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やる気なし英雄譚  作者: 津田彷徨
第6章 レンド編

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赤に彩られし宴

 ゼリアムの言葉を合図として、彼の部下たちは三つに分かれ、それぞれユイ、ノインそしてリアルトとトールを目がけて駆け出す。

 その行動を目にするや否や、ノインの前には軍の精鋭が、リアルトとトールの前には近衛兵が彼らを守るように進み出た。


 そしてもう一人。そうユイの前には、キツネ目を細めながら、アレックスただ一人が一歩進み出る。


「ユイ、後で彼らを尋問する予定はないよね?」

「ああ。その辺の下っ端が持っている情報に興味はないし、今のところ有益かもしれない情報を持っていそうなのは、あそこの親玉くらいじゃないかな」

「……だそうだ。君たちもいい実戦の機会だから、無駄にするんじゃないよ」

 そう口にしたアレックスは、後方へ視線を送る。

 すると彼から一歩遅れて、いつものように抜き身の剣を肩に乗せたフートと、なぜかレンドに来る以前より打撲痕が増えているレイスが前へと進み出た。


「わかっています。師匠と稽古することを思えば、あんなフィラメント兵の一人や二人、むしろありがたいとさえ思いますよ」

「……それはどういう意味かな、レイス? まあいい、この戦いが終わったらじっくりとその意味を聞かせて貰うことにするか。君の剣をもってしてね」

 そんな軽口を発しながら、アレックスは彼に襲いかかって来た二名の男を一薙ぎで切断すると、三人目の敵兵に向かいその場を駆け出す。

 一方、死の宣告を受けたに等しいレイスは、フートと連携をとりながら戦闘を開始するも、その脳内は目の前の敵兵のことではなく、どうやって戦闘後にアレックスの魔の手から逃れるかで一杯であった。




「ふむ、こやつらはなかなかの腕ではあります。ですが、一線級の魔法士というわけではないですな」

「あくまで今回の人員は強襲用じゃったろうからな。このような正面からの戦いを想定していた訳ではなかろうて」

 ゼリアムの部下達は攻勢魔法を扱いながら、善戦と呼べる戦いをしてはいた。しかしながら、用意された人員とその練度の差は残念ながら一目瞭然であった。

 ノインとリアルトは早々とそれぞれの兵を合流させると、二つの部隊をノインが指揮する形となる。そして彼は魔法に対する防御役、敵兵の連携を妨害するための牽制役、最後に敵を駆逐する攻撃役と兵の役割を明確に区分けした上で、近衛と軍という異なる組織からなる混成部隊をまるで使い慣れた操り人形のように見事に連動させ、次々と敵の数を減らしていく。


「ほう、ノイン。見事なものではないか。わしが軍を見ぬ間にやるようになりおったな」

「今の私にはこれしか、そう軍人としての才しかございませんから」

 自嘲気味にノインは笑うと、彼はリアルトに向かってそう答える。


「そう自らを卑下するな。別に無意味にあの男と自分を比べる必要はない」

「わかっていますよ。だから『今は』です。まあそれはそれとして、しかし奴の部下たちはさすがというべきですな」

 既に勝敗の決した眼前の戦闘から視線を外すと、ノインはユイに迫ろうとする敵兵を駆逐していく三人の剣士へと視線を向けた。

 そんな彼の視線を追うように、リアルトもユイたちへと視線を移す。


「うむ。最初はあの人数で十分と言いおったから、さすがに予も正気かと思ったが……なるほど、あの連中の実力を見ればそれも納得というものじゃ」

 一人が囮となり、もう一人が遊撃を行うという巧みなコンビネーションプレイを披露し、剣士でありながら魔法士を相手取って優位に戦い続けるレイスとフートをその目にしてリアルトは素直に感心する。

 しかしそれ以上に彼の目を引いたのは、当然のことながら死神の如き猛威をふるう赤髪の剣士であった。


「あの若い男女の剣士の連携も見事です。個々の力としては、あのレベルの使い手は我が軍にもおりますが、あのレベルの連動性を見せるものはそう多くないでしょう。ましてや、あの若さでは……しかしなにより朱の悪魔……あれは本当に人間でしょうか?」

「ふふ。あれはちょっと一人だけ、次元の違う境地におるようじゃな。予の部下たちとの手合わせの話をしたが、実現する前で良かったというものじゃ」

 常に一人で数人を相手取っているにもかかわらず、若い二人の剣士たち以上のペースで敵をなぎ払うアレックスの強さには、リアルトとてただただ苦笑するより他になかった。

 そしてそれはノインも同様である。軍を率いるノインは、かつて国境線でアレックスを目にしたことがあり、その危険性は理解しているつもりであった。しかしこうして同じ側の味方として共に戦っていながらも、その絶対的というべき強さに背中に冷たい汗が流れ落ちる。

 自陣の兵士たちは数の優位とその連動性を用いて、少しずつゼリアムの部下の数を減らしているのに対し、彼は帝国軍に手の内を見せないよう明らかに手を抜きながらも、彼が動く毎に一人の敵兵が確実に地面へと崩れ落ちていくのである。


「あやつも是非とも我が配下に欲しいものじゃな……しかし、あの男はイスターツ以上に御すのが難しそうじゃ。やはり二人まとめてと考えるのが正しいか」

「……陛下、まだ戦いが終わったわけではありません。ゼリアムが残っているのですから、そう言った先のことは、戦いの後にお考えください」

「ふむ、それもそうじゃな。だがせっかくあの朱やその弟子達の剣技を目にできておるのじゃ。一瞬足りとも、これを見逃す手はあるまいて」

 そう口にしてからからと笑うと、皇帝はアレックス達に向かい先ほどまで以上に値踏みするよう視線を注いだ。



「君たち……いつまで二人で戦っているんだい。特にレイス、君には魔法士と一人で戦う術を一から教えたつもりだよ」

「しかし、師匠。別に相手の数も残り少ないですし、このまま押しきる形でも」

「だめだよ。いいかい、私は君を魔法士と戦える剣士に育てたのではなく、魔法士殺しとして鍛えてきたつもりさ。だから、もうそろそろフート君の元から巣立ってもいい頃じゃないかな」

「ですが……いいえ、わかりました。目の前にいる残り敵兵三名。自分が、討ち取って見せます」

「ふふ、その意気さ。フート君も手を出さないで上げて貰えるかな」

 アレックスの言葉を受けたフートは、眠たげな眼差しをしながらも、コクリと頷く。そしてその姿を目にした瞬間、レイスは前方の空間へと躍り出た。


「レイス・フォン・ハリウール、推して参る」

 レイスは裂帛の気合いを放つと、もっとも手近にいた魔法剣士に躍り掛かる。


 それまで二人一組で戦っていたレイスの動きの変化に、その兵士は何らかの作戦があるのではないかと考え、思わずフートの方へと視線を向けた。しかしその一瞬の判断の過ち、それが彼にとって致命的となる。

 フートが動かないのを確認し再び視線を戻した時には、もうレイスは剣の間合いに飛び込んでおり、既に魔法を編み上げることができるだけの距離は失われていた。


「遅い!」

 レイスは目の前の兵士が慌てて腰の剣を抜きに掛かった瞬間、さらにギアを入れ替えるかのように加速すると、敵兵が剣を抜ききる前に自らの剣を一閃させる。

 そしてその直後、彼はまるで側面に目があるかの様に、視線を移すこと無く後方へと跳び下がり、右手から放たれた氷の刃を回避した。


「ば、馬鹿な! なぜわかった」

 完全にレイスの死角から魔法を放ったつもりの大柄な魔法士は、彼の編み上げた氷の刃に視線を向けることなく回避したレイスに、目を見開いて驚愕する。しかしすぐに彼は自身の危険を察知すると、慌てて第二撃目を編み上げ始める。だが時既に遅く、急速に間合いを詰めてきたレイスによって彼は二つに切断された。


「うんうん、腕を上げましたね。対峙している敵だけでなく、周りの敵兵の動きも観察しながら、常に数手先を読めるようになった。これは明日からの訓練が楽しみです」

「アレックス。二年にも満たない期間であれほど腕を上げさせるなんて……君は一体、どんな鍛え方をしたんだ。というか、せっかく公言した三人を倒したんだからさ、明日また地獄に落とすのは止めてあげないかい」

 彼等が会話している合間に、公言した最後の一人を葬ったレイスは、恐る恐るユイたちに向かって後方を振り返る。

 その視線の意味に気がついたユイは、頭を掻きがら首を左右に振り、彼をアレックスに預けたことをほんの少しだけ反省した。


「ふふ、考えておきましょう。それよりも、帝国の御一行へ向かった連中もほぼ一掃されたようですね。となると……」

「ああ、残っているのは親玉だけと言うことだね」

 ユイはアレックスに向かいそう口にすると、頭を掻きながら既に二名の護衛を残すのみとなったゼリアムに向かってゆっくりと歩み寄っていく。


「さて、ゼリアム君。君には一つ聞きたいことがあったんだ。この国の皇族を狙うのは、フィラメントの立場から理解できるのだけど、どうして私を狙おうとしたんだい? 別に私なんかを消したところで、クラリスとこの国が戦争となるとは限らないし、それで君たちが漁夫の利を得る事ができるとは限らないと思うのだけど」

 クラリスの貴族連中に嫌われているユイが死んだとすると、もちろんクラリスと帝国の関係は多少悪化するであろうが、元々関係は不良なのである。レムリアックの魔石のことさえ抜かせば、戦争にさえならないのなら、別にこれ以上に関係を悪化させたところで意味が無いとユイは考えていた。

 それ故に、自身が狙われた理由だけは、彼の中でどうやっても理由付けが出来ず、ゼリアムに向かって問いかけたかった疑問をぶつける。


「ふん、貴様にはわからんのだろうな。我々が貴様を忌み嫌うわけが。いいか、魔法とはその全てが神聖なものなのだ。それ故に、神聖不可侵であるべき魔法の理を、好き勝手に書き換えたり曲げたりする貴様の存在など認められん。貴様はわれわれ魔法士のあり方を根本から狂わせる罪人なのだ」

「ああ、なるほど。いや、さっぱり君たちの論理はわからないけど、その意図に関してだけは合点がいったよ。とするならば、まさかとは思うけど帝国を混乱に陥れようとしたのも、領土問題ではなく魔法に関する理由なのかい?」

 ユイは自分が狙われた理由を耳にして苦笑いを浮かべながら頭を掻くと、おまけのように帝国を狙った事情を問いかける。


「その通りだ。全ての魔法は魔法公国に始まり魔法公国に終わる。にも関わらず、帝国の魔法士達は、勝手に集合魔法などと言う本来認められるべきではない魔法を世に解き放った。それ故に、帝国はその存在自体が汚らわしいのだ」

「魔法原理主義者、いや魔法狂信者というべきかな。全くもって貴様のような思考を取るものには虫酸が走る」

 自分たちに向かってきたゼリアムの部下たちを一掃したノインは、吐き捨てるようにそう言葉を放った。


「ふん、野蛮な貴様等に言われたくないものだな。我ら魔法士は神に選ばれた存在。それ故に、我らフィラメントは神の国であるからして、その邪魔をするものは何人たりとも許されーー」

「いい加減黙りな。そう言った戯言を本気で口にするから、あの国の奴らは昔から嫌いなんだよ。ファイヤーアロートリプレット!」

 ゼリアムの言葉を遮るように、明らかに刺を含んだ女魔法士の声が響き渡ると、ユイの後背から突如三本の炎の矢が放たれる。


「くぅぅ、サント・エスペッホ!」

 その炎の矢を目にした瞬間、唯一その攻撃に反応したゼリウムは自らの前に光の壁を生み出す。そして炎に飲み込まれた部下たちを横目に、彼は編み上げた光の盾に傾きをつけて、その炎の矢を弾いた。


「ちっ、ミラホフ式の防御魔法か」

 弾かれた炎の矢は天井へと突き刺さり、そこからたちまち炎が広がり始める。そして慌ててノインの部下たちは彼の指示の下、水魔法を唱え消火を試みようとするも、魔法を放った当事者であるナーニャは舌打ちを一つ行い、その視線はゼリアムへと注がれたままであった。


「い、今の魔法……呪文自体はクラリス式だが、矢を包む炎はディオラム特有のものではないか。そこの貴様、一体何者だ?」

「……知らないね。別にあんたには関係ないことさ」

 驚きの瞳を向けられたナーニャは、視線を外し再び舌打ちをすると、これ以上話すことなど無いとばかりにその場で反転して部屋から出ていく。

 その姿を目にしたユイは、弱った表情を浮かべて溜め息を一つ吐き出すと、ゼリアムの眼前に立ちはだかるように彼と対峙した。


「とりあえず年貢の納め時という奴ですかね、ゼリアムさん。一応、確認しますが、降伏するつもりはお有りですか?」

「有るわけ無いだろう。例えこの体が無くなろうとも、我が魔法に宿る意思は決して失われん」

「……なら仕方ないですね。私の部下の古傷が少しえぐられる羽目になったようですし、あなたには私自ら引導を渡させて頂きます」

 ユイはそう口にすると、その場から一歩進み出る。そしてわずかに前屈みの姿勢をとって、刀の柄に手を添えた。


「ふん、調子に乗りおって。この状況で一対一だと? そのおごり、後悔するのだな。喰らえ、ジャーマベンダバール!」

 ゼリアムがその呪文を唱えるや否や、彼の眼前に巨大な炎風が出現し、次の瞬間ユイに向かって解き放たれる。


「噂に聞く魔法改変も、この速度では対応できないという事だな。うぬぼれが身を滅ぼしたということだ」

 その呪文を完成させユイに向かって解き放つと、彼は目の前の邪教徒の殺害を確信し、歪んだ笑みを浮かべた。しかしそんな彼の表情は、彼の背側から放たれた抑揚の乏しい声によって驚愕へと変わる。


「……後ろですよ、ゼリアムさん」

「なに!」

 凍りついた表情で、ゼリアムは慌て振り返る。そんな彼が目にしたのは、まるで弧を描くように美しく抜き放たれた一筋の剣光であった。


「別にあの程度の魔法なら、十分にクラッキング出来るのですけどね。でも、残念ながら貴方の魔法にその価値はない。できれば彼女をフィラメントと絡ませたくなかったのに、見事に私たちを巻き込んでくれた貴方の使う魔法にはね」

 ユイはそうして刀を振り切ると、その場に崩れ落ちていくゼリアムを確認することさえなく、彼は刀を鞘に収めた。


「すいません。後はお願いします」

 なにか言いたげに側までやって来たノインに向かい、ユイはすれ違いざまに一言そう告げる。そしてユイの進行方向に立っていたアレックスの肩をポンッと叩くと、そのまま後ろを振り返る事なく彼は部屋を後にした。

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