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やる気なし英雄譚  作者: 津田彷徨
第6章 レンド編

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酒場にて

「……申し訳ありません、伯爵。何分モノを知らない部下にて、どうかどうかご容赦の程を」

「はは、別にかまわないさ。最初に失礼なことを言ったのは、明らかにうちの方だしね」

 この酒場に着いてからも謝りっぱなしのオメールセンに対し、苦笑いを浮かべながらユイは首を左右に振る。


 ユイたち一行と道中で出会ったオメールセンは、その場で部下に対して拳骨と雷を落とすと、その後自らユイたちを先導して宿場町であるブイフェムの街へ案内し、今はこうして酒を酌み交わしていた。


「本当にお恥ずかしい話でして。いいわけにならないのは重々承知ですが、実は急に商売の規模が大きくなりましたので、慌てて人を増やしたらあんな奴らまで混ざってしまいましてね……まぁ、もともとうちの商会には堅気じゃない奴の方が多いのは事実ですが」

「まあ、急いで人を増やしてもらわないといけないくらい、君に働いてもらっているのはうちだからね。とてもじゃないけど強くは言えないさ。ただ、いつまでもあの調子だったら少し心配だけど……って、それは全くもってうちも同じか」

 店の奥の方に位置するテーブル席に座ったユイは、カウンターの方へと視線を動かす。そこには右にレイス、左に先ほどのスキンヘッドの男の首根っこを捕まえて、楽しそうにはしゃいでいるナーニャの姿があった。

 その反省の欠片も見受けられない光景を目にしたユイは、オメールセンの方へと向き直ると、二人して同時に深い深い溜息を吐き出す。


「まあ、さっきのことはお互いに水に流すことにしよう。それよりも気になったのだけど、君たちはあんな大所帯で、これからどこに行くつもりなんだい?」

「はい……実は先日、伯爵が帝都へ向かわれると伺いまして。これは帝都での魔石販路を一層広げるチャンスだと思い、新しい事務所を立ち上げる部下を連れてきたんですわ」

「ああ、なるほどね。それでこの規模の集団なわけだ」

「ええ。ただ、さすがに今やっている商売に穴を空けるわけにもいきませんのでね、どうしても人選が新米中心になっちまいまして……しかしまだ入って日が浅いとはいえ、いつもお世話になっている伯爵たちに迷惑をかけるなどとは思ってもいませんでした。本当に申し訳ありません」

 再び先ほどの部下たちの粗相に話が戻ってしまい、オメールセンはやや気まずげな表情を浮かべる。

 一方、ユイはオメールセンの謝罪など耳に入った様子はなく、事務所を立ち上げるという一点のみに思考を働かせていた。


「……帝都に新規の事務所か。それはつまり、これまで以上に帝都での売り込みを狙っているということだね。そして恐らく、私を通じて帝都の顧客を確保したいと、そんなところでいいのかな?」

「さすが伯爵。ここまでの経緯だけでそこまでおわかりになられましたか。いくら魔石が供給不足だからといって、自治領から帝都へちまちまと卸しているだけでは、どうしても限界がありましてね。できることなら帝都に店を構え、帝国中の販売網にレムリアックの魔石を乗せたいと言うのが本音ですわ。ただ、帝都で店を構えたところで、それだけで販路が確保できるわけじゃないですからね、どうしたものかとちょうど悩んでいたところだったんですよ」

 オメールセンの狙いは、ユイを利用したトップダウンの売り込みである。それは、通常では自分たちとは接点を持ちにくい帝都の貴族連中や大手商会の連中に、クラリス大使の肩書を持つユイならば、顔を繋ぐことができる可能性があるのではないかという期待によるものであった。


「まあ、君たちが頑張ってくれたらうちのレムリアックも助かるからね、別に協力はやぶさかじゃないよ。ただ一応は公務で来ているわけだから、あくまで空いた時間があればくらいで考えてくれると助かる」

「そりゃあもう、それでかまいません。しかし、伯爵のお力添えがあるとなれば、こりゃあ前祝いをせねばいけませんな。よし、今日は自分のおごりです。好きなだけ飲み食いしてください」

「いや、そんなあからさまに賄賂というか、接待っぽいことをされてもこま——」

 ユイが頭を掻きながら、すぐにオメールセンの提案を断ろうとする。しかし少し離れたカウンター席を占拠していたナーニャの都合の良い耳は、オメールセンの言葉を聞きつけ、その場で大きな歓声を上げた。


「はは、話が分かるじゃないか。オメールセンだったか、じゃあ遠慮無く好きなだけ飲ませてもらうよ!」

「ああ、もう浴びるほどに飲んでくれ。遠慮なんてしなくていいからな!」

 ナーニャの反応を目にしたオメールセンは、満面の笑みを浮かべながら彼女をさらに煽る。

 一方、そのナーニャの反応を目にしたユイは、右手を額に当てると、呆れた様子で口を開いた。


「ナーニャ……元々君が発端なんだからさ、少しくらいは自重してくれよ」

「へへ、まあ昨日までの敵は今日の友ってね。楽しい酒が飲めているんだ、こんな場で堅いことは言いっこなしだよ、隊長」

 そう口にしたナーニャは周囲を一度見回すと、隣でそそくさと距離をとろうと背を向けかけているレイスの首根っこを捕まえる。そして無理矢理自分の胸元へ彼を引き寄せると、エールがなみなみと注がれたジョッキを手に取り、それを迷わずレイスの口に注ぎ込んでいった。


「ウップ……って、ちょ、ナーニャさん!」

「あん……まだ飲み足りないってのかい。マスター、もう一杯お願い」

 必死にナーニャの元から逃れようともがくレイスであったが、抵抗もむなしく完全にナーニャにホールドされてしまっていた。そしてナーニャは酒場のマスターから新しいエールを手渡されると、間髪入れずにレイスの口へと再び注ぎ込んでいく。


「……なんというかさ、今回は完全に人選を間違えた気がするな」

 ナーニャとレイスのやりとりをやや遠い目で見ながら、ユイは疲れたように頭を振る。

 すると、そんな彼に向かい隣でちびちびとオレンジジュースを飲んでいたアレックスが、いつものニコニコした笑みを浮かべながら口を開いた。


「大丈夫。誰が選ばれていても、君がこの集団のトップなんだから大差はないさ」

 そのアレックスの発言を耳にしたユイは、頭痛を感じながら肩を落としてうなだれる。


「アレックス……君までもか……」

 そう呟いたユイは、目の前のエールを一気に飲み干すと、深く大きな溜め息をその場に吐きだした。


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