八話 記憶・検査
大幅に遅れましたすみません!ともあれ上がったので、どうぞ。
色のおかしい空に輝く満月。周囲に広がっているのは、炎の海。いや、よく見るとそれは炎ではない。炎のように紅く、強く燃え盛るように広がる…………血色の、光だ。その中央で翼を広げた一つの人影と、多数の異形の怪物。人影は、左手に細長い何かを下げている。
「(なに……これ……)」
その光景を、カナタは空を漂うように浮遊しているような感覚で眺めていた。しかしどこが意識がぼんやりとして、薄いフィルターがかかっているように頭が働かない。そんなカナタを置き去りにして、眼下の状況は動いていた。
「さて、と。流石に数は多いが……ま、どうにかなんだろ」
呟き、少年は左手に持っていた何かを胸の前に掲げた。それは、鞘に収められた一振りの日本刀。その柄を掴み、鞘から引き抜いた。しかし、その柄の先に刃はない。
「さぁ、行くぜ!」
少年が叫んだ瞬間、何もなかった柄の先に血色の光が輝いて収斂し、輝く光の刃を形成した。そして背中の両翼で爆発的に加速し、目前の怪物の集団のど真ん中に突っ込んだ。
「オラオラオラァァァ!!!」
目前の怪物の集団に向かって、両手で握った日本刀を縦横無尽に振るう。刃の延長線上の怪物は為す術もなく切り裂かれ、その動きを止めさせられていく。少年は刃を上段から振り下ろし、斜め下から斬り上げ、突き、体を回転させて横に薙ぎ払う。
「なんだなんだ、そんなもんかぁ!? 歯応えねぇなぁ!!」
目の前の怪物に向かって嘲笑うように言い放った少年。まだ動いている怪物は五体。その全てが横一列で襲ってくるのを見て、少年は口角を上げ、刀を鞘に戻し、居合の構えをとった。
「大サービスだ。俺の取って置きの一つを見せてやるよ」
怪物は横一列で猛烈なスピードで少年に迫る。それを見て、少年は足を肩幅程度に開き、刀の柄に軽く手を添える。
「……滅光一閃!!!」
少年が叫ぶと、少年の背中の翼の輝きが力強さを増した。そして怪物が強靭な腕を振るい、跳んで襲い掛かってきたその瞬間。
「…………ハァッ!!!」
鞘に収められていた日本刀を一息に引き抜き、振り抜いた。力強さを増した光の刃が一閃し、怪物が全て同時に息絶えた。もう、その場で立っているのは少年一人。
「大したことはなかったな、やれやれ……」
少年が呟くと血色の光が消滅し、少年は柄を鞘に収めた。しかし少年に気を抜いた様子はなく、血色の翼を広げたままだ。何もないように見える背後へと視線を向け、言葉を発した。
「誰だよ。もう帰りたいんだがな」
「……グルルル……」
少年の背後から現れたのは、新たな怪物だ。しかし先ほど相手をしていたようないかにも怪物然とした見た目ではなく、どこか人間に近い見た目をしている。
「……妖獣にしては気配が妙だが……とりあえず倒しとくか」
少年はその怪物に向き直ると鞘から柄を抜き放ち、光の刃を形成させた。
「…………フッ!!!」
少年と怪物が同時に飛び出し、激突した―――
「う……ん……はっ!?」
うなされていたカナタは、自分の声で目を覚ました。全身に汗をビッショリとかいていて、全身が不快な感覚に包まれている。とりあえず着替えることにして、カナタはベッドから起き上がった。自分が何かとてつもない夢を見ていたような感覚はあるのだが、どんな夢だったのかはぼんやりとしか思い出せないような、そんなもどかしい感覚。それを払うように頭を振り、カナタはベッドから立ち上が……ろうと、した。
しかし、
「!?」
自身が感じたものの正体が分からず、思わずカナタは動きを止めてしまっていた。
「(なんだ……これ……)」
カナタは絶句しつつ、思わず自分の胸の辺りを見つめてしまった。
「(体の……中で……何かが……燃えてるみたいな……!?)」
体の中心が熱い。まるで内側から業火に炙られているかのように熱い。
「(……もしかしてこれが……魔洸……!?)」
カナタは自分の中に突然現れた力に、しばらく呆然としていた。
「……大丈夫? なんだか顔色悪いみたいだけど……」
昼頃。待ち合わせ場所でノゾミと合流して昨日同様車に乗り込んだカナタだったが、その表情は暗い。
「……体の調子が良くないって意味では、大丈夫じゃないのかな……でも、分かったよ。今僕が感じてる、燃え盛る炎みたいな感覚。これが、魔洸なんだね……」
「……そっか。薬の効果が切れて、魔洸を感じることができるようになったんだね……」
ノゾミは納得したように頷き、続けた。
「最初はものすごい違和感があると思うけど、慣れる以外に対処法はないわ。目覚めた能力を、なくすことはできないから」
「うん、わかってはいるんだけど……」
やはり自分の中で正体不明の炎が燃えているというのは、違和感が半端ではない。
「……僕の能力、か……」
「なに?」
カナタが小さく呟いたのをノゾミが聞き取り、聞き返した。
「いや、ね……」
しかし自分が感じた感覚を言葉でうまく言い表すことができず、黙り込んでしまう。そしてその様子を見たノゾミもカナタの雰囲気から何かを悟ったのか、何もいわずに前を向いた。結局、車から降りるまで二人の間に会話が生まれることはなかった。
昨夜の基地の中に入ってきたカナタとノゾミ。二人は春樹が待っているというブリーフィングルームへと向かう。程なくしてブリーフィングルームに到着したが、昨日よりも若干早く着いたように感じた。実質的な距離は変わらないのだから、理由はカナタが昨日ほど気負っていないからであろう。
「失礼します。司令、カナタ君を連れてきました」
「おう。入って来い」
春樹の声が聞こえたので、ノゾミについてカナタはブリーフィングルームに入っていく。春樹は室内の椅子に座っていて、そばに大きな革の鞄が置かれている。そばの椅子にタイガも座っていて、カナタが会釈すると手を上げて応じた。
「よう、カナタ。昨日の今日で悪かったな」
「いえ、最初から今日はここに来るって話でしたから。……でも、昨日の時点で粗方の説明はして頂きましたよね。今日はこれからどうするんですか?」
カナタが聞くと、春樹は真面目な顔で一言。
「今日は身体検査だ」
「…………え」
秘密組織で聞くにしてはあまりにもまっとうな単語に、カナタは目を点にして固まってしまった。
「そこまで驚くようなことでもないだろ? 昨日から一日経ったから、魔洸調整剤の効果は切れてるはずだ。なら、お前の魔洸を調べない手はねぇだろ?」
「……確かに、そうですね。……今朝から感じている、この体の中で何かが燃えているような感覚。これが、魔洸なんですね……」
カナタは自分の胸を掴むようにしながら呟く。そんなカナタの様子を横目にしながら、春樹は横に置いてあった鞄から一つのクリップボードを取り出してカナタに渡した。
「これが検査項目だ。最初のほうは普通の身体検査みたいな項目が続いてる。魔洸の検査は最後の方だ。一人じゃ絶対に迷うし分かんねぇから、タイガと一緒に行ってこい。頼むぞ、タイガ」
「分かりました。行こうぜ、カナタ」
「うん、分かった。……じゃあ失礼します、春樹さん」
「おう。……それと、今度から俺のことは他の連中みたいに”司令“って呼べ。その呼び方だとここでは目立つぞ」
春樹の言葉にうなずき、カナタはタイガとともにブリーフィングルームを出た。
「最初の身体検査はトレーニングルームでやる。普通に体力測ったりするだけだから、そこまで身構えないでな」
「うん、分かった」
トレーニングルームに到着したカナタはタイガに答え、クリップボードに記載されているマシンに向かう。トレーニングルーム内の機器でカナタはあらゆる身体能力を調べた。敏捷性、持久力、瞬発力、集中力。これまでマシンで調べた数値を事細かにクリップボードに記入し、カナタはタイガに連れられて次の部屋へと向かっていた。
「今、どこに向かってるの?」
「次に行くのは特別な計測機材がある部屋だ。魔洸関係の計測機器が全部まとめてそこにある。中にスタッフがいるから、その人たちの支持に従ってくれ」
「タイガくんは入ってこないの?」
「近くにいることはできるんだが、直接そばにはいられない。中にクリーンルームがあってな、そこは除菌した人間しか入れないんだ」
「……バイオハザード対策じゃないんだから……」
カナタがげっそりと呟くと、タイガはふざけて言った。
「というよりは、ほかからの影響を受けないように、だな。普通の空気にも、魔洸は微量に含まれている。その影響を受けないように、だから……どっちかっつーと、人工衛星の扱いだな」
「……もはや人でもなく精密機械の扱い……」
しかしカナタは笑うこともできず、さらにげっそりする。その様子を見て、タイガは苦笑し、言った。
「まぁそう気を落とすな。中の人はみんないい人だし、緊張しなくても大丈夫さ」
「……分かった」
話し終わったタイミングで部屋に到着したので、カナタは気を取り直して部屋に入っていった。
「確認しました。では、下着以外の衣服を脱いで、無菌室の中に入ってきてください」
「はい、分かりました……」
カナタが返事をすると、白衣のスタッフは扉の向こうに去っていった。チラッと見えた扉の向こうと無菌室の中には何人かのスタッフ。それに反して、脱衣所内にはカナタ一人。そういった状況だからか、カナタは思わず心の中でぼやいてしまった。
「(……なんで女性スタッフが普通にいるのさ!?……)」
「……お、出てきたな……って!?」
部屋から出てきたカナタを出迎えようとしたタイガだったが、出てきたカナタが真っ白になっているのを見て慌てて駆け寄った。
「おい、どうしたカナタ!?」
「検査の……内容が……」
「……あぁ、そういえば最初の検査って……」
言われてタイガは、自分がこの施設に来て初めての検査のことを思い出した。延々と集中力を試す系の検査が続くのだが、その時の格好がほぼ裸なのだ。脳波だけでなく心拍数や脈拍なども測るので必要な処置なのだが、心情的には納得するのは難しい。
「(ここの医療スタッフ、ほとんど女性だからなぁ……)」
とりあえずカナタが元の状態に復活するまで、タイガはずっと付き添っていたのだった。
ともあれ全ての検査が終わり、カナタとタイガはブリーフィングルームへと戻った。
「検査項目、全部終わりました」
「おう、お疲れ」
カナタからクリップボードを受け取った春樹は、ペラペラとめくっていく。
「よし、全部終わってるな」
確認が終わり、春樹はクリップボードを先ほどのカバンにしまった。
「本当はもう少し説明をしたいんだが……検査続きで疲れたろ。今日はもう帰ってもらっていいぞ」
「……すみません、そうさせてください……」
説明を受けたいとも思ったのだが、あまりにも気疲れしたので後日に回してもらうことにした。しかし次の週末まで待てないので、授業が午前中しかない曜日にまた集まることにした。次は説明のみなので日中でも構わないそうだ。こうしてその日は解散となり、カナタは家に帰った。
はい、第八話でございました。……とはいえ、毎回書いてるけど、この小説読んでる人いるのかな……。ま、とにかく。これからもがんばりたいと思います。ユーザーでなくても感想書けるように設定してありますので、ユーザーでない方も意見や感想をよろしくお願いいたします。
と、言っておきながらなんですが、今後はかなり更新が不定期になるかと思います。大学がかなり忙しくなってきて……。それでも読んで頂けるようでしたら、今後もよろしくお願いします。
それともう一つご報告を。ただメモリーに眠っているだけというのも悲しいので、以前このサイトで投稿していたAngel Beatsの二次創作「死後の世界で抗う者達へ」をアットノベルスに投稿することにしました。もし気が向いたら、暇つぶしにでもお読みください。なるべくなら続きを書いていきたいと思います。
では、次でもお会いできることを願いまして。