の命令も、模様さえ分かればスキルレベルが低くても使えてしまうことが分かった。
ただ、当然スキルをセットしていないので、刻印中の経験値は入らないし、補助となるウィンドウも開かれないため、実際に彫るのは難しいだろう。
3つ目は、必ずしも刻印を彫り込まなくてもいいということだ。
これは皮に描いていたときに、穴があいたり、完成品の強度が下がったりと、削ったことによる弊害があったため、試しに焼印を作ってみたところで分かった。
金属で刻印が刻み込める大きさの焼印の土台を作り、簡単な命令を書いたものを作成。
押してみて気付いたのだが、判子は左右逆に彫らないといけなかった。
せっかく1時間かけて作った焼印は、文字が逆に浮き上がるゴミになった。
気を取り直してインゴットに戻し、再度判子の形に作り直す。
今度は間違えないように一度紙に書き、それを貼り付けて彫ることで、焼印を完成させた。
軽く熱して鞣した皮に押し当てると、「ジュッ」という音と焦げたような匂いとともに、綺麗な模様が映し出された。
起動も成功。皮に同じ命令を描くときには重宝するだろう。
ただ、自分で直接描くわけではないので、経験値の入りは明らかに少なかった。
また、新しい刻印を描くたびに、毎回焼印から作らなければならない。
まぁ、商売として大量生産する場合には使えるかもしれない。
こんな≪刻印魔法≫との格闘が1週間ほど続き、スキルレベルも15に達した。
ようやく念願の「回転」を覚えることができた。
スキルレベルが5の倍数になるたびに、新しい命令を覚えられるようで、現在は「浮遊」「振動」「回転」の3つを描けるようになった。
「振動」は、試しに刻印したものに魔力を流すと、携帯のバイブのような微振動を起こした。
振動数や振動の強さも細かく設定できるようで、これも何かに使えそうだが、今はいい案が思いつかなかった。
「回転」は速度や向きなどを設定でき、これでドリルハンマーも作れるだろう。
まずは、ダークミスリルでドリル部分を作っていく。
重さの問題もあったが、ミスリルの強度はドリルの刃の部分にちょうどいいと思ったからだ。
何度かの試作の後、なんとかドリル部分の作成に成功した。
直径70cm、高さ50cmの円錐に螺旋構造を刻んで、先端には3つの刃を付けた。
突き刺さった肉を抉りながら進めるようにするためだ。
円錐の中心から直径20cmの棒を50cm伸ばし、そこに今回のメインである刻印を描く。
内容は、「廻れ」という言葉で右回転を1秒間に10回転するようにして、回転中に「高速化」で回転速度が1秒間に30回転に変化する様にし、「止まれ」で回転が止まるようにした。
あまり速く回転させても弾かれそうなので、最初は少し緩めに刺さってから「高速化」で思いっきり抉ってしまえば行けるだろう。
その後、ハンマーの胴体部分となる中心に穴の開いた45cmのハンマー部分をヘビーメタルで突き抜けたドリルの芯を固定する直径70cmの板と持ち手をダークミスリルで作り、組み上げた。
試作型ドリルハンマー
ATK +100(回転時150)
属性値 闇:40
ダークミスリルで作られた回転構造を組み込んだハンマーの試作品。
回転中はその音によりモンスターの攻撃対象になりやすい。
起動言語を唱えることで、先端のドリル部分が回転する。
≪槌≫スキル対応
特殊効果
「廻れ」と唱えると先端のドリル部分が回転する。
起動中、秒間MP最大値の0.01%を消費する。
「高速化」と唱えると回転速度を変更できる。
起動中、秒間MP最大値の0.03%を消費する。
「止まれ」と唱えると回転を停止させることができる。
品質4
品質4でこの攻撃力は破格な気もするが、素材のせいだろう。
早速装備して工房を出て、城の外の迷路との間にある空き地で試運転することにした。
「廻れ」
ハンマーを構えてそう呟く。
ギュィィィィン!
と少し金属がすれ合うような音をさせながら、先端部分が回転を始める。
「高速化」
そう呟いた瞬間、ドリルとハンマーの接合部分から火花を出したので慌てて「止まれ」と回転を止めた。
取りあえず、グリス代わりに食用の油を回転部分などに塗りたくり、もう一度試運転をしてみたところ、先ほどまでの金属が擦れる音が軽減され、火花が散ることは無くなったようなので、モンスターを相手にした最終試験をしてみることにした。
やって来たのは、グラッジ草原だ。
ここには、鳥系、獣系、トカゲ系が各数種類生息している。
ハンマーを装備してイーグルアイで≪遠見≫を発動させてウルフを探す。
東へ少し行ったところに5匹くらいの群れがいた。
気配を出来るだけ消して近寄る。
まずは一匹、回転させずにドリル側でない方で叩いて潰す。
光の粒子となって消えるウルフを確認して、ドリルを起動する。
唸りながら警戒を強めるウルフにドリルを叩き込む。
ドリルは頭部に当たり、頭を削りながら進んでいく。
頭半分が削れたところで粒子となって消えた。
一応、倫理規制的なものが入っているので、中身が飛び散っているような描写は無いが、生き物に対してする攻撃としてはかなりショッキングなものだった。
その後、一旦回転を止めて、ドリル部分を突き刺した後に回転や高速化なども試してウルフを蹴散らした。
魔力消費も許容範囲内と言ったところだろう。
今度は、トカゲを探そうと思う。
ここに生息するのは、ポイズンリザード、パラライズリザード、ロックリザードの三種類だ。
どれも、1.5mくらいの大型のトカゲだ。
ポイズンとパラライズは、その名の通り噛まれると毒と麻痺の状態異常になる。
この2匹、最初のころは状態異常攻撃持ちと言うことで敬遠されがちだったのだが、牙が肌を傷つけないと状態異常が発生しないということが分かってからは、いいカモとして狩られているらしい。
鎧の裏地に使うと対毒(微)などの効果が出るということも人気の一因だ。
今回のターゲットは、ロックリザードだ。
ロックリザードは、他の二種類と違って毒などは無い。
特徴は、体が岩のように硬い凸凹した皮に覆われているということだ。
ドリルの掘削力を試すにはいいだろう。
探すこと数分、昼寝をしている2mのやや大きい個体を見つけることが出来た。
今回は、最初からハンマーを起動して近寄る。
ハンマーから出る音に気付いて威嚇を始めるロックリザード。
そのまま近寄り、ハンマーを振り下ろすが、意外と素早いロックリザードに避けられてハンマーが僅かに掠ると「キン!」と甲高い音を立てながら火花が散った。
今度は外さないようにバインドで拘束して背中の一番硬い部分にハンマーを振り下ろす。
ギュルルルルッ!ガチン!ブゥゥゥゥゥン!
ドリルの刃が10cmほど食い込んだところで突然回転が止まり、ハンマーから唸り声のようなものが聞こえ始めた。
「あれ、おかしいな」
回転力が足りなくて止まってしまったと判断し、「高速化」と呟いた。
その瞬間、ドリル部分は回転することはなく、何故かハンマー本体がドリルの芯を中心に回り始める。
当然、ハンマーの柄を握っていたために一緒になって回っている。
「うぁぁぁぁ!」
振り回されて3回くらい回ったところで慌てて「止まれ」と叫んだ瞬間、ピタッと回転は止まったが、自分は勢いのまま空中に投げ出され数メートル飛んだ後、地面をゴロゴロと転げ回る。
起き上がり、ステータスを確認するとHPが1割ほど削れていた。
ガサッ!と草むらから音が聞こえた。振り向くと、先ほどまで戦っていたハンマーが刺さったままのロックリザードと他に各種リザードが5匹という団体さんが現れた。
刀を取り出してポイズンリザードなどの首を切り落としていく。ロックリザードと違い、そこまで硬くないのでサクサク切れました。
残ったロックリザードは、回収したドリルハンマーを回転させずに叩いて倒して、一旦領地へ戻った。
さて、原因は何だろうか?
試しに、棒に同じ命令を描いてその棒にリングをはめてみた。
先ずは、回転をさせてみる。
次に回転中の棒に負荷を掛けて無理やり回転を止めてみると、はめているリングが回り出した。
如何やら行き場を失った回転エネルギーが暴走して、接触しているリングを回転させてしまうようだ。
先程の場合は、ロックリザードの皮でドリルの刃が止まってしまいハンマー本体に負荷がかかっていたが、自分が持っていた為に症状が現れていないところに「高速化」で回転力を上げてしまった為、負荷に耐えきれず本体部分が回り出してしまったのだろう。
そうなると、今回のような単純な構造のモノでは回転力を維持する力や馬力?が足りないのだろう。
試行錯誤の結果、歯車を採用することにしました。
ドリルの芯には≪刻印魔法≫は刻まずに大きな歯車を取り付けた。
その歯車に合うように小さな歯車を3つ作り、そこへ刻印を施した。
ハンマーの本体部にドリルの歯車と回転させる歯車3つが正三角形に配置できるような構造を作り部品を固定していく。
何とかものになったハンマーは、鈍器と言う割には精密機械の様相を呈してきているが、気にしたら負けだ。
______________________________________
ドリルハンマーver1.1
ATK +130(回転時210)
属性値 闇:40
ダークミスリルで出来たドリルを3つの歯車で回すことにより回転力の増幅に成功したハンマー。
回転中はその音によりモンスターの攻撃対象になりやすい。
起動言語を唱える事で先端のドリル部分が回転する。
≪槌≫スキル対応
特殊効果
「廻れ」と唱えると先端のドリル部分が回転する。
起動中秒間MP最大値の0.03%を消費する。
「高速化」と唱えると回転速度を変更することが出来る。
起動中秒間MP最大値の0.1%を消費する。
「止まれ」と唱えると回転を停止させることが出来る。
品質7
______________________________________
回転させる対象を3つにしたことにより消費MPが増加してしまったが、今度は持ち手の方が回ってしまうなんてことは無いと思う。
モーター1つでは負荷に耐えられないなら分散して増やしてしまえば何とかなるだろうという単純な考えから生まれたのだが、回転の同期など細かい調整を≪刻印魔法≫による制御にしたので消費するMPの量が3倍になってしまった。
試運転を終えてロックリザードへリベンジに出かけた。
結果は、良好だ。
試作品よりも回転中の音は小さくなったが力強く回るドリルの刃はあっさりとロックリザードの皮を突き破り背中から腹にかけて大きな穴を空けることが出来た。
そのまま粒子となって消えるロックリザードを確認し、今度は沼地フィールドへ向かう。
亀へのリベンジを果たすためだ。
装備を一新して直ぐに挑んでもよかったのだが、やはり亀には斬撃より打撃の方が効きそうな気がするのでハンマーの更新に合わせて挑むことにした。
前回遭遇したあたりを目指して、フィールドを進む。
イーグルアイで周りを見渡すと、以前見たような小島を見付けることが出来た。
前回同様動かないカメに取りつきゴツゴツした甲羅の上に上り終え、ドリルを起動したところで音に気が付いたのか亀が首を伸ばしてこっちを見た。
そんなのん気な亀の背中を【ヘビースタンプ】で思いっきり叩いてやりました。
金属が擦れるような音と火花を散らすが、ドリルの刃は止まることなく甲羅を削っていき遂に貫通して内部へ達した。
空いた穴を、さらに広げるように周りも削って10分、遂に直径2m位の穴をあけることが出来た。
HPは3割ほど削れていて苦しそうな悲鳴を上げている。甲羅の上に居ることもあってか直接の攻撃が出来ない様で水系の魔法がメインだが、削った場所に隠れてやり過ごしながら更に内部に向けてドリルで肉を削る。
30分かけて3mくらいの深さまで掘り進んだところで亀がビクン!と震えて遂に動かなくなる。
MPは7割くらい消費していたが、リベンジに成功した。
ログを確認すると
______________________________________
ヘイゼン沼地の主のソロ討伐を確認しました。
称号【ヘイゼン沼地の覇者】を獲得しました。
アイテム【ヘイゼンタートルの胆石】を手に入れました。
【魔王の楔】使用条件のクリアを確認しました。
______________________________________
とあった。
【ヘイゼン沼地の覇者】は先に取得したグラッジ草原の称号と変わらずドロップ率に上方修正がかかるというものだ、胆石の方はクリーム色したいびつな形の石だった。何に使うか見当もつかない。
これで二つ目の領地候補を手に入れることに成功した。
そろそろどちらかを領地にしてしまってもいいだろうか?
悩んだ結果、グラッジ草原にしました。
一旦領地へ戻りグラッジ草原へ向かうとフィールドの真ん中あたりで【魔王の楔】を使った。
「【魔王の楔】の使用が確認されました。
グラッジ草原が今後、あなたの領地となりますがよろしいですか?」
多分この質問、他のプレイヤーにしたらよろしい訳が無い気がするが、迷わず【YES】を選択すると手の中にあった【魔王の楔】が光り出し5m位の高さまで浮き上がったと思ったらパリン!と砕け散ってフィールドに降り注いだ。
「あなたは、グラッジ草原を領地として取得しました」
というウィンドウが出た。
如何やら取得に成功したようだ。
新たにモンスターの設定なんかも出来るようだが、元々生息しているモンスターを外すようなことは出来ないようだ。
まぁそのフィールドに元から居たモンスターが出現しなくなったら素材の入手なんかが出来なくなったりするのでプレイヤーに要らぬ影響が出てしまいそうだ。
ビルドベアを配置してアイビスと魔王城を繋ぐ道を作る様に命令して今日はログアウトすることにした。
______________________________________
ヨウ
装備スキル
≪魔王13≫≪属性付加55≫≪孤軍奮闘41≫≪武運12≫
控えスキル
≪刻印魔法16≫≪中級採掘65≫≪中級鍛冶50≫≪初級革加工46≫≪福運22≫≪中級錬金術8≫
称号
【グラッジ草原の覇者】
【ヘイゼン沼地の覇者】




