9月23日
1:00
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今日は、昨日作ったヨーヨーの芯を持って、買い物に来た露店へやってきました。
「どうも、昨日ぶりです。
これ、真似て作ってみたんだけど、なんか違うのかな?」
そう言って、作った芯を取り出すと──
「ん?へぇ~作ったんだ!」
店主は顔を上げ、手のひらに乗ったそれをまじまじと観察しながら返事をしてきた。
「でも、動かないでしょ?」 「そうなんだよね。スキル関係だとは察しがついてるんだけど、そんなスキルあったっけ?」 「どうしようかな、教えてもいいけど──昨日のインゴット、もうちょいもらえる?」
……おう、そうきたか。
まあ、いいだろう。OKの返事をすると、突然露店を畳みだして、ついてこいとジェスチャーしてきた。
案内されるままについていくと、一軒の家に到着。
中は彼の個人工房らしく、名前はトイ。
主に生産をしながら、玩具による戦闘もこなしているらしい。
この玩具開発の過程で、≪刻印魔法≫ってスキルを覚えたんだとか。
≪刻印魔法≫は、プログラム言語みたいなもので、「動作」「条件」「スイッチ」なんかを対象に刻み、魔力でその現象を再現する魔法らしい。
万能そうだけど、例えば石に「爆発」って刻んでも爆発はしない。
でも、爆発物に対して「起動条件」や「スイッチ」を設定すれば、時限式とかキーワード式の起爆ができるようだ。
あの芯に刻まれてたのも、「戻れ」と「廻れ」の動作、それから命令を切り替える判断条件なんかだったらしい。
スキルレベルが上がると、新しい動作や条件、そして書き込める上限も増えていくらしい。
習得条件は、アイビスにいる刻印魔法使いに教えを乞うこと──
だけど、ファンタジーライフスタイルオンライン(FLO)のNPCたちはAI搭載で、定位置に居つかず生活してるから、探すしかないらしい。
とりあえず、見た目と出会った場所を教えてもらって、インゴットを渡してお礼。
その場所へ向かう。
案内されたのは、町の南側のスラムっぽい場所。
普段はあんまり近寄らないエリアだ。
教えられた見た目の男──と、思ってた人を探し、似たような人に声をかけては絡まれ、を繰り返すこと1時間。
何度目かの謝罪をしていると、背後から声をかけられた。
「ワシを探しているのはお主かな?」
振り返ると、20代くらいの女性が立っていた。
……あれ?女の人?
完全に男だと思ってた。
まあ、見た目しか聞いてなかったしな。
戸惑いながらも自己紹介を済ませ、案内された先は、彼女──ネルの家だった。
「で、どこでワシのことを聞いたのじゃ?」
そう聞かれたので、ここに来るまでの経緯を話す。
「ほう、あやつの紹介か……なら少し真面目に教えるかな」
そう言ってアゴを撫でながら頷いたネルに、本題を切り出すと、黒板とチョーク、それから模様の描かれた紙を渡された。
どうやら、黒板で練習するスタイルらしい。
とりあえず、描いてみると──黒板が光った。
「なんだ……一発で成功しちまいやがって、つまらんな。
なんか練習でもしてきたのかい?」
そう言われたので、ヨーヨーの芯を取り出してネルに渡す。
「ほう、なるほどね。
ある程度の基礎はあるみたいだね」
芯を返されたあと、なぜそれが発動しないかの講義が始まった。
──まず、≪刻印魔法≫スキルを持ってないと発動できない。
──発動には、刻んだ内容の詳細を把握する必要がある。
ただし、初回起動に成功したものは、キーワードなどを設定することで、スキル未取得者でも使えるようになるとのこと。
ちなみに、黒板が光ったのは、裏側に「模様の誤差1%以下なら発光」って刻印がされてたかららしい。
黒板が光ったことで、≪刻印魔法≫の取得条件を満たしたと説明され、スキル一覧を確認。
──確かに、項目が増えてる。
SPもギリギリ足りたので、即座に取得。
お礼を言い、この後どうしようか考えていると──
「無事に取得できたみたいだね。まぁ、タダじゃ教えられないから、これから言うモノを取ってきてもらおうかね」
え……取得させてから条件言うタイプ?
ちょっと引きつった笑みを浮かべてると、
ポーン!
効果音とともに、ウィンドウが開く。
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ネルのお使い
3日以内に指定されたアイテムを調達して、依頼者に直接渡す。
3日後に条件を満たせなかった場合、≪刻印魔法≫の取得はキャンセル、再取得は不可能。
YES・NO(NOを選んでも再取得は不可能)
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……YES一択だな。
YESを選ぶと、ネルさんは邪悪な笑みを浮かべながら、指定アイテムを告げてくる。
──ラッキーラビットの肉。
ラッキーラビットは、アイビス付近の森にいる、めったに見つからない超レアモンスター。
3日かけても見つからないことがあるレベル。
──だけど、俺のアイテムボックスには、以前領地モンスター作成用に使った余りがあった。
その場で取り出して渡すと、ネルさんは顔をしかめて、
「えっなんで持ってんの?
君の焦った顔が見たかったのに、持ってるなんてズルくない?」
性格わるっ!
どうやら、近場のレアモンスターからランダムで選んだらしいけど、まさかの一発クリア。
これも≪福運≫の効果かもしれない。
渋々ラッキーラビットの肉を受け取るネルさんに再度お礼を言い、その場を後にする。
そして、領地の工房へ移動。
≪刻印魔法≫と≪中級鍛冶≫をメインに、まずは鉄板作成。
数十枚の鉄板を机に並べ、1枚を目の前に置く。
≪刻印魔法≫を起動すると、ウインドウが出て、現在使える命令や条件一覧が表示された。
今使える命令は、「浮遊」だけ。
条件を選ぶと、半透明の模様が表示されるので、鉄板サイズに合わせて転写、模様部分を削っていく。
とりあえず、「浮け」の言葉に反応して10秒間浮遊する鉄板を完成させた。
手に取り、「浮け」と呟くと──手のひらから10cmほど浮き上がる。
押したりしても、基本その場をキープ。特別な動きはしない。
10秒後、力を失って落ちてきた鉄板をキャッチ。
次なる展開を考える。
うまく使えば、浮遊する盾を漂わせながら戦えそうだ。
さらに、「回転」の命令を覚えるまで、複雑な内容を刻んだ鉄板を量産していく。
用意していた鉄板をすべて使い切り、
最終的には「起動者の手のひらの位置に追従する鉄板」まで作成成功。
──まだ敵の攻撃に反応してオートで動くほどじゃないが、今はこれで十分だ。
使った鉄板を炉に戻し、1回り小さい鉄板を作成。
同じように刻印しながら、MP消費や命令負荷を体感で掴んでいく。
スキルレベルが3つ上がったあたりで、時間が来たので今日はここでログアウトすることにした。
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ヨウ
装備スキル
≪魔王12≫≪属性付加55≫≪孤軍奮闘40≫≪武運10≫
控えスキル
≪刻印魔法3≫≪中級採掘65≫≪中級鍛冶46≫≪初級革加工43≫≪福運16≫≪中級錬金術8≫
称号
【グラッジ草原の覇者】
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