ソーバクリエンの野戦Ⅱ
前線の予想外の動きに帝国軍はもちろん驚きを覚えていた。
しかし王立軍の本陣の驚きはそんな彼等の比ではなかった。
「どういうことだ? なぜ第一陣は、我々の到着を待たんのだ!」
自らの作戦を無視される形となったメプラーは、第一陣の無秩序な前進に対して怒りを隠せず、自らの周囲を取り囲む幕僚達の前で怒鳴り声を上げる。
そんな近寄りがたい雰囲気を発する彼の下へ、オラドの側係の男が気まず気な表情を浮かべつつ馬を走らせてきた。
「……閣下。申し訳ありませんが、国王陛下がお呼びです」
「ぬうっ……陛下もお気づきになられたか」
メプラーとしてはオラドに気づかれる前に、自分たち司令部が前線を掌握できていない件を解決しておきたいと考えていた。
しかしいくら軍事に関しては素人であるオラドといえども、当初の作戦案になかった第一陣の動きと動揺を隠せない本陣のドタバタ模様に、現在起こりつつ有る事態の異常を感づいていた。
そしてオラドからの呼び出しに対し渋い表情を浮かべたものの、メプラーは止むを得ないと考えて彼の下へと馬を走らせる。
「副司令官。どうも我が軍の前線の一部が、予定にない動きをしているようだが……これは一体どういうことなのかね?」
オラドは第三陣とともに馬を進めつつ、隣に駆けつけてきたメプラーに向かい訝しむような表情でそう問いかける。
「こ、これはですね……」
メプラーは前線の連中の無能を内心で毒ずきながら、何とかこの場を言い逃れる言い訳を模索する。
そんな彼に向かい、オラドはさらに追い打ちをかけるように言葉を重ねた。
「私が思うに、このままではなし崩し的な形で、戦闘が開始されるのではないかと危惧するのだが?」
オラドの冷静な予測に対し、メプラーは現在の状況からそれを否定することは困難と悟る。
そして彼は完全に開き直り、オラドに対して口を開いた。
「陛下。確かにおっしゃられるとおり、このまま戦闘は発生するでしょう。しかし多少本意でない形での開戦となりますが、仮にそうだとしても、我が軍の兵数は敵と比較して圧倒的に上回っております。むしろこのまま本隊も突入させて敵陣の中央突破を図ることが出来れば、現在の予定外の状況も一変するでしょう」
「ふむ、そういうものか……分かった」
オラドはメプラーの言葉を受け入れ重々しく頷くと、遠くに望む帝国軍へと視線を移す。
一方、国王の詰問を受ける羽目になったメプラーは幕僚達の下へ帰ると、怒りを漲らせながら連絡兵を呼び寄せた。
そして第一陣に対して本隊が追いつくまで戦端を開くなという命令を送らせると、第二陣と第三陣には進軍速度を更に早めろという指示を出す。
「こうなってしまったか……」
そんな怒りを漲らせるメプラーのやや後方で状況を冷静に見つめていたアーマッドは、依然無秩序に前進し続ける第一陣の動きに溜め息を吐く。
欲の皮が張った第一陣の隊長連中の顔ぶれを考えると、どこかで統制が取れなくなる可能性は十分に考えられることであった。
しかしそのような想定を事前に行っていた彼でさえ、まさか戦端が開いていない段階で統制が取れなくなるとはつゆほどにも考えていなかった。
「連隊長! 敵軍の連中ですが、先程から後退を始めたようです」
「ふふ、やはり奴らは我々を恐れているではないか。どうやら帝国軍の兵士は戦わぬのを恥だとも思わん様だな。ならば我々は他の部隊に負けぬよう更に進軍速度をあげ、奴ら腰抜けどもを蹂躙してやろうぞ!」
ムルティナは敵の中央部が後退を続けていると報告を受けるなり、自らの部隊に向かって意気揚々と更なる前進命令を飛ばす。
「しかし連隊長。先ほど本陣から交戦を避け、そして再度後退を行うよう指示する内容の命令が届いたのですが……」
「本陣の連中は馬鹿か? まさに今、敵軍は我々に恐れをなして逃げようとしている。それをわざわざ見逃してやる必要がどこにある。構わん、放っておけ!」
逃げる得物を追い詰めるハンターの心境となっていたムルティナは、本陣からの後退命令を彼の功績を邪魔するための策略としか受け取ることができず、何の躊躇もなくあっさり拒絶する。
「連隊長。まもなく敵前線が我が部隊の射程範囲内に入ります」
「よし。では、全員魔法準備! 他の第一陣の猿どもに、魔法剣士こそが王国最強の存在であることを見せつけてやれ」
ムルティナはその言葉を発すると同時に、世界と同調を開始し氷の術式を編み上げていく。
そして彼の眼前に巨大な氷の槍を生み出し、まさにそれを解き放たんとした。
しかしまさにそのタイミングで、急に彼の目の前を何かが高速に通り過ぎる。
「なに!?」
突然の出来事に、思わずムルティナは驚きの声を上げる。
そして次の瞬間、彼の眼前を通り過ぎた何かはムルティナの隣にいた部下の側頭部を貫き、そのまま部下は馬上から崩れ落ちていった。
「矢の攻撃だと!」
「側面です!」
背後から発せられた部下の叫びに、ムルティナは慌てて両側方を交互に見やる。
すると、いつの間にか溢れんばかりの敵が彼ら目掛けて押し寄せてきており、さらに頭上からは多数の矢が雨の如く降り注ぎ始めた。
「そ、そんな馬鹿な!」
「将軍。予定通り敵の第一陣を、鶴翼陣の中へと引きずり込むことに成功しました」
ロイスは笑みを浮かべながら、まず最初に訪れた吉報をリンエンへと報告する。
その報告を受けてリンエンはわずかに口角を釣り上げると、満足気に大きく一度頷いた。
「そうか。では、せいぜい奴らの馬鹿な前衛達には、餌となってもらうことにしようか。敵本隊をおびき寄せるためのな」
「わかりました。ならば奴らの前衛部隊が早期に崩壊しない様、攻撃を若干控えることに致します」
わずかに思案した後にロイスがそう告げると、帝国軍の勇将は満足げな笑みを浮かべる。
「ああ、それで良い。それと、そろそろ例の準備を行う頃合いだと思うが、君はどう思うかね?」
「連中の本陣も進軍速度を早めておるようですし、良い頃合いかと」
「ふむ、君もそう思うかね。ならば、魔法士達に連絡してくれるかな。ようやく貴様らの出番だとな。目標は、敵本隊だ」
無謀な突出を行った前衛部隊を追いかけるために、進軍速度を上げて迫りつつある敵の本隊へ視線を向ける。そしてリンエンは意味ありげな笑みをいつの間にかその顔に浮かべていた。
「メプラー閣下。我が軍の第一陣は、既に敵の半包囲下に置かれました! 彼らは完全に的中に孤立し、身動きが取れぬ状況に陥っております」
「くそ、業突く張りの馬鹿どもめ。しかし、しかしだ。奴らを失えば実質四万対四万……数的には五分の戦いとなってしまう。奴らを許すことはできんが、見捨てることもできん。全軍、更に進軍速度を早めよ!」
第一陣の失態の報告に、メプラーは思わず語気を荒げる。
ここまでの事態の推移は、完全に彼の計画を無視して進んでいた。
そしてそれは彼が幕僚とともに時間をかけて作成してきた作戦案が、全て水泡となって消えてしまったことを意味する。
そんな焦りと怒りに震えるメプラーの下に、オラドが状況の説明を求め自ら馬を走らせて来た。
「メプラーよ。どうも我が軍が、不利であるようだが?」
オラドの突き刺すかのような視線を受けて、メプラーはわずかに視線を反らすとどうにか声を喉から絞り出す。
「陛下……確かに現在の状況は芳しくはありません。ですが、まだ勝負は始まったばかりです。必ずやこの状況を打開して見せます」
「そうか。ふむ、お前がそう言うのなら、全てお前に任せよう。しかし初めて戦場に出たのだが、戦場とはこうも暑いものか? 先程から異様に蒸し暑く感じるのだがな」
オラドは自らが素人であることを踏まえ、改めて戦いをメプラーに一任する。そして額から吹き出した汗を右腕で拭うと、そんなことを感じるがままに口にした。
「もちろん夏ということもありますが、陛下はこの度の戦いが初陣でございます。きっと緊張によるものも大きいでしょう」
「そういうものか。確かに日差しが強いからな……ん、あれはなんだ?」
照りつける日差しを睨むかのように上空を見上げた時、オラドの目には上空に輝く二つの太陽がその目に写る。
より正確に言えば、もちろん一つは正真正銘の太陽であるが、もう一つ見たこともないような光を放つ球体が帝国軍の上空に浮かび上がっていた。
オラドが訝しげな表情を浮かべながらその光を放つ球体を指さすと、王立軍の幕僚達からは驚きの声が上がる。
「た、太陽の如き球体だと……なんだあれは?」
「おい、あれは帝国軍の魔法か? どういうことだ?」
その輝く球体の存在に気づくや否や、たちまち王立軍の本陣にざわつくような動揺が広がり始める。
しかし本陣にいた誰も、その正体に関してなんら根拠ある説明を行うことができなかった。
「……しかたがない。第二陣に報告して、ネキシム二位を呼べ!」
メプラーは周囲の動揺を収めるため、魔法省の次官であり今回の第二陣の指揮を執るネキシム・フォン・ルードラフを呼び寄せるように指示を送る。
そうしてわずかばかりの時間の後に、ネキシムが急ぎ本陣へと馳せ参じた。
「どうされましたか、副司令殿」
「ネキシム。敵の後方に不思議な球体が出現しておるのだが、あれに心当たりはないか? なんらかの魔法の可能性なども考えられんかと思い、そなたを呼んだのだ」
帝国軍の上空で光り輝く球体を指差しながら、メプラーがそう問いかける。
すると、ネキシムはその球体を目にした瞬間、驚きの声を上げた。
「敵の後方ですか……な、なんと!」
「どうしたのだ、ネキシム?」
口をぽかんと開けて驚きの表情を浮かべるネキシムを目の当たりにし、メプラーは不安をにじませながらそう問いかける。
「あれが魔法であることは間違いないかと思われます。し、しかし、あれほど膨大な魔力を使用する魔法は見たことがありません……」
ネキシムは膨大な魔力の塊である光る球体をその視野に収めると、顔を強ばらせながらそう説明した。
「魔力の大きさなど、この際どうでも良いわ。それよりも、あれは一体どういったものなのだ?」
戦略省出身で典型的な官僚畑を歩いてきたメプラーは、魔法の知識に関しては豊富とは言いがたかった。
それ故に、ネキシムが恐怖している意味が理解できず彼にさらなる説明を求める。
「わかりません。おそらく相当な、それも見たことがない程の力を有する魔法士が、あれを作り上げているのだと思いますが……しかし、ここからではあれがどういったものかまでは」
メプラーの問いかけに対し、ネキシムは十分な答えを口にすることができず首を左右に振る。
そうやって軍首脳部が帝国軍上空の魔法に気を取られたのと時を同じくして、第三陣の左方が突然騒がしくなり始めると急報が彼等のもとに飛び込んで来た。
「シャレム伯です! シャレム伯が裏切りました!」
シャレムの裏切りに関しては、元々予想されていなかったわけではない。
しかしながら前線の統制もままならず、その上、敵軍の魔法に動揺している最中である。
そんな状況が重なり彼の裏切り行為は司令部に明らかな混乱を引き起こすと、クラリス軍は全体の統制を失い始めていた。
「そういうことか。おそらくあの球体はシャレムへの裏切りの信号であったのだ! くそ、やはり裏切りおったか、シャレムの奴め!」
メプラーはシャレムの裏切りに対し歯ぎしりをして悔しがるが、周囲の幕僚達の動揺を目にしてハッと我に返る。
そして彼等を落ち着かせるため怒りに打ち震える気持ちを落ち着かせると、彼はアーマッドに向かって視線を移した。
「落ち着け! たとえシャレムが裏切ろうが、まだ我が軍の数的優位は揺るがん。このタイミングでシャレムが裏切ったということは、奴らの切り札はシャレムだったということだ。つまりここを凌げば戦況は一変するぞ。参謀長、お前に五千の兵を任せる。シャレムの豚野郎を追い返して来てくれ。我々はこのまま、敵陣へと突入する」
「分かりました。早速、迎撃へと向かいます」
メプラーからの命令を受けると、アーマッドは遊撃として用意しておいた本陣付きの五千の兵を取りまとめる。
そしてシャレム達の暴れる左翼方面へと、彼は一気に突入していった。
このシャレムの裏切りを単に発した王立軍同士の戦いは、短時間に一方的な結果が導かれることとなる。
さすがに王立軍の正規兵とシャレムの私兵とでは、数は拮抗していようともその戦闘力には圧倒的な差が存在し、アーマッドの部隊は少しずつシャレムの私兵達を第三陣から押し出していった。
そうしたアーマッドの活躍もあり、王立軍は一時の混乱から立ち直り始め、彼等の視線は第一陣の捕らわれる敵陣の中央へと向けられる。
そして彼等を救うため中央突破を果たそうと陣形を再編したその時、陣中のある兵士が一つの違和感を覚えた。
「おい、あの光の球なんだが……なんかさっきより大きくなってないか?」
その兵士の呟きは最初はただの小さな一言であった。
しかし先程までただの発光体と感じさせる程度であった球体は、みるみるうちに膨張を始めると、次第に膨大な熱量を周囲に拡散させ始める。
その段階に至ると、最初の兵士が放ったのと同様の呟きが、他の兵士達にも恐怖とともに拡散し始めていた。
そして恐怖の感染が王立軍全体へと広がった頃には、魔法によると考えられる発熱体は既に当初の数倍以上の大きさにまで肥大化する。
「な、なんだ、あれは……どういうことだ?」
オラドは兵士達の動揺の声を耳にしながら、彼等同様その球体の膨張に不安を覚える。
そんな混乱の最中、本陣に控えたままであったネキシムは何かに感づいたように驚愕の表情を浮かべ、声を震わせながら一つの予測を呟いた。
「あれはまさか……集合魔法……」
「集合魔法だと? そんな馬鹿な。集合魔法など、せいぜい五人ほどの魔力を同調させて使う魔法だぞ。あんな馬鹿でかい規模のものが作れるか!」
メプラーは聞きかじりの魔法知識を思い出すと、ネキシムに向かってそう反論する。
しかしネキシムは首を左右に振ると、頬を引き攣らせながら口を開いた。
「し、しかし、少なくともそうとしか考えられません。あんな強大な魔法など、普通の人間では生成することが不可能です」
ネキシムはクラリス王国において魔法学の権威とされており、その魔法への知識がある故に、その途方も無い発熱体が引き起こす惨状が彼には容易に想起された。
だからこそネキシムは全身を震え上がせ、それ以上言葉を発しなくなる。
「そ、そういえば、奴らの部隊構成は魔法士が圧倒的に多かった。もしその魔法士の全てが、ネキシムの言う集合魔法に参加しているとすれば……い、いかん。全軍散開しろ!」
「不可能です。既に中央突破を仕掛けるために、我が軍の本隊は敵の中央へ突入しています。散開しようにも、左右には突破したはずの敵兵によって陣取られており、逃げ場がありません!」
メプラーの指示に対し、幕僚の一人がまるで叫ぶかのように返答する。
既に第一陣に追いついて中央突破を図るために、彼等は鶴翼陣を敷く敵陣の中へとあまりに深く侵入し過ぎていた。
「ならば後退だ。とにかく、あれから距離をとれ!」
「無理です! 光が……墜ちて来て……うあぁぁぁぁ!」
メプラーは次第に近づいてくる灼熱の発熱体に視線を向けながら、なんとか逃れるために後退の指示を叫ぶ。
しかしながら時既に遅く、その巨大な発熱体は帝国軍の上空から王立軍の中枢に向かい勢いを増してまっすぐに迫っていた。
帝国軍の生み出したその魔法は王立軍の本隊に接触するや否や、巻き込まれた兵士達の体を次々と融解させ、全軍を一飲みにするかのような勢いで本陣へと迫る。
「私の最期がこんな形になるとはな……エリーゼ、フィナ、ここで終わる父を許せ」
敵の創りだした魔法の発熱体が眼前まで迫り来るのを目にしながら、オラドは一度首を左右に振る。そして最愛の娘達の名を最期に口にした。
「王立軍本営、ほぼ壊滅致しました。わずかに残った連中も、現在は混乱の極みにあります。将軍、御指示を!」
「よし、今こそ我が帝国軍の力を見せる時だ。全軍突撃!」
リンエンのその声とともに、戦意を漲らせた帝国軍兵達は我先にと突撃を始めた。そして彼等は、指導者を失って混乱する王立軍兵達に対し、容赦無い蹂躙を開始する。
それからの戦いは、一方的な虐殺と言えるものであった。
完全に包囲された第一陣は、次第に包囲網を縮められて、最後は降伏する羽目になる。また大多数の兵士を消失させ指導者まで失った第二及び第三陣は、既に帝国兵の攻勢を受け止めるだけの力を有してはいなかった。
「報告します。敵軍ですが、敵の第一陣は降伏。第二、第三陣はほぼ壊滅しました。唯一、シャレム伯爵と戦っていた部隊のみが、集合魔法の直撃を受けておりませんでしたので抵抗を見せております。しかしその数も微々たるものにて、先ほどから退却を模索する動きを見せているようです」
「ふむ……ではシャレムの奴に、その残党の相手をさせようか。連中が撤退を始めたら、そのまま追撃するようにとな。ああいう裏切り者は、使える時に使わないといかん」
リンエンは報告に訪れた若い部下に向かって、追撃の指示を与えると満足気な笑みを浮かべる。
そんな彼の下に、ロイスが別の報告を持って歩み寄ってきた。
「将軍、ただいま前線より報告がありました。敵軍司令の国王オラド、そして副司令メプラーの両名を討ち取ったとのことです。もっとも我らが集合魔法であるグレンツェン・クーゲルの直撃を受けた時点で、既にその遺体は存在しないようですが」
「そうか、国王が死におったか。これで奴らは指導者を失った上、国内のほぼ全ての機動戦力を失ったというわけだな。ならば別にここで慌てる必要もない。残敵を一掃した後に、エルトブールへ向かうとしよう」
ロイスからの吉報を受けて、リンエンは顎に手を当てながらゆっくりと一度頷く。
「わかりました。しかしあのグレンツェン・クーゲルの威力は凄まじいの一言ですね。この力があればクラリスだけでなく、あの煩わしいノバミム自地区もすんなりと統合できるでしょう。いや、魔法狂いのフィラメント公国も、そしてあのキスレチン共和国でさえももはや我が軍の敵とはみなせませんな」
「ふふ、あまり先走るでない。まだ奴らの王都を落とすという仕事が残っているのだ。他国のことは、今回の戦いが終わってからゆっくり考えるとしよう」
既にこの戦争に勝った気となっているロイスに向かい、リンエンは苦笑いを浮かべながらそう窘める。
「これは……失礼致しました」
「まあ良い。取り敢えずここの後片付けが終わり次第、兵士達に酒でも振る舞ってやれ。そして休憩の後に、王都エルトブールに向かい行軍を再開する」






