エルイの転生話(子猫夏)
――今、何が起きているんだかにゃ~……。
僕は、くるくると回転しながら思った。
みにゃさん(みなさんって誰だろう?)、おはよう。僕はエルイ。とっても素敵な毛皮と、愛らしい耳を持った、猫なのにゃ。
僕は、普通に森の中で、仲間とのんびり暮らしていた。時々ヒトってのが来て、
「こいつら二本足で歩いていやがるー!?」
と叫んで、こっちに黒いテッポウっていうのを向けてきたけど、まあ普通な暮らしだった。……ヒトってやつは失礼にゃ。猫が二足歩行なんて、常識中の常識にゃのに!
いつも、仲間と協力してヒトを撃退してきた。木の上から飛びかかれば、すぐに逃げていったから、いつも簡単に追い払えたんだけど……。
ある日、僕はちょっとした失敗をしてしまった。木の上から飛びかかった時、ヒトが思わぬ方向に避けて。僕はヒトの真ん前で、無様に地べたにつぶれたのだ。
目の前に落ちてきた「化け猫」を、ヒトは見逃さなかった。僕はそいつに……頭をズドンとやられてしまった。
そこで僕の猫生は終わり……のはず。
なんかね、僕、変にゃ所を飛んでいるよ。
きっと、わあぷっていうのをする時、こんにゃ感じじゃないかにゃあ?
どうしようも無いし、大体僕は既に死んでいるはずなので、飛ばされるがままになっている。なんか楽しくなってきて、わざと何回転もしたり。
そうしていると、前方から何かが見える。
――あれは、にゃに?
僕は視力もいい――だって猫だし――。目を凝らせば、そこにヒトが三人いるのが見えた。くっそう、ヒトか。殺された恨み、晴らさでおくものか……でも、僕を殺したヒトには、もう会わないなあ。
近づくと、そのヒト達が、おじいさんと、男の子と、女の子なのが分かった。なんだ、あの組み合わせ? 男の子は、奴隷みたいだったし……。
見る見る間に近づいて、――そこを通り過ぎた。なんか、おじいさんがビックリしたように見てくる。そんな顔されても……。
とにかく、僕が連れてかれるのは、さっきの場所ではなさそうだ。
また、流されてくるくる。
くるくる。
回転するのが楽しくて、「ひゃっはーーー!」とか叫び始めたころ。
また見えてきた、何かの景色。
――あそこ、僕の目的地じゃにゃいといいなあ。
そこは、とっても暗かった。でっかい椅子に、なんかおっそろしいバケモノが座っていた。あれだな、魔王ってのはああいうやつじゃないかな?
また、その景色に近づいて……椅子に座っているバケモノが、こっちを見てにこやかに……にこやか!?
なんか、飛ぶスピード緩んできた!
――嫌だにゃああああ!? あんにゃ所、ごめんだにゃあ!
じたばた。必死に逃げようとしても、そっちに体が吸い込まれて。バケモノが視界いっぱいになったとき――。
キュインッ!
どこか遠い所から、鋭い音が聞こえた……気がした。直後、僕の体はまた引っ張られて、
「な……なんだと!? くっそう、牙も抜けた、たかが人間どもが……転生者を召喚しても、貴様らに勝ち目など無いのだぞ!?」
そんな、バケモノ様の声をバックに、僕はまた飛ぶ。
――そろそろ、飛ぶのも飽きたにゃ……。
もう、あのバケモノの声で、僕の精神は擦り減り、ぺらっぺらの紙の様だよ。
今度こそ、近づいてきた景色に、僕は吸い込まれた。ヒトが好む、煌びやかな部屋だ。案の定、いっぱいいるのはヒトだった。
でもね、そこに着いたのはいいけど。普通に着地したかった。
僕は、天井近くでぱっと放されたのだ。猫だから、このくらいの高さは余裕なはずだけど……。弾丸を撃つような早さでぽいっと捨てられたら、床に真っ逆さまだよ!?
ずべしゃ!
痛い。すんごく痛い……骨、折れたかも。
一歩間違えたら、一人の女の子にぶち当たるところだったけど、その子はぎりぎりで避けたみたい。
「勘はまだ鈍ってない、っと……。良かったですよ。こんな毛玉にぶつかるとか、嫌ですし」
うーん、僕、酷い事言われてる気が……。しかし、その子に一つ文句を言う前に、偉そうなヒトが話しかけてきた。
「お主、名は何と言う?」
「エルイにゃ」
「……エルイよ。この世界は今、危機に瀕しているのだ。この世界を救う旅に出よ!」
「いきなりだにゃ~……。一人で行くのは嫌だにゃ」
「そ、そうだ、仲間もいるぞ!」
僕の仲間とは、ついさっきお別れしたけど。王様――たぶん、偉そうだから王様――が指さした先には、不機嫌そうな女の子。……あれ、この子は。
「……まさか猫も召喚されるのですか」
はい、声で確定! 僕に対して「毛玉」とか言いやがったあの女の子じゃん!
「ずぇえええええええったい、嫌だにゃ!」
「な、なんだと!? 転生者同士、仲良くしてくれ!」
深ーく、お断りを入れると、王様が涙目で言ってきた。が、あの女の子が一言、
「丁重にお断りさせて頂きます」
「また丁寧にお断り!?」
「いーやーだーにゃー、どうせなら綺麗な雄猫でも連れてくるのにゃ~」
床でじたばた。僕だって、毛玉とか呼んでくる、ヒトとは仲良くなりたくない!
「分かった、分かったから! 仲良くしなくてもいいから、話を続けさせてくれ!」
王様が懇願してくるものだから、しぶしぶ大人しくなって立ちあがった。……周りの兵隊さんが怖い。
「ステータス、と念じれば、お主にも見れるはずだ」
――ステータス
そう念じると、ぴょっと目の前に飛びだしてきた。なんだこれ、ヒトが使ってるぱそこん画面みたいだ。
そこに載っているのは……。
名前:エルイ«♀»
HP:100
MP:100
攻撃:∞
防御:1
速度:∞
スキル
○トゥリリライケ MP20
残像が残るほど速く駆け、鎌で敵を斬る。
○テレケ MP0
飛ぶしか能の無いやつに与えられるスキル。
装備
武器:無し
体:時計、毛皮(自前)
足:無し
「にゃにこれええええええ!?」
僕、防御が「1」しかないの!? だから、床に落ちた時死にそうだったの!?
もう、骨は回復してるけどね! 回復の早さ、半端ないね!
っていうかひっど! 「飛ぶしか能が無い」ってひっど!?
毛皮は装備じゃねーし!
ツッコミどころが満載な僕のステータス。それを見て、あの女の子――サキは、
「ぷっ……」
口を押さえて、大爆笑してるし!?
「これは……防御が史上最弱」
「うっさいのにゃ王様のくせに!」
腹いせに王様を軽く叩いたら、王様がまっすぐ壁に向かって飛んでった。……あ、僕、攻撃は∞だったね。
「きっさまあああ!」
兵隊さん達が鬼の形相でこっちに向かってくる! 槍をこっちに向けてくる!
僕の足に、槍がちょっとだけぶつかった。
ばたり。
エルイ:HP0/100
「それで死ぬの!?」
「ぷっ」
兵隊さん達が一斉に叫び、またサキが笑っていた。
エルイ:HP50/100
「ちっ……もう回復したんですね、早すぎます」
僕は飛び起きてサキに詰め寄った。
「今の舌打ち、にゃに!? さっきから、毛玉とか、毛玉とか、失礼にゃ!」
「合ってますよね、毛玉」
「にゃあああ!」
僕とサキは、不毛な言い争いをしながら、他の転生者達を待った。
途中で、言葉だけでなく攻撃も飛び出してきたので、僕は王城を勝手に散策し――サキから逃げながら――、武器庫で鎌を発見したのでこっそり拝借。
「トゥリリライケえええ!」
「指銃!」
王城が壊れかけたのは、まあ気にしなくていっか。