路地裏
「あんたは強い?」
泣きそうに顔を歪めて彼女は立っていた。煌びやかな繁華街の路地裏で手と服を真っ赤に染めながら。
いたるところにうずくまっている男たちには見向きもしない。
「あんたは強い?」
彼女は繰り返した。
俺は何も言わない。ただジッと目の前の光景を見つめるだけだ。そこには肯定も否定もない。もっとも、深くフードを被っているから知られるはずはないだろうけど。
ああ、今にも壊れそうな目をしている。助けを求めている、何かにすがるような目。きっと彼女の心の中は崖っぷちギリギリの所にいるんだろうなぁ。可哀想だね。
ま、助けてなんかやらないけど。他人のために動くほど俺は暇じゃないし。道に転がっている空き缶を拾う奴は少ないだろう?見て見ぬフリをする奴が大多数だ。それと同じこと。
しばらくそうやって眺めてから、Uターンして歩き出した。
2mも進まないうちに後ろから風を切る音が聞こえた。
少しかがんで、手が伸びてきた方向に向かって腕を振る。見てないからわからないが、ちょうど彼女の腹あたりにのめりこんだはずだ。
ゲホゲホいう声が耳につく。
やっぱり女は柔らかいな。対して力を入れたわけでもないのに、そこそこ深く入ったみたいだ。
咳が収まっても起き上がってくる気配がないから、また歩き出した。
「待っ.......てよ............」
あれ?
それなりに効いたもんだと思ったんだけど。
地面と靴の擦れる音と、荒い呼吸音がする。立ち上がって追いかけてきてるみたいだ。
へえ、少しだけ気に入った。いくら弱めだったっていっても、1発で倒れなかった奴は久しぶりに見た。
ついてこれるもんならおいで。その気なら。
俺たちの仲間に入るかどうか選ばせてやるよ。
彼女と俺は初対面です。
力量的には
彼女く俺
です。