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やる気なし英雄譚  作者: 津田彷徨
第4章 ラインドル編

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逃亡計画

「予定……でやすか。具体的に、この後どう動かれるつもりなんで?」

 クレイリーが、多少落ち着いたナーニャを開放すると、ユイの口にした予定を尋ねた。


「ふむ、打たないといけない手は、いくつかあるんだが……さしあたっては、リナの服をなんとかすることからかな。ノア君、彼女の服を見繕ってきてくれないかな」

 ユイは可愛らしい外見にもかかわらず、いかにも棄民といった薄汚れた衣服を身につけるリナに視線を向ける。すると、ユイの言葉の意味をゆっくりと理解したリナが、呆然とした表情でユイに尋ねる。


「……いいの? 私、お金ないのに」

「いいんだよ。そんなことは気にしなくて。それより好きな柄とか、色とかはあるかな?」

 ユイが優しくリナにそう語りかけると、リナは少し考えた後に答えた。


「黒色。黒色のお服が欲しいの」

「へぇ、黒が好きなのかい?」

 ユイが確認するようにリナに尋ねると、リナは遠慮がちに首を左右にふる。


「ううん。白が好きなの……でも、白だとすぐ汚れちゃうから」

 リナの六歳とは思えないその言葉に、ユイの隣にいたカインスは目頭を熱くし、ユイに視線を送る。その視線にユイは一度頷くと、リナの頭をそっと撫でて、ノアに向けて言葉を発した。


「ノア君、黒色の服を一枚お願い。それと白色の服を中心に、数種類別に手配してくれ。費用は私が持つから」

「わかりました。えっと、衣服屋には採寸のために、彼女も連れて行ったほうがいいですか?」

 ノアがチラリとリナを覗きみると、リナはユイと離れたくないのか、彼の服をきゅっと掴む。その行為に、ユイは思わず苦笑いを浮かべた。


「いや、今はここで保護しておくことが第一だし、この後、湯浴みもしてもらうつもりだからね。申し訳ないが、だいたいのサイズで手配してくれないか。また今度きちんとした機会に、見繕うことにするから」

 ユイのその言葉に、ノアはわかりましたと述べ、部屋を出て行った。そしてユイはナーニャに視線を向けると、彼女への頼みを口にした。


「ナーニャ。申し訳ないんだが、そういうことなので、この子を湯浴みさせてきてもらえるかな」

「わかったよ、隊長。じゃあ、ちょっとお姉さんといいところに行こうか」

 リナはユイの顔を見上げると、ユイの服を掴んで嫌そうな素振りをみせた。その行為にユイは苦笑いを浮かべながら、再び彼女の頭を撫でて、行っておいでと促すと、リナは渋々と頷き、ナーニャの手に引かれて連れて行かれる。


「旦那、あの子をどうするつもりで?」

 クレイリーはあまり子供が得意ではないこともあり、頭をつるつると手で擦りながら、ユイに向かって尋ねた。


「そうだね、取り敢えず私が保護する形を取るかな。ただ私も独り身だからね、場合によってはライン公あたりにちょっとお願いするかもしれないが。どちらにせよ、クラリスに戻ってからの話だけどね」

「でも旦那、彼女みたいな子は数限りなくいますぜ。あの子だけ助けるっていうのも、なんというか……」

 クレイリーはもともとカーリンの貧しい家の出のため、無数の貧しい子どもを目にしてきたことから、やや苦い表情を浮かべていた。


「君の言いたいことはわかるよ。確かにすべての子を助けることはできないし、私の行為はただの偽善かも知れない。でもさ、残念ながらあの子を見捨てられるほど私は強くないんだ。私にも既に家族がいないしね」

 ユイはそう口にすると、かつての自分を思い出すようにゆっくりと目をつぶる。


「……旦那」

「とにかくだ、彼女のことは私が責任を持つ。そしてそれ以上に、彼女のような存在をこれ以上増やさないようにしなければいけない。そのためにも彼らに頑張ってもらわないとね」

 ユイはカイルを見てにこりと微笑むと、カイルは突然話を振られて、やや狼狽する。


「僕達のことですか?」

「そうだ。君たちにこの国の未来を担ってもらうことにして、ムラシーンには退場頂くのが当面の目標となるかな。まぁ、それを実現するために動くことは、一応クラリスの国益にもなるだろうから、国益の追求者たる大使の仕事と言っても過言ではないだろう」

 ユイが笑みを浮かべながらそんな無意味な自己正当化を口にすると、クレイリーは呆れながらもユイの案に賛同する。


「そんな大使の仕事は初めて聞きやしたが……まあこのまま行っても遅かれ早かれ、クラリスも狙われるとするなら、ここで彼らに協力するのが一番でしょうね」

「……ということはユイさん、僕達を手伝ってくれるんですか?」

 カイルはユイたちを期待のこもった目で見つめると、ユイは一度頭を掻いた後に、二度頷いた。


「ああ、そのつもりだよ。構わないかい?」

「もちろんです。あのユイ・イスターツが味方になったなんて伝えたら、彼らがどんなに喜ぶか」

 帝国と単身で戦ったと噂される憧れの人物が、自らと共に戦ってくれる事に対し、カイルは興奮を隠すことができず、右拳を強く握り締める。


「彼らというと、他のレジスタンスの人たちのことかい? だとしたら、今度その方たちとも一度会っておきたいな。申し訳ないけど、お願いできるかい?」

「もちろんです。ぜひうちの連中を紹介させてください」

 ユイのその申し出に対して、カイルは全く迷う素振りも見せず、嬉々として即答した。一方のユイは、カイルの返答や出会いを冷静に振り返りながら、気になっていたことを口にする。


「うちの連中……ね。ところで、君は王都内で活動しているみたいだが、君たちの本拠は南の迷いの森だろ。どうやって正門を通らず、王都に出入りしているんだい?」

「それは、その……僕だけが知っている通路があって」

 ユイの問いに対して、カイルはそれまでの受け答えと異なり、初めて言いよどむような口ぶりで説明する。


「ふむ。まあ、それを知っているから君が王都内で活動を担当していたわけか。なるほどね」

「いや、担当って言う訳じゃないのですが……でも、結果的にはそうですね」

 カイルは彼なりの事情があるためか、それ以上口にだすこと無く、曖昧な笑みを浮かべてごまかした。その仕草を見ていたクレイリーは、これ以上の詰問は無意味であり、ユイは行わないだろうと判断すると、当初の話題へと話を戻す。


「それで旦那、本当のところ、具体的にこの後どう動かれる予定で?」

「さてどうするかな。どちらにせよ、とり得る選択肢は二つさ。ここに留まるか、ここを出て行くかのね。まずここに留まる案だが、先程の騒動が発覚したとしても、私がクラリスの大使という立場だから、カイル君との関係がばれない限りは、少なくとも投獄されたり、処断されるということは考えにくいだろう。もっとも、その場合は行動の自由は少なくとも制限されるようになるだろうし、そうすれば今後打てる手も打てなくなる」

「でしょうね。で、旦那の本命とするここを出て行く案はどうなんです?」

 ユイが選択肢としてここに留まることを取るはずがないと最初から考えていたクレイリーは、早く続きを言うようにユイを促す。


「もう少し焦らさせてくれよ、全く。こういうのはもったいぶったほうが、はるかに有り難みがあるんだから。まあいいか、もう一つのここから出て行く案だが、要するにここをさっさと抜け出して、レジスタンスに身を寄せるってことだ」

「まぁ、彼が協力してくれそうなのはわかりやしたが……一体どうやってここを抜けだすんで? 今頃、ホイスのやつがこの部屋を厳重に警戒して見張りをつけているでしょうし、もしも逃げようとするものなら、奴らはたぶん警備兵を動員してでも、ここに押し留めて来る可能性がありやすぜ」

 クレイリーは現在の状況から考えられる困難さを口にすると、その言葉を受けてユイも迷うこと無く一度頷いた。


「ふむ、ムラシーンに飼われているホイスくんならその通りだろうね。普通の方法で、ここを出ようとしても無理だろう。だから普通じゃない方法を取ろうかな」

 ユイはそう言うなり、イタズラを思いついたワルガキのような笑みを浮かべる。その表情を見て、クレイリーは旦那の悪い癖が始まったとばかりに内心で頭を抱えると、ユイならやりかねないことを口に出す。


「旦那、窓から逃げ出すってのは勘弁ですぜ。例えばそこのカーテンを全部結んで、それをつたって、ここから降りるとか。こっちには子供や高所恐怖症のカインスもいるんだから、それを考えているなら止めてください」

「えっ、隊長。窓からですか、ほ、本気ですか……」

 クレイリーのユイならやりかねない逃亡方法の予想案を述べると、高いところの苦手なカインスは思わず情けない声を出して、二歩後ずさる。ユイはそんな二人を見ると、人の悪い笑みを浮かべながら左右に首を振った。


「いやいや、そんなことしないから。だいたい窓から逃げ出すなんて、文明人のすることじゃないよ。もっとエレガントに、そして紳士的に堂々と正門から出て行けばいいじゃないか」

 ユイの口ぶりから嫌な予感を感じ取ったクレイリーは、ユイの提案を聞くことを先延ばしにしようと、非現実的なことを口走る。


「……透明人間にでもなるつもりでやすか?」

「ははは、そんな無茶を言うつもりはないよ。答えは簡単さ、この建物の中にいる人間全員が、強制的に外に出なければいけない状況を作ればいいのさ。北国だから、幸い各部屋に薪もいっぱい置いてあるし、燃料には困らないのがいいよね」

 そう言ってユイが、部屋の隅に用意された暖炉の側にある薪の束に視線を向けると、最悪のシナリオが頭をよぎったクレイリーは、思わず顔をひきつらせる。


「……ま、まさか旦那」

「ああ、この大使館をさ、派手に燃やしてしまおう。それからみんなで避難訓練さ。おっと、実際燃やすわけだから訓練ではないかな」

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